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2-5 商業都市アインズヘイル ブローチを作りました

ででーん。

用意したのは秘密のお薬ーではなく、魔力ポーションの(中)が30個。

万全の態勢だっぜ!

なんだろう。この感覚。

修羅場確定で会社に3日泊まった日一時帰宅しようと思ったら、上司が買ってきてくれたドリンク剤を思い出す。

あの時の上司は「ふふふ~逃がさないよ~」とか目が据わっていたけど、ああだめだもう思い出したくない。


銅インゴットも作ったし、ガラスは適宜再構成を使って形態変化をさせよう。

さて、まずはとりあえず作るだけ作ってみよう。

見本はウェンディさんにあげるはずだったシンプルながら見栄えのするブローチだ。


まず銅インゴットを四分割してから台座を作る。

楕円形の台座をイメージし、真ん中にはガラスをはめる窪みを空けないといけない。

形状自体は簡単なのですぐに出来た。


『赤銅の楕円台座』


次にガラスだ。まずは青色のガラスをはめてみよう。

赤っぽい銅ならば青という短絡的な思考だが、まあ練習だしいいだろう。


 【錬金 再構築】


形は同じく楕円形。少し厚みをもたせて膨らんで球体に見えるようにする。

表面はつるつるで光沢を際立たせ、ひび一つないようにっと。


『楕円形のガラス玉』


うん。出来た。

あれ? こんなに簡単でいいのかな?

さっそくはめてみよう。


カチッ。ポロ。


……うん。まあそうだよね。留め金がないと落ちるよね。

あと少しサイズが緩かったようだ。ガラスのふくらみを抑えて少し広げてみる。

そして再度台座に留め金をつけてもう一度。


カチッ。カチカチカチ。


そうだよね。留め金を先につけたらつかないよね。

馬鹿だね俺。ソルテの言うとおり馬鹿だね。


今度はちゃんとガラス玉をつけてから留め金をつけるぞ。

サイズも微調整を繰り返したのでジャストフィットだ。


『赤銅のガラスブローチ 防御+1 力+2』


わお。

能力ついてる!

捻れた鉄のネックレスの防御+2が1万ノールだから+値だけで考えれば2、3万ノールってところだろうか。

力と防御の値段の差がわからないので値段がわからない。

だがまあうまくいった。


円形、楕円形、泪型、菱形、星型、六芒星、様々な台座を作り、そこにガラスをはめていく。

数値はまばらだが、力と防御以外の能力はつかなかった。

だがそれでも14個もの赤銅のブローチを作った。

何度かMPが空になりそうになり意識を失いかけるも、常備した魔力ポーション(中)を飲み干して作業を続ける。


次はガラスの代わりに魔鉱石をはめてみる。

魔鉱石はインゴット化はできないのだが、空の魔石を作ることが出来る。

ガラスとの違いは魔力を内包できること。

魔力を内包した魔石は中に揺らめきが生まれ、任意で魔力を取り出すことが出来る。

要は装備型の魔力ポーションだ。


どうせなら魔力を込めた魔石で作ろう。とりあえずMPで50くらい空の魔石に注ぎ込んでからっと。

形は一番最初と同じシンプルな楕円形。

もう同じ過ちはしない。先に魔石をはめてから留め金を作り完成したのがこちら。


『魔力を帯びた赤銅のブローチ 力+3 魔力微上昇』


おおおお! 防御は上がらないけど何か付いてる!

微上昇ってどれだけあがるの?

そして


『錬金のスキルレベルが 7 になりました。 新たに 手形成(ハンディング) を覚えました』


ハンディング?

ハイディングの仲間?

聴いたことのない言葉だ。でも手形成ってことはそのまま手で形成するってこと?

とりあえず使ってみよう。それにレベル7になってるし銀鉱石をいじれるかもしれないし。


早速銀鉱石を前に手形成(ハンディング)を起動。

すると両の手が淡く薄い半透明な何かに包まれる。

察したとおりに銀鉱石をつまんで伸ばしてみると、思ったとおり銀鉱石が伸びるわ伸びるわ。

こねてみると面白いように形を変えていった。


なるほど。手形成とはそのままだな。

だがどれだけ引っ張っても『分解』は出来なかった。

ただ、ある程度引っ張ってから念じると千切れて二つには出来たので、分割ならばできそうだ。


何の為にあるんだ……。

正直再構築で形は作れるし、今更レベルが上がって手作業って……。

しかもこれ手先の器用度が最重要だろう。

俺DEXは上がってきてるけどレベル自体は1だし、ある程度しかないんですけども。

あーでも、細かい調整とかはわざわざ全体を再構成しなくてもこれでできるのか。


もしかしてと思い一度銀鉱石を銀のインゴットと石に分解し、インゴットを分割する。

髭剃り用に買ったナイフを手にして手形成を発動する。


「うまくいってくれよ……」


取り分けたインゴットにナイフを押し付けると、すっと線が入った。

思ったとおり、道具を使って模様を彫れるようだ。

これはセンスが問われるな……。

だけど使い勝手はいいかもしれない。


シンプルなデザインのブローチをこれにより模様をつけたり形を変えたり出来そうだ。

となると、まずは道具作りか。

材料は……このまま銀でいいかな。

あーいや。たしか鋼鉱石があったな。鋼の方が硬そうだしこっちでやろう。


空間魔法で鋼鉱石を取り出し、いつも通りインゴットを手っ取り早く作る。

とりあえず形は彫刻刀をイメージしてみよう。できれば持ち手は木の方がいいのだが……。


「入るわよー。ちゃんとやってるの?」

「お、おい。もし集中してたらどうするんだ」


ガチャっとドアを開けながら無作法に入ってきたのはソルテ。

その後ろから慌てるようにアイナも入ってくる。


「ちゃんとやってるよ。あとノックしろ」

「はいはい。ほら素材集めてきたわよ。あと面白い物が採れたから、いるなら買い取ってね」

「エルダトレントに出会えたからな」

「エルダトレント?」

「そ。こいつの落とす枝が魔力を帯びていて魔法使いの杖を作るのにも使われるのよ」

「エルダトレント自体が森の奥にしかいないのでね。たまたま中腹あたりで出会えたのは幸運だった」


取り出されたのは人の腕ほどもある大きめの枝だ。

なんというかご都合展開と言えるがこれはまさに幸運だろう。


「市場価格は20万ノールと言っ――」

「買った」

「即決だな。いいのか?」

「ちょうど木材が欲しかったところでさ。なんとも都合がいいときに持ってきてくれたよ」

「そうか。ならよかった」


さっそく買い取ったエルダトレントの枝を受け取ると、そのまま半分に割り片方を空間魔法で収納する。


「何に使うの?」

「錬金用の道具だよ」


そういいながら作業を行う。

まずは半分に割ったエルダトレントの枝を更に分割し、縦に4分割、横に二分割を行い小さく短くする。


「ああ、バラバラにしちゃった。もったいない……」

「これが錬金に使えるのか?」

「まあ、道具っていっても柄にしたかったんだけどね」


手形成を起動してナイフを使って四角く割ったエルダトレントの枝を持ちやすくするために丸く削っていき、木目に縦の線をゆっくり丁寧に開けていく。


「ソルテ何をやっているかわかるか?」

「さあ。わたし錬金なんて興味ないもん」

「なら見なくてもいいだろ……」

「うるさいわね。別にいいでしょ」


後ろから二人の視線を感じるとやりにくいんだが……。


次に小さめに千切り取った鋼を彫刻刀のように丸刀、小丸刀、切出刀、小角刀、平刀を形成していく。

根元を切り出したエルダトレントの枝と連結ができるように錬金を行うと一応完成だ。

幸いにも切れ味などは手形成では無視されそうなので刃を立てる必要はない。

というか刃の立て方なんてわからん。若干薄くするなんて器用な真似は出来ないし。


「なにそれ? 武器?」

「しかし錬金で武器は作れないだろう。作れても投擲用の投げナイフ代わりじゃないか?」

「いやだから錬金の道具だっての……」


なんだかんだ興味ないといっていたソルテもぐぐいっと顔を近づけてみている。

すぐ近くに二人の顔があるとおもうと、多少の緊張を覚えるのは仕方ないよね。


「ね。なら使ってみてよ」

「はいはい。わかったから静かにしててくれよ」


とりあえずせっかく銀も扱えるようになったし、どうせならと銀と魔石で作ってみよう。


まずは銀を加工していく。今回はちょっと凝ってみようと思う。

薄くした銀を切出刀で細い曲線状に切り取り、更にゆるい波型に再構成を行う。

角は流れに合わせて尖らせたり、丸くしたりバリエーションを作る。

これらのパーツを何本も作り、重ね合わせて形を作っていく。

イメージは翼だ。

何本も合わせていきベースを作ると小さな魔石を1つ取り出した。

翼の根幹を位置する場所に魔石を取り付けそこに魔力を注いでから錬金で自然な形に留め金をつける。

手形成を発動し、今度は小角刀で銀に流れをつけるように削りだしを行う。

ゆっくりと、丁寧に作業を行っていくと、軽くめまいを起こしながら完成した。


「わあ……」


声を出していたのは意外なことにソルテのほうだった。


『魔力を帯びた銀翼のブローチ 敏捷小上昇 会心率微上昇 魔力微上昇』 


鑑定で調べると能力は三つ。今回は数値ではなく全て上昇系のようだ。

魔石を使ってから魔力微上昇が付いてるところを見ると、魔石に魔力を注げば魔力微上昇は得られるのかもしれない。

間違いなく渾身の力作だ。

ただ、一つ問題がある。


「ぷはぁあああ……なんだこれ。MPがガンガン減ってく……。それに凄い疲れる……」


手形成を行っている間集中して作業していると少しずつMPが減っていく感覚に襲われた。

だが、柄に付けたエルダトレントの枝が魔力の調整をし易くしてくれているようでこれでもスムーズに作業を行なえた方なのだ。

魔石に魔力を注いだとはいえ、全快の7割から8割が減っている。

更に問題なのは疲労度だ。集中していたとはいえいくらなんでも疲れすぎだ。


「能力はいいけど効率は悪いな……」

「だが見事なものだ」


アイナさんが魔力ポーションを差し出してくれたのでそれを受け取り一口飲む。

確かにいいものだと思う。

能力は3つな上に一つは微ではなく小である。

魔石には魔力が揺らいでいて神秘的でありながら、翼をモチーフにしているせいか確かに敏捷性があがりそうだなと我ながら感心した。


「ねえねえ」

「あげない」

「まだ何も言ってないでしょ! ……あってるけど」


当たり前だっての。少なくともこれで2、30万ノールは稼げるだろう。

それに魔力もかなり使うから一個作るのにも凄い疲れるのだ。

魔力ポーションでMPは回復しても体力は回復しない。


「ほらほら。お金ならあげるからさ。ね? これ売ってよ」

「ずるいぞソルテ。私だって主君の作ったものなら欲しいぞ!」

「ならアイナも作ってもらいなよ! 私はこれが欲しいの」


おい。もう一個作れってか。

今の俺のこの疲れた顔を見て何も思わないのだろうか。

アイナ? そんな期待をした目で見てもダメですよ?

俺のことを気遣っていてくれた先ほどまでの優しいアイナさんは何処へ?


「ね。これいくらだろ?」

「わかんねえよ……」

「じゃあちょっと貸して! レインリヒ様に聞いてくるから。あんたはその間にアイナの分を作っておいてね」


ひょいっと俺の最高傑作を取り上げると扉に向かって走り出した。

残されたのは俺とアイナの二人きり。

アイナはちらちらと期待した目でこちらを見てくる。


はぁ……わかりました。作りますとも。

ええ。作ってみせようじゃねーですか!


魔力ポーションを飲み干した後、空間魔法から回復ポーション(中)を取り出し一気に呷る。

減った体力は回復しないがこれはあくまで気分の問題である。

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