2-6 商業都市アインズヘイル アイナへのブローチ
20000PVに到達しましたー!
これからも頑張っていきますので、よろしくおねがいします!
アイナのアクセサリーも作ることになったので、せっかくだからアイナのイメージにあわせたいと思う。
料金はソルテにまとめて払わせることにしよう。
ただじゃないのかって?世の中そんなに甘くないのだ。
「主君、その、疲れているところすまない」
「いいよ。ソルテだけってわけにもいかないし。そういえば鎧じゃブローチはつけられないんじゃないか?」
「出来なくはないが、鎧で隠れてしまうし別の部位の方がいいか。それでお願いできるだろうか?」
んーとなると指輪、腕輪、ネックレスあたりだろうか。イヤリングなんかも悪くないかもしれない。
だが隷従の首輪があるし、ちょっとくどいか。
となると指輪か腕輪だが、せっかくだし腕輪に挑戦してみよう。
イメージとしては少し大きめのバングルだ。
となるとアイナさんのイメージである赤を取り入れるために赤いガラスを使う方がいいか。
いやでもソルテには魔石を使ったのにアイナだけガラスってわけにもいかないよな。
んー魔石を赤くしたんだけど、どうにかできないだろうか。
うまく魔石と赤いガラスの良いとこ取りが出来ないものだろうか。
合成したらうまいこといかないかな。
とりあえず思ったことはやってみよう。
ということで早速錬金。
じゃじゃーん。完成。
『魔石にささった赤いガラス』
完成じゃねえ。失敗じゃねえか!
合成を行ったのだが、結合までしか至らなかった。
んー……。
今度はイメージを変えてみる。
まず二つがどろどろに溶けるイメージをし、それらを混ぜ合わせるように形を構成していく。
先ほどは魔石の色を変えることを考えていたが、頭の中でしっかりと手順を踏んで合成と再構成を行っていくのだ。
『赤い空の魔石』
ででーん!
お見事。無事に赤い魔石が完成!
しかもちゃんとした球体になっている。
これはこれから先も役に立つな。
イメージに合わせて魔石の色も形も変えられるなら作れるデザインの幅が大きく広がるだろう。
これならと、赤い魔石に再構成を行い、極小の半円形にし大きめに膨らませた形を取る。
そして手形成を発動。
今回は切り出し刀を用いて赤い魔石をカットしていく。
親指の爪ほどのサイズなのだが、なるべく面を多く作るように、イメージはダイヤモンドのようなブリリアントカットだ。ただし、上部のクラウンと呼ばれる部分だけである。
正しいやり方はわからないのでなんちゃってだけど。
左右と上下で対称になるように気をつけながら行うが、なかなかこれが難しい。
時間をかけて丁寧に丁寧にゆっくりと時間をかけて行うとなんとか形になり、四つの赤い宝石もどきが出来上がる。
「はぁ……ふぅ」
いつの間にか息を止めていたのだろうか。息が乱れ、声が漏れる。
「主君。大丈夫か?」
ああ、そういえばアイナはいたんだったな。
気にせず作業をしていた。
「あーうん。なんとか」
「しかし、見事だな。これは魔石なのだろう? まるで宝石のように見える」
「そういってもらえるとがんばったかいがあるよ」
どうやら喜んでもらえそうだ。
だが本番はここからだ。
本体のバングルを作らないといけない。
銀を再構築で薄めに延ばし、人差し指2本分の太さに整えると腕につけられるように湾曲させていく。
端と端はつなげずにつけやすいように隙間を作っておく。
さらに平刀を使って表面の内側を縁だけ残して薄くしていくのだが、なるべく薄く、だが穴が開かないように気をつけなくてはいけない。
薄く削った土台に先ほど作った4つの赤い魔石をはめ込んでいき、縁を銀で囲むと土台と縁の銀を固定化させる。
そこに4つの赤い魔石に魔力を注ぐ。
サイズが小さいので一つ10程度しか注ぎ込めないが4つあるので十分だろう。
これで終わりでもいいのだが、残っている隙間に銀で唐草のような模様をつけていく。
イメージは植物と赤い果実だろうか。
今回は左右対称ではなくアシンメトリーのように唐草模様を施していく。
なんとなくで作っていき形が見えたので手を加えたのだが意外とうまくいったようだ。
『精巧な赤い魔銀バングル 会心率小上昇 力小上昇』
能力は二つだが、どちらも小上昇だ。
それにしても魔石を用いたのだが魔力微上昇はつかなかった。
可能性としては完全にランダム要素なのか、それとも色をつけたので効果が変わったか、後は組み合わせなんかも関係しているかもしれないといったところだろうか。
先ほどの銀翼のブローチとほぼ同じ材料なのに敏捷がつかないあたり作者のイメージによるのかもしれない。
確かに翼=敏捷 赤=力 ってイメージではある。
能力の強さは技術や材料によるのかも知れないな。
最後に小さく内側に『銘』を打てば完成である。
「か、完成か?」
「うん。出来上がりだ。はぁー…………」
文字通り満身創痍である。
体はへとへと。MPももう殆ど残っていない。
魔力ポーションを飲んでもいいのだが、今日はもう動けそうにないから回復してももったいないだろう。
「素敵だな! 本当に私が受け取っていいのだろうか」
「問題ない。料金はソルテに払わせるから」
そういうとアイナさんは苦笑いしながらもそれを手に取り、腕につける。
のかと思われたのだが、まさかの首につけだした。
「ちょ、それ」
「ぴったりだ! 私の隷従の首輪を気にかけてくれたのだろう?」
ぴたりと首にはまったバングルはまるでそこにあるのが当然だと言わんばかりに鎮座していた。
そもそも腕用に作ったのに首にはまるものなのだろうか……。
「はぁ……サイズを整えるから後ろ向いてくれ」
「こうか? ふふふ。なんだか首輪を付けてもらうなんて本当に主従みたいだな」
なんで上機嫌なんだ……。
一度首輪をはずして端を調節する。
その際につけ外す際に傷がつかないよう丸く球体に加工し、曲がりを緩くしてあまり締まらないようにする。そのままだとはずれてしまいそうなので外側に小さな鎖型のチェーンを取り付けサイズ調整とずれて落ちないように工夫を行う。
「ん」
正面に回ると首周りを露にしたアイナは目を瞑り頰を紅潮させて待っていた。
なんだかどきどきする光景だが、実際は女性に首輪をつけるという変態的な行為である。
球体にした端が彼女の首に少し触れながらも先ほどよりはあっさりするっと着けられるようになっていた。
「苦しくないか?」
「大丈夫だ。問題ないぞ」
なんというか、細い首だ。
サイズ合わせを行っていないが故の結果だが、これからはリサイズができるように工夫しないといけない。
元々着いていた隷従の首輪の上からかぶせるようにバングルをずらし、チェーンを着けてずり落ちないようにすると、クルリとアイナが振り返った。
「どうだろう。似合うだろうか?」
「半端なく似合ってる。すごくいい」
「そ、そうか。本当にありがとう!」
嬉しそうなアイナさんの笑顔。
手を添えてなぞるようにさわり感触を確かめては笑顔になっていった。
赤く揺らめく魔石と、アイナの真紅の髪が相対的に映えて見える。
隷従の首輪を付けていた時はやはり目がそこにいってしまったのだが、今回は違う意味で目がいくようになった。
レインリヒは一人にしか似合わないアクセサリーはないというが、これをアイナ以外が付けているイメージがわかない。
それほどにぴったりと似合っていた。
そこにコンコンとノックの音が聞こえた。
「ただいまー……」
そこに力なく扉を叩く音がして入ってきたのはソルテとレインリヒ。
「おかえり。いくらだった?」
「えっとそれが……」
「私は正直に言った値段だよ」
「うん。わかってますよ」
なんだろう。ソルテの元気がない。
「あ、アイナのも完成してたんだ。いいじゃない。凄く似合ってるわ!」
「そうか。そういわれると少し照れるな」
「うん。でも、その……」
ソルテは表情がころころと変わり、言いづらそうにしている。
「へえ。こいつも上手くできたもんだ」
「でもまだ錬金初めて一ヶ月もたってないんだよ? 新人も新人の作品だし……」
「いいものは誰が作ったかじゃないんだよ」
「それでいくらくらいで売れる?」
「そうだね。二つで200万ノールってところだよ」
200万!!?
一つ2、30万ノール。いっても50万ノールくらいだと思ってたのにそんなにするのか。
「一点ものだろう? 大量生産品じゃないからね。値段をつけるならばそんなところだ。売れるかどうかは別だが私なら売れる」
「大量生産ってできるのか?」
「簡単な形状のものなら錬金レベル8で
「へえ。それで
「能力が落ちるだけさ。元の物の能力が低いと形だけで能力がつかないこともあるからね」
「なるほど……だけど効率は良さそうだな」
レベル8か。まだレベルが上がったばかりだから期待はできないが、続けていけば自然に覚えるだろう。
「それでね。あのさ相談なんだけど……」
言いづらそうなソルテ。
俺が無言で掌を差し出すと、渋々といったようにブローチを渡してきた。
それを手にとって俺は彫刻刀とは別に作っておいた錐のようなもので、裏側に『銘』を打ちソルテの手へと返す。
「今回だけだからな」
そういうとソルテの首はもげるんじゃないかってくらい縦に振られ、ぎゅーっとブローチを抱きしめるようにしていた。
はぁ……お金が必要な時に何をやっているんだか……。
いやでも仕方ないと思う。女の子がこんなにも俺が作ったものを欲しいと思ってくれた上にこんなにも喜んでくれているのだ。
控えめに言っても凄く嬉しい。
モチベーションってとても大切だし、こんな嬉しそうな笑顔を見れば200万ノールなどはした金だ。
……金銭感覚狂ってきたな。
「おや。私にはないのかい? リートには指輪なんかいいんじゃないだろうか」
おいババア。みりゃわかるだろう満身創痍だ!
「無茶言うな……体力がもたねえよ」
「大丈夫大丈夫。弟子がせっかく頑張っているんだ餞別に私の秘薬を分けてあげるよ」
そういうとレインリヒは袖から薬瓶を取り出した。
目に見えて毒々しいオーラが映ってるんだが。
「使うときは小さじ一杯にしなよ? 死んじまっても知らないからね。ヒッヒッヒ」
笑い方が童話に出てくる悪い魔法使いなんですけど!
レインリヒ様俺に何を飲ませるつもりですか!
「意識は朦朧とするけどね。ひっひっひ。なに体が動けば問題はないさ」
「飲まないぞ! 絶対に俺は飲まないからな!」
危険を感じてがばっと後方に退避する。
「リート、二人とも押さえつけな」
「はい。レインリヒ様」
「え、え?」
「いやそれは……」
「なんならあんた達がこれを飲むかい?」
その瞬間両脇と、さらには後ろから羽交い絞めにされる。
リートさんいつの間に部屋に入ってきたんだ!
「裏切ったな! ソルテてめえさっきはあんなに感謝してたくせに、恩義とか感じねえのかよ!」
「仕方ないじゃない。だってなんか怖いんだもの」
「ちぃ! 使えない犬だ! それにアイナさんまで……」
「すまない主君。だが、死にはしない……はずだ」
「リートさん!」
「あははー。諦めてくださいね」
俺の周りには敵しかいねえ!
きっとこの場にウェンディがいたら俺を守ってくれるはずだ!
ウェンディカモン!
ご都合展開カモオオオオオオン!
「ほら、あーん」
レインリヒのあーんなんて嬉しくない。
ウェンディのアーンに比べたら全く嬉しくなアバババババ……。
薬を含んだ瞬間、脳を突き抜けて全身に衝撃が走る。
目に見える世界がチカチカと点滅を繰り返していくようだった。
「さ、がんばんな!」
最後に聞こえたのは無情なまでのレインリヒの激励。
ちくしょういつか……。
そのまま俺の意識は落ちていった。