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2-2 商業都市アインズヘイル ウェンディさんと

仕事中に構想が練れない!

食べ終わったゴミは屋台に渡すと処理してくれるらしいので処理してもらい、水筒は魔法の袋にしまうことにした。

これはこれからも使えるし、他店で飲み物を買う場合も水筒に入れてもらえるらしい。


「それではどちらから参りましょうか?」

「とりあえず服屋かな。ずっとこの服だったから匂いとか気になるし。あ、臭かったらごめんね。体は一応毎日拭いてるんだけどさ……」


そういうとウェンディさんは体を寄せて匂いをかぐように顔を胸の辺りに近づける。


「問題ありませんよ? 薬草のいい匂いがします」

「ここ最近ずっと回復ポーション作り続けてたからかな? でもそう言ってくれてよかったよ。臭いままじゃ嫌な思いさせちゃうしね」

「私は構いませんよ?」


俺が構うんですって。


「ま、まあ服屋いこっか。よかったら服を選んでくれると嬉しいんだけど」

「勿論です。では参りましょうか」


そういってきゅっと抱きしめるように腕を取ると肘に未だかつてないほどの感触を感じる。

これは……まさかとすら思わない。腕組みである!

豊満な胸に当てられた肘、そして横からふわりと漂う女性特有の甘い香り。

ふらっとしてしまうが、ココは耐えねばならん。


「えっと……」

「これで癒されますか? ヤーシス様に出歩く際はこのようにと仰せつかっているのですが?」


ヤーシス様GJ!

なんだなんだよなんなんだよ!

いいよ! ヤーシスなら俺ノンケだけど掘られてもいいよ! ココホレヤーシスだよ!


「超幸せです。本当にありがとうございます」

「そんな、お礼なんて……。ですが、ふふ。なんだか恋人みたいでいいですね」


そういうと更に力を込めて肘にぐっと胸が押し付けられる。

もういい。たとえ男を手玉に取る悪女だったとしてもいい。騙されてても構わない。

ああ、こうやってキャバクラにはまる中年おじさんが製造されていくんだな。

正直お酒飲んでしゃべるだけで何がいいのかわからなかったが、腕組みくらいはあるもんな。

これははまる。たとえ真実の愛でなくてもいいと思ってしまう。


「そ、そうだな。うん。もう幸せすぎてやばい。泣きそう」


それくらいの多幸感があるのだ。

本当に嬉しさで涙って出そうになるのだな。

ちなみに俺は童貞じゃないゾ。


「えいえい。これでよろしいですか?」

「ちょ、おま」


ウェンディさんが笑顔でえいえいと更に押し付けてくる。

もう鼻の下が伸びっぱなしだろうな俺。

情けない顔をみせてしまっているかもしれない。キリッとしようキリッと。

周りの男からの目にさぞ殺意が乗っているだろう。

こんな往来でいちゃついていれば当然である。

だが当の本人にとっては些細なことなのだな。

何度も街中でリア充タヒネと思ったが、なるほど。効果はいまひとつのようだ。


「うふふ。それではこのまま参りましょうか」


お茶目な一面だ。もしかしたらこっちが素なのかもしれない。

もし素な一面を見せてくれたのなら嬉しいところだ。


「服屋さんは……。東地区に参りましょうか。お値段とデザインのバランスが取れた良いお店がありますので」

「任せるよ。それじゃあ、その。ゆっくりいこう」


出来るだけ長くこの感触を味わっていたい。

そう思う男はきっと俺だけじゃないはずだ。



ウェンディに連れてこられた服屋は男性モノと女性モノが分かれて配置されているなんともお洒落なお店であった。

外から見えるだけでも可愛い服や機能性に溢れる服が多種多様あるように見て取れる。


「ご主人様は錬金術師であられますから、できればホルダーなども欲しいところですね」


ホルダーというと試験管やフラスコを提げて身につけるものだろうか。

確かにあると便利かもしれないが、頭の中ではラ〇ボー風に肩に斜めがけされた大量の試験管を身につける自分を想像してしまった。


「お好きな色などはありますでしょうか?」

「あまり派手な色とかじゃなければ何でもいいよ。あとは個性的すぎじゃなければ大丈夫」

「かしこまりました。それでは選んでみますね」


そういうとウェンディはカシャカシャとかけられた服を一つ一つ覗いていき、気になったものは空のラックにかけていっているようだ。

俺も適当に見てみようと思っていると、店の店主が手招きしているので近づいてみる。


「お兄さんお兄さんすっごい美人を連れてますね!」

「だろう? 俺もそう思う」

「ですねですね。そんなお兄さんに朗報が! ここにあの方に似合いそうなブローチが三つあるので、よければお一つ購入してプレゼントなどどうでしょうか?」


パカっと開いた小箱には綺麗に並べられた3つのブローチが入っていた。

一つは黒く大きな宝石のついたシンプルなブローチ。

鑑定すると黒曜石を磨いて輝かせた一品で、縁は銀で出来ているようだ。

そして二つは真っ赤な紅い宝石に、金装飾で飾られている少し小さめのブローチ。

こちらは宝石がガーネットで装飾には金メッキが塗られている。

この二つの値段はそれぞれ10万ノール。

そして最後にあったのは薄ピンク色の透明度の高い宝石で銀色の装飾が施された一つだけ輝きの違う品だ。

鑑定で調べるとローズクォーツと呼ばれる水晶にプラチナで装飾を象られている。

やはりこちらは値段が高く、30万ノールとのこと。


「どうですかー? どれも渾身の一品ですよー?」


こいつニヤニヤと。あきらかに選ばされているのはわかっている。

だが自然と視線はそれに釘付けであった。

確かに似合うと思う。

値段もまあ問題ない。


「よし。買おう」

「即決ダー! 値切りもしないなんてお客さん意外に太っ腹なんですね!」


正直30万ノールのプレゼントなど重いかもしれないが、この配色が合うと思ってしまったのだ。

もし受け取らなかったらデザインの練習にしようと思う。


「女性へのプレゼントで値切るのはよくないからな。まあ彼女が今服を選んでくれているのでね。その対応次第でひいきにしようか悩んでるところだけど」

「わお。女として嬉しいことを言ってくれた後に駆け引きなんてお客さんもちょろいだけではないんですね。いいでしょうともその挑発に乗らせていただきますよ!」


ちょろいてお前……。俺もだが正直に言いすぎだろう。


「それじゃあプレゼント用にラッピングしておきますんで、後でさりげなくお渡ししますね」

「了解。俺は鑑定もちだから偽物とすり替えないようにな」

「あっはは。お客さんにはそんなことはしませんよ。お客さんには!」


なんとも絡みやすい店主だ。

冗談の中の本気に冗談で返せる余裕が見て取れる。


「あのご主人様? 試着をしていただいてもよろしいでしょうか?」

「ああ。選んでくれてありが……とう」


空だったラックに大量にかけられた服の山。

かけ切れなかった服が上にうまいこと載せられているのが逆に凄い。


「ちょっと量が多いのですが、似合いそうな服が沢山ありましたのでタイプを分けておきました。好みではないタイプの服は除外するのでそこまで時間がかからないと思うのですが……」

「そ、そっか。うん。ありがとう。それじゃあよろしく」


どうやらちゃんと分別はしてあるらしい。よかった。全部着るのかと思った。


「では、まずはこちらの機能性重視の服をどうぞ。使い勝手が良さそうでベルトとセットでホルダーが既についているんです。デザインは作業にも向いていると思うのでお仕事の時などにいかがでしょうか?」


渡された服を手に取り、更衣室へと入っていく。

着せ替え人形化しながらもきちんとこちらの意見を聞きつつ自分の意見も言ってくれるので機能的にも見た目的にもいい服が4つ決まった。

特に気に入った機能性重視でありつつシンプルながらデザインのいい一着をそのまま着ていくことにする。

これは普段からよく着ることになりそうだ。


「じゃあ会計してくるね」

「はい、いってらっしゃいませ」


そういってウェンディはまた服を見に行った。男性服を。

これはチャンスとブローチの分も含めた33万ノールの会計を済ませ、さりげなく魔法の袋にラッピングされた箱を入れておく。

ちょっとブローチにしてはサイズがでかい気がするが下手な真似はしないだろう。


「お会計終わられたのですね。こちらの服もよさそうだったのですが」

「次ね、次。次来たときに試着してみるよ」

「はい。また一緒に来ましょうね」


そんな日が来たらいいな……。


「そうだな……。そうなったらいいな」

「はい。是非また来ましょう」


腕を先ほどと同じようにきゅっと強く締められる。

なんだか俺のつぼが既にバレバレな気がしてきた。

わかり易いんだろうなあ。


「お次はどこにいかれるのですか?」

「次はー……道具屋かな? 何か面白そうなものがないかなって。後は日常的につかえる便利なものがあればいいなって」

「道具屋ですね。では南区画に参りましょうか」


抱きついた腕を引くように歩いていくウェンディ。

なんだかヤーシスの策略にはまっている気がしなくもない。

こんな良い子じゃ俺が買える頃には売れ残ってなどいないだろう。

だがたとえ薄い可能性でも頑張ってみようかなと思えた。



一度中央広場に戻り、錬金術師ギルドのある南地区の道具屋に向かうのだがその道中、ウェンディはくっついたままで様々なことを聞いてきた。


「ご主人様は流れ人なのですか?」

「そうだよ。ヤーシスに聞いたの?」

「いえ。なんとなくそう感じましたので」


勘か。

勘鋭い人多くない?


「流れ人は乱暴な方が多いと聞いたのですが、ご主人様は違うのですね」

「わかんないよー?」


隼人にきいた二人の流れ人は悪堕ちしたらしいし、もしかしたら急に力を得て調子に乗りやすいのかもしれない。

わからなくはないが、俺らは倫理観がこの世界よりも強いところから来たんだからそれを外しちゃまずいだろうと思う。


「隼人とかは優しいし、いい奴だけどね」

「隼人様というと伯爵様でしょうか?」

「そうそう。俺は隼人に大きな芋虫に襲われているところを助けられてね。隼人に錬金を頼まれてるから頑張ってレベル上げてるの」

「そうだったのですね。では隼人様に感謝しないといけませんね。おかげでご主人様と出会えたのですから」

「そうだな。俺も隼人に感謝しないと。今こんな幸せな気分を味わってるのも隼人のおかげだしな」


言ってからかーっと顔が熱くなってきた。

恥ずかしい!

だがウェンディはきゅっと抱きしめる腕を強くすると、見上げるようにしてにへらっと笑い、顔を紅くしてちょっと腕を揺らして恥ずかしがっている。

あーもう。可愛いなあ……。

裏があるとか考えちゃいけない。

信じたい未来があるならば、その未来を信じよう。

望む結果じゃなかった時は大きな声で叫んで泣こう。

これが人生をつまらなくしない方法だと、俺は思っている。



「道具屋では何を買われるのですか?」


少し歩いて中央広場を抜けるまでお互い無言になってしまったがウェンディが口火を切ってくれた。


「普段使いでいいものがあればとか、あとは錬金に使えそうなものがないかなって」

「がんばりやさんなのですね」

「そうでもないよ。できれば一生働かないでまったり暮らしたい」

「まあ、それは最大の贅沢ですね」

「だよね。まあ今はそのための下積みと思ってるから頑張れるけどね」

「いいですね。私もその目標に随従したいです」

「お。意外とウェンディも怠け者?」

「ち、違いますよ。ご主人様のために私が頑張るんです」


慌てたように言うウェンディ。

うん。可愛い。俺今日可愛いしか言ってないかもしれない。

話せば話すほど最初の綺麗ってイメージが可愛いへと変わっていくがどちらもいいのだ。


「そっか。じゃあウェンディを買う為にも頑張らないとな」

「はい。ずっとお待ちしております」


ずっとって……。

ウェンディならば引く手数多だろうに。

でもそう言われると頑張れそうだ。

まだまだ先は長すぎるんだろうけどね。

読みやすくするには経験が足りない。

情熱、思想 ――中略―― 優雅さ、勤勉さ

そしてなによりもおおおお――

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