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2-10 商業都市アインズヘイル 再会、猫耳少女

猫耳少女! 再! 登! 場!


二人を置いて錬金ギルドを出たときに気がついた。

せめて護衛を連れてくるべきだったと。

だが一人で無ければならないのだ。

最悪説明をしたソルテは連れていけてもアイナは駄目だ。

あの子にはまだ早すぎる。

だがソルテだけ連れて行きアイナはおいてけぼりでは可哀想だしな。

まさか直接俺を狙って物理的に排除しようとは思わないだろう。


……そう考えていた時期がボクにもありました。


錬金ギルドを出て少し歩くとすぐに俺は道を塞がれた。

はあ、それにしても人はいないとはいえ街中で武器を堂々とあらわにしますかね。


「へっへっへ。何処に行く気だ坊主」


へっへっへときましたよ。

それに坊主って、そりゃ日本人はベビーフェイスだけど俺は坊主なんて呼ばれる年ではない。


「ちょっと野暮用でね。おたくらは何の用だ……って聞くまでも無いか」

「ああ聞くまでもねえな。黙って錬金ギルドに帰るなら大人しく返してやる。だが無理矢理にでも通るってんならどうなるかわからねえぜ?」


おそらく、というか間違いなくダーダリルの下僕かなんかだろう。

しかし直接的な妨害は禁止じゃなかったのだろうか。

こいつらそのあたりを理解しているのだろうか。


「俺に危害を加えればダーダリルの負けになるわけだが、それでいいのか?」

「ダーダリル? 知らねえなあそんな奴は。ただ俺らはお前が気に入らないだけだ」


そんな理屈が通るわけがないだろう。

さて、これがゲームなら選択肢の登場だろうか。


1.「俺を誰だか知らないようだな。いいだろう思い知らせてやる」と勇む。

2.「へい! スイヤセン! カエリマス!」 と脱兎の如く逃げ出す。

3.「あ、UFO」と気をそらしている間にすり抜ける。


……1と3はないな。

無難に踵を返すか。


「はあ……」

「それにもしお前が死んじまえばダーダリルの旦那の敵はいなくなる。そうすればあの奴隷はダーダリルの旦那のものになるってわけよ。俺らだって別に殺しがしたいわけじゃねえ。大人しく帰るならよし、帰らないなら……まあ仕方ねえわな」


げへへへと下品に笑う4人組。

さっきダーダリルなんか知らないって言ってたくせに旦那とか呼んでるし、内情も知ってるし。

なんかもう「ここは通さねえぜ」とかいう三下に見えるが戦えば間違いなく俺が殺されるだろう。

まあいいや。一度帰ってアイナ達と合流しよう。

そう思い踵を返そうとした時、俺の前に小さな影が降ってきた。


「……参上」


現れたのは以前、俺の牛串サンドをおいしそうに食べていた猫耳少女。

地面に片手をつき大きく体をしゃがませもう一方の手を斜めに高々と上げ、足を伸ばしてポーズをとっている。

あれ? あの時の猫耳少女だよな?


「主に、手は出させない。来い。相手してやる」


淡々と言葉を紡ぐ猫耳少女。

音も無く俺の目の前に現れたのも驚いたがそれより格好だ。

逆手に持たれた大き目のナイフ、黒い装束に口を隠したマスクがなんと言うか忍者だ。


「なんだてめえ!」

「主の矛。主に手を出すなら容赦はしない」


何時の間に俺の矛になったの?

あと怒ってる……のかな? 淡々と話すのであまり感情が窺えない。

まさか、忍に徹底しているのか。


「っきしょう! 野郎共やっちまえ!」

「遅い」「殺すな!」「ッ!」

「っな……馬鹿な……」


あぶねえ。容赦しないとか言ってたからこんな往来で殺しはまずいと思い一応声をかけたのだが察してくれたようだ。

猫耳少女がいつの間にか男の前に移動していて腹に重い一撃を入れていた。

ちゃんと刃を返して斬らずに倒したのは圧倒的な力量の差があってこそ出来ることだろう。

この子こんな強かったんだなあ。

俺が知ってるこの子は牛串サンドを食べる可愛い一面だけだったしな。


「……終わった」


物思いにふけている間にもう倒し終わったらしい。


「助けてくれてありがとうな。前会った子だよな?」

「そう。ヤーシスから護衛を受けてる。主は私が守る」


ヤーシスめ。先に手を打ってくれていたのか。

もしもの可能性に備えていてくれたようだ。

いやー感謝感謝。見損なってすまなかった。


「どうする?」

「ん? こいつらか、放っておいていいんじゃないか?」

「殺さなくていい?」

「こんな奴等の為にどこぞの誰に恨みをもたれたくないし、また襲ってきたら助けてくれるんだろ?」

「当然」

「じゃあ放置で。これから中央通りにいくんだが、何か食べるか?」

「……いいの? でもまだ任務中」

「護衛なら近いほうがいいだろ。人ごみがあったら中で刺されるかもわかんないし」

「確かに。じゃあ傍に居る。ご飯も、食べる」


ぴこぴこと猫耳が動く。

触りたい衝動に駆られるが、なんとか押し殺して俺たちは中央広場へと向かった。

人通りはそれほど多くなくまばらに歩いている人がいる程度だったので、突然刺されるような心配はなさそうだ。


夜も更けた時間だがぎりぎり白パンと牛串を確保することが出来たので、二人でベンチに座って食事をすることにする。

パンを切り分け、牛串を挟んで渡すとぴこぴこと猫耳がせわしなく動いていた。


「ゆっくり噛んで食べろよ」

「もごっもご」(わかってる)

「わかってないだろ……。ほら、これ飲みな」


今回は果実酒ではなく果実汁だ。

何歳か分からないが未成年にお酒はまずい。

体も小さいから急性アルコール中毒になる可能性も高いしな。


猫耳少女は水筒を受け取ると牛串サンドを流し込むようにごくごくと飲んだ。

さらにまた牛串サンドを頬一杯に頬張って食べている。


「誰も取りはしないからゆっくり食べろって……」

「もぐもぐ。ごくん。わからない。食べられる時に食べないともう食べられないかもしれないから」


そういうと残っていた牛串サンドを口の中に入れ、咀嚼を開始する。

あーあー。噛みづらいだろうに。

って言うか俺まだ一口も食べてねえや。


「そういえばお前は食べかけじゃなくていいのか?」


ウェンディさんが奴隷は食べかけを食べる物だって言ってたけど。


「大丈夫。主は主だけど、まだ主じゃないから」

「よくわからん。ならほれ。もう一つ食べるか?」

「食べる」

「ただし条件な」


手を出して受け取ろうとしたところを腕を上に上げて届かないようにする。

猫耳少女は腕を一生懸命に伸ばして取ろうとするが、諦めたのか恨みがましい顔でこちらに目を向ける。


「ゆっくり食べること。わかったか?」

「わかった。ゆっくり食べる。だからちょうだい」


こくこくと素直に頷く猫耳少女。

素直で物分りのいい子だな。

だが一口の大きさは変わらなかった。


「もくもくもくもくもくもく」

「咀嚼速度を上げんでいいからちょっとずつ食べなさい……」

「もごっご」

「食べながら話さないの……」

「もくもくもくもくもくごくん。わかった」


可愛い。

俺はロリコンじゃないが、なんというか娘が出来たらこんな感じだろうか。

昨今の若者よろしく、結婚願望なんて無かったのだがこんな娘なら俺も欲しい。

ちょっとずつ食べ進める猫耳少女。その猫耳がぴこぴこと動いているのが気になる。


「なあ、耳少しだけでいいから触ってもいいか?」

「ん」


食べながら頭をこちらに向けてベンチに足を上げると、触りやすくしてくれたようだ。

その際にもぴこぴこと動いており、俺はまず先っぽから優しく触る。


質感は普通の猫の耳と一緒だろうか。ただこの子の白い毛並みはとても柔らかくてふわふわであった。

そのまま付け根をうりうりと掻いてあげると身じろぎをして、ここ掻いて! と言わんばかりに頭を俺の膝に乗せて押し付けてくる。

行儀は悪いがまあ耳を触らせてもらっているしいいか。


そういえば昔飼っていたうちの猫も俺が横になると毎回腹の上に乗ってきて手を軽く猫パンチして俺に頭を撫でさせていたな。

猫は顎の下は当然として、実は尻尾の付け根あたりをとんとんされるのが気持ちいいらしい。

そして俺は何も考えずに尻尾の付け根をぽんぽんしてしまった。


「んあー」


猫耳少女が尻尾をピーンとして頭を下げ、お尻を高く上げてしまっている。

当然顔は俺の膝にぎゅーって押し付けられている。


「なに? 今の」


瞬間お尻は下がり、顔はこちらに向けられているがこの子の牛串サンドパクパクをとめる力はあったようだ。


「猫ってここが気持ちいいらしいからぽんぽんっと……してみたんだが……」

「ん。気持ちいい。もっとやって」


いや無理だろう。夜とはいえ屋台の人はいるし。数人だが歩いている人も居る。

そんな中で俺の膝に顔を押し付けながら尻を突き上げる猫耳少女の尻尾の付け根を触る男など、どう見たって変態だ。

仮に俺が変態だったとしよう。先ほどアイナに変態的な行動をしたとはいえ俺はわきまえた変態である。

なのでこんな道の往来でそんなことをするわけが無い。


「また今度な」

「今度嫌。今!」

「じゃあ頭なー。うりうり」


頭じゃ嫌だとやーんとしながらも顎の下やら耳の付け根やらをうりうりと軽く掻いてあげると、ごろーんと体を預けてきた。

うりうり。ごろごろ。

うりうり。ごろごろ。

いかんいかん。このままじゃエンドレスで続けてしまいそうだ。


「んうー。終わり?」

「うん。この後行かなきゃ行けないところもあるしね」

「じゃあ終わったらまたして」

「わかったわかった」


猫耳少女はその返答に満足したようでシタッと起き上がってベンチから降りた。

猫って構いすぎると駄目なはずだが、猫耳少女はどうやら人懐こいらしい。

レティ嬢ちゃんにも注意されていたんだがな。


「何処いくの?」

「んーお前さんの主人のところだよ」

「主人? 主人は主。まだだけど」

「いや違くて。ヤーシスだよヤーシス」

「ヤーシス? 何で? 買ってくれるの?」

「残念ながら今は無理だな。もう少し先な」

「そっか。待ってる。じゃあなんで?」

「お礼だよ。お前を俺の護衛にしてくれてありがとなって」


無理と言われて耳がしょぼーんってなったのを見ると大変心が痛むのだが、無い袖は振れないのである。

しかしお礼とは言ったが本題は別にあるんだけどな。

元々ヤーシスには用事があったのだ。


「そう。じゃあ行こ」

「おい走るなって、転ぶぞ」

「子ども扱い、しないで」


いやいや、どう見ても子供だよ?

試しに手を出してみる。

するとほら、喜んで手を繋いできた。


「ふん♪ ふん♪」

「おいあまり引っ張るな。身長差があるんだから俺が転ぶだろうが」

「大丈夫大丈夫」


小さな猫耳少女に手を引かれ俺はヤーシス奴隷商館へと向かった。

ストックがあああ尽きそうDeath!!


6/7 タイトルの 再開 を 再会 に修正しました。

   ご指摘ありがとうございました!

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