1-4 異世界生活 街に到着
6/25 10:06 アルファベット表記に変えた際の修正漏れを修正しました!
隼人がスコップを持って街道を直しているのを見ながら、横には御者だった女の子と猫耳の少女がいた。
お互い無言であるが、どうやら猫耳少女はこちらが気になるらしくちらちらとこちらを見ている。
こちらもちらりと視線を向け、視線が交わるとささっと顔を背ける様は少し可愛くて面白い。
「ねえ」
猫耳少女の反応で遊んでいると御者にいた女の子が話しかけてきた。
「あんた、隼人と同じ所から来たんでしょ?」
「ああ、多分だけどそうだよ」
「そう……。その世界って、その、どうなの?」
「どうって、んーー……平和、かなあ?」
「そう。そうなんだ」
この女の子は何が聞きたいのだろう。
「隼人はさ。目的を果たしたら出来れば帰りたいって言ってるのよね」
女の子が遠い目をしながら隼人を見て言う。
「そう、か」
「平和なんだ……。ならそっちの方がいいのかも」
少女は続けて「隼人、いつも無理するから」と呟く。
「まあでも隼人の話だと事故にあったって言ってたからな。もしかしたら戻れないかもしれないぞ」
「……そうね」
少女は寂しそうに、だが喜んではいけないと感情を押し殺しながらも少し嬉しいのか自嘲するように笑った。
「まあまだ先の話だろう。それまで存分に甘えとけ」
「なっ! 別に甘えたりしないわよ! あいつは私がいないとダメダメなんだから!」
ツン戴きました!
はいはいツンデレ娘ですね! 貴族で派手な髪色してるキャラってテンプレでツンデレな気がする。
あ、ピンクは淫乱だから除外ね。
「なあお嬢ちゃん。経験豊富なお兄さんからの助言だけどさ。これからも冒険を続けていくなら、尚更甘えられる機会に甘えときな。特にお嬢ちゃんはそういうのが苦手そうだしな」
「別にそんなんじゃないんだから! あいつは手のかかる弟みたいなもんで……。でも、そうね。危険は多いものね。あいつが、甘えたい時はその……別に甘えさせてあげるのも悪くない……かな」
はい。テンプレですね。
だがどう見てもこのお嬢ちゃんのほうが年下ではないだろうか。
どことなく隼人はヘタレ系主人公の気がする。
「ね、ねえエミリー? 見てるなら手伝ってくれないかな? それか土精霊にお願いしてくれないかな?」
「ダメ。隼人がやったんだから隼人が直すの」
「そうなんだけど、鎧着たまま土を均すのって大変なんだよ……」
「隼人が悪い」
うん。やっぱりこいつヘタレ系主人公だと思う。
「なあお嬢ちゃん」
「……レティよ。レティ・フレイムハート。一応貴族だけど、隼人の知り合いならレティでいいわ。だからお嬢ちゃんなんて呼ばないで」
「そうか。なら俺はイツキでいいぞレティ嬢ちゃん」
「……はあ。もうそれでいいわ」
諦めたようにため息をつくレティ。
どうやら難しいお年頃のようだ。
「ハイ!」
すると逆サイドからとんとんと腰をつつかれ、振り向くと勢いよく手を上げて返事をする猫耳少女。
「ミィはミィなのです! 猫人族の長の娘、ミィなのです!」
ピコピコと動く猫耳、尾てい骨から垂れ下がった尻尾を見ると猫人族という種族がどういうものかがわかる。
猫モフ人だ! リアル猫耳尻尾?だー!
「おーそうか。ミィな。ミィ嬢ちゃんだな。よし覚えたぞ」
「ハイ! なのです!」
元気のいいミィ。どうやらレティと話しているのを見て安心したようで、いつ話しかけようか悩んでいたようだ。
「お兄さんは悪くない人なのですね!」
お兄さん……。
もはや25を超えるとおじさんと呼ばれても仕方ないのにお兄さん!
この子いい子だ!
「おー! お兄さんはなー悪い人じゃないぞー!」
「そうなのですね! ハヤト様のお知り合いに悪い人はいないのです!」
「そーだなー。 ハヤトがいい奴だからなー」
「なのですー!」
ニコニコピコピコとご機嫌そうに動く顔と耳。
それだけ言うとミィは隼人の方へと近づいていく。
「ああ……猫耳いいなー」
「……ねえ」
「言わなくていいぞ……」
「そう……。変な気は起こさないでね。知り合いを焼きたくないもの」
「安心してくれ。俺にロリコンの気はない。ただ純粋にあの耳と尻尾を堪能したいだけだ」
ましてや10以上もはなれてそうな子供など論外だ。
「ああー……俺が雇う従業員に猫耳少女を雇えないかなー」
「……あんまりかまうと嫌われるから注意しなさい」
「そっか、そうだよな。猫だもんな。あー猫カフェとかないのかなー?」
ミィが隼人の仕事を手伝うとあっという間に終わったようだ。
エミリーと呼ばれるエルフの少女も少し手伝ったのか、彼女の周りで土色の光がふよふよと浮かんで消えていった。
「イツキさんお待たせしました」
「いやいや。手伝わなくて悪かった」
「いえいえ。彼女達とも仲良くなっていただきたいですから!」
そういうとニコリと笑う隼人。
厭味などではない辺り、本当の意味で良い奴なのだろう。
「それじゃあ行きましょう。商業都市アインズヘイルまであと少しですよ」
皆で馬車に乗り込むと次はレティと隼人が御者台に上った。
それは別にいいのだが、何故かエルフ少女にジーっと見られていた。
「……あの、なんか用か?」
「……別に」
とはいうもののジィーっと見続けてくる。
ミィはというとひらひらと舞う蝶々にちょっかいをかけていてこちらに対して気にも留めていない。
「あー……そうだ。俺はイツキって言うんだ」
「知ってる。隼人に聞いた。私はエミリー。エルフ族」
それだけを淡々と言うとこちらのことなどお構いなく視線をそらすことなどしない。
なんとなく気まずいので隼人に空気を換えてもらおうと話しかけようとしたときだった。
「ねえ。貴方本当に今日初めてこの世界に来たの?」
「そう、だと思うけど」
「そう……」
なんだ? もしかしてどこかで出会った覚えなんかがあるのだろうか。
俺たち、どこかで会ったことない? みたいなナンパの常套句だろうか。
まあそんなわけないな。うん。いくら異世界だからって妄想が激しすぎだな。
「なんでもない。気にしないで」
「お、おう」
うん。本当に気のせいみたいだ。
エルフって美人さんが多いのか、ドキっとしちゃうよね。
「イツキさん、見えてきましたよ!」
そういって指差された先に見えるのは大きな壁。それとそのサイズに見合った城門であった。
「あれが、商業都市アインズヘイルです。街から出ないのであればここ以上に娯楽や刺激の多い都市は少ないと思いますよ」
「おー! まさに俺にぴったりの街じゃないか!」
「ふふふ。そうですね。ボク達もよく利用しますし、割と会う機会も多そうです」
商業都市というからには各方面からの名産品なども集まるのだろう。
ということはわざわざ転移スキルを期待して空間魔法のレベルを上げなくても他の町に行く必要がほぼないのではないだろうか。
おお、災い転じてと言うべきかあのトラウマレベルの災難を越えた先にこんな幸運があるとは。
「おーそれは心強いな。知り合いもいないなかで隼人と出会えて本当によかったよ」
「いえ、それほどでも……」
どうやら照れたようで顔を少し紅潮させていた。
おいやめろイケメン。変なフラグがたちそうだ。
レティ嬢ちゃんも睨むんじゃありません。俺にそんな気はありません!
馬車の列に並んでいると俺たちの番となり、隼人をはじめ皆なにやらカードを見せている。
「あ、彼は私の知り合いで、俗に言う『流れ人』です。本日中にどこかのギルドでカードを発行しますので」
隼人が言うと門番は納得したように一瞥だけすると城門を通してもらえた。
どうやらカードは自分の身分を証明するもので、『流れ人』とは俺たちのような異世界から来た者を言うようであった。
「さて、到着しましたけどどうしましょう? どこかのギルドでカードを発行しないといけないのですが」
「ギルドっていうと冒険者とか魔法使いとかか?」
「それ以外でも商人、錬金術師、鍛冶師などがありますね。イツキさんのスキルだと錬金術師がいいのではないかと思うのですが」
「じゃあそれでいいぞ。隼人達に錬金を頼まれる可能性もあるみたいだし、慣れておいたほうがいいだろう」
「ボク達は助かりますけど、いいんですか?」
「別に何処に所属してもすることは変わらないしな」
ぶっちゃけ定期的に魔物を倒せとか言われそうな冒険者ギルド以外ならどこでもいいのだ。
緊急クエストとか言って招集をかけられるなど絶対にゴメンだ。
それと魔術師ギルド、空間魔法はレアスキルっぽいし、色々めんどくさそうだ。
「それでは錬金術師ギルドに向かいますね」
「何から何まですまんな」
「いえいえ。それにカードを作るなら説明があったほうがいいでしょうし」
なにこの子。
昨今生意気でいけ好かないクソガキばかりのあの日本で、こんな好青年がいたのか。
入ったばかりの新入社員を呑みに誘えば
『それ、仕事っすか? 残業代つきます?』
とかのたまうのだ。
別に無理してきてほしいわけじゃない。呑みニケーションなんて古いという意見には同意する。
ただ普通に呑みに行こうと思っただけでこんな言い方をされるとは思わなかった。
それ以降そいつを呑みに誘うことはなくなったが、それ以外でも仕事中に俺が運転をしているさなか携帯をいじり、友人と電話しだした時は流石にキレそうになった。その時は注意したけど不貞腐れてたな。まじ人事無能、っと、そんな過去のどうでも良い話は忘れよう。
「つきましたよ。ここがアインズヘイルの錬金術師ギルドです」
馬車が止まると隼人が先に降りる。
わざわざ手を差し出さなくてもいいのに降りるのに手を貸してくれる辺り気に入られたのだろうか?
男同士のやり取りでないことは間違いないだろうが。
降りてまず目についたのはわかりやすくフラスコと試験管のある怪しげな看板が目を引いていた。
隼人は何てこと無いようにその扉を開き、その後に続く。
中は意外と小奇麗にしてあり、正面にカウンターがあることを除くと部屋数が多いように見える。
そのカウンターには受付嬢らしき女性がいて隼人がなにやら話しかけていた。
「しょ、少々お待ちください。ギルドマスターを呼んで参りますので」
女性はそれだけ言うと俺と隼人に一礼して出て行った。
「すみません。もしかしたら少し面倒なことになるかもしれません」
どうやら隼人の見せたカードの冒険者ランクと貴族の地位に驚き、とりあえずギルドマスターを呼びに行ったようだ。
しばらくすると女性と共に腰を曲げた老婆が現れた。
「おやおや。ヒヨコが貴族たあ化けたもんだね」
「レインリヒさん。相変わらず辛辣ですね」
二人は旧知の仲であるらしい。
「それで、今回はギルドカードの申請ってことだが私の記憶だとあんたに錬金の才能は無かったと思うがね」
「今日は僕じゃなくて、彼のをお願いに来たんですよ」
「ほーう。どれどれ。ふむ。まだ荒いが才能はあるようだね。いいだろう。ヒヨコとの縁が形になるのは望ましい。試験は無しですぐに作ってやるよ。どうせ急いでるんだろう?」
「えっと、それはまあ……」
「そうかい。それならすぐやるとするさね。ギルドの登録料は5000ノールだよ」
言われて俺は銀貨一枚をレインリヒに手渡した。
隼人が出してくれようとしたのだが、流石にそこまでされるのは悪い。
レインリヒというお婆さんはお釣りを俺に渡すと、すぐにカウンターに座り粛々とカード製作を始める。
「悪いな。でも急いでたんならここまで付き合わなくてもよかったのに」
「いえいえ。そこまで切羽詰まってるわけではありませんから」
だが急いでいるのは事実らしい。
なんというか、どうにも申し訳なくなってくるのは日本人特有の性だろうか。
「ほら出来たよ。若造や腕をだしな」
言われたとおりに腕を差し出すと手の甲に丸めた紙を載せられた。
老婆が目を見開くとその紙が燃え出し少し慌てるが、掴んだ腕が老婆のものとは思えないほど力強く殆ど動かない。
すると手の甲に赤い線が三本浮かび上がった。
「はい完成だよ。心の中で『ギルドカードオープン』と唱えてみな」
言われたとおり唱えると一枚のカードが目の前に現れた。
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忍宮一樹 : 錬金術師 Lv1
HP15/15 MP250/250
STR : G VIT : G
INT : F MID : G
AGI : G DEX : E
アクティブスキル
空間魔法 Lv1
錬金 Lv1
鑑定 Lv1
パッシブスキル
農業 Lv1
料理 Lv1
アクティブオートスキル
狂化 Lv1
???スキル
??? Lv1
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となっていた。
どうやらギルドカードにはユニークスキルは表記されないらしい。
「なあアクティブオートスキルってなんだ?」
アクティブスキルは使用すると発動するスキルだろう。
パッシブスキルは常時発動型だと思われる。
「アクティブオートスキルは一度使ったら時間が経つまで発動し続けるスキルだね」
ひょいっと老婆が俺のギルドカードを取り上げるとじろじろと見始める。
「相変わらず一番下はわからないんだね。それにしても流れ人のくせにステータスがやけに低いね」
その言葉につられて隼人もギルドカードを覗き込む。
すると少し引きつったように笑顔を固まらせていた。
「これは……」
「参考までに隼人はレベル1の時どんな感じだったんだ?」
「少なくとも全部のステータスがD以上でした……」
D……。
隼人、凄いんだな……。
「あ、でもMP高いですよ! これなら魔法使いにも余裕でなれるレベルです!」
「ほーまあでも魔法使いになるつもりはないからな」
「ですよね……」
「まあ錬金に必要なINTとDEXがGじゃないだけいいじゃないか。MIDも欲しいところだけどまあ大丈夫だろう」
レインリヒがそういうとカードを返してきた。
「ちなみにカードは出してから30秒で消えるから落としても安心だよ」
言われたとおりすうっとカードが掻き消えていった。
「あ、もう一度出してもらってもいいですか?」
隼人にそう言われもう一度ギルドカードオープンと念じる。
「貸してください」と隼人に言われたので渡すと何やら俺のカードをぴこぴこといじっていた。
「よし。これでいつでも連絡できます」
そういって手渡されたカードには隼人の文字が追加されていた。
どうやらフレンド機能があるらしく、隼人の文字は白く光っていた。
しかし突然カードが振動し、隼人の文字が点滅するとそこから声が聞こえてきたのだ。
『もしもーし。ギルドカードのフレンド機能にはこんなふうに遠距離からでも話せる効果があるんです』
そういわれて隼人のほうを見ると、電話のように耳に当ててニコリと微笑んでいる。
『電話……いや、ネトゲのフレンドチャットみたいだな』
『そうですねー。でもこれ5人までしか登録できないんですよ』
『え、いいのかそんな貴重な枠が俺で』
『ええ、もちろんです。これからよろしくお願いしますね』
イケメンはなにからなにまで完璧でこそイケメンなのだと理解する。
さすがは主人公。男にまで優しい辺りが真の主人公なのかもしれない。
早川隼人 主人公っぽい転生者 黒髪黒目のイケメン
レティ・フレイムハート 貴族の娘。真っ赤な髪のツンデレさん
クリス 元奴隷の娘
エミリー・フォーサイド・ログウェル エルフの娘
ミィ 猫人族の長の娘 なのです。が語尾
ここまでは多少書いてあったので連続で出せましたが、ここからペース落ちそうです。