1-2 異世界生活 早速危機的状況が
目が覚めたときに視界に入ったのは燦爛と輝く太陽の日差しだった。
ふっと体を起こしあたりを見回す。
「おおおーー」
あたり一面に広がる大草原。
都会の排気ガスだらけとは違う新鮮な空気を肺に感じる辺り、本当に異世界に来たようだった。
ただ一つ問題がある。
「街じゃないじゃん!」
そう。見渡す限り広がる平原なので、当然街の中であるはずがなかった。
ねえ、女神様。
最後の最後でなんでこんなミスをしてくれたの?
「どうすっかな……何処に向かえば町があるのかもわからないし」
下手すると詰んでいる。
幸いにもあたりに魔物やモンスターの姿が見えないが、このまま夜になったあとが怖い。
あくまでイメージだが魔物などは夜のほうが活発なイメージだ。
戦闘スキルなどない。
特別ステータスもとってない。
「あれ、まじで詰んでない?」
あっはっはっは。
やべえまじ詰んでる。
あっはっはっはっはっは。
「……笑い事じゃねえよ。どうしよう」
ちょっと女神様!
わざわざそんなスキルで大丈夫か?
とか聞いたくせになんてことしてくれたのさ!
完全に死亡フラグじゃないですか!
なんて、一人芝居をしてるうちにとうとう最悪が近づいてきた。
笑顔が凍る。おい。最悪だ。
寒気が走る。怖気が走る。最悪にして災悪だろう。
俺がさっき何を語ってきたと思ってる。
「キシャアアアアアアアア」
「虫はやめろって言ってんだろうがああああああああああ」
目の前まで差し迫っていた巨大な芋虫が雄たけびを上げて口を大きく開けた。
やばいと感じた瞬間に脱兎の如く後ろを向いて走り出す。
虫の口とか拡大したらいけないと思う。
やばい怖い気持ち悪い。
っていうか何で声あげてんの?
声帯あるの?
そんな声なの?
っていうか追っかけてきてるの?来てるよね?
背後から迫る強烈なプレッシャーに足がもつれそうになるもどうにか心の根底にある気力で足に集中する。
待て待て待て。まだスキルの確認すらしてないんですけど!
あ、そうだ空間魔法! 空間魔法スキルがあった。Lv1でも多少役には立つだろう。
備えあれば憂い無し。流石俺ポイントの多くを使ってこのスキルを取ったかいがあるってもんだ。
【空間魔法 Lv1 擬似空間を作り出しアイテムの出し入れが出来る】
「使えねえええええええええええええええええええええ!!!!」
予想通りでした。
アイテム倉庫だわーいやったー。
今使えなきゃ一生使えないよ!!
「嘘だ嘘だ嘘だろ。こんないきなりこの展開はないって!」
これは無理だ。これはダメだ。
まだ獣系とかならいっそのこと諦めることもあったかもしれないが、虫はダメだ。
戦うにしても負けるにしても何もいいことはない。
っていうか芋虫速くない?
尺取虫みたいな動きのくせに速いのが余計に気持ち悪いんですけど!
「シュー」
なんだろ。なんか嫌な予感がする。
芋虫とかの攻撃ってなんだろって考えたらやっぱあれだよね。
そんなことを考えてるうちにやはりというべきか巨大芋虫が真っ白い糸を吐き出してきた。
「うわあああああ!!」
糸が飛んできた! 飛んできてるって! なんかないの?
やばいやばいやばい、虫が速い! 虫が近い!
芋虫さん大きいのおおおおおおお、んほおおおおおおおおおおおおおお。
~スキル 狂化 を獲得しました~
「狂ったから!? 今一瞬狂ったから手に入れたのか、いやちょっ、待っ、アアアアアアア!!!」
べちゃりと吐き出された糸の感触を感じて、鳥肌が加速する。
糸でぐるぐる巻きになり、足をもつれさせて倒れこんだ俺に芋虫が迫る。
ウワアアアアアアア! 捕食、捕食される!
ああ、神様女神様仏様。心底おうらみ申します。
もう少しマシな死に方はなかったのでしょうか?
ああ、せっかくの異世界ライフ。
俺の夢、俺の憧れがまさかの女神が転生場所を間違えるという結果で終わるなんて。
出来れば次は裕福な家庭で何不自由なく暮らせますように。
出来れば捕食される前に意識がなくなりますように。
そしてついにその瞬間は訪れる。
今まさに巨大芋虫がだらりと粘液を垂らしながら口を大きく開け、トゲトゲの歯のようななにかを露にして覆いかぶさろうとしていた。
「あー……」
せめて痛みを感じませんように。即死でありますようにと願い目を瞑る。
「あの、大丈夫ですか?」
目を瞑って数秒。突然聞こえた声に反応したかったが、脳内でこんな声を上げている芋虫だったらどうしようと困惑する。
もし芋虫が「おい、大丈夫か?」と言ってきて、俺が目を開けた瞬間にバクンとかするならもうなんか、その嫌だ。とても嫌だ。
「あの、すみません大丈夫ですか!? しっかりしてください」
肩をがくがくと揺らされる。
我が両肩を触れているのはどう考えても二本の腕だった。
もしかしたら助かったのだろうか?
ゆっくりと目を開けると、目の前には白い鎧をつけた騎士が立っていた。
「ああよかった無事でしたか。ちょっと待って下さいね。今その糸を切りますので」
そういうと騎士は背中から剣を取り出し、むんっと振るった。
正直体も一緒に切られると思ったのだが、熟練の腕らしく糸だけを正確に切り裂いたのだった。
「隼人ー? 大丈夫だったー?」
「うん、何とか間に合ったよ」
とてとてと騎士の後ろから歩いてくるのは美人さん。
胸は無いがスラっとしたおみ足の美しい美少女だ。
「あ……あ! すまんありがとう! 本当に助かった!」
「いえいえ。気にしないでください。たまたま通りかかってよかったです」
「それにしてもなんであんたこんなところにいるの?」
それについてはカクカクシカジカと今まであった事を正直に話す。
「って感じで空間魔法は使えなかったし……もう、本当に、ありがとう!」
話していて涙が出てきた。
もし彼らがこの近くを通っていなかったら今頃そこで横たわる虫にバーリバリボーリボリ食べられていたところだろう。
「あ、ああ。えっと、うん。色々突っ込みたいところは多いんだけど。助けられてよかったです」
「ねえ、隼人……。この人……?」
「うん。多分ね。僕と一緒だと思うよ」
「そう……。じゃあ、街に送ってあげながら色々教えてあげたら」
「そうだね。そうしようか」
二人がなにやら神妙に話し合っているが、内容はわからない。
「お? おお? なんかよくわからないけど、街まで送ってくれるのか?」
「ああ。丁度ボク達も目的がアインズヘイルでして。なので一緒に行きがてらこの世界のことをお話ししようと思います」
「おー! 助かる! 感謝してもしきれないな!」
「その代わり、色々聞きたいこともあるんですけどいいですか?」
「もちろん! 俺が答えられる範囲ならなんでも答えるよ!」
「わかりました。とりあえず馬車にいきましょう」
手をすっと出され、その手を握って立ち上がると馬車に向かって歩き出す。
……内外イケメン男に手を引かれるなんて……っくぅ! かっこいいなあおい!