2-13 商業都市アインズヘイル 贋作スキル
ぎりっぎり間に合ったー!
二章は頑張る。三章入る前に
多分俺は寝てたと思う。
寝てたはずなんだが頭に強い衝撃が走り、目覚めるとレインリヒの顔が笑っていた。
「良いご身分だね。錬金室は春を買うような場所じゃないんだけどね」
「勘違いだ!」
「そうかい。それで勝負のめどはたったのかい?」
「ん、ああもう買い取ってきたよ」
「随分早いね。まだ期日まであるはずだけど。まあ私にとっても都合はいい。あんた勝負の日まではそっちの猫とここを使っていいけど、そっちの冒険者二人はこれからは宿で寝させるんだよ」
ああ、シロとここを使って良いっていうのは嬉しいことだが、都合……?
また何か考えてるのかこの人は。恐ろしあ。
「あと、ヤーシスが戻ってくるまで一人で表にでるんじゃないよ」
「ん? なんで?」
「死にたいならいいよ。好きにしな。そっちの方が私も儲かるしね。だけど死にたくは無いだろう?」
言ってるそれが完全に悪役だよレインリヒ。
「わ、わかった。ここに居る。忠告ありがとう」
「ふん、そんなんじゃないよ。ほらせっかく起きたんだからさっさと作業でもしな。若い奴が惰眠を貪るなんて20年早いよ」
「起きたっていうか起こされたっていうか……」
「口答えするんじゃないよ。あーあー家をどうにかしてやれなくもなかったんだがね」
「マジかレインリヒ! あんたが神か!」
「そうさ。私が神だ! 分かったら言われたとおり働きな。ただで家が手に入ると思ったら大間違いだよ!」
おっけーおっけー。そういうことなら話は別だ。
俺様ちゃんてばやる気を出してしまいますよっと!
さって、今日も朝から錬金だー!
もとの世界にいた時より働いている気がする。
でもこっちの世界は働いた分だけお金を稼げるからな。
サービス残業もなければ、通勤ラッシュも無いなんてそれだけで天国だ!
アイナとソルテとシロの三人はまだ寝ているが、早速始めてしまおう。
起きあがる時にシロがしがみついていたので引きはがすのが大変だった。
アイナとソルテは何時の間にか俺の腕枕から離れて丸くなっていたが、寝心地が悪かったのかもしれない。
申し訳ないとは思うが、俺にはどうしようもないことだ。
とりあえずまずはヤーシスへの借金返済の為に今ある材料でバイブレータを作ってしまおう。
サイズや形を含めて多種多様にしたほうがよさそうなので、楽しみながらやりますか。
もう既に10個も作れば慣れたもので、複雑だった配合の比率も簡単にできるようになっている。
空の魔石が残り20個くらいなので、20個作ろう。
20個で100万ノール。魔力を含めれば102万ノール。
普通に考えれば相当高いな。
でもヤーシスなら貴族辺りに売るだろうから問題ないか。
とか考えながら早くも一つ完成。
魔石に魔力を注いで起動確認。
うん。大丈夫そうだ。
ブブブブブと高速振動しているし、熱くなったりすることもない。
これで5万ノールで確実に売れるってのはいいな。
どんどん作るぞー!
15個目を作り終わったその時だった。
『錬金のスキルレベルが 8 になりました。 新たに
おー……上がったか。
やっぱり上がるの早いな……。
薄々感じていたのだが、多分この上がる速度は一般的じゃない気がする。
流れ人補正かなんかがあるのだろうか。
でも経験値上昇なんかのチート能力はついていない。
確か女神から貰えるスキルの中にそんなのがあったけど俺にはついてないはずだ。
まあいいか。
レベルが早く上がる分には俺にとって得しかないんだし、これに頼りすぎて早死にする心配もないだろう。
とりあえず鑑定しましょうそうしましょう。
【錬金 Lv8
指定したものの性能を落として複製する。
材料は自動で消費される】
指定……ってのは感覚で問題なさそうだな。
それより気になったんだが『指定したもの』『材料は自動』なら魔法空間内で錬金が行えるんじゃなかろうか。
思いついたらまず試してみよう。
空きが多くなった魔法空間を展開する。
0~9番の内、いくつか少しだけ分かれて入っているが一度1番に全てまとめる。7番に入れていたお金も殆どヤーシスに渡してしまっているので悲しいほどに魔法空間内は寂しいものだった。
とりあえず2番に先ほど出来上がったバイブレータを入れて3番に材料を入れる。
そして
材料は3番から自動的に消費され、出来上がったものは4番へ。
完成したバイブレータを取り出して鑑定をかける。
《バイブレータ 按摩用の道具。 使用用途は人によりわかれる 製作者 忍宮一樹》
さらに魔力を注いで振動数を確かめると、普段作るものと体感では変わらなかった。
やはりだ。
性能が下がるとあったが、ブローチやネックレスのように+値がついている物の話だと思っていた。
あれらは出来によって性能に上下があるため、贋作では性能が下がるのだろう。
だが例えばスコップなんかを複製した場合、穴を掘る力が下がるというのは無理があると思った。
皿を複製したら載せられる量が減るわけもない。
ならばバイブレータの場合は?
振動数が下がる恐れはあったが、『振動数』というプラス値ではないので下がらなかった。
サイズが小さくなる可能性はあったが、それなら指定物を大きくすればいいだけの話だ。
これはものぐさな俺にはぴったりなスキルだろう!
勿論完成品に魔力を注ぐ必要はあるが、時間は大幅に短縮することが出来る。
こうなるとデメリットはMPの消費量だろう。
それでも一つ複製するのに手形成で行うよりも1.2倍程度の消費量である。
アクセサリーなどを複製する場合は困るが、今回のバイブレータを複製する分には申し分ないスキルである。
効率アップ!
作り終わった物は魔法の袋に入れて残り4つも全部作ってしまおう。
MP消費は激しいがどうせこの後は休憩を挟むし、魔力ポーションもあるので気にせずいこう。
これが終われば先立つ為のお金稼ぎだ。
家もない中奴隷を二人も抱えることになったのだから、お金はあるに越したことがない。
レインリヒになにやら考えがあるようだが、そればかりを当てにしていざ駄目だった時のことを考えるとやはり手元にそれなりのお金は持っておきたいものだ。
効率だけで言えば道具屋に頼んだ材料が届き次第バイブレータを大量生産してヤーシスに卸すのがいいだろう。
手形成はMPよりも体力を使うのがまずい。
当然アクセサリー作りは続けるが優先順位はやはりバイブレータだな。
これならお金を稼ぎつつ街に繰り出すことも出来るしね。
「んー……主。お腹すいた」
シロがのへーっと俺の背中に張り付いてきた。
どうやら目が覚めたらしい。それにしても早速飯の催促か。
そのまま背中に手を回してシロを膝の上に乗せる。
「もうちょっと待っててな。今仕事中だからさ」
「お仕事ー? 何もしてないよ?」
「んーまあ本当にすぐ終わるから」
「お腹すいたー」
のそのそと俺を上るように少し立ち上がるとかぷっと俺の耳をかむシロ。
そんなにも腹が減ったのか……。
「わかったよ……。また屋台でいいか?」
「ん。問題ない。お肉好き」
「じゃあ悪いんだけど人数分買ってきてもらってもいいか? お金は、多めに10万ノールもあれば足りるだろう」
シロがいくら食べるとはいえ十分だろう。
「なんでもいーの?」
「俺のは虫以外で頼む。他は好きにしていいぞ」
屋台には虫を売ってる店もあったからな。
たとえ美味かろうとも俺は決して食わない。
食わず嫌いと言われても構わないが絶対に絶対だ。
「わかった。行ってくる」
「急がなくていいからな。あと先に食べながら帰ってくるなよ。食べるなら皆でだ」
「……わかった」
こいつ食べる気だったな……。
だが素直なシロのことだ、一度言えばちゃんと持ち帰ってから食べるだろう。
基本いい子だしな。うん。
だがお腹は空いているのできっと急いで帰ってくるだろう。
まだまだ色気より食い気のお年頃なのだろうから仕方ないか。
アイナとソルテが起きてきて錬金室の水道で顔を洗いおわった頃ちょうどシロが帰ってきた。
昨日起きたら説明すると言ったので、食事を取りながら簡単にシロについて説明をすることにする。
「昨日、シロを買った。朝までヤーシスの店で錬金をしていた。疲れたので寝た。以上」
簡潔にわかりやすく伝える。
これ以上無いほどわかりやすい説明だろう。
紛うことなき事実である。
さて、反応やいかに
「あのねえ。それで納得すると思ってるの?」
ソルテの眉がピクピクと動いてどうやら怒っているようだ。
「これ以上どうしろと?」
「だから何で一緒に寝てたのかってのと、どうしてこの子を買ったのかを言いなさいよ!」
「ああ、なるほど。理由か。んー一緒に寝てたのは眠かったからだし、元々シロは買う予定じゃなかったんだけど、まあ懐いてるしいいかなーって」
あれ、これ説明になってるか?
「失礼だが主君。主君は今お金が必要なのだろう?」
「当然。家だって必要だしまだまだ全然足りてないよ」
「ならば今は余計な買い物をすべきではないのではないか?」
確かにその通りなのだが、シロを買うのはきっと遅いか早いかだっただけだ。
「んーシロには昨日ゴロツキから助けてもらったしな。二人に常に一緒に居てもらうわけにも行かないから必要といえば必要だったんだよ」
「はあ!? あんた昨日襲われたの? どこで?」
「すぐそこだよ。昨日あのあとすぐだな。そしたらシロに助けられた」
「ん。シロは主の矛。主のピンチには必ず助ける。駄犬とは違う」
「誰が駄犬よ! そもそも昨日はこいつのせいで外に出れなかったんだから私のせいじゃないわよ!」
仲悪いなーこの二人。
というかシロは辛辣だもんな。
犬猿ならぬ犬猫の仲か。
「あ、主君。これはお返ししておく。ソルテにも使ってもらったのだが気持ち良さそうにしていたぞ」
言葉だけを聞けば相当やばい。
ソルテの方をチラリと見るともっていた骨を振りかぶって投げつけてきた。
それをシロがキャッチして助けてくれる。
「ありがとなシロ」
「ん。犬には骨がお似合い。槍じゃなくて骨を持てば?」
「この猫喧嘩売ってるのよね? いいわよ買うわよ!」
「ソルテ。相手は子供だぞ。あと、食事中に立ち上がるな。埃がまうだろうが」
「ガルルルル。今正論を言わないでよ! このやり場の無い怒りをどうしてくれようか!!」
「犬。忍耐も必要。私もさっき帰り道につまみ食いしないように我慢した」
「そんなことと一緒にしないで!」
あれ、仲いいのかな?
喧嘩するほど仲がいいって、他人から見ると分かりづらいよな。
「まあとにかく。シロは俺の周りを警護してくれるから、悪いんだが二人には集中的に材料収集を頼みたい」
「それはいいけど、でもあんた一人ならともかくこの子も錬金室で寝泊りさせる気?」
「一応レインリヒから許可は貰ってるよ。勝負が終わる時までだけどね」
「……一緒に寝るの?」
「寝る。シロは主の傍がいい」
「変態!」
「違う!」
シロは子供のようなものだ。
そんな相手と一緒に寝ただけで変態扱いは酷すぎると思うの。
「なあ主君」
不安そうな顔で話しかけてきたアイナは胸の前で拳を握り、眉を八の字にしていた。
「主君はその、胸の大きな女性は嫌いか?」
「いや、大好きですが」
「そ、そうか。それならいいのだ。ソルテとも仲が良いし主君は私みたいなのは好きじゃないのかと思った」
「馬鹿なことを言うなよ。俺は女性らしい体型の方が好きだ」
当然だろう。ソルテもシロも俺から見れば対して変わらない。
ソルテは年齢では上なのだろうが、身長も小さいし何より子供っぽい。
多少耳年増ではあるがそれでも子供のようなものだ。
ただ付け加えるならば俺は小さな胸も小さな尻も問題なく好きだ。
なんていうか、肉も野菜も好きという感覚だ。
どちらかが好きだからもう片方は嫌いになんてならない。
どっちも好きでいいじゃないか!
ただしどっちでもいいとか抜かす奴。
てめえは駄目だ。どっちもじゃなくどっちでもは駄目だ。
そいつは懐が広いんじゃねえ、リスペクトが足りてないんだっ!
二人は自分の胸を触り、お互いの視線を胸に向け交差させている。
「なによ……」
「シロはまだ成長期。いずれボンキュボンになる。でも……」
「だからなによ! 別にいいのよ胸なんて!」
「強がりはいけない。まな板じゃ勝負にならない」
「ガルルル! まな板じゃないもん! 少しはあるもん!」
「1か2の差。やる気なら表に出る。可哀想な犬の相手をしてやる」
「うわあああーん! 子供だからって容赦しないからね!」
いややっぱり仲悪いか。
さっきのは俺の見間違いだな。
さて、二人の戦闘を止めようか。
「アイナ。二人を止めてくれ」
「私がか!? 主君が言えば止まるだろう!」
はっはっは。無理いうなよ。
だがまあシロだけなら止められなくも無いか。
「シロ。もし戦ったら晩御飯抜き」
「あい。しません!」
「ちょっと!?」
「ご飯は大事。犬よりも」
「犬じゃないって言ってるでしょ! ああもう! この怒りを何にぶつけてやればいいのよ!」
「よし。じゃあ材料収集頑張ってくれ。良い鉱石が欲しかったから丁度いいな」
ここでサムズアップ。親指を立ててウィンクを入れる。
「ッ~~!! わかったわよ! 行くわよアイナ! ご馳走様!!」
「あ、ああ。では主君。これは前回の分の鉱石だ」
「お、助かる。もう殆ど材料が無くてさ」
「では私も行ってくるぞ。ソルテ、ちょっと待ってくれ! おい!」
アイナがソルテを追って錬金室を駆けて出て行く。
「さて」
「さて?」
「もう一眠りするわ」
「ん。シロも寝る」
中途半端に起こされたもんだから眠かったんだ。
MPの回復もあるし、あの二人が帰ってくるまで寝ておこう。
こうして二人が帰ってくるまで惰眠を貪った俺は起きた時に自分が蓑虫のように丸められていて、最高に良い笑顔のソルテを目の前にするとは想像もつかないまま、まどろみを堪能した。
あ、あとPVがいつの間にか40000いってました!
なぜかご報告が2万づつですが、皆々様ありがとうございます!
これからもご感想やご指摘などどしどしお待ちしておりますので、よろしくおねがいします!