1-3 異世界生活 馬車の中
隼人に助けられ、俺は隼人と話すべく馬車の荷台に乗せてもらうことになった。
御者をしているのは先ほど出会った美少女さん。
それ以外にも、猫耳の少女におびえた様子の少女、そして耳の尖ったエルフの少女がいる。
というか、全員美少女だな。
流石イケメン既にハーレムを形成済みとは……。
さて、隼人の話を聞いて驚いたことがいくつかある。
まず、隼人は俺と同じ地球の日本からの転生によってこの世界に来たらしい。
前世で事故にあい、姿形が同じままこの世界に女神によって召喚されたといっていた。
よく考えれば隼人って名前でわかると思ったが先ほどは心が弱っていたわ、助かって安心していたわで全く気がつかなかった。
「って感じで、僕はここにきて1年くらいになります」
「ほおー……なかなか波乱万丈な人生を送ってるんだな……」
隼人はこの世界に来てすぐに冒険者になったらしい。
一人でダンジョンに潜っていると現れるわけの無い下層のボスが現れ、そこで離れて座っているクリスという少女に出会ったそうだ。
それ以外にも街で起こった貴族の背反を防いだりと、早くも物語の主人公のような活躍ぶりだった。
実は貴族の位も持っており、このまま行くと多分王様の娘辺りと結婚させられそうだなと考える。
「それで、あなたも……えっと」
「ああ。悪い悪い。俺の名前は
「じゃあイツキさん。イツキさんも女神様にあったのならユニークスキルがあるのでは?」
「あるぞ。えっとな」
「ああ、言わなくていいですよ!」
隼人が喰い気味で止めに入った。
「えっと、ユニークスキルはボク達だけのオリジナルなんです。だから手の内をさらす必要はないかと思います」
「別に、気にするようなもんじゃないんだけどな……」
「……その、ですね。実は……」
隼人は少し話しづらそうに、だがしっかりと俺に向かって話し始めた。
その内容は既に二人、俺たちと同じ転生者を殺めていること。
言い訳をするわけでもなく、ただしっかりと事実だけを言っているようだ。
そして「……以上です」と神妙にいい終えると、ユニークスキルが他人に知られる危険性を説いたのだった。
「なるほどなー。大変だったんだな」
ぽんぽんっと頭を叩く。
隼人はまだ学生だったのだろうか、ギリギリ20代の大人の俺が子供を励ますような感じだ。
隼人の方はぽかんとした表情であった。
「えっと、あの僕は二人も……」
「んー……まあ気にするなよ。と言っても無駄かもしれないけどな。でも、それでもお前が生きていてくれたから俺は今生きてるし、悪いけど知らない誰かの命よりも俺は俺の命が大切だからな。誰も殺さない! なんて都合のいい言葉が許されるのは物語だけだと思うぞ?」
そう言って笑うと、隼人は顔を伏せる。
どうやら……っと、説明するのは野暮か。
少し時間がたち、隼人が顔を上げる。
「すみません。今まで出会った転生者がその二人だけだったので警戒していました」
突然の告白。どうやら転生者が力を使って悪事に染まる事が多いと思っていたようだ。
だからユニークスキルを話すわけには行かなかったと言う。
「なるほどな。だからそっちの嬢ちゃん達がずっと睨むように観察してたわけか」
隼人の両脇を固める美少女二人。
その二人は先ほど出会った美少女とはまた違った魅力があった。
透き通るような蒼い瞳のエルフ。
紅くたぎる瞳の露出が多い猫耳美少女。
なにやらこの二人が先ほどの転生者との関係があるようだと、俺の勘が告げている。
問題を解決した後、彼女達が仲間になったのだろう。
隼人は俺のことをどうやら信用してくれるようになったみたいだが、彼女達はまだ転生者であるというだけで警戒に値するようだ。
ならばと、
「よし、まあならばこそ俺のユニークスキルを言っておこう」
ふふふん。胸襟を開いてみせてこその信頼関係よ。
それに命の恩人に敬意をみせずして、誰に見せると言うのだろうか。
「え、いやでも……」
「ああ別に俺が言ったからって隼人がいう必要は無いぞ。それになんというか……、俺のは戦闘向きじゃないからな」
話を聞く限りユニークスキルは戦闘面が強化されるスキルばかりだったらしい。
「聞いて驚け!! 俺のユニークスキルは! あ、発動したほうがわかりやすいか」
「え」
「ユニークスキル発動! 『お小遣い!』」
そう叫ぶと何もない空間からキラキラと回転しながらコインが一枚落ちてくる。
そのコインは銀色に輝いており、どうやら銀貨らしい。
そして銀貨が俺の掌に乗ると俺はドヤア!! と隼人を見た。
「え、あの……え、スキル、ユニークスキルですか?」
「おう! 一日一回お小遣いがもらえるんだ!」
ドヤアアア!!
これが俺のユニークスキルお小遣いだ!
一日一度レベルに応じて決まった金額が舞い降りてくる。
つまり、これで、働かなくても暮らしていける!
「ノール銀貨……一枚ですけど」
「みたいだな。ところでそのノール銀貨ってこの世界での価値はどんなもんだ? あとこの世界の貨幣について教えてほしい」
「えっと……価値自体は地球の頃とそう変わりはありません。少しこっちの方が物価が高いかな? 程度です。円がノールになったと考えればわかりやすいかもしれませんね。貨幣は下から銭貨、銅貨、銀貨、金貨、白金貨で10倍ずつ変わります」
その後詳しく話を聞いてみると、
銭貨一枚で 100ノール 100円程度
銅貨一枚で 1000ノール 1000円程度
銀貨一枚で 10,000ノール 10,000円程度
金貨一枚で 100,000ノール 100,000円程度
の価値らしい。
白金貨もあるにはあるが、個人間での取引では金貨が多くあまり使われない上に製造数もすくないのだそうだ。
ちなみに価値は金貨1枚の10倍である。 1,000,000ノール。
ただの硬貨1枚に百万もの価値を据えてしまうのって、怖くないだろうか?
落したら一巻の終わりである。
それはともかく、
「おお! 一日一万円! よしよーし! これは小金持ちのお小遣いだな!」
働かなくても一日一万円! これは素晴らしいスキルだ!
100円とかだったらどうしようかと思った。
「え、あの、これがユニークスキルですか?」
「おう! それ以外にこんなスキルとかあるなら詳しく教えてくれ! 是非!」
「確かに、突然ノール銀貨が降ってきた現象を証明できないですけど……」
隼人が少し困惑したような、信じられないような顔で言いよどむ。
「まあ俺は異世界で切った張ったの冒険なんてごめんだからな。極力戦闘とは無縁でありたい。街から出ずに働かずにまったり生きたいと思っててな。あ、ちなみに他のスキルはこんな感じな」
ユニークスキル以外のスキルを理由込みで説明する。
そうして説明していくうちに両脇の女性達もだんだんと警戒が薄れてきたようであった。
猫耳少女は顔を背け「お小遣い……お小遣い……ミイよりも少ないお小遣い……」と笑っていた。
猫耳少女より少ないのか……。隼人はお金持ちのようだ。
「って感じだ」
「本当に、戦闘スキルがないんですね……。それにしても、どうして女神様はこんなスキルにしたんでしょう……」
「ん? いや、スキルは全部俺が選んだぞ?」
「え?」
「ん?」
「えっと、僕は女神様からユニークスキルと、それに合ったスキルを女神様が選んで授けてくださったのですが、選べたのですか?」
「うん。まあなんか取得ポイントとかあったけど、普通に選ばせてもらったぞ」
「おー……。何でしょう。羨ましいようなそうじゃないような……」
「まあ俺はこれでいいからさ。まったりスローライフを送るのが目標だし。ああでも錬金とか鑑定で役に立てるなら言ってくれ。空間魔法は……いまのところ役に立たないけどな」
空間魔法の出番はしばらくお休みです。
「一応伝説級の魔法なんですけどね……。使い手は殆どいないと思いますよ……」
「そうなんだ? だけどレベル上げる気にならないんだよなー……」
聞けばスキルのレベルを上げる方法は、数多く使うかレベルを上げてポイントを割り振るからしい。
数多く使うほうは安全だがゆっくりとしかあがらないとのことだ。
ふと思う。
空間魔法のレベル上げってゆっくり上げるとするなら物を出し入れすればいいのだろうか?
出し入れしているだけでレベルが上がるのだろうか?
「さてそれでは、僕のユニークスキルもお教えしますね」
そういうと隼人は馬車の中で立ち上がった。
「いやいやいや! 別にいいって! 俺はお前に助けてもらったから信用してるし、わざわざ危険を冒す必要も無いだろう!」
「いえいえ。ちょうど信用の置ける錬金術師が欲しかったところですし、そのために必要なことですから」
隼人はそういうと御者をしていた少女に声をかけると馬車を止め、ちょうど前方から走ってくる魔物に対して剣を構えた。
そして隼人が剣を上段に構えるとその刀身が輝き、周囲から光が集まり刀身が伸びたように光が収束していく。
「はぁッ!」
その輝かしく長い剣を振り落とすと、光の奔流が生まれそれに魔物が飲み込まれていった。
後には地面に残る巨大な一閃の跡。
「どうでしょう。これが僕のユニークスキル『
隼人はくるりと振り返ると俺を見て少しやったった感のある顔で言う。
ポカーンと某アニメで見た必殺技を実際に見たような感覚だった。
「ほあー……すげえっていうかまんま主人公だな」
思ったとおりの感想をそのままいうと、「いやあ、そんな……」とまんざらでもないような恥ずかしがっているような顔をしていた。
「ねえ隼人? どうしてわざわざ出力を高くして打ったのかしら? 街道が酷いことになってるんだけど」
そんな隼人の横でこめかみをひくひくと動かしている御者だった女の子。
これから進む道を見ると、隼人の力によって抉り取られた街道。
街道と言うからにはこの道を商人などが通るのだと思う。確かにこのままにしておくわけにはいかないだろう。
「ご、ごめん! わかりやすいほうがいいと思って! あ、痛い! ごめんってば叩かないで!」
ぴしぴしと馬を叩く鞭で叩かれる隼人を、ほほえましく見ながらもやはり主人公だなと思い直した。
御者に乗った女の子はレティさん。
初めに隼人と一緒に出会った女の子ですね。