2-1 商業都市アインズヘイル 本日はお休み
第二章スタート?
アイナさんたちが奴隷となって2週間。
これまでの間に何度か依頼をして薬体草や鉄鉱石の採取をお願いしてあるが、やはり二人は優秀なのだろう。あっという間に、しかもお願いした量よりも多く持って現れた。
冒険者ギルドマスターに預けられた薬体草も数が多く、ここ最近はずっと回復ポーション(小)を作り続けている。
そのかいあってか、回復ポーション(中)まで作れるようになり、錬金のレベルも6へと上がった。
レベル8になれば(大)が作れるようになるのかも知れないが、冒険者ギルドには製薬ギルドが売りに来ているので卸す気はない。
下手に刺激してまた面倒なことが起こるのを避けたいというのが本音である。
こちらは(中)以下の物を安く売り続けても儲けが出るので、余計なことはしないつもりである。
アイナさん達が持ってきた知らないアイテムを鑑定していると鑑定のレベルもいつの間にか上がっていった。
空間魔法はまだ上がらないが、それでも使う頻度は多いのでまあゆっくり上がっていくだろう。
ああ、そういえばアイナさん達が持ってきた薬体草は借金から減らさなくていいらしい。
その薬体草で回復ポーションを作って冒険者ギルドに安く卸してくれればとのこと。
材料が無料で手に入り、錬金のレベルも上げられるなら喜んでとその時は喜んでいたのだがいかんせん数が多い。
そういえば空間魔法の便利な使い方を発見した。
一つの領域に薬体草と魔力を帯びた液体、それに空のポーション瓶を入れておいて『錬金』を使えばまとめてポーションの作成ができる。その際の出来はMPの消費量できまったので、微調整を繰り返し(小)(微)(劣)の造りわけを覚えたのだ。これでポーションに限っては錬金室を使用しなくても行えるが、何事も雰囲気は大切なのでちゃんと手作業で作る場合や、インゴットを作る時などは使用せざるを得ないので結局借り続けるつもりである。
そして、なんとお小遣いスキルのレベルが上がったのである!
回数にして15回目のその時、空から舞い降りてきたのは銀色に輝く硬貨ではなく金色の硬貨。
そう。なんとレベル2で10倍の金貨1枚である10万ノールだ。
毎日10万ノールのお小遣い。
誰が生み出しているのか知らないが、あんた太っ腹だね!
だが俺はここで気がつく。
せっかくのだらだら異世界生活の予定が錬金生活へと変わっていた。
なので本日は錬金をお休みし、この町、アインズヘイルを堪能する日にしようと思う。
まだ俺は広場の屋台と防具屋と奴隷商館と冒険者ギルドしか知らないのだ。
隼人は商業都市と言っていたからもっと楽しい場所がたくさんあるはずだ。
今日まで本当に頑張って冒険者ギルドには回復ポーションの大量ストックも用意したし、お金も400万ノールと順風満帆である。
これからのことを考えればまだ耐え忍び錬金に精をだしお金を貯めるべきなのだが、このまま行くと錬金生活が定着してしまうと感じる。
いや錬金は楽しいしお金も儲かるので構わないと言えば構わないのだが、それでは俺がなんのためにユニークスキルを『お小遣い』にしたのかがわからない。
それに隼人との約束があるとはいえこの2週間ちょっとで錬金のレベルを6まで上げたのだ。
俺にしては相当頑張ったといえるはず。
自分で頑張ったって言う奴は頑張ってないとかいう謎理論には投げっぱなしジャーマンでもかけてやればいいのだ!
だから俺は行く! 頑張ったご褒美に! この街の娯楽や旨いものを大量に味わい、血沸き肉踊る散策が今始まるのだ!
『ってことで、俺は今日はお休みだ。この町を思うままに蹂躙し楽しんでくるので、今日の依頼は無し!』
普段から借りっぱなしの錬金室に書置きを残し身支度を整える。
スーツは少しよれ始めているが、これが俺の一張羅だ。
魔法の袋にお金とポーションは入れてあるし、魔法空間の方にもポーションを入れてある。
まだ朝の早い時間だが、それでも屋台はもう準備が始まっているらしい。
始まる前に下見を済ませておくのも悪くないし、今日の計画を練るのもいいかもしれない。
地図かなんかがあればいいんだが、それも聞いてみることにしよう。
「……いってきまーす」
受付に誰もいない錬金室に小さく挨拶をして錬金術師ギルドを出て行く。
本日私は完全休日です。いっぱい遊んできまーっす!
外に出ると日はまだ低く人通りもまばらである。
少し肌寒く感じるが、まあすぐに暖かくなるだろう。
とりあえずまずは中央広場につきベンチに座ってまったりしよう。
朝食はこの前食べた牛串サンドにしようか、それとも新しいものにチャレンジしてみようか。
せっかくだし他のを試してみよう。あとはお土産に買えるお菓子とかあるといいなー。
あとは道具屋! 何か面白そうな物があれば買いたい!
異世界ならではとか、日常的に使う便利な物があればいいな。
武器? 防具? 必要ないでしょ。いらないいらない。
持ってても使えそうにないしね。
あ、でも服は欲しい。レインリヒに貰ったローブとこの服以外何もないし、そろそろ匂いが気になるしな。
下着も売ってるのかな? 出来ればトランクスかボクサータイプがいいんだけど贅沢は言えないな。でもブリーフはできれば勘弁願いたい。
今日はやること盛りだくさんだな!
女性は買い物でストレスを発散すると聞いたことがあるし、今日はお金をあまり気にせずどんどん行こう。
「おや? そこにいらっしゃいますのはお客様じゃないでしょうか?」
中央広場のベンチに座っていると声をかけられ、顔を上げると人のいい顔、ヤーシスが挨拶をしてきたのだ。
「ヤーシス。おはよう」
「はい。おはようございます。本日はお早い時間からお散歩ですか?」
「まあね。俺この世界に来てからまだ全然楽しいことしてないからさ。この都市のことも何も知らないし最近はポーション作ってばっかりでストレスが溜まるから今日は発散デーなのだよ」
「なるほどなるほど。確かにこの都市は貿易都市でありますし、他の都市に行かずとも面白い品々が多いですからね。それはもったいのうございましたね」
「だろー? もー俺はだらだらのんびりまったりしたいんだけどさ。でもお金は必要だし仕方ないんだけど、たまにはいいだろ?」
「よろしいかと思います。ところで本日はお一人なのですか?」
「今日は一人だよ。こんな朝早くから道案内なんて頼めないだろ? あーそうだ。この都市の地図とか案内所とかってどっかに行けばあるのかな?」
「なるほど……。ええございますよ。商人ギルドに行けばこの都市の地図を買うことができます。地図には二種類あって大まかな主要地が書かれているものと、区画が分けられて書かれているだけの物がございます。後者は自分で書きこんでいってオリジナルの地図が作れる他、料金が安くなっております」
「ほー。商人ギルドか。じゃあ朝ごはん食べたら行ってみるよ。ありがとう」
「朝食がまだでしたか。ではあそこのお店のケバニャがオススメです。パン生地に挟まれた野菜と大量の香辛料で焼いた牛のお肉が朝食にぴったりでございますし、良い材料の割りに1200ノールとお得で丁度よろしいかと」
その店を見ながら聞くと尚おいしそうに聞こえるが、名前といいその料理ケバブじゃなかろうか。
だがいずれ全ての出店は食べようと思っているし、今日はこれでいいかな。
「何から何まですまんな。よかったら奢るけど、食べてくか?」
「ありがたいですが、至急戻って支度がございますので。また後日ご相伴に
支度というとどこかに出かけるのだろうか。
敏腕っぽいし毎日忙しいのだろう。
「そっか。わかった。その時は遠慮なく食べてくれ」
「ええ、こう見えて大食漢なもので遠慮なくいただかせてもらいます」
遠慮なくか、ヤーシスが言うとなんか怖いんだがでも感謝の意を込めた食事に遠慮は無用だろう。
どうせなら満腹まで食べてもらった方が気持ちがいいと、このときは軽く考えていた。
「それではお客様失礼致します。また後ほど」
「後ほど? って、あ……」
パパパっとした一礼もきっちり45度頭を下げてあっという間に自分の店へ去っていくヤーシスに呆気に取られながら、ヤーシスに教えられた店の準備が完了したのを見て早速購入しようと立ち上がった。
出店からベンチに戻って、早速購入したケバニャと水筒を広げる。木で作られた水筒には飲み物を入れてもらった。
締めて4000ノール。水筒と飲み物で2800ノールだったが、水筒はよくできているので安い買い物だろう。
なによりこれからも使えるのがいい。中身は甘い果実酒だといわれたが、朝から飲む酒はうまいので贅沢だなと思いよしとした。
そしてメインのケバニャは案の定ケバブに似たものだが外がカリッとしたパン生地で出来ており、瑞々しい野菜と肉が交互に敷き詰められて上に特製ソースがかかっていた。
そして一口。外側のカリッとした食感は硬すぎず柔すぎずすぐ下の柔らかい層に到達し、野菜のパリッとした食感と、お肉のジューシーな食感がマッチしていた。
ソースはあまり自己主張しておらず、香辛料と肉の旨味で十分なほど味が広がっていく。
そして自己主張しすぎないソースが全ての調和を引き立てているようだ。
俺の貧困なボキャブラリーじゃここまでしか表現できないが美味い。
この前食べた俺考案の牛串サンドは双方の素材の旨さを活かしたものであったが、こちらは更に一手間加えた味わいになっていた。
流石だな……。そういえば俺も料理スキルがあったし、いずれは出店を出してみるのも面白いかもしれないって、また仕事を増やす気か俺は。
「失礼いたします。お口にソースがついてらっしゃいますよ」
「あ、どうもすいませ……ん?」
声をかけられると同時に空いているベンチに腰掛け持っていたハンカチで口元を拭ってくれる女性を見て俺は驚きのあまりケバニャを落としそうになる。
「あの、失礼でしたでしょうか」
「いや、あの、え? なんで? あ、全然問題ないです」
横にいたのは、薄紫色の目立ちすぎないドレスに大きめのベルトを巻いて、ワンポイントとして花の可愛い髪飾りをつけたウェンディさんだった。
「本日はお客様のご案内をヤーシス様より賜りました。その、ご迷惑だったでしょうか?」
「いやいやいや。迷惑なんて……、それより商館で仕事とかあるんじゃないですか?」
「本日は突然の来訪でもない限り私が表に出る仕事はございません。それにヤーシス様からのお達しである以上こちらを優先いたします。お客様はお疲れのようですのでたっぷり癒して差し上げなさいと仰せつかっております」
「癒し……」
眼が行ってしまうのは当然の如くソースと違って自己主張の激しい双丘のファンタスティックだ。
っていうか凄すぎでしょ。こんなんどうやったって胸に眼が行くわ。
「はい。存分に癒されてください」
そういうと俺の手を取り、そっとウェンディさんの胸の前に持っていかれる。
かすかに触れた感覚がさらふわもっちぽよの幸せ感覚である。
ヤーシスウウウウ!
いやわかってるよ。サービスだろ?嬉しいよ?
だけどだったら一言言ってくれ! あと、ありがとう!
俺、今度のご飯幾らかかってもいいかもしれない。
ごくごくと緊張を誤魔化すように果実酒を飲んでいく。
正直酒精は強くなく甘くて美味しいお酒だったのだが、味なんてほとんどわからなかった。
「本日は一日私を従属奴隷だと思ってお好きにお使いくださいませ、ご主人様」
クッハアアアアアア!!!
やばいなこの破壊力。
アイナさんのときもドキっとしたが、こちらは何かリアルだ。
現実的って事じゃない。リアルなんだ。
「すーはー……すーはー……」
「大丈夫ですか? ご主人様?」
「かはぁ!!」
破壊力が強すぎる。
だってさ、今まで見た中でも最も綺麗で胸が大きいのにウェストがくびれててお尻も大きいながらも締まっていて足にも性的なフェロモンがただよっているエッロイ女性に「ご主人様」って言われるんだぜ?
お金払ってそういうプレイをしているわけじゃない、異世界故にリアルなご主人様と奴隷の関係なんだぜ?
ストレスじゃない、ストレスなんかじゃないが胃がおかしくなりそうだ。
「大丈夫ですか? 横になられますか? 私の膝などでよろしければお貸しいたしますが」
「だ、大丈夫! そんなことしたら一日中そこから動けなくなりそうだから大丈夫!」
危険だ。そんな誘惑。
今日はただでさえやることが多いのだ。
だが、悩むううううううううううううう!!!
人前であっても悩むううううううううううううう!!!
誘惑に打ち勝て俺! 今日は既にいい日だが、このままいけばウェンディさんとお出かけだひゃっほうううう。
「私の膝ではご満足いただけないでしょうか?」
違いますううう!
ご満足致しますううう!!
でも今日はダメなんだ! 頼むから悲しそうな顔をしないでくれ!
仮令演技だったとしても辛いから! 胸が苦しくなるから!
この心境を吐露したい。
できれば思うままに行動したい……。
「ま、まあ今日は服とか道具とか必要な物を買わないとだから、な。もしいつか機会があったら是非頼む」
「はい。その時を楽しみにしていますね」
はぁ……ええ子や。
この子ごっつええ子。
ほんま、異世界の美女はええ子が多いで。
異世界万歳! 異世界万歳!
あー……でも高いんだろうなー……今俺の手元に金貨がたくさんあればなあ……。
でもこれだけの器量と、気遣いなら売れちゃうだろうな……。
だが今は、今日だけは、俺の従属奴隷なのだ。
だったらせっかくだし楽しもう! 準備してくれたヤーシスにも、朝早くに来てくれたウェンディさんにも悪いしな!
「あー……朝ごはん食べた? もしかして寝てたとかじゃない?」
「変なところがございましたでしょうか?」
そういうとウェンディは自分の髪や身なりを気にする。
「いやそうじゃなくてまだ朝早いし、もしかしたら寝てたんじゃないかなって」
「大丈夫です」
「あ、寝てたんだ。じゃあ無理しなくても」
「大丈夫です」
「え……」
「大丈夫ですから、ご主人様は心配なさらないでください」
頑なだよ。徹底してるなヤーシスめ。
「はぁ。わかった。じゃあ朝ごはんは食べよう」
「いえ、お気になさらず……」
「いいからいいから。屋台で悪いけど好きなもの食べていいよ」
「ではご主人様と同じものを……」
「これ? じゃあ買ってくるからちょっと待っててね」
「いえ! 私が買ってまいりますので、ご主人様は休んでいてください」
「そう? じゃあはいお金。あ、あと水筒にまた果実酒を買ってきてもらってもいいかな?」
「はい。承りました。それでは行ってまいりますのでちゃんと居てくださいね」
「居るよそりゃ……」
「では行ってまいります」
そういうとこちらをちらちら見ながら小走りで屋台へと向かっていく。
ああ、危ないよ。ヒールサンダルみたいな靴なんだから挫いたら大変だろうに。
ウェンディさん出来る女性かと思いきや可愛いところもたくさんあるな。
っは! それも含めてできる女性なのかも知れない。
そう思いながら残っていたケバニャを食べきると、丁度ウェンディさんが戻ってくる。
「ただいま戻りました。こちら水筒で……ああ! もう食べられてしまったのですか?」
「えっとおかえり? 食べちゃったけど……」
え、何かまずかったか? 一緒に食べたかったとか?
「従属奴隷というのは主人の食べ残しを戴くものなのです。ですので私はご主人様の食べかけの方を戴く予定でしたのに……。買ったばかりのものなどいただけませんので一口食べていただけますか?」
「ええ……」
何その制度。温かい物とか冷めちゃうじゃん。
それに食べかけって……。
さっと差し出されるケバニャ。
ウェンディさんの口はあーと小さく開けられており、どうみてもあーんの体勢だ。
「はい、あーん」
口に出しちゃったよ。
これ実際目の当たりにするとこっ恥ずかしいな。
周りも徐々に人が増えてきたし、でも俺はやる。
「あ、あーん」
「はい。うふふ。なんだか楽しいですね」
もぐもぐ。そうですか楽しいですか。
実は俺も少し紅くなった頬を見るのが楽しいです。
そしてさっきよりもケバニャが美味しいのはあーんのおかげか、それともウェンディが美人だから店主がサービスしたのかどっちでしょう。俺は前者だと思います。
「ご主人様ありがとうございます。それではいただきますね」
そういうとウェンディは小さなお口でケバニャを齧る。
わざわざ俺が口を付けたところから食べなくてもいいだろうに……。
「あ、あの……少し恥ずかしいのですが」
「っと、悪い。ゆっくり食べてくれ」
見すぎたか。女性の食事シーンをジーット見るなんて失礼だったな。
視線を外して水筒を飲む。
今度は落ち着いて飲めたのでアルコールと果実の甘さが丁度いいケバニャに合う飲み物だと理解できた。
ウェンディが小さい口ながらもなるべく急いで食べるので心配して水筒を差し出すときちんと頭を下げてから受け取った。
「ありがとうございますご主人様。その、なるべく早く食べますので置いていかないでくださいね?」
「ちゃんと待ってるからゆっくり食べてくれ」
「はい。ありがとうございます」
なんというか印象が変わるなあ。
初めて見たときは仕事の出来る綺麗で静かでキリっとした感じの女性だったけど、意外と可愛いところも多いし、けなげで子供っぽいところも見受けられる。
それにいなくならないか心配するところも予想外で可愛い。
「あの、お待たせいたし、ました!」
ゆっくり食べればいいのに。急いで食べたのか少し苦しそうだ。
「水筒の果実酒全部飲んでいいよ」
「ありが、とうございます」
しゃっくりを必死に止めているのだろうか。
急いで食べると起こるよねそれ。
顔を真っ赤にしながら水筒をコクコクと飲んでいく姿にエロスを感じながらその光景を堪能して脳内フォルダに保存した。
ご馳走様でした!
ストック書き溜めるので、更新時間がこれから不定期になるかもしれません。ただ毎日更新は頑張ります!