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閑話 1 錬金術師ギルドの受付嬢 3

注意:残酷な描写があります。

ギリギリまで悩みましたが、結局書くことにしました。

苦手な人は、


リートさんも裏で活躍してたゾ!


と理解だけして、次の更新をお待ちください。

次の日、いつの間にか新人さんは出かけてしまったようで錬金室にはいつものお二人が中でなにやら口論をしておりました。


「だからこれを何に使うか教えてくれって言ってるだけじゃないか! どうしてソルテはダメダメ言って教えてくれないのだ!」

「だから言えないの! わかってよアイナにはまだ早いんだから!」

「なら私には教えていただけるんですか?」


アイナさんが見知らぬ道具を持っているので興味を引かれその話に参加する。


「な、リートさんも駄目!」

「なぜですか? 私はアイナさんより大人ですし、ソルテさんが大丈夫で私が駄目な理由は無いと思いますが? それよりそれはなんなんですか?」

「ああ、まずは試してみてくれ。捻れば起動するから、そっちを肩に当ててみるといい」


そういって手渡された道具を手に、言われたとおり肩に当ててから捻ってみると、驚くほど振動する。

え、え? 何これ。どうやって、多分振動球体だよね? でもこんなに普通は振動するわけないし。

あーでもこれ気持ちいいかも。凝りの部分がすっごい。


「これいいですねえ。私も欲しいです」

「うむ。便利だし私も一つ欲しいと思っている。だがこれの使い方が別にあるらしく、ソルテだけが知っているのだ!」

「へえ。確かにそういわれると気になりますね」


使い方……使い方ねえ……。


「だから言わないって言ってるでしょ! っというか言えるわけないじゃない!」


顔が真っ赤で、しかもその言い方。アイナさんにはまだ早いっと……。

ふむふむ。


「あーじゃあソルテさんにも試してもらいましょうよー。ソルテさんの知っている使い方で」

「出来るわけ無いでしょ!」


でしょうね。つまりこれは、そういう用途にも使える、と。これは買う人は幾ら出してでも買っていくでしょうね。

よく見れば『銘』が打たれてません。

本来なら解体して仕組みを調べて自分で販売を始めるのですが、新人さんの開発したものなら仕方ないので諦めてあげましょう。


「ソルテさんソルテさん」

「何よ! 絶対に使わないからね」

「えい」


私はそれをソルテさんがはいていた短パンの、更に下の布地の中に放り込みました。


「ちょ、……んンン! 何するのよ!」

「いやーごめんなさい。手が滑ってしまいまして」

「何処にえいって言いながら下着を引っ張って手が滑る馬鹿がいるのよ!」

「いやーでもなるほど。そういうことでしたか」

「……なにがよ」

「いえいえ。はいアイナさん。お返ししますね。それよりよろしいのですか? 新人さんを一人で外に出してしまって」

「しまった主君!」

「ちょ、いきなり飛び出していかないで! 何処に探しに行くのか決まってるの? ねえ!」


二人は慌しく出て行きました。

おそらく新人さんが向かった先はヤーシスさんの所でしょうか。

あの道具を取り扱わせたら一番でしょうし、最もいい交渉相手だと思います。

それにしてもあの振動……あれを使ったら一体どうなってしまうんでしょうね。

ちょっとだけ気になってしまいました。


受付に戻り今日のスケジュールを確認していると新人さんが帰ってきました。

どうやらお二人とはすれ違いになったようですね。

それに可愛らしい小さな猫人族の女の子も連れています。


「あの、リートさん休憩したいんですが……」

「それは行為に及ぶ為にですか? それでしたら申し訳ありませんが……」

「いやいや、流石にこんな小さい子を連れ込みませんって、それに錬金術師ギルドに連れてくるなら宿をとってそっちに連れ込みますよ……」

「まあそうでしょうね。どうやらお疲れのご様子ですし、今日はいいですよ。レインリヒ様には言っておきますので」

「助かります……」

「ああそうだ。あの振動する道具ですが、私も一つ戴きたいのでおねがいしますね」

「え……あ、はい。えっと」

「最近肩が凝っちゃって、ああいうの欲しかったんですよ」

「え、ああ了解です。ちょっとヤーシスに聞いてからですけどわかりました」

「はい。楽しみに待ってますね。それではそちらの子ももう眠そうですし、ゆっくりお休みください」

「あ、ありがとうございます」


うふふ。少しだけ嘘ついちゃいましたね。

でも肩が凝るのは本当ですし、別にいいですよね。

さて、それでは業務を再開しましょう。

でも、アイナさんとソルテさんが戻ってきたらきっと大波乱ですね。楽しみです。


そういえば最近レインリヒ様は何をしているんですかね。

部屋に篭って研究でもしてるのかと思えば表に出て行って手ぶらで帰ってきて珍しく慌ただしそうです。

確か勝負が始まったのを知った辺りからでしょうか?

ということは間違いなく悪巧みですね。

被害にあいたくないので関わりたくないのですが、どうにか関わらずに一枚噛めないでしょうかね。



はぁー……。最近は暇ですねえ。

あれから特に何も起こらない日々が淡々と過ぎていくだけです。

受付の前を通るのは新人さんが連れてきた可愛い子猫のシロちゃんと発注される方だけですし。

シロちゃんはいつも大量の屋台飯を抱えて帰ってくるのですが、一体あの体の何処に入っているのでしょうか。

はぁ……暇です。新人さんをからかいにでも行きたいくらい暇なんです。

しいて面白そうなことといえば今レインリヒ様がなにやら書類を書いていることでしょうか。


「レインリヒ様何を書かれているんですか?」

「なんだと思うんだい?」

「そうですねえ。悪巧みだと思います」

「あってるけど違うね。これは魔法の契約書さ。私に多大な利益を生んでくれる特別な物だよ」


そう聞いて文章を覗いてみる。


「出てこいゴルアアアアア!!」


ふむふむ。銀行? 確かそれは西地区統括のダーウィンさんが所有していた権利のはずですね。

しかも譲渡契約ともう一枚あるあたりが怪しさ抜群ですね。


「銀行の融資の権利ですか? しかも二人制ってダーウィンさんがそんなこと許可するんですか?」

「普通ならしないだろうね。でもその為に根回しは済ませてあるさ」

「オラアアアアぶっ殺すぞコラアアアア!!」

「あららら。可哀想に」

「可哀想なことなんてあるか。せっかくのチャンスなんだ、利用させてもらうよ」

「出てこいやびびってんのかコラアアアア!」

「まあそれが成功したら私のお給料も上がりますよね? ね?」

「駄目だよ。この前上げたばかりだろう。もう少し我慢しな」

「ちぇー。じゃあ特別賞与でいいですよ」

「っち、まあそれくらいならいいだろう。成功したらね」

「はーい。あ、そこ字間違えてますよ」

「……」

「出てこいゴルアアアアア!!」


レインリヒ様は無言で入り口の方に歩いていきました。


「うるっさいよ! ここがどこだかわかってやってるんだろうね!」


それだけ言うと戻ってきて新人さんの部屋に入っていってしまい、首根っこを掴んで新人さんとその膝に乗るシロちゃんも一緒に引きずり出して外に放り出してしまいました。


「八つ当たりですね」

「あんたもうるさいね! 私は集中してるんだから話しかけるんじゃないよ!」

「八つ当た」

「あーもうそれ以上言うなら賞与は無しだ! いいね!」

「はーい。あ、裏手の倉庫に行ってきますね」

「ッふん!」


あれ完全に八つ当たりですよね。

レインリヒ様、契約書を書くのが久しぶりだから間違えるんですよ。

御自分が日頃から書いていないせいですからね!

さてさて、ようやく面白くなってまいりました。

とりあえずお茶とお茶請けの準備をしないと。

働かないときっと賞与を取り消すとか言われかねないのでちゃんとやりますよー。


外の騒ぎから数刻、私は一度始めてしまった倉庫整理に力を入れてしまい、お茶だしに出遅れてしまいました。

私としたことが。ある意味招いたお客様にお茶だしをし忘れるとは。

せっかくレインリヒ様の援護をしようとおもって自白剤を取りに行ったのに無駄足になってしまいました。


先ほどレインリヒ様に聞いたので中には西地区統括の駄息子さんがいらっしゃるようです。

戻らずに倉庫整理でもしていたほうが堅実でしょうか?

いやでも、今からでもお茶くらいはお出しした方がいいかもしれません。

そう考えながら倉庫を出ると、ちょうど裏口から中に入ろうとしている一団と鉢合わせしてしまいました。

はぁ、今日はついている日だと思ったのですけどそうでもなさそうです。


「おや、おはようございます。錬金術師ギルドになにかご用……」


危な! 人がしゃべっている時に普通斬りかかってきますかね。


「おい気をつけろ! この姉ちゃんは何をしてくるかわからねえからな」

「おや、あなたは先日の。こんなところでどのようなご用件でしょうか?」

「っち、見られちまったら仕方ねえな」

「いえ、まだ何も見てないのですが……手元の物を見る限り錬金術師ギルドを爆発でもさせるご予定でしょうか?」

「その通りだよ。レインリヒとはいえ家屋が爆発しちまえばひとたまりも無いだろう!」

「はぁ……。そんなことでレインリヒ様が死ぬなら苦労しませんよ……」


あの方とやりあうならば7回は蘇ると考えた方がいいです。

つまり有無を言わす隙を与えずに最低8回は殺せないとまず無謀かと。

以前本気で喧嘩をした時は危うく私は毒キノコの苗床にされるところでした。


「っは! てめえも一緒にぶっ殺すつもりだったがしょうがねえ。てめえは今ここで、大人しくしていてもらおうか」

「どうやら忠告は聞き入れていただけなかったのですね」


ついこの間命を救ってあげたというのに、もう忘れたんでしょうか。


「前とは違うんだよ」

「はて、人数が変わっただけのように思えますが」

「そう人数が違うってことは、こういうこともできるんだぜ?」


1,2,3、4……11人ですか。

すると背後からいつの間にか両手を抑えられてしまいました。

おっと、12人でしたか。

それにしてもいい潜伏スキルです。気がつき損ねました。


「っは! これならもうあの奇妙な薬は使えねえだろう! この前の礼をたっぷりしてやるぜ」

「そうですね。袖からずり落ちてくれればいいんですが、ん、落ちそうにないです」


これは困ってしまいましたね。

このままでは為す術がありません。


「へっへっへ。旦那にゃ二度と会えねえぞ」

「ああ、俺たちが死ぬまで可愛がってやるからな」

「えっと、結婚はしていないので旦那さんはいませんけど」


えへへ。結婚しているように見えるのかな?

それならちょっと嬉しいな。


「……なんだよ。いき遅れのババアか」

「楽しみが薄れちまいますね」

「いき遅れとか……。俺はいいや」


うふふ。


「まあいい。そいつはあぶねえから服を全部脱がしてお前とお前で見張ってろ」

「へい! 味見くらいならしても?」

「あー乳も小さいけどなくはないしな」

「最初は俺だ。わかってんだろ?」

「へーい。旦那は女好きですねえ」

「まあババアでも女は女だからな」


うふふふふ。


「あっしはこれくらいの年の方が好きですけどね」

「何だお前ババア趣味なのか?」


うふふふふふふふ。


「いやいや。これくらいのババアの方が濃厚でいいんすよ? 近頃の若い奴はうるさいばっかで萎えるじゃないですか」


うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ。


「うふふふ。最後通告をします。私を放して消えなさい。そして二度と私の目の前に現れないなら今なら許してあげなくもないですよ?」

「またそれか? 今回はもうあのあぶねえ薬もだせねえんだぞ?」

「もう一度言います。手を放して二度と私の前に現れるな」

「っち、立場をわかってねえようだな。おい、手足の一本くらい傷つけてびびらせてやれ」

「へい」「はい」


お二人が私めがけて剣とナイフを振るい、その切っ先が私の肌を切り裂いて液体を飛び散らせます。

ああ、もう。無理です。

もう我慢もできません。いえ、もう王国法の過剰防衛に当たらないでしょうしいいですよね。


飛び散った液体の色はどす黒い紫。

通り抜けた傷痕はあっという間に修復している。


「手を放した方が、身のためですよ」

「ああ? 何言ってんだて……め、ああああああああああああ!!」


ドロリと腕に何やら生暖かい感触が伝わってきました。


「腕があああああ! 俺の腕がああああ!」

「て、てめえ!」

「腕の肉が骨から落ちたくらいでうるさいですよ。あなた方は肉片一つ、骨のかけらも、血の一滴すら残らないのですから」


解放された腕を伸ばし、掌からプクリと紫色の泡が膨れ上がる。

頭と同じくらいの大きさになるとそれははじけて周囲の男達にふりかかっていき、その液体に触れた部分が煙とともに男達を溶かしていく。


「なんだよ! なんなんだよこれ! お前は一体なんなんだ!」


自身も溶けながら仲間達の惨状を目の当たりにした男が、私に問うてくる。


「私は毒粘族(ベノムスライム)の上位種、毒人粘族ベノムヒューマスライムです。これでも希少種なんですからね」


ぽこぽこと体から紫色の気泡を生み出していく。


『強酸泡』


人として生きるうえでこの技は好きではないのだが、こいつらは私に禁句を言った。

何回も! 何回もババアって言った!

それに再三の注意も聞かず、私に刃を向けたのだ。


「毒人粘族って……確かダンジョンに出てくる魔物だろ……。何でそんなのが街にいるんだよ!」

「ああ、ポイズンヒューマスライムとは別ですよ。あれは理性を失った単細胞の魔物で、私達には血管も動脈も内臓も、子宮すらありますから。人族のそれとは多少違いますけどね」


あれはただポイズンスライムが人を食べて人型になっただけですし、一緒にされるのは心外です。

私は上位種ですから、触れただけで相手を毒化させたりなんてしませんし。

ぷんぷん。


「治せ! 早く治せよ! 俺たちが死んだらお前だって困るだろうが!」

「希少種である私に剣を向けた以上、殺してしまっても正当防衛になるんです。知りませんでした? それに国の財産であるギルドに正当な理由もなく手をかけようとした時点で死罪は免れませんよ?」


王国法第2章『民族と平和』の第7条『希少種』第21項に『希少種に手を出し返り討ちにあっても、自己責任である』とたしかに記されている。


「まあ、あれです。私つまるところはスライムですから。どうせあなた方が何処でどう死ぬのかなんて誰にも分かりませんよ」


先ほどからぽこぽとと出していた紫色の泡を集めて大きな塊にしていく。

もう何人かは既に息絶えているだろう。だが錬金ギルドの裏手にこんな物を放置しておくわけにも行かない。

だから、


「全部溶かせば万事解決ですよね。ってもう聞こえてませんか」


文字通り体の一部が溶けている彼らをまとめ、一つの山にするとその上から泡の塊を載せていく。

すると泡はゆっくりと上から下へ移動をしていく。


彼らは知らなかったのだ。

たとえ毒人粘族でも女性にババアは禁句であることを。


彼らは知らなかったのだ。

なぜ、レインリヒだけでなく彼女に手を出すものがいないのかを。


彼らは知らなかったのだ。

あの時本当に逃げていれば彼女は許してくれていたことを。


彼らは知ることは無かった。

錬金術師ギルドの次期ギルドマスターである彼女が、レインリヒの次にギルドマスターになる彼女が、優しくて人が好きで残酷で無慈悲なことを。


そして彼女も知らないのだが。

彼女が裏で『毒身(どくしん)のリート』と呼ばれていることを。


「はぁ……。今日は鬱屈しそうです」


最後に残った泡を手に取り、パクンと口の中に放り込む。

別に溶かした彼らを食べたわけじゃない。

既に肉も骨も血もこの世界のどこにもないのだから。

ただ放置していたら危ないから除去しただけである。


さてさて、そろそろ中の方も終わったでしょうか。

様子を窺ってみるとダーウィンさんと養娘さんのメイラちゃんがいます。

なるほどなるほど。ダーウィンさんを無理矢理巻き込んで彼に監督責任を取らせて銀行の権利を掠め取るつもりだったんですね。

流石レインリヒ様。抜け目がない。

あれ? でもこのままでは私は無報酬でしょうか?

レインリヒ様から賞与はいただけるとはいえ私も迷惑かけられていますし、ここは訴えでるべきでしょうか?

んー……。できれば新人さんにはまだ知ってほしくないですし、仕方ありませんね。


「私はギルドの職員ですしねー……」


やはり給料制って割りに合いませんね。はぁ。

さて、突然このような話になりましたがあくまでも自分が思う異世界では、冒険者のような危険な仕事があるくらいですから、死が身近に存在するような世界であると考えました。

主人公のモットーはまったり生活ですのであまり描写する機会があるか分からなかった為、閑話にて表させていただきました。

《盗賊は無条件で晒し首》のような、悪には厳しい世界です。


どうかご理解いただけますよう。再認識をよろしくお願いいたします。

リートさんを気にいっていただけた方がおりましたら、意にそぐわなかった等あると思いますが、ご容赦願います。

ご意見等ございましたら、感想の方に容赦なくお願いします。


06/14 20:11 ご指摘のあった誤字を修正しました。

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