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閑話 1 錬金術師ギルドの受付嬢 2

長かったので途中できりました。


さて、本日もお仕事を始めますか。

最近は新人さんのおかげで出勤時間が大幅に遅くなったのでとても楽になりました。

具体的にはポーションを新人さんが作ってくれるので、その分の時間がまるっと普通の業務に充てられるのです。

朝はゆっくり、夜は本来の終業時間に帰宅することが出来るのです。


まずは今日のスケジュールを確認して、功労者である新人さんがお食事に出ている間にお掃除を軽く済ましてしまいます。

やっぱりこういうところは男の子なんだなーって思いながら掃除していると、結婚願望が顔を出してきてどうせなら旦那様の部屋をお掃除したいよねとか思ってしまいます。


残念ながら私の好みは据え膳どころか調理前に手をつけてしまうような男らしい男がいいので今のところ新人さんはないですね。

でも、普通に男性としては好感が持てるかも。

挨拶はしっかりするし、錬金に真面目なのもいいですね。

あとは体力と筋肉があればもっといいんだけど、世の中そう上手くはいかないものだ。

それにもし結婚したとしたら二人してレインリヒ様に迷惑をかけられるのではと思ってしまう。

それだけは笑えなかった。


っとと、新人さんがそろそろ戻ってくるかな?

こういうのは気づかれずにするのが出来る女の心得なんですよ。



「馬っっっっっ鹿じゃないの!?」


ソルテさん他に誰もいないとはいえ耳がキーンってなるので大きな声は控えてください。

それにしても、本当にこの人は……。

トラブルメーカーというか<流れ人>って問題を引き寄せる体質でもあるのでしょうか?

ええ、奴隷を買うためにダーダリルさんと勝負とか、本当にもう……。

女性の為に格好よく勝負を受けたんでしょうね。ええ分かってます。

分かってますが、一旦、もう少しの間落ち着くことはできなかったんですか?

ようやく崩れた生活習慣を元に戻しかけていたのに、また私は激務に追われるのでしょうか?


と思ったらポーション作りは一時ストップとのこと。

理由は製薬ギルドが(中)以上の回復ポーションを大幅に値下げしているので(小)が余っているって言ってました。

ですが毎回思うのですが、あの回復ポーション(中)って粗悪品ですよね?

なんか沈殿してましたし、浮遊物もありましたし。

でも回復ポーション(中)なんですよねー。

多分ぎりぎりの量を水で薄めてるんだと思います。

まあでもわざわざ教えてあげる義理もないですし、普段から飲んでるんだから分かるものだと思いますけど。


それで今現在新人さんはアクセサリー作りに没頭しています。

アイナさんとソルテさんもいましたが、あの三人錬金室でいやらしいことしてないでしょうね。

そこを掃除するのは私なので、絶対にやめてくださいね?



おっと、これは驚きです。

ソルテさんがなにやら綺麗なアクセサリーを持ってレインリヒ様に値段を聞きに参りました。

私も思わず作業の手を止めて魅入ってしまいます。


『魔力を帯びた銀翼のブローチ 敏捷小上昇 会心率微上昇 魔力微上昇』 


まさか、まだ錬金術師になってそんなにたってないのにここまで技量があるのですか?


「こいつは驚いたね。出来る奴だとは思っていたけど幾らなんでも早すぎる」

「そうですね。それに随分と凝ったデザインですね。銀の翼というのも素敵です」

「能力もまあまあだね。これが造り始めて一ヶ月たってないんだって信じられるかい?」

「信じるも何も目の前にありますしね……」

「えっと、高いのかな?」


ソルテさんが不安そうにこちらを見ています。

もしかしたら新人さんから買い取るつもりだったのでしょうか?

でもこれ普通に使えますし、買い取り価格で70万ノール、販売価格で100万ノールと言ったところでしょうか。


「だいたい100万ノールから150万ノールってとこだね」

「高い! え、でもまだまだビギナーが作った品なのよ?」

「能力が三つついてるだけで50万ノールはくだらないよ。それにこれは敏捷と会心率の組み合わせがあるから高くつくね、もし魔力が力だったら200万ノールはいってただろうね」

「そうですね。デザイン面も美しく丁寧に作られていますし、100万ノールで妥当、むしろ安いかもしれません」


いいなー。私もこういう可愛いのが欲しいです。

私アクセサリーを作るセンスが皆無なのでこういうのに憧れてしまいます。


「とりあえず錬金室に行ってみようか。私の弟子がどんなものを作っているのか興味が出てきたよ」

「はい。私も後学の為にお供します」


どう造るのか見れたらいいな。

新人さんから教わるなんてまだまだ先だと思ってたのに悔しいけど、なんかぞくぞくしますね!


「あーうー……100万ノールかー……でも欲しいよう」

「買われないのでしたら私が買ってもいいですよ?」

「それは駄目! 私が買うから! ちゃんと買うから!」


あーあ。残念です。

でもこれでアシストはしましたからね新人さん。

それにあれはソルテさんに似合いそうですし、私には敏捷も会心率も必要ありませんしね。

どうせなら魔力と状態異常耐性が欲しいところです。

そうしたら日ごろの激務も少しはましになるでしょうしね。


錬金室に入ると、なにやら新人さんがアイナさんに首輪をつけている背徳的な場面を見てしまいました!

それはそうと、あれも素敵ですね。

新人さんはアクセサリー作りの才能があって羨ましいなあ。


「それでね。あのさ相談なんだけど……」

「今回だけだからな」


あーあー。この人は向こう見ずというか、今貴方勝負中なんですよね?

お金必要なんですよね?

そういう優しさは自分に余裕があるときにするものですよ!

お姉さんは感心しません。自己犠牲なんて嫌いです。


「おや。私にはないのかい? リートには指輪なんかいいんじゃないだろうか」


レインリヒ様流石です!

指輪、指輪ですか! 左手の薬指はまずいですけど、普通につける分にはいいですよね!

え? さっきお金が必要じゃないのかって言ってたって?

そんなもの私の利益の前には霞んで丸めてゴミ箱にポイですよ!

えっへへ。可愛いのがいいなあ。注文したら要望どおり作ってもらえるんでしょうか?


「無茶言うな……体力がもたねえよ」

「大丈夫大丈夫。弟子がせっかく頑張っているんだ餞別に私の秘薬を分けてあげるよ」


デデーン! 効果音担当の私、リートです!

取り出したのは秘密の毒すり(毒っぽいお薬)ー!

その名も、狂葬薬グウウウレイト!

毒華ザザブランカから抽出した液体を凝縮してさらに、バウンティコアの睾丸を乾燥させて粉末にするまではわかるのですが、それ以外の材料はレインリヒ様しか知らないんですよね。

あれはエグイです。

意識が飛んで狂戦士(バーサーカー)のようにただ一つのことを行い続ける毒すりです。


「リート、二人とも押さえつけな」

「はい。レインリヒ様」


ここは従わなければなりません。

従わなければあの災厄は我々に降りかかりますよ。


「リートさん!」

「あははー。諦めてくださいね」


ほらほら、アイナさんほど豊満ではないですが、私のお胸を背中で感じさせてあげますから。

これから死地に逝くあなたへのせめてもの手向けです。短い時間ですが存分に堪能してくださいね。


無理矢理毒すりを飲まされた新人さんは力なく倒れた後痙攣を繰り返し、それが止まるとレインリヒ様の前に立ち上がりました。


「MPが尽きるまでアクセサリーを作り続けな」


ただそれだけを告げると、新人さんは机に向かい黙々と作業を始めていきます。


「だ、大丈夫なのか? 主君の目が死んだそれなんだが……」

「さすがに悪いことをしたなって私でも思うわ……」

「死にはしないよ。ほらあんた達はこいつの速度が落ちたらこれを飲ませてやりな」


そういって手渡したのは魔力ポーションの(中)が40本。

うわああ……この人朝まで作らせる気だよ。

鬼だ。悪魔だ。レインリヒだ!


「じゃあ私は寝るからね。朝になったらまた来るよ」


そのくせ自分は寝るという。

何たる傍若無人、いや暴虐無人ぷりである。

ちょうどいいので私も便乗させてもらおう。


「それではお二人ともよろしくおねがいしますね。私も朝には参りますので」


二人は罪悪感に囚われてちゃんと朝まで彼の面倒を見るだろうし、私は安心して帰れます。

んんー! なんだか儲かっちゃいましたね。

これで可愛い指輪がもらえるなんて、これからも月一くらいで行うのも悪くないかもしれません。

でも次からは二人は協力してくれないでしょうし、短時間で効果の消える麻痺薬でも作りましょうかねえ。

あの薬だとお茶に混ぜたら変色してしまいますし、無味無臭の麻痺薬を作りますか。


なんて、そんなことをしたら流石に嫌われてしまいますかね。

新人さんなら頼めば造ってもらえそうですし、少し落ち着くまで待ちましょうかね。

指輪の次は髪飾りなんていいかもしれません。

もっと新人さんの錬金レベルが上がった時の為に、少し高い材料を用意してしまいましょうか。

せっかくですし見栄を張るのも悪くないかもです。なんて。


今日の帰り道はご機嫌でした。

帰り道に私を襲う馬鹿な男達が現れる前までは。


「あの……人違い、ではないのですよね?」

「ああ。あってるよ。あんた錬金術師ギルドの受付嬢だろ?」

「そうですけど、あの悪い事は言わないのでそのままお帰りいただけませんか? 今なら見なかったことにしておきますので」


先頭にいる大男の筋肉には目を張るものがあるがいかんせん顔が好みからはずれている。

筋肉はありつつ、ごつごつした顔じゃないのがポイントなのだ。


「何言ってんだお嬢さん。あんたは大人しく俺らについてくるならよし、ついてこないなら多少手荒にしても構わないんだぜ?」

「はぁ……。あの恨まないでくださいね?」


そういって袖から取り出したのは一本の試験管。

護身用に持っている私特製の秘密のお薬だ。


「やあ」


それをそのまま足元にたたきつけて中身を割ると液体はあっという間に蒸発し、ありえないほどの蒸気が巻き上げる。


「なんだ? 何をしやがった!」

「あー吸わない方がいいと思いますよ。一吸いでもすると肺が壊死して呼吸困難になりますから」


当然私は抗体を持っていますので効きませんけど。


「それともこちらがよいですか? 振り掛けるだけで骨からお肉がドロっと落ちるのですけど」

「ひぃぃぃ! 勘弁してくれ!」

「あーはいはい。わかりました。もう襲わないでくださいね? 次は治してあげませんからね?」


そういって私はもう一つ試験管を取り出す。


「さ、死にたくない人は手を広げてくださいな」


そういって五人全員が私に向かって両の掌を差し出してくる。

なんだか五人にいっぺんに告白でもされたような光景だ。

おっと、このままじゃ本当に死んじゃうから早くしないと。


「煙が出てきますので吸い込んでくださいね」


試験管から少しの量を手の平にたらしていくと、そこから少しだけ煙が、正確には蒸気が立ち上がりそれらを男達は吸い込んでいった。


「はぁ……私が言うのはあれですけど仕事は選んだ方が良いと思いますよ。悪いことは言いませんから今回の件は手を出さないことをオススメします」


私だから治してあげたのだ。

これがレインリヒ様だったらきっと治してくれないどころか、塵一つ残さず存在を抹消してしまうだろう。

多分逃げる猶予すら与えない。


「それじゃあ私は帰りますけど、ついてこないでくださいね?」


ついてきてもいいけど責任は持てない。

なんせ私は絶対に起きないからだ。

もし仮に、部屋の中に充満する匂いがたとえ毒であっても治してあげられないのである。

男達は何も言わずコクコクと何度も頷いて反対側に走り去ってしまった。


「素直なのはいいことですが、私を可愛い普通の女の子とでも思ったのでしょうかね。それはそれで嬉しいですが、流石に舐めすぎだと思います」


せっかく良い気分だったのに。

これはあれですね。レインリヒ様が一番良い奴は持っていってしまうでしょうが、私は二番目にいい物を貰うとしましょう。

私にまで迷惑をかけた罰ですからね。

それくらい当然でしょう。


次の日の朝。

私は期待に胸を膨らませて少し早く錬金術師ギルドに向かいました。


「わあ!」


荷物を降ろして新人さんの様子を見てみるとソルテさんが眠りながら新人さんを膝枕しています。

この子は新人さんのことを嫌っている風潮があったのに、流石に罪悪感を覚えたのでしょうか。

新人さんは顔色が悪いどころか土色をしていて、生者としての気を感じられないくらいやつれています。

さすがはレインリヒ様の毒すりです。


それよりも、机一杯に出来上がっているキラキラしたアクセサリーたちに目を奪われてしまいました。

どれもこれも素晴らしい逸品で、まさかこれが錬金術師になって20日もたっていない新人の出来だとは思えない程素晴らしい物でした。


「おやリート早いね」

「はい! 楽しみにしていましたから」

「そうかい。それじゃあ弟子の成長を見ながら物色するとしようか」

「はい!」


レインリヒ様もそっけない素振りでしたが、十分楽しそうじゃないですか!

やはりレインリヒ様も女性ですね。こういったアクセサリーなんかには弱いようです。

さてさて、私もレインリヒ様に倣って物色を開始するとしましょう。


『ハイビスカスのブローチ 魔力微上昇 器用度微上昇 精神微上昇』


おおー。これ中々ですね。私にも合ってるかも知れません。

はいびすかす?というのが何か分かりませんが、大きなお花が可愛いブローチですね。


「お、いいのがあったよ」


レインリヒ様が何かを見つけたようです。

私に向かってそれをみせてきました。


『針葉樹のブローチ 魔力小上昇 器用度小上昇 精神小上昇』


……完全にこれさっきの奴の上位互換じゃないですか!

べ、別にいいですけどね!

私が求めているのは指輪ですし!

そう強がりを言って再度物色を始めているとまたもレインリヒ様が何かを見つけたようだ。


「リート、こんなのはどうだい?」

「何かいいのありました?」


『銀茨の指輪 魔力小上昇 器用度小上昇 状態異常耐性(微)』


わお。

これすごくいいです。

二本の茨の蔦が交じり合って可愛いデザインです。均等でないところがミソですね。

シンプルながら手の込んだ逸品だと思います。

求めていたものが手に入った気持ちです!

ただ状態異常耐性が微ではなく小だったらもっと良かったのですが、これ以上の贅沢はいけませんね。


「私、これにします!」

「そうだろうそうだろう。ざっと見たが指輪ならそれが一番さ」


これ二つで大体350万ノールから400万ノールくらいかな?

本当に貰っちゃいますよ?

昨日は迷惑もかけられましたし、いいですよね? そのかわり余計な心配をさせないように黙っておきますのでいただいちゃいますね。


「これ残りはどうするんですか?」

「ん? 全部買い取るよ。まあ売る気があるならね」

「うわあ、ちなみにおいくらで?」

「4000万ノールってところだろう」


あれ? 私の見積もりと一緒だ。

でも私の見積もりは自分が売るならである。


「それって利益でるんですか?」

「出ないだろうね。まあいい物を貰ったからたまにはいいじゃないか」

「それもそうですね」


なるほど。労せず私も一緒に労っているところは流石、憎らしいほど上手いです。

まあ今回はこれで絆されてあげましょう。

うふふ。可愛いなあこれ。


「あ、おはようございまふ……」

「いいよ。まだ寝たばかりだろう? そのまま寝てな。おきたらそれを4000万ノールで買うから売るなら私に売りなって言っておいておくれ」

「あい……。わかりましたー……zzZZZ」


ソルテさんてば寝ぼけて返事してますが、ちゃんと覚えてるんですかね?

まあでも後で言えばいっか。

もう一人のアイナさんはいませんね?

どこかにお出かけしているのでしょうか?


「って! わ、違うんですこれは違うんです!」

「えっと、どうしました?」


突然目をパチッと開けて起きたソルテさんがわたわたと慌てて弁明しているのですが、一体何のことだか分かりません。


「だからこれは違うんです! 別に膝枕とかするつもりは無くて! えっと、だからこれは、なんていうか申し訳なかったというか、流石に気が引けたから……」

「いいじゃないですか。新人さん死んじゃいそうな顔してますし、そのまま是非お願いしますね」

「そうだよ。あんただってあのブローチを貰ったんだろう? それくらいのお礼をしてもバチは当たらないさ」

「そ、そう。ですかね? そうですよね。うん。これはお礼だからいいんですよひゃああ!」


突然叫び声をあげたソルテさん。

一体何があったのでしょう。

私の位置からは全然見えませんでした。


「ちょっとあんた何処触って! あ……、絶対おきてるでしょ、こらああ!」

「馬鹿やってんじゃないよ。起きる訳ないだろう? まったく寝相で少し触れたくらいでいちいち大声だすんじゃないよ」

「そんな、だって、ん……。こんな的確に、ァっ!?」


一体何が行われているのですか?

見ようとしてもレインリヒ様に邪魔されて見せてもらえません!

ですがソルテさんのお顔はどんどん赤くなっていきます!


「ほら、リート私達は仕事に戻るよ」

「ええー。私まだ見てません!」

「っは! 他のやつらの営みを見たって面白くもなんとも無いからやめときな!」

「営んでなんか……。な、あぁっ……いです」


えーだってあの男女の仲に興味のなさそうなソルテさんが艶やかな声をあげているんですよ?

あーもうあと少しなのに見えない!あ、見えってその上にかけている布邪魔です!


「ほら仕事だ仕事。行くよリート」

「あーん。引きずらないでくださいよー!」


結局全然見えませんでした。

ちぇ。

次のお話は少々黒くグロイ描写があるかもしれません。

苦手な方はお気をつけください。

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