2-19 商業都市アインズヘイル 一件落着
遅くなりました! 一応これで二章終わりです。
※ステータスの表記方法を変更いたしました。
「それじゃあ俺たちは帰るぞ。近日中に人を寄越すから、今までどおり生活しておいてくれ」
「またお会いしましょうね」
話がまとまったのでダーウィンとメイラは早々に帰っていった。
「じゃあな坊主。やるからには本気でやってやるから楽しみに待ってろよ」
「わかった。超期待してる」
西地区統括の本気、どれほどのものか見てやろう。
心の中でなら強気になれるね!
「錬金室とお風呂の設計は私が行いますので、そちらのお二人も気に入るような大浴場を設計してみせますわ」
「そっちも期待しておく。お風呂楽しみだー!」
日本人の命だからな。
温泉とかあれば入りに行きたい。
魔物が湧かない露天風呂とか、温泉が名物の町とかないのかな?
「それじゃあな」
「またですわ」
二人が錬金室から去っていくのを姿が見えなくなるまで見送った。
んんー。これでとりあえず一件落着かな。
「んんー! また儲かっちまったね」
「私としては久しぶりに妻と出かけられますし、麻薬の密造を早期に止められたのが喜ばしい限りです」
「俺も家が手に入るし、そういえばレインリヒが言ってた家のあてってこのことだったんだな」
「まああの息子の方じゃ大した賠償は期待できないと思ったからね。ダーウィンを呼ぶことで最小の労力で最大の成果を得たまでさ」
だったら最初から教えておいてくれていてもいいと思うの。
「それにしても流石でございますね。まさかたったの7日で8000万ノールをお稼ぎになるとは」
「必死だっただけだよ。あとは運が良かったと思う」
普通に考えたら絶対無理だよ。
この世界に来てからの人との巡り会わせと、スキルの選択がうまい事いったからだろう。
アクセサリーの値段が基本的に高いのも功を奏したと思う。
「お客様はこの通り、私に福をもたらしていただける存在ですからね。レインリヒ様同様これからも一枚噛ませていただいて福にあやかりたいと思っております」
「そんなのないっての。俺は今回もレインリヒや皆に手を貸してもらっただけだよ」
「ええそれで良いと思います。お客様はただいるだけでよいのです。また何かあればご相談くださいませ。それでは私もそろそろ帰りましょうかね。これから妻と何をするか早めに決めて、休みの間の指導もしなくては。あ、商品は継続して作っておいてくださいね」
「ああわかった。作ったら届けるよ」
「いえいえ、ご足労願わなくても引越し祝いをお持ちいたしますのでその際にお願いします」
「あんま気を使わなくてもいいんだぞ? 俺たちは取引相手なだけなんだし」
「先行投資のようなものですからお気にせず受け取ってください。素敵な物をご用意しておきます」
「じゃあ私も久しぶりに何か作ろうかね。弟子のおかげで銀行を抑えられたし、引っ越し祝いを用意しておくよ」
「わお。レインリヒの手作りとか怖いものじゃないといいな……」
今まで見てきたレインリヒの作った物って怖い物しかないし、あのDANGERなお薬とか俺が飲んだ意識が無くなるお薬って麻薬より酷いんじゃなかろうか。
「楽しみにしてな」
怖い、怖いよレインリヒ!
その素敵な微笑みに一抹の不安しか感じないよ!
「それでは私は失礼いたしますね」
「ああ、ありがとうな。色々助かったよ」
「いえいえ。またなにかあればいつでもどうぞ」
ヤーシスはペコリと頭を下げて去っていった。
「とりあえず宿が決まるまでは錬金室を使ってもいいけど、おっぱじめるんじゃないよ」
「しねえよ……」
レインリヒはそれだけ言うとギルドの奥のほうへと消えていく。
「さて、改めてみるとここにいるの全員俺の奴隷なんだよな……」
言葉にしてみると凄まじいことを口にしているな。
「見事に女の子ばかりね。変態」
「たまたまだ!」
「主君一つ聞きたいことがあるのだが」
「なんだアイナ」
「ウェンディがご主人様と呼んでいるようだが、私は駄目なのにウェンディはいいのか?」
「あー……。まあ従属契約と自由契約の違いってことにしておいてくれ」
アイナは冒険者だし、他の冒険者の手前ご主人様じゃ格好がつかないと思ったんだよ。
それになんか恥ずかしかったし。
「そうか。いや別にご主人様と呼びたいという訳じゃないぞ。最近は主君と呼ぶのにも慣れてきたし、私はこの方に仕えているのだって気持ちにもなれるしな」
「まあでも、後もう少しで解放だろうから少しの辛抱だぞ。今回の件で結構鉱石を取ってきてもらったし、この調子で行けばすぐだと思う」
「そうか……。そうなると呼び方に困りそうだな。もう私の中で主君は主君となっているからな」
「馬鹿言ってんじゃないわよ。さっさと奴隷から解放されて今まで通りの生活に戻るの。というかレンゲが帰ってくる前に終わらせないと……」
「レンゲ?」
「そ。一人PTを抜けてるって言ったでしょ? ここから遠いけど手紙が届いたからそろそろ戻ってくるのよね。その子男嫌いだから男の奴隷になったと知ったらどうなる事か……あんたが」
「よし分かった。今すぐ解放しよう。っていうか俺を危険に晒すんじゃねえ」
「だ、大丈夫だ。レンゲも話せば分かってくれる、と……思う」
アイナ、そういうのは不安そうな顔で言うもんじゃない。
余計心配になるだろ……。
「大丈夫。シロが主を護るから」
「同じPTに戻るのでしたら、その方にもご主人様の奴隷になっていただかないといけませんからね。もし危害を加えれば犯罪奴隷になりますし、ご主人様は安全だと思いますよ」
「そうなると解放した後が怖そうだから、やっぱ二人は早めに解放した方が良さそうだな……。単価の高い鉱石類を中心にまた採集に行ってもらうか」
「はいはい。私としてもさっさと解放されたいから願ったり叶ったりね。確か冒険者ギルドのクエストにダンジョンの上層警備巡回があったし、そのついでに中層にも行って取ってくるわよ」
「ダンジョンか……。となると数日は戻ってこられないな。主君の引越しの手伝いが出来ないかもしれない」
「いやいいよ。特に持っていくものもないし、いざとなれば魔法の袋に入れていくから」
「そういえばあんたさ、魔法の袋幾つ持ってるの?」
「隼人に貰った(小)一つだけど……」
「嘘よ。あんたどうみても魔法の袋(小)の重量制限より多く物を入れていたわよね? 魔法の袋(小)は大して物が入らないのにあんたは私達が持ってきた鉱石や素材を全部入れてたじゃない」
そうなの? いや、でも(小)っていうくらいだし、あんまり入らないのかもしれない。
そういえばいつの間にか気にせず二人の前で魔法空間を使用していたな。
隠した方がいいとは思うのだが、ここにいる四人ならいいか。レインリヒも一応知ってるけど。
「あー……そうだな。うん。ちょっと見ててくれるか?」
そういって机の上に置いてあるコップを手に取り、上へと放り投げる。
そして手を上に向け、落ちてきたコップと接触する前に
「なにそれ……、魔法の袋……じゃないわよね?」
「まあ、袋の口は広げてないわな。俺の魔法だよ」
「魔法? というと空間魔法か?」
「そ。ギルドカードオープン」
そう唱えると俺はギルドカードを手元に出し、皆に見えるようにする。
「ご主人様いけません。他人にギルドカードを見せるなんて」
「あーいいよいいよ。この四人なら」
「ですが……」
「いいから見ましょうよ。興味ないの?」
「ありますけど……」
ウェンディはそういいつつもしっかりとギルドカードに目を向けていた。
そういえば俺もしばらく見ていないな。
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忍宮一樹 : 錬金術師 Lv1
HP30/30 → 55/55 MP540/540 → 1020/1020
STR : G VIT : G
INT : E→D MID : F→E
AGI : G DEX : D→B
アクティブスキル
空間魔法 Lv2
錬金 Lv8
鑑定 Lv3
パッシブスキル
農業 Lv1
料理 Lv1
アクティヴオートスキル
狂化 Lv1
???スキル
??? Lv2
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お、結構ステータスが上がってるな。
特にアクセサリーを作り続けていたからか器用度のDEXがかなり上がっている。
でもHPは相変わらずひっくいな。
「ただの伝説が一人歩きした与太話だと思っていたのだが……」
「本当に空間魔法ってあるのね」
「ちなみに聞きたいんだが空間魔法のレベルが上がるとどんなのが使えるようになるか知ってるか?」
「与太話だからな……龍のブレスを吸収したとか、突然まったく別の場所に現れるとか、後は見えない壁を出現させたとか荒唐無稽な物ばかりだ」
ブレスがどんな物かはわからないが、吸収っていうのは
別の場所に現れるってのが事実なら転移の魔法もありそうだ。
見えない壁っていうんがどういう事かはわからないが、空間魔法のレベルを上げていけばわかるのだろうか。
「ねえあんたなんで魔法使いギルドに入らなかったの? この魔法があるだけで絶対重宝されるわよ」
「いやだって、隼人が伝説級の魔法だって言ってたし、使い手も殆どいないって言ってたからな。面倒なことは避けようと思って」
「殆どどころかいたら有名になってるはずだからいないんじゃないかしら……」
「私も聞いたことは無いな……」
「主、凄い?」
「凄いには凄いんだけど、でもこれ戦闘で使えるの?」
「いやまず戦闘する気がないですし」
ソルテ達のように戦闘を中心に考えてないしな。
最初は魔法の袋の代わりだったし、ついでに転移の魔法が使えれば上々程度だと思っていただけだったからな。
「勿体無いな。レベルを上げればどんな魔法を覚えるのか気になるのだが」
「まあおいおい上がるだろ。普通に材料とかできた物を保管するのに使ってるだけだからゆっくりだけど」
「でも上げといて損はないんじゃない? あんたHPとか貧弱なんだからレベルを上げれば護身程度にはなるんじゃないの」
「まあ考えるだけ考えてみるよ」
空間魔法で何を覚えるのか興味が無いといえば嘘になるが、危険を冒して魔物と戦うつもりはない。
「ご主人様は凄い力があってもその力に溺れないのですね」
「危ない橋を自ら渡る気はないからな。まったりのんびり暮らしていきたいだけだ」
「ふふ。そうですね。私としてもご主人様が危ない目にあうのは嫌ですから。空間魔法が凄いのはわかりましたが、別になくても私のご主人様ですしね」
「シロも。主が凄くなくても主のシロだから」
二人は嬉しいこと言ってくれるねえ。
無理に上げろなんて言ってこないし、俺も上げる気はないんだけどね。
特別、必要ってわけでもないしな。
「なら普通の魔法くらい覚えてみれば? MPはあるんだしさ」
「どうやって覚えるんだ?」
「えっと……魔法使いのことってあんまり分からないのよね。たしか魔道書を読むとか、だったかしら」
「それ以外だと魔法使いギルドが秘匿しているだろうな。それに魔道書を読むだけで覚えられたら世の中魔法使いの数はもっと増えているだろう。他に何かあるんじゃないか?」
「魔道書ってどこで読めるんだ?」
「読むだけなら図書館で誰でも読めるわよ。私も読んだことがあるけど、それがきっかけで魔法を覚えたわけじゃないしね」
「ん? ソルテお前魔法使えるのか?」
「専門じゃないだけで魔法自体は使えるわよ。でも効率が悪いからいざって時くらいにしか使えないわね」
「私も一応身体強化魔法くらいならば使えるぞ」
「シロも」
あれ、ここにいるだけでも3人が使えるのか。
でも魔法使い以外でも使えるなら魔法使い自体の需要は高くないのだろうか。
「あの、ご主人様? 魔法というのは基本的に誰でも覚えることができるのです。ですが魔法使いは圧倒的な火力を持った方たちなので魔法が使えることと、魔法使いなことは別物と考えた方がよろしいと思います。私も水の魔法なら使えますし……」
「そういうもんなのか……」
「特に冒険者の方だとPTに一人は身体強化魔法を使えるものがいますね」
「回復魔法とかはあるのか?」
「あるにはありますが、そちらは教会で才能がある方が洗礼を受けないとなりません。ですからPTに回復役がいる事は少ないかと。なので回復ポーションの需要が無くなることは無いと思いますよ」
「回復役を護りながら戦うより、ポーションを持って戦う方が楽だしね。誰かを護りながら戦うって思ってる以上に苦労するのよ」
ってことは俺は気がつかない間にシロに苦労させていたのか。
ごめんよ。この小さな体にそんな負担をかけていたなんて……。
「さて、そろそろ私達も行きましょうか。レンゲが帰ってくる前に解放されてあげないと大変だし」
「そうだな。できれば今回のダンジョン警備巡回でなるべく終わらせるように頑張るか」
「できればそうしてくれ。帰ってきたら家でご馳走でも振舞うからさ」
「そういえば料理スキルもあるのよね。なら楽しみにしておくからせいぜい頑張ってね」
「まだレベル1の駆け出し見習いに何言ってんだか」
「あんたの世界での料理とか興味あるから頑張って再現してよ」
「私もそれには興味があるな。主君が作る料理か……。なんだか申し訳ないがやる気があがるな」
アイナまで。まあでもこの世界の調味料とか粉類とかがどうなってるかわからないし、その辺りも調べてみるか。
家が手に入るんだし、しばらくはまったりしてもいいだろう。
「シロも。主のご飯食べる!」
「私はお手伝いいたしますね。違う世界の料理、作るのが楽しみです」
なんだか期待感が上がっている気がするな。
正直一人暮らしで作っていた程度だから凝った料理の作り方なんて知らないし、漢飯になりそうなんだが。
肉! 塩! 焼く! みたいな。
これは料理じゃないな。
「じゃあまたね。帰りを楽しみにしてるわ」
「主君もお土産を楽しみにしていてくれ」
「はいはい。気をつけてな。帰ってこなかったら食わせてやれねえからな」
そういって餞別として作ったばかりの回復ポーション(中)を10本ずつ手渡した。
これでダンジョンの中で死なれでもしたら寝覚めが悪いしな。
本当に、無理はしないでほしい。
二人を見送った後三人で錬金室に入ると、ふと俺は思い出したようにウェンディの前に立つ。
きょとんとして身長差から見上げられる形になるのだが、視線は谷間に一度向き、すぐに顔へと戻した。
「あー改めて、ウェンディ。これからよろしく頼む」
「はい。末永くよろしくお願い申し上げます」
膝を折り、地面に三つ指をついて頭を下げるウェンディ。
シロも意味はわかっていないのだろうが真似して頭を下げている。
「シロにはもう上げたんだけどな。ウェンディにもプレゼントがあるんだ」
「ん、シロの鈴。可愛いでしょ」
「まあ、素敵だと思っていましたがご主人様からいただいたものでしたか。私にもいただけるのですか?」
「いやまあ、違う物だけどさ。本当はあの日にブローチを買ってて、あの日の内に渡したかったんだけど渡せなかったからさ」
そういって取り出したのは元ローズクォーツのブローチだ。
「こちらは既製品ではないのですね……」
「うん。一応、俺が加工してる」
材料はそのまま。ローズクォーツとプラチナである。
だが最初のただの丸いブローチではない。
幸いにも銘が打たれていなかったので俺が造形を作り変えたのだ。
薄い桃色のローズクォーツ。別名薔薇水晶。
その名に相応しいよう薔薇の形に彩られ、赤いガラスでグラデーションを作り、茎や葉をプラチナと翡翠を織り交ぜて作り上げたものだ。
『薔薇水晶のブローチ 耐魔(大)親愛の証』
能力は対魔ではなく耐魔が大。
耐魔は魔法耐性ということらしい。
そして親愛の証というのは単なる俺からのプレゼントだからというわけではなく、特殊な能力の一つである。
効果はお互いの親愛度によって変化するのだが全能力が上昇する。そして、状態異常耐性もお互いの親愛度によって上がり、最大だと無効になるらしい。
まさかの単なる上昇系ではなく複数の効果のある能力、しかも親愛度なんて曖昧なもので変わるようだ。
「このような物を頂いてしまってよろしいのでしょうか?」
「貰ってくれなきゃ困る。ウェンディを想って作ったものだからな」
そう言って手渡すと、ウェンディは両の手でしっかりと受け取り、キュッと胸に抱きしめる。
「ありがとうございます。ご主人様。一生大事にさせていただきます」
「そう言ってもらえると頑張った甲斐があるよ。でも頻繁につけてくれていいからな」
「はい。ご主人様が常にそばにいてくれるようです。大切に使わせていただくのですが……その、つけていただいてもよろしいでしょうか?」
……はい?
それブローチですよ?
ということはその豊満なお胸様に触らないとつけられないのですけども。
ご理解いただけてるんでしょうか?
「いいの?」
「はい。私は身も心もご主人様のものですから。それに、初めてはご主人様にお願いしたいのです」
な、なんたる破壊力。
鼻血でるかと思った……。
初めてとかさ! 狙ってやってるんじゃないかな!?
ですが据え膳を喰らわない草食系男子ではないのですよ俺は!
「んじゃ、早速」
ウェンディからブローチを受け取って両の手をウェンディのお胸様に近づける。
錬金室でおっぱじめるわけにはいかないので、触らないように気をつけるが触れてしまうのは仕方ないだろう。うん。仕方ないはずだ。
そしてウェンディのブローチをつけるために服を少し引っ張る。
その際に今まで感じたことのないような柔らかいふわっとした感触が指先に走った。
ああ、ここが俺の桃源郷か。
桃の源とはまた上手いことを言うな。
とても桃サイズの果実ではないのだが。
その感触をいつまでも味わっていたいのだが何事にも終わりはあるものだ。
ブローチをつける間など、ほんの一瞬、僅かな時間でしかないのである。
つけ終わってしまい名残惜しみながら手を離すと、一歩下がって全体を見てみる。
薄いピンク色の髪と同系色のローズクォーツが、淡い色合いながらも存在感を露わにしており美しく映えている。
だがそれに負けないくらいウェンディも美しく、お互いを引き立てあっているようだ。
「如何でしょうか?」
「すごく似合ってる。綺麗だよ」
「ん。ウェンディとても綺麗」
「ありがとうございます。大切に、大切にしますね」
ウェンディは頬を少し赤くして最高の笑顔でお礼を言ってくれた。
ああ、今回この笑顔が見られただけで頑張って良かったなと十分に思える。
それくらい彼女の幸せそうな笑顔は眩しかった。
ひとまずこれで二章が終わりです。
三章ですが、少々ストックとネタだしの為書き始めが遅れるかもしれません。
なるべく早く書き始めたいとは思ってます。