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2-4 商業都市アインズヘイル 愛のあるアドバイス

「馬っっっっっ鹿じゃないの!?」


キーーーーーンてするからわざわざ耳元ででかい声をだすなよ。


「西地区の統括って言ったら色々な意味で凄腕の男よ? あまりの容赦のなさに富豪たちは名前を聞いただけで震え上がるって噂の! そんな男の子供に喧嘩売るとか馬鹿でしょ? 馬鹿よね」

「あーはいはい。馬鹿ですよー」

「いいえ馬鹿じゃないわ。大馬鹿の考え無しの勢いだけの考え無しだわ!」

「考え無しって二回言ったぞ」

「重要だからよ! ほんっとうに馬鹿ね!」

「まあまあソルテ。聞くところによると主君は女性を守る為にだな」

「ウェンディってあの無駄に乳のでかい奴隷の女よね? なんであんたが今日一緒にいたのよ! あんた今日はお休みだー蹂躙だーって馬鹿みたいに出かけていったんじゃなかったの!?」

「はいはい。馬鹿ですよ」

「ソルテ……せっかくだから街を案内しようと意気込んでたのに置いていかれたからって八つ当たりは止せ。主君にも事情があるのだろう」

「ちーがーいーまーすー! 八つ当たりじゃありませんー!」


はぁ。帰って早々やっかましい。

説明しなきゃよかったかな。

いやでもなんかあったら助けてほしいしな。


「ちょっと! 何処行くのよ!」

「錬金だよ。金策考えなきゃ」

「今から考えるの!? 本ッ当に馬鹿ね」

「はいはい。馬鹿でいいってば」

「主君私達に出来ることはあるだろうか?」

「あー……とりあえずはいつも通り材料を集めてくれるか?」

「わかった。では空いた時間は主君の身の安全を守ろう」

「あー……大丈夫だとは思うけど、ありがとう。ちゃんと冒険者用にポーションは作り続けるから」

「そうか……こんな時でも私達との約束を守ってくれるのだな」


当然だ。

約束ってのは守る為にある。言葉が軽くなっただけで契約であり、こちらの一方的な事情で破るわけにはいかない。


「わかった。では私達は早速集めに出かけてくるので主君も頑張ってくれ」

「……ありがとな」

「なに。今の主君はちょっとかっこいいからな。でも私の為でないのが少し羨ましいのだ。ソルテも多分同じなのだろう」

「違うに決まってんでしょうが!」

「そうか? 私の勘ではそうだと思うのだがな」

「勘でしょ勘! アイナの勘なんて当てにならないじゃない!」

「むう。失礼なことを言うな。まあいい。この気持ちは狩りで晴らしてこよう」

「それには賛成よ。いい? あんたは金策だけを考えて頑張んなさいよ!」


二人とも、ありがたい。

これは俺もやる気出していくしかねえな。


「……犬がデレた」

「デレてないわよ! 死ね! 豚に掘られて死んでしまえ!」


嫌だよ。

豚に掘られて死ぬとか世界の恥ずかしい死に方のトップ5に入りそうじゃないか。


「掘られる? 掘られるってなんだ? 豚のタトゥーでも彫るのか?」

「アイナは知らなくていいの!」

「いやでも、気になるぞ」


アイナさんへの説明は任せた。

頑張って無理のない嘘を言ってくれたまえ。



とりあえず持ち物を整理するか。


薬体草

薬魔草

毒体草

月光草

鉄鉱石 

赤銅石

鋼鉱石

銀鉱石

魔鉱石

翡翠

今日買った石鹸、ナイフ、火をつけるためのチャッ〇マン、空の魔石と、色ガラスが幾つかそれに魔力誘導板と振動球体か。

あとは、さっき二人に貰った薬体大草、薬魔大草。


薬体大草は文字通り普通の薬体草より大きくて濃度が高い薬体草だ。

まだ俺には扱えないが、もしかしたら回復ポーション(大)はこいつから作れるのかもしれない。

あとは、ん?

そういえばせっかく買ったブローチも渡し忘れてたな……。

あんなことがなければもっと素敵な日になる予定だったのにな。


きらりと光る薄紅色の透明なローズクォーツ。そしてそれらを飾るプラチナ……。

似合うだろうなあ……。

胸に小さなアクセントとしてこのブローチを着けた姿を想像する。

ほんのりと柔らかい優しさを現したような宝石がウェンディさんにはぴったりだと思ったのだ。


「なーに宝石なんか見てぶつくさ言ってるんだい」

「レインリヒ!? ノックくらいしろよ!」

「なんだい思春期の餓鬼じゃあるまいし。それで、今度は何をやらかしたんだい?」

「いや別に俺がやらかしてるわけじゃ……」

「いいから言いなよ。あんたには随分儲けさせてもらったからね。助言くらいはしてやれるさ」

「あー……実は」


レインリヒに詳しく事情を話していく。


「ちょっと待った。ヤーシスの坊主はどんな勝負を持ち出したんだい?」


その途中のヤーシスがにやりと笑った気がしたあたりのところでレインリヒが問いただしてきた。


「え、ちょっと待ってちゃんと思い出すから」


えーっと……。


「ダーダリルとかいう西地区の統括の子供と勝負することになって、俺の所持金を聞かれた。それで約350万ノールだって言ったら、じゃあ8000万ノール用意しろって。それでダーダリルの方は今のまま1億2000万ノール集めるって勝負になった。 それで直接的な妨害は禁止だって。あとお互いに相手を行動不能状態にすることを禁止して、もしどちらかが死んだらその相手を領主様に報告して犯人と断定するって」


「ふむ……」

「レインリヒ?」


レインリヒはなにやら考え込むと小さい声で「あの小僧め」と呟いた。


「なるほどね。ってことは間接的に妨害はあるだろうね」

「例えば?」

「あの西の総括の子供がなにをしてるのかは知らないかい?」

「いや全く全然。養豚場経営とか? 豚好きそうだし」

「そりゃあいつ自身のことだろう。まあいいあの豚はね、製薬ギルドの元締めをしているのさ。調べればあんたが錬金ギルドでポーションを卸していることがすぐわかるだろうね」

「じゃあ俺がポーションを売っても買い取れないように冒険者ギルドのマスターに言うとか?」

「それは無理だろうさ。まだ駆け出しの冒険者には高い回復ポーションなんて買えやしないし、そんなことをすれば本当にあのギルドは終わりを迎えちまうからね」


レインリヒ様笑顔が笑顔じゃないので怖いです。

それにしても製薬ギルド……。またしても俺の前に立ちふさがるのか。


「まあヒントはここまでさ。いっそのこと回復ポーション以外での金策を考えたほうがいいよ」

「ええー! 俺最近ずっと回復ポーションしか作ってなかったのに!? いきなりそんなこと言われてもな……」

「なにさ情けない。男が女の為に意地を張ったんだろう? だったらその意地最後まで貫き通してみせなよ。そういうのに女は弱いものさ」

「レインリヒも?」

「おうとも。私が若い頃にドルマとガレリアの二人が……って私の話はいいんだよ」


レインリヒも若い頃はモテモテだったのか。


「うーん……」

「仕方ない奴だねえ……。確か銀鉱石と翡翠が余っていただろう? それでアクセサリーを作るといい。練習には赤銅石と魔鉱石を使えばいいさ。なんだい。色つきのガラスもあるじゃないか。石の質は大分違うが練習になるだろう」

「アクセサリーか……俺捻れた鉄のネックレス以降何も作ってないんだけど」


もう本当にずっと回復ポーション作ってたからね。

需要があるし材料が無限かってくらいに届くからね。あと新しく(中)とか作れるようになってテンション上がってたからさ。


「あんたが意地張って守りたいって思った女の子にどんなアクセサリーが似合うか考えればいいだろう。アクセサリーなんて世の中で一人にしか似合わないってことはないけど、似合う奴が一人でもいれば他に欲しがる奴もいるもんさ」

「そうか……。うん。ありがとうレインリヒ。流石俺の師匠だ!」

「弟子なんか取った覚えは……あー言ったね確かに。だけど調子に乗るんじゃないよ!」


ずかずかと大股になって部屋を出て行くレインリヒ。

照れたのかな? レインリヒが。

でも新鮮だ。ふふ。なんかちょっとやる気が出てきた。

ウェンディに合うアクセサリーか。

隼人には悪いが翡翠を使わせてもらおう。

ん、そういえばギルドカードで話が出来るんだっけ?


「ギルドカードオープン。えっと隼人の名前をおせばいいんだよな?」


名前を押すと隼人の字が白く光る。


『あ、はい! もしもし隼人です! イツキさんですか?』

「おー久しぶり。まだ用事の最中だったか?」

『はい。今ダンジョンにいるんですが休憩中でして、少しなら問題ありません』


なんと、ダンジョン内なのか。


『すみませんダンジョンの中ではレストルーム以外でフレンド機能が使えなくて、こちらから連絡ができませんでした。それで何かありましたか?』

「いやなに。特に何もないよ。ただちょっと預かった魔法の袋の翡翠を使ってもいいか聞こうと思ってさ」

『どうぞどうぞ。その中身は全部使っていただいてかまいませんよ。それよりもう翡翠を加工できるようになったのですか?確か錬金レベルの7か8は必要だったかと思うのですが』


7か8か。ってことは短期間でレベルを2つか。レベルが高くなるにつれて上がりにくくなるんだがやってやろうじゃねーですか。


『イツキさん?』

「あーまだだよ。ただ近々気合を入れてアクセサリーを作ろうと思ってね。だから先に聞いておきたかったんだ」

『そうですか。頑張ってくれているんですね! じゃあ次会う時にダンジョンで手に入れた鉱石で何かアクセサリーを作ってくれませんか?』

「いいけど、俺なんかが作ったものよりいい物とかあるんじゃないか? 装備枠とか大丈夫か?」

『いえいえ。アクセサリーはつけられるだけつけることが可能なんですよ。指輪なんて両手だけでも10個はつけられるんですよ? まあ足の指までつけてる人はなかなかいないですけど」


10個だと集めるのも一苦労なのだろう。なら指輪に能力がついてれば需要はあるかもしれないな。

やはりアクセサリーを作ることに専念したほうが良さそうだ。


「サンキュー隼人! いいアイディアが浮かんだよ」

『え、あ。なら、どういたしまして?』

「ああ、これで後は俺ががんばりゃいいんだ。魔力ポがぶ飲みで気合いれてやるぞー!」

『え? もしもし、あれ? もしもーし。イツキさん? もしもーし』


隼人の声が遠くなっていく事にも気がつかないまま、俺は赤銅石を使いやすいインゴットに変えていった。





    ―隼人SIDE―


「ねえ。あいつ大丈夫?」


会話の終えた隼人にレティが問う。


「うーん……」


隼人はそんなレティの質問に答えられなかった。


「なんか印象が違ったのです。前はやる気のないでろーんだったのに、今はやる気のあるフンハーなのです」

「何か……あったのかも」

「な、何かってなんなのです?」

「だから、何か」


ミィとエミリーが意味深長な会話をするほど不安な感情が襲う。

まさか、いやもしかして、など思い当たることが多すぎる。

だけどあの人に限ってそれはないと信じたい。いや、信じている。


「普通なら良い事ですよね。あの方がやる気になれば錬金のレベルも上がって私達がお願いしたい物も早く作ってもらえる可能性になるんですし」

「そうなんだけどね……」


クリスが小さいながらも口にした普通なら確実に自分達にとって良い事のはずなのだが、どこかで心のもやもやが晴れない。

別れる前の馬車で彼の印象はとてもやる気に満ち溢れるようなものではなかった。

宣言どおりまったり気ままにのびのび生きていくように思えたのだ。

なのに彼は今自分から気合を入れて頑張ると、言っていた。


「とにかく……早くダンジョンをクリアして戻ればわかるでしょ」

「そうだね。じゃあ皆ボク達も気合を入れて頑張ろうか」

「「「おー」」」


返事をしたのはクリスとミィだけであった。


「はぁ……空回りしなきゃいいんだけど」

「多分大丈夫」

「そう? なんかトラップでもガンガン踏みそうじゃない?」

「そっちじゃない」

「そっちって、もしかしてあいつのこと? 堕ちたんじゃないかって?」

「そう。彼は堕ちてない」

「何でわかるの?」


レティがエミリーに聞くとエミリーはぽーっと上のほうを見てから首を曲げ、疑問形でこう答えた。


「勘?」

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