新しい出会いがあったよ
宝樹祭から帰って再会したアリス……そのあまりの駄目人間っぷりに、このままだと本当にのたれ死ぬと思った俺は、しばらく説教を行った。
「……だから、ギャンブルするにしてもちゃんと加減する事」
「全く、自己管理が出来ないとか人間の屑ですよ……ギャンブラー最低ですね――痛いっ!?」
「お前の事言ってるんだからな!」
頭が痛くなってきた。
もう自業自得だと放っておければいいのだが、生憎と性格上そう言った事は難しい。
更生……は無理でも、せめて破産してしまわない様には軌道を修正しないと……これからも度々足を運んで様子を見る事にしよう。
そんな事を考えながら、俺はマジックボックスの中から、以前食べて気に入り、今日も帰ってから食べようと買っておいたレッドベアーサンドを取り出す。
「ほら、果物だけじゃなくてコレも食べて」
「え? なんすかこの、鞭の後にそっと差し出されてくる飴……カイトさん、素敵! 私ドキドキしちゃいますよ!」
「気色悪い」
「この流れで鞭の追加!?」
またまたふざけた事を言いながら、アリスは俺が出したレッドベアーサンドを食べ始める。
その光景を見ながら、俺は少しこれからの事を考える。
ギャンブルでの浪費に関しては、今後度々注意して改善していくとして、問題は収入の方だ。
ハッキリ言ってアリスの店は、本人の談もあるが全く客が来ていない。
俺が以前来てから7日近くが経ってるのにその有様では、アリスの生活は改善されないだろう。
だからと言って俺に経営の知識がある訳ではないし、店を流行らせると言うのも難しい。
と言うか、そもそも店主が怪しすぎるのが問題だし、そこが改善される様な気はしない。
俺が多少買い物をしたところで、それがずっと継続する訳じゃないし……
「カイトさん、難しい顔してどうしたんすか?」
「いや……ああ、そうだ。何かこの店で、コレはって言うおすすめ商品とかない?」
「勿論ありますよ! 私の最高傑作が!」
「……最高傑作?」
何だろう、物凄く嫌な予感がする。
あのアリスが、自信を持って勧めてくる商品……ってコラ、何で店の奥から、見慣れた着ぐるみを
複数引っ張ってきてるんだ!?
「どうですか! この見事な出来!」
「……一応聞くけど、それ何?」
「着ぐるみです!」
「……」
やっぱ駄目だコイツ。
何か渾身のドヤ顔してるみたいに見えるけど、もう一発ぶん殴りたくなってきた。
「おっと、その顔はこの商品の素晴らしさを疑ってますね? ふふふ、この着ぐるみを、ただの着ぐるみと思ってもらっては困ります」
「……うん?」
「何とこの着ぐるみには、複数の魔水晶を仕込んでありまして、自動で快適な温度に保ってくれる上、汚れもある程度綺麗にしてくれます! 更に伸縮性、肌触りも抜群! 微弱な回復魔法も発しているので、リラックス効果まである素晴らしい一品なんすよ!!」
「何その無駄な高性能!?」
体温調整機能やリラックス効果もあって、自動で清潔に保たれて、肌触りも最高……だが着ぐるみ。
魔法具とも言えるその性能は凄まじいが、形状が全てを台無しにしている。
「何で……着ぐるみなの?」
「いや、魔水晶を入れる関係上、どうしてもある程度の厚みが必要なんすよね。服にする訳にもいかないので……着ぐるみにしました!」
「で、売れてるの?」
「一度も売れた事はないです!」
「……なんで『布団』とか『コート』にしないの?」
「……へ?」
単純に疑問だったので尋ねてみると、アリスはまるで時が止まったかのように固まる。
「いや、だから、ある程度の厚さが居るなら、布団とか厚手のコートとかにすれば、多少高くても貴族とかが買ってくれるんじゃない? 特に睡眠って重要な訳だし、寝袋とかにすれば冒険者にも売れるんじゃない?」
「……カイトさん」
「あ、いや、素人考えだから、技術的に無理なら仕方が無いけど……」
「……貴方……まさか……天才なんじゃ……」
「……」
いや違う、お前が馬鹿すぎるだけだと言う言葉を何とか飲み込んだ。
そもそも、一番初めに着ぐるみで作ってる時点でどうしようもない気がするが……
「確かにそれなら滅茶苦茶売れそうじゃないっすか! カイトさん凄い!」
「いや、それでもこの店に客が来る未来は見えないから……どこかに卸した方が良いんじゃない?」
「……いや、でも、私王都の商会には出禁喰らってますし……」
「もし、アレなら、俺が知り合いを紹介しようか?」
それだけ良い商品でも、店主が絶望的な為、爆発的に売れるのは難しいと思った。
だってそもそもアリスって、商才絶望的になさそうだし任せるとどんな結果になるか分からない。
とりあえず安定した収入を得てもらわないと……店に来たら衰弱死してたなんて事になったら笑えない。
ここは申し訳ないけど、クロの力を頼る事にしよう。
「え? カイトさん、商会にパイプもあるんですか~どこの商会ですか?」
「えと、セーディッチ魔法具商会ってとこ……」
「ぶっ!? とと、トップ商会じゃないすか!? え? なに? カイトさん……どこかの王様なんすか?」
「いや、偶々知り合いなだけ……とにかく頼んでみるから、それまでに見本作っておいて」
とりあえずクロに相談をしてみよう。
実際商品は凄く良さそうだし、店主の性格を除けば十分行けると思う。
「まぁ、とりあえず今日は……えと、何着か服買うよ」
「マジすか!? ありがとうございます! カイトさん、惚れちゃいそうです!」
「とりあえず次来るまではそれで……」
「これで、もう一勝負――ぎゃんっ!?」
「……お前、今度来た時にギャンブルで使いこんでたら承知しないぞ……」
「ははは、はい!? りょ、了解です!」
ホントにもう、何でこんなのと知り合っちゃったかなぁ……ホント、こう言う相手を放っておけない自分の性格が嫌になる。
とにかくしばらくはアリスを更生……もといのたれ死なない様に気を付ける事にしよう。
すぐに立ち直り、色々商品を笑顔で勧めてくるアリスを見ながら……俺はこれからの事を考えて大きく溜息を吐いた。
いつの間にか時刻は昼を過ぎており、予定より長く居た事を感じながら道を歩く。
しばらく移動していると、ふと違和感に気が付いた。
俺が現在歩いている道は大通りと言う訳ではないが、普段通る時はある程度通行人も見かける筈だが、現在はまったく人影が見えない。
単純に偶々誰も通っていないと言うだけかもしれないが、何と言うか奇妙な静けさだった。
「……ねぇ、そこの君」
「え? なっ!?」
不思議に思っていると突然背後から声をかけられ、振り返ると……そこには先程まで感じていた違和感を遥かに上回る奇妙な存在が居た。
球体状の柔らかそうな物体……空中に浮かぶ球体型のクッションに寝転がり、正面から見るとまるでブリッヂでもしている様な体勢でこっちを見ている紫髪の女性が居た。
少なくとも人に話しかけてるとは思えないだらけっぷりで、美人と言うより可愛らしいという印象がしっくりくる女性は、気だるそうに薄紫の長髪を掻きながら話しかけてくる。
「異世界の子だよね? ちょっとさ、聞きたい事があるんだけど、いいかな?」
「……あの、貴女は?」
髪と同じ赤紫色の瞳を半開きにして、眠たそうな様子で話しかけてくる女性に、俺は首を傾げながら聞き返す。
「私? あ~私はアレだよ……なんだっけ? あ~まぁ、アレだね。名前は『フェイト』って言うんだ~よろしくね~」
「あ、はい。よろしくお願いします……えと、宮間快人と言います」
「うん、よろしくね~カイちゃん」
「カイちゃん!?」
だらけきった様子でにへらと笑いながら、フェイトさんは俺の事を奇妙な愛称で呼んできた。
拝啓、母さん、父さん――帰ってくるなり色々苦労した訳なんだけど、まだそれは続きそうで……また何と言うか、ここで追加で――新しい出会いがあったよ。
快人は基本ドが付くお人好しなので、アリスみたいな駄目人間は放っておけず、ついつい色々世話を焼いてしまいます。
そして、新キャラのフェイト……六王編ではありますが、新キャラが六王とは限らない……リリア気絶フラグ+1