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1-12 異世界生活 翌朝の出来事

もうさあ……こういうのないと思ってたのに。

だってさ、ハーレム展開ってこう、隼人みたいな主人公がするもんじゃん?

囚われのお姫様を助けたり、訳ありの貴族の娘を貰い受けたり、孤児になった子を引き取ったりして出来あがるんじゃないの?

それに微妙に扱いづらい存在だよね。


色街みたいなところがあったら行ってみたかった。

国内旅行の楽しみの一つはその地方の風俗店に行くことだったし。

でもさ、ハーレム展開しつつ色街に行くのってなんか浮気してる気分になるのよね。

しかも俺今家なき子だし。

まだ錬金室以外で寝泊りしたことないのにどう養えって言うんですかね。

だいたいさー……。


とか今更決まったことにぐじぐじと文句を言いながら着々とネックレスを作っていた。

窓を見れば日が昇り始めたのか若干光が差し込み始めている。

そのおかげか捻れた鉄のネックレスは防御力+5までできるようになり、薬体草と同じ要領で薬魔草から魔力ポーション(小)も作れるようになった。


そして


『錬金スキルのレベルが 4 になりました』

『空間魔法のスキルレベルが 2 になりました』


そりゃね。

魔法の袋がパンパンになったから魔法空間に至るまでネックレスを作りましたしね。

作ったばかりの魔力ポーションを飲みながらずっとネックレス作ってましたしね。

せっかくなのでステータスをチェックしてみよう。


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 忍宮一樹 : 錬金術師 Lv1

 HP15/15 → 30/30  MP250/250 → 540/540


 STR : G      VIT : G

 INT : F→E    MID : G→F

 AGI : G      DEX : E→D



 アクティブスキル

  空間魔法 Lv2

  錬金 Lv4

  鑑定 Lv1

 パッシブスキル

  農業 Lv1

  料理 Lv1

 アクティブオートスキル

  狂化 Lv1


 ???スキル

  ??? Lv1

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そういえば鑑定スキルもそれなりに使ってるはずなんだがまだ上がらないな。

同じものを何度も鑑定しても意味がないのだろうか。

未鑑定のものを鑑定していかないといけないのかな?

それともものすごくレベルが上がりにくいのだろうか。


それとステータス。ステータスが上がってるよ!

魔物とか倒さなくても上がるんだ!

だけどレベルは上がってない。

Lv1のままだし、貧弱ステータスのままだ。

あとはMP! 倍以上になった! 魔力ポーションを飲みながらとはいえ失神せずに朝まで作り続けたしね!

そういえば空間魔法Lv2って何が出来るんだろう。


【空間魔法 Lv2 排出(アウトプット)

 魔法空間に吸入した物体を排出することができる】


ん?

どゆこと?

魔法空間に保存した物って普通に取り出すことができるんですけど。

排出ってなに? ぺって飛び出すのかな?


『鑑定スキルのレベルが 2 になりました』


お、タイミングバッチリだな。

これで詳しく調べられたりするのかな?

早速空間魔法を鑑定してみる。


【空間魔法 Lv1 吸入(インプット)

  魔法空間に物体を吸入することができる。

   魔法空間内では時間の経過が無い。0~9

      Lv2 排出(アウトプット)

  魔法空間に吸入した物体を排出することが出来る。

   吸入時のエネルギーとベクトルのまま排出される】


説明が詳しくなった!魔法空間に物を入れるのって吸入(インプット)なのか。

ベクトルって……向きと勢いだっけ? だとするとエネルギーって余計なんじゃないのか?

んー……。投げ入れた物を排出すると投げた時の威力と方向のまま飛び出すってことかな?

わからん。とりあえず鉄を上に投げてみて、落ちてきたところを上向きに広げた魔法空間で吸入。

そして横に向けて排出してみると、鉄は真横に飛んでいった。


なるほど。

運動エネルギーが吸入で入った状態と同じで、方向は……まあ前に飛ぶと考えればいいか。

これは、使い方によっては便利なんじゃないか?

例えば弓矢を吸入したら排出して打ち返せるし。

って、待て待て待て。俺は誰と戦う想定をしているんだっての。

魔物とはもう会いません! 戦いません!


あ、そういえば吸入の方に0~9って書いてあったな。

これは吸入先が選べるとか整理できるとかかな?

ためしに魔法空間を開いてみると、予想通り0~9の10個の空間に分かれており現在使用しているのは0の空間のようだ。

よしよし。じゃあ未分類の素材は0、鉄鉱石類は1、薬草系は2、販売目的の物は魔法の袋から取り出して3と分けておこう。

しかもソート機能でもあるのか、思考しただけで取り出す手間もなく分別されていった。

魔法の袋にはすぐに使えるようなものを入れておこう。

あーよかった。なんかデスクトップがごちゃごちゃしてるようで落ち着かなかったんだよ。


よし。一段落したし、寝るかな。

今日はよく働いたー!

そうして錬金室の床にごろんと寝転がるとまどろみの中に落ちていった。





あー……なんだろ。

低血圧っぽい。

寝起きで頭がはっきりしない。

目の前の視界がぶれるんだが、後頭部は幸せ感触に包まれている気がする。


「目が覚めたか?」


頭上から声をかけられるも、ご尊顔は拝謁できない。

影になっていた物体を越えてひょっこりと顔をみせるのは紅い髪のお美しい女性……?


「まだ、眠いのか? もう少し眠るか?」


焦点が合う。

状態を理解するが早いか跳ね起きると、頭と頭をゴチンとぶつけてしまった。


「痛ッ……。はは。起きたようだな」

「な、なん」

「いや朝早くお邪魔したはいいが返事がないのでね。レインリヒ様にお願いして部屋に入れてもらったのだ。そうしたら床でぐっすり寝ているものだからせめて枕だけでもと、私のような筋肉質で硬い足じゃ寝苦しかったか?」

「いや、全然ぐっすりでしたけども」

「そうか。それはよかった」


やめてください! そんなパァーっと音がしそうな笑顔で微笑まないでください!

こっちとしてはまだ頭が働いてないのに嬉しいやら、感触を覚えてなくて悔しいやら複雑な状況なんです!


「ご主人様は、寂しがり屋なのだろうか? 寝ていながら、その……」

「え?」

「いや、なんでもない。うん。私は奴隷なのだしな。あれくらいは。うん大丈夫だ」


何かしたの俺!?

普段から寝相はいい方なんですけど。

朝起きたらベッドから落ちてた経験も、布団がはがれていた経験もないんですけど。

そしてなんで覚えてないんだ俺!?

呼び覚ませ! 俺の本能! 真なる俺の力! 『能力覚醒(リメンバーメモリー)!』

そんなスキルないですけどね!


「とにかくおはよう」

「えっと、おはようございます?」

「実はもうお昼だがな。それでどうする? まずは食事にするか?」

「えっと、先に防具屋に行ってその後屋台で軽く食べてから行こう、かな?」

「わかった。では準備が出来たら外に出てきてくれ」

「あ、はい。うん。すぐ行きます」


備え付けの蛇口に急いで向かいバケツに水を注いでガバっと顔を洗う。


「ほら、ここ髪が跳ねているぞ」

「うわあ! 先にロビーに行ってたんじゃないんですか!」


慌てた拍子に敬語になってしまった。


「なにやら心配だったのでな。それにご主人様の身支度をするのも奴隷の務めだろう?」


あの、あんま近くに来ないでくれませんかね!?

いいにおいが、あとちょこちょこ当たってます!

秘宝が、背中に! 当たってます!


「いつまで寝て……ちょっと、人を待たせて何してるのかしら?」


この声はソルテか!

そういえばこいつも来るって言ってたな。


「あ、こら動くな。もう少しで直るから」


振り向こうとした首を物理的な力によって元の位置に戻され、水で塗らした手を髪に押し付けて寝癖を直してくれていた。

だから近い近い近いっての!

理性が! 俺の理性+5が!


「よしっと、男前になったぞ」


そういって手を放し、俺を正面に向けるとうんうんと満足そうに頷く。


「なんでアイナがこいつの寝癖なんか直してるのよ!」

「私はご主人様の奴隷だからな。身支度は私の仕事だと思ったのだ」

「だからってそんなに近づく必要ないでしょ!? 大体膝枕してあげる必要もなかったでしょ、こんな奴床に転がしとけばいいのよ!」

「そんな訳にも行くまい。床は硬いし冷たいんだ」

「だーかーらー!! ッ……もういいわよ! ほら準備は終わったんでしょ早く行きましょう!」


ソルテはアイナが奴隷らしく俺の世話をするのが気に入らないみたいだな。

それもそうか。昨日まで冒険仲間だった奴がいきなり見ず知らずの男の奴隷になったんだもんな。

しかも本人が快諾、というか納得して自分から行っているんだから腹立たしくもなるか。


「まずは防具屋だぞ」

「はぁ!? お昼までわざわざ待ってたのになんでよ!」

「当然だろう。こちらは迷惑をかけた側なんだ。ご主人様の予定を崩してはいけない」

「ッ、わかったわよ! ならとっとと行って終わらせるわよ!」


だが防具屋に行くのは仕方ないだろう。

今日の飯代だって足りてないんだぞ。

せっかく作ったネックレスも売らないといくらかわからないしな。


「レインリヒ。それじゃあ行ってくる」

「ああ。行っておいで。それと冒険者ギルドに昨日の分も含めた今日の分のポーションを届けてくれるかい?」

「それ大丈夫なのか? 昨日の今日で行って、いきなり袋叩きにあったりしないか?」

「それは大丈夫だろう。朝私達とギルドマスターから通達はしておいた。もし手出しする者がいれば私が切り伏せると」

「いやでも……」

「こう見えても腕利きの冒険者なんだ。それにソルテも手を貸してくれるそうだ」


腕利きなのはわかる。

だがソルテが? 嘘だろ? こいつ絶対俺が死んだほうがいいと思ってる口だぞ。


「ッふん。これ以上冒険者ギルドの立場を悪くさせるわけにはいかないでしょ」


ツン……ではある。だけどこいつに限ってはデレはないな。


「そうか……。わかった」

「どうせなら手出されてきな。あんたは死なない程度に守ってくれたらいいよ」


この婆さんまだ毟りとるつもりかよ。

二人の顔も引きつってるし、ココは早く出たほうが良さそうだな。


「わかった。じゃあこれに入れてくれ」

「魔法の袋ね……。もしかしたらこれが原因で製薬ギルドに間違えられたのかもしれないね」

「錬金ギルドは持ってないのか?」

「あるにはあるけど納品する時に使ってなかったからね。まあ最近荒稼ぎしている製薬ギルドならもっててもおかしくないと思われたんだろう」


なるほど。すっかり高価な物だと言うことを忘れていた。

ただで貰った上に(小)という名前に気をとられ気がつかなかった自分のミス……じゃないな。うん。どう考えてもあいつらが悪い。

確認さえすれば間違えなかったし、もし製薬ギルドだったとしても商品を壊したことには変わらない。


「ほら。準備できたよ。行ってきな」


レインリヒから魔法の袋を受け取ると腰にぶら下げる。


「んじゃ行ってきまーす」

「はいはい」


ヒラヒラと書類を見たまま手をふるレインリヒ。

なんというからしい行動であった


「さて、ところで防具屋ってどこ?」

「中央広場まで行ってから東に向かうと防具屋があるぞ。その反対の西側に奴隷商館があるから、戻りがてらお昼にすればいい」

「丁度いいね。ソルテもそれでいい?」

「ふん。気安く呼ばないでくれるかしら?」


この犬耳め……もしその犬耳がなかったら覚えとけよ。

いつか泣いて謝るまでもっふもふしてやる!

その時はアイナさん! 取り押さえてくださいお願いします!!


「あ、そ。じゃあアイナさん行こうか」

「ああ。ご主人様」

「……」


表でご主人様と呼ばれるのは何かまずい気がしてきた。

現に横を通ったご婦人が振り返り、信じられないものでも見たような顔で足を速くしていった。


「あのさ、呼び方なんだけど」

「ご主人様か?」

「そうそれ。別の呼び方の候補とかない?」

「ダメか? 一応相応の呼び方かと思うのだが」

「うんダメ。何か恥ずかしい」


プレイならいいの! そういうプレイで、二人っきりとかなら!

だけど往来でご主人様って呼ばれるのは、こちょばいの!

なんか羞恥プレイしている気になってくるから無しの方向で行こう。


「では、主君、主様、貴方様、我が君、マスター、それと少し早いが旦那様……どれがいいか選んでもらえるか?」


口調的にご主人様は合わないな。

あわせるなら主君かマスターだが、どっちも恥ずかしい。

かろうじて軍配を上げるならば主君だろうか。

ん?


「ちょっと待って最後のはなに?」

「私の種族では初めてを迎えた相手を旦那とする決まりなのだ。だから、もし旦那様が私に手を出すようであればそう呼ぶことになる。あ、子供は認知してくれなくてもいいぞ」

「ちょ、」

「そんなことさせないんだから! 私がすぐ買い直してあげるから!」


ソルテは買いなおすのが目的なのか。

自信満々に小袋を目の前に出し、じゃらりと鳴らす。

これは、全部金貨なら結構入ってるんじゃないだろうか。

俺としてもアイナさんを奴隷にするよりは金貨を受け取ったほうが使いやすいし、もうこれ受け取って終わりでもいいんじゃないだろうか。


「それはダメだソルテ。それでは私の誠意が伝わらない」


「なんでよ!? お金を払うんだからそれでいいじゃない!」

なんでだよ! お金を貰うんだからそれでいいのに!


見事にソルテとリンクする思考。


「私は自分の責任を自分で取る為に行動しているんだ。だからソルテ、君が私の為に行動してくれるのは嬉しいが、それでは私の気は収まらないんだ」


固い。頭が固すぎる。

そもそもアイナさんは間接的で直接的に悪いわけではない。

仲裁してくれたのも善意から来るものであり、ここまで頑なになるのはちょっとおかしいと思う。


「ッ……もう! もうもう! いいもん! 行くもん!! 私も付いていくもん! 絶対アイナをあんたなんかに渡さないもん!」

「あー……とりあえずご主人様以外で好きに呼んでくれ……。もしかしたら少しの間で済むかもだけどな」

「わかった。では主君これからどうぞよろしく頼む」


そういうとアイナさんはその場で三つ指を着いて頭を下げ始める。

それを慌てて止めて立ち上がらせるときょとんとした顔をしていた。

ソルテの大変さが少しわかった気がする。

もんもん連呼して感情の制御がうまくできなくなっているソルテを横目に、俺たちは防具屋へと向かうことにした。

次の話書き込みすぎて1話が長そうなんで半分にしました。

まーた一箇所でだらだらと長々と書いてるから全然進まないっスね。

でもそろそろ一章終わります!(予定)

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