1-13 異世界生活 防具屋と奴隷商館
中央広場を抜けて屋台のいい香りを我慢して東側に抜けると鎧の看板の店に入る。
「こんちはー。錬金術師ギルドでーす」
もう間違えられないように先に名乗るほうが良いと思い店主に挨拶をする。
「やあいらっしゃい。おやこれは紅い戦線のお二人もどうも」
「ああ。久しぶりだな店主」
「本日はどういったご用件で?」
「いやなに、私の主君の用事でな」
「主君?」
「ああ、このたび私は彼の奴隷になったのだ」
店主の首が驚くほど速く動きこちらに向かった。
「色々ありまして……」
ほらね。こうなるよね。
「はー……。長生きしてみるもんだな。あんたがねえ……」
「ははは……」
違うんです! 誤解なんです! いや、事実は事実ですけど。
止めて! そんな『このエロ野郎』って目を向けないで!
「それで、今回はこの二人の装備でも売りにきたのか?」
「ちょっと! 私はこんな奴の奴隷じゃないわよ!」
「おっと、そうだったのか。二人は姉妹みたいに仲がいいからあんたも一緒になったのかと思ったよ」
いやいやいや。一人でも困ってるんです。二人なんて、しかもこんなじゃじゃ馬なんて無理です。
「今日はアクセサリーの買取をお願いしたいんですが」
「アクセサリー? それなら冒険者ギルドのほうが……ってあーなるほど」
店主はアイナさんが自嘲気味に笑ったのを見て気がついたようだ。
「なるほど。レインリヒの婆さんか。兄ちゃんも巻き込まれたんだな。変な目で見て悪かった」
「ううう……。察しが良くて助かります」
俺もね。一応解決してるし冒険者ギルドに持って行きたかったんだけど、奴隷について聞いてからじゃないと行きづらいしね。あとまだ恐怖心と嫌悪感が少し残ってるからさ。もう少しだけ時間をください。
「頑張んな……。それじゃ早速みせてくれるか?」
「ちょっと多いんだけど大丈夫かな?」
「ああ勿論。アクセサリーは市場の数が少ないから多い分にはかまわないぞ」
ネックレスを出そうとした時に思い出す。
あれ、そういえば魔法の袋じゃなくて魔法空間のほうに入れてたんだった。
二人は……うん。鎧を見てるし店主さえ気をつければいいか。
腰についている魔法の袋から出す振りをしてネックレスを両手で掴み机の上に置く。
「全部ネックレスか? しかも同じものばかりだな」
「すまん。一心不乱に作ってたんだ」
ちなみに内訳は
捻れた鉄のネックレス+2 10個
捻れた鉄のネックレス+3 8個
捻れた鉄のネックレス+4 5個
捻れた鉄のネックレス+5 3個である
鉄鉱石のほとんどを使い切ってしまったが、それでも成果としては上々だろう。
さていかほどになるか。
「ほーう。いい腕だな」
「それはそうだ。彼はレインリヒ様の弟子なのだから」
「なに? あの婆さんが弟子をとったのか?」
「ああ。しかも随分と可愛がられておられた」
「……にわかには信じられねえな。あの婆さんが弟子を可愛がる姿なんざ想像できねえよ」
違うんです。利用されるためにレインリヒが嘘ついたんだと思います。
別に可愛がられてはいないと思うの。
「うっし、+2が10個5万ノール、+3が8個で6万ノール、+4が5個で5万ノールだな。それで+5が3個で6万ノールだな。デザインはオリジナルで動きを阻害する物じゃないし、悪くない。合計で……22万ノールってところだがどうする?」
おー! 22万ノール!! いいねいいね。おっかねもちだー!
「ちなみにだが冒険者ギルドで売れば倍近くにはなるとおもうぞ」
倍か。やはりその差はでかいなあ……。
んんん……。悩むところだけどここは確実性が欲しい現状。
世の中何が起こるかわからないからね。手元に多少現金が欲しいのだ。
「大丈夫! それでお願いします!」
「わかった。じゃあ使いやすいように銅貨も混ぜとくぞ。ほら金貨2枚と銀貨1枚銅貨10枚で22万ノールな。そういえば銘は打ってないんだな」
「銘?」
「ああ。俺が作ったんだ! ってサインだよ。他の奴に真似されねえようにするって意味もあるがな」
「おーなるほど。でもまだまだ無名の新人だから。もうちょっと腕を磨いてからにするよ」
「そうか。でも一回試しに打ってみたらどうだ? これから作るもんにゃ銘は打った方がいいし、教えてやるからよ」
「んー。じゃあお願いしようかな」
せっかく教えてくれるならありがたく習っておこう。
「まあ教えるって言っても、錬金で念じればできるんだけどな。『再構成』した時にデザインに自分の銘を刻んでみな」
ほいっと渡されたのは+5の捻れたネックレスだった。
それを言われたとおり錬金を発動し『再構成』を行う。
デザインは……漢字でいいか。自分の名前にしとこう。
既に捻れたネックレスの想像は手慣れたものでそこに自分の名前を小さくつけてみるとあっという間に完成した。
元が小さいので文字も小さくなってしまったが、無事『忍宮一樹』の文字が彫り込まれている。
「お見事。うっし。これでお前さんが有名になったらこのネックレスが高く売れるな。こいつはお前さんが有名になるまで取っておこう」
ひょいとアクセサリーを取り上げられると彫られた銘を眺める店主。
そのあと布で丁寧に包みこむと金庫のようなところにそっと置いて仕舞った。
ぬう。商売上手め。
それくらい構いませんけども有名にならなくても知らないからね。
ありがとうよと声をかけられ、俺はアイナとソルテを呼びに行くことにした。
「終わったのか?」
「うん。今終わったとこ」
「じゃあお昼を食べに行こうか」
「だね。お金も入ったし待たせちゃったから俺が出すよ」
「当然でしょ! 奴隷の食事代はあんたが払うんだから」
「お前は自腹な」
「っな! なんでよ!」
「お前奴隷じゃないし」
奴隷の飯代はやっぱり俺が払うのが常識なのか。
ソルテを待たせたのは悪いと思うが、自分の都合で付いてきているのだ。
まあでもからかうのはやめて飯にしよう。腹が減っては気がたつというものだ。
「いいじゃない! ご飯くらい!」
「わかってるよ。冗談だっての」
「っな! だったらはじめからそういいなさいよ!」
……本当にこいつの分は自腹にしてやろうかと思ったが、俺たちはそれぞれ屋台で好きなものを買ってベンチで飯を食べることにした。
アイナさんは遠慮していたので押し付けるように渡すと渋々食べていたが最終的には満腹になったらしい。
かかった金額は全部で1万4000ノール。
この犬が高い物から順に食えるだけ買いやがったので随分と高くついてしまったのだ。
だがキャタピラス焼きだけは勘弁してもらう事にした。
横で虫を食べられるなど俺の食欲が減衰する事間違い無しである。
アイナさんの口元を拭いてくれる優しさが心に染みて本当に傍にいてもらいたくなったのは省略。
ヤーシス奴隷商館に着くと前回あった男ではなく、もう少し安っぽい男がいて俺たちが入ってくるなりニコニコと笑顔で近づいてくる。
「どうもどうも旦那様。本日はご売却でございましょうか?」
「いや、あの」
「おやおや。見目美しいお二人ですな。ふむ。この器量ならばお一人あたり100万ノールでいかがでしょう?」
「いや、だから」
「お気に召さない? ならば150万。いえ、200万です。これ以上は上げられませんよ?」
人の話を聞かない奴だな。
少しむっとして口を開こうとしたのだが
「おや、これはこれは。お客様は広場で会った方ではないですか」
階段から降りてきたのは広場で出会った人のいい顔をした商人風の男。
名前は……そういえばあの時は聞いてなかったな。
「失礼。この男が何か致しましたかな?」
男の登場から安っぽい男が緊張したようにピーンと真っ直ぐ立ったまま体を硬直させている。
「ああ、いや。奴隷の売却と勘違いされてな」
「それはそれは失礼いたしました。よろしければ奥の部屋へどうぞ。おっと、申し遅れました私この奴隷商館のオーナーであるヤーシスと申します」
まさかのオーナーである。
「オーナー! このお客様は私が!」
「黙れ。後にしろ」
怖えええええ!
え、人の良さそうな顔が一瞬で目だけ変わったよ!?
ああ、人は見かけによらないのか。実は怖い人だったのか。
安っぽい男。安男。動けなくなるのは仕方ないと思うぞ。
「それではお客様こちらへ……」
奥の部屋に通される。
そこには机を隔てて両側にイスが並んでおり、その片側に座る。
俺が真ん中で二人に挟まれている形だ。左がソルテで右がアイナさんである。
ヤーシスはチリリンと鈴を鳴らすとさらに奥の部屋から女性が現れ、何言か話すとすぐに引っ込んでいく。
「少々お待ちを。今お茶を淹れさせておりますので」
どうやらここで働く女性だったらしい。
ノックをして現れた女性はお茶を置くと一礼し、すぐに奥の部屋に消えていった。
「お眼鏡に適いましたか?」
「え、いや、え?」
見蕩れていたといえば見蕩れていたのだろう。
大人っぽい雰囲気の落ち着いた女性であったのだが、その大きな胸に目が行ってしまうのは男の性だと思う。
決して俺がおっぱいスキーということはない。
「彼女も当店の商品です。もしよろしければこちらにお呼びしましょうか?」
ってことは彼女も奴隷なのか!
凄いな奴隷商人。何が凄いってよくあれほどの胸、じゃなかった女性を自分のものにしようと考えないのかよ。俺だったら間違いなく昼間っからハッスルしてしまいそうだ。
「いや、えっとその……痛い!」
え、え? 何? わき腹がねじ切れるかと思った。
見るとソルテが今まで見たことのない形相で俺のわき腹を抓っていた。
「ハヤクハジメルワヨ」
「はい!」
くそう。ぺったんこめ。胸が小さいと器まで小さ、あああごめんなさい痛いです! 取れちゃうって!
胸のない子はお尻で対抗すればいいと思うの!! お尻は万物に平等であ、痛いってば!
「おや、では次回、お一人でいらした際に是非」
くそういらんこと言うなヤーシス。
わき腹に右手が添えられているだけで恐怖心が芽生えるほど痛いのだ。
「本題にはいってよいだろうか?」
こちらの気持ちを汲んでか汲まずかはわからないがアイナさんが話を進めてくれた。
「ええ。もちろんです。どうやら売却、ということではなさそうですね」
「ああ。手間だけかける形になってしまうのだが、私を彼が買うとしたら幾らになるか聞きたい」
「ふむ。わかりました、承りましょう」
ヤーシスは再度鈴を鳴らすと先ほどの女性を呼び出した。
「ウェンディ、査定です。案内をお願いします」
「承りました。それではこちらへどうぞ」
「私も行くわよ!」
「失礼ながら査定室までご同行いただくわけには……」
「だったら私も査定してもらう!」
「……わかりました。ではウェンディ二人を査定してください」
そうしてウェンディさんに連れられて奥の部屋に付いていった二人。
部屋が暑い……せっかくのお休みで書き貯めるチャンスなのに頭がぼーっとするほど暑い……。
お金の扱いがざるすぎて調整してます。