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2-18 商業都市アインズヘイル 決着・下

強面さん達がダーダリルに布を噛ませて舌を噛みきらないようにし、数人で両手両足を抱えて運んでいく。

そしてダーダリルが元々座っていた位置にどかっと座るダーウィン。

その横にすっと綺麗な所作で座るメイラ。


「はぁー……。どうすっかな」

「どうするもこうするもないよ。あんたが代わりに責任を取るんだろう?」

「まあなー……。無能とはいえ放置してたのは俺だし。取らざるをえないだろ。ってかそのために俺を呼んだなてめーら」


その言葉ににやにやと笑うレインリヒとヤーシス。

いつの間にか先ほどまで纏っていた重くて怖い雰囲気はなくなっていた。

っというかこう見ると普通の親父だ。顔は眼帯に傷があるせいで強面だが、それ以外の雰囲気は普通となっている。


「くそ。来なけりゃ良かった。知らん顔すれば良かった……」

「そういうわけにもいきませんよ。お養父様」

「そうなったらあんたの息子が製薬ギルドで行ってた麻薬の密造販売を教会に報告するがね」

「あー……。どうりであいつが毎月上納出来てるわけだ。製薬ギルドを作るまでは良かったのに、欲をかきやがってクソが」

「これで四つですね」

「あーもう変わらねえって言ってんだろうが」


レインリヒとヤーシスはそれを知っていたからあいつを追い詰めていたのか。

っていうかどうやって知ったんだそんなこと……。


「麻薬の密造販売って、捕まったらどの程度の罪なんだ?」

「良くて生涯強制労働。悪くて晒し首ってとこだな。まああいつが重労働に耐え切れるわけねえからどっちにせよ死だ」

「犯罪奴隷にはならないのか?」

「買われる可能性があると思うか? どこの奴隷商館に連れて行っても確実に維持費だけかかるからいらねえって言われるぞ」

「当然うちもいりません。部屋を圧迫されてしまいますしね」

「裏ですら売れねえよ。あーマッド野郎に実験がてら買われる可能性はあるか。でもどっちにせよ死ぬな」

「間違いなく死にますね」

「そうか……」


悪いが俺もいらない。

ダーダリル。ご愁傷様だ。

俺は、人が死ぬってのに変に落ち着いていた。

まあ当然無理はしてるんですけどもね。

頭の中で納得するように何度も強く思い込ませている。


よし。

本当ならあんな奴でも死ぬのはって思ったが、麻薬を含めれば仕方の無いことだと思わざるをえない。

元の世界なら冷酷だなんだと言われるのかも知れないが、ここは異世界だ。

郷に入っては郷に従え、俺はそういう世界にいるんだと再確認する。


「ご主人様、心を痛めませんように。ご主人様には何の責任もありませんから」

「ん、主は関係ない」

「気がちっちゃいのね。そんなことじゃあんた死ぬわよ?」

「主君の美徳は優しいところだが、悪人にまで向ける必要はないのだぞ。そんなことは教会の枢機卿ですらしないからな」

「わかってる。大丈夫だ」


4人とも心配してくれたんだな。

ああ大丈夫だ。本当に。


「メイラ見たか? こいつすぐに目つきを変えやがった。……やっぱいいなお前。どうだレインリヒの弟子クビになったら俺の養子になるか?」

「嫌だよ。俺はのんびり働かずに暮らしたいんだ」

「働かずにか。ある意味働かずに食っていけるぜ?」

「のんびりは出来ないだろ……。小心者だからビクビクしながら生きるのはごめんなんだよ」

「っは。俺に啖呵きっといてよく言うぜ」

「俺のもんに手を出すなら誰にでも喰いかかるぞ」

「っはっはっは。その目とても小心者とは思えねえよ。ならメイラの旦那になるか? 意外とできる女だぜこいつは」

「お養父様の命令でしたら。喜んで」

「いや俺には二人がいるんで、これ以上抱えきれないっす」


突然何を言い出すんだこの人は。

しかも喜んでじゃねーでごぜーますよ。

この親にしてこの義娘ありか。

とんでもねえわこいつら。


「ッハッハッハ! 確かにメイラは嫉妬深いから無理だな!」

「お養父様? 私は独占欲が強いだけです。決して嫉妬深くなんてありません。それに、浮気されたら相手に触れた部分をちょんぎってそのまま生活しますわ。せいぜいその程度です」

「どうよ。愛を感じるいい女だろ?」


どこがだよ……。

指とか手ならまだ生活できるにしても、腰が触れたり頭を撫でられたりしたらどうするつもりなのさ。

考えただけでぞっとする。


「私のもんに勝手に手出すなら私も誰だろうが喰らい尽くすつもりなんだけどね」

「さて、それじゃあ諦めて話を戻すが、あいつはこっちに任せてもらうとして他はどうすっかな」


レインリヒがすっと試験管に手をかけると、ダーウィンは何もなかったかのように話を戻した。

今の切り替えの速さだけは見習おう。


「ギルドの壁の修理費、私達への迷惑料、麻薬を教会に黙っておくの三つだね」

「麻薬のこと黙っとくのか? そんなことしていいのか?」

「教会には自然と分かるような流れを作んだよ。その間に俺との関係を切らせてもらう。もし摘発されても俺に影響がないようにな」

「製薬ギルドの連中も同時にしょっ引かれますわね。残念ながらこちらは使い道があるので死ぬまで犯罪奴隷でしょうが」


基本重めな裁決なんだな。

それで利用価値があるかないかで最終的な決定が下るわけか。

それでも一生犯罪奴隷だなんて耐え切れないだろうけど。


「とりあえず1つ1つ各々に賠償するのも、面倒だから一人ずつの賠償でいいよな?」

「ああいいとも。ヤーシスもいいね」

「ええ勿論。しかし怖かったですねえ。あんな人数に囲まれるなんて」

「お前は全くびびって無いように思えたんだけどな」

「いえいえまさかとんでもない。心に深い傷を負いました。仕事を三日は休むかもしれません」

「……その分保障しろってか。何千万ノールだよ……。てめえその間に働いてやがったら即返還だからな」

「ええ勿論。これで久々に妻に日頃の苦労を労ってあげられます」


ヤーシスお前結婚してたの!?

奥さんいるの!?

しかも三日で数千万ノールの稼ぎって凄くない?

普段どれだけ働いているのさ。

やはりこの男、謎だらけだ。


「はぁ……ヤーシスはそれでいいとしてレインリヒか」

「私は壁の修理費と、あんたが持ってる専売特権の一つでいいよ」

「おいおい。壁の修理は当然構わないが何を持ってくつもりだ」

「銀行さ。当然だろう?」

「……ですわよね」

「かー! やっぱそこかよ……。専売は無理だ。二人制で手を打ってくれ」

「しょうがないね。でもこれであんたの独断で融資の決定は出来ないからね」

「はぁ……。痛え……。あの野郎俺の手でぶっ殺してやりてえな」

「お手伝いいたしますお父様。投石刑にしましょう」


メイラの方も大きくため息をついて頭を横に振っていた。

それにしてもダーウィンは銀行を抑えてたのか。

そりゃ逆らえない奴らが多いわけだ。

そして容赦なくその権利を二分するレインリヒ様流石です!


「まあこんなのは軽いもんだよ。なんせうちの弟子には五人分だからね」

「あ? 五人? どういうことだよ」

「そこにいる女の子は皆この子の奴隷さ。奴隷への賠償は主人に還元されるからね」

「はぁ!? お前4人も奴隷持ってんのかよ! 良く見たら紅い戦線(レッドライン)じゃねえか。酒池肉林か? ハーレムってかこの野郎」

「心外だ! 手なんてつけてない!」

「あ……」

「アイナ! っしぃー!」

「う、うむ」


え、俺手つけてないよね?

この世界に来てからお酒は広場で果実酒しか飲んだことないし、酔っ払った覚えもない。

強いて言えば寝てる間に……。

……俺何もしてないよね?


「ハァ……。それにしても五人分かよ。それで、何がいいんだ?」

「いきなり言われてもよくわからん」

「何でもいいから欲しいもん言ってみろ。出来るか出来ないか言ってやる。足りなければレインリヒがなんか言うだろう」

「んー……。あ、じゃあ家が欲しい。でっかい家」

「どのくらいのだ?」

「んー広すぎず狭すぎず? とりあえず三人で普通に暮らせてお客さんが来ても困らないくらいの」

「ちょうどいいのは……」

「あるじゃないか。西地区と南地区にまたがってるのが」

「おいおいおい。とんでもないことを言うな。あそこはだめだ!」

「なるほど。あの豪邸ですか」

「いいと思わないか?」

「ええ。とてもいいと思います」


二人で話を進めないで!

俺なんもわかんないよ? 二人に任せていいの??


「勝手に話を進めるな! お前あれ小さくてもなかなかの豪邸だぞ。評価額いくらだと思ってんだよ……」

「それでも少し足りないくらいだね。他に何か無いかい?」

「馬鹿いうんじゃねえ! あの家だけでもオーバーなくらいだ!」

「あの家というと領主様の元の家でしょうか?」

「そうだよ。新築で買った次の月に突然領主になったからね。おかげですぐに領主邸に引っ越さざるをえなかったからほぼ新築のままのはずだ。たしか慌てて売りに出したもんだから随分安く買い叩かれてたね。あんたに」

「ああそうだよ! 三日に一度掃除に人をやってるから新築同様だよ!」

「設備と部屋数は?」


これが大事だ。豪邸とのことだが最低限揃ってないと困る。


「あー確か、リビングが一つに厨房が一つ、他に部屋が4つ、庭付きでテラスもある。風呂は無いが地下室が2つあるぞ。トイレは当時王都で出来たばっかの最新式の水洗だ」

「あ、じゃあそこで」

「容赦ねえな! お前見た目によらず容赦ねえのな! 俺の反応とか考えないのか?」

「えー……。だってレインリヒが足りないくらいだって……」

「てめえ……調子乗るんじゃねえぞ……」


あ、その顔やめて怖いから。

切り替え自由なのね。

正面から目を合わせられないよもう。


「お養父様、ここは器量を見せて恩を与えるところかと、幸いにも腕のいい錬金術師のようですから抱き込めば……」

「いやだって、お前、あの家普通より安く買い叩いたとはいえ高かったんだぞ……」

「だからこそ恩を感じてくれますよ」

「そういう話は俺に聞こえないところでしろよ……」

「あら、盗み聞きとははしたないですね」


わざと聞こえるように話してるくせによく言うわ。

まあでも恩には感じるさそりゃ。

多少便宜を図ることくらいならしても構わない程度には。


「はぁー……。くそ。仕方ねえ俺も男だ。いいだろう。なんなら他に注文してみろ。こうなったら全部叶えて器量のでかさを見せてやる」

「まじか! じゃあ地下に風呂と錬金室を頼む。あと家財道具な。ベッド3つのうち一つは伝わるかわからないけど、キングサイズで。あとソファーとテーブルセットも欲しい。食器類は銀食器で1式を5つ用意してくれ。日用品は目録で送るから。あとは……食料か!」

「おいおいおいおいおいおいおい。いくらなんでも調子に乗りすぎだろう」

「え、全部叶えてくれるんだろ?」


ここぞとばかりに頼めるだけ頼んでみた。

だって全部叶えてくれるって言ったもん。

このおじちゃんが自分で言ったんだもん! 


「てめえ……」

「限度がありますわ……」

「ええー……なんだ意外と……」

「カッチーン。ほぉー……いいだろう用意してやるよ。おう用意してやるとも! 最高級品を各種取り揃えてやるよ! てめえマジで覚えてろよ!」

「ちょっと待ってくれ。これ賠償だろ? キレられるのはおかしいと思う。あ、あと風呂は大浴場で頼んだ!」

「ああそうだなこん畜生が! わかったよ! 間違いなくレインリヒの弟子だよお前は!」

「この人意外と容赦ないですわ……」


強気に出れるときは出ないとだよね!

停車中に後ろから追突されたら首が突然痛くなるようなものだね!

っていうかメイラさん語尾『すわ』ってお嬢様っぽいんだな。

素が出たんだろうか。さっきまで出てなかった気がするけど。

でもこの人なんか雰囲気がお嬢様っぽいから合ってるかも。


「痛い結果になっちまったな……」

「まあ恩は感じてるからさ。いいじゃん」

「よかねえよ……」

「どうだい? いい弟子だろう?」

「こいつ流れ人じゃなくてお前の隠し子だろ。なあ。短期間でお前に染まりすぎじゃねえか?」


そんな馬鹿な。

一体俺のどこがレインリヒに染まってるって言うんだ。

あんな化け物と一緒にしないでいただきたい。


「やったなシロ。家が手に入るぞ。テラスでひなたぼっこしような」

「ん、ゴロゴロする」

「ご主人様お庭でなにか育ててもよろしいでしょうか?」

「ああいいね。種かなんかも目録に入れちゃえ」

「はい。楽しみですね」

「ねえこれって私達の借金返し終わるんじゃない?」

「どうだろうな。臨時とはいえ主君の命令でいたわけではないし、この場合はどうなるのだろうか」


そう言われると今回得た物の五分の一を二人の借金から減らせばいいんだろうか。

まあ家も手に入ったし、二人を解放するにしては良い日かもしれない。


「……残念ながら今回は報酬ではなく賠償ですからね。それにお客様の命令で護衛をしたわけではないですし、申し訳ありませんが……」

「いやでも、俺は別に構わないんだが……」

「いえいえ。そういう決まりなのですよ……」

「はぁ……嵌められたわね」

「そうだな……。ヤーシスにな」

「ああ、勿論私から正式な護衛料はお支払いいたしますので」


ヤーシス顔が笑ってるからね、ソルテがそれに怒ってるからね。

なんだか可哀想なんだけど……。


「まあ主君との契約がこんなことでなくなるのも納得がいかないし、これからもその、よろしく頼む」

「はあ……私はさっさと奴隷なんて終わらせたいんだけど、アイナが言うなら仕方ないわね」

「二人がいいならいいけどさ……」


しかし、今回で結構鉱石も提供してもらったし二人を解放する日は近いと思う。


「なー俺ら完全に忘れられてね?」

「言わないでくださいませ……。これで帰ったら家や他の物まで用意しなくちゃいけないんですわよ……」

「はぁ……帰ったらあいつでストレス発散な」

「お付き合いしますわ……」

「さっきから素が出てるぞ……。いいのかお嬢様?」

「もう今日はいいですわ……今更ですし」


二人がなにでストレス発散するのかは気にしない方向でいこう。

今日は良い気分で終わりたいのだ。

そういえば何か忘れている気がするんだが、なんだったっけかな。

次の話で二章は終わりかな。

んんー三章からどうしようかまだ考え中。

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