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クロノアさん凄く苦労してるみたいだ


 運命神であるフェイトさんの登場により、過去最速で気絶したリリアさんは、少しした後で起き上がり、フェイトさんに丁寧に挨拶をして、室内に案内してから……静かにこちらを見つめる。


「……カイトさん、後で話があります……ええ、とても大事な話です。私の部屋に来て下さい……」

「は、はぃ……」


 そろそろ怒りのオーラが実体を持ちそうなリリアさんにビビりつつ、改めてフェイトさんの事情を説明しようとして……そこで大きな矛盾に気付いた。

 フェイトさんはさっき悪い奴に追われてると言っていたが……最高神であるフェイトさんが逃げる相手って一体何者なんだ?


 いや、そもそも本当に追われているかどうかも疑わしい訳だが、その辺りはちゃんと聞いておこう。


「あの、フェイトさん」

「私もクッキー食べたい! 頂戴! ……うん?」

「……追われてるんですよね?」

「うん、本当に危機的状況だよ」


 と言うか、この方本当に運命神? クッションに寝転がったままクッキー食べてる姿は、同じ最高神であるクロノアさんとは大違いだ。


「追われている? 運命神様がですか?」

「ねぇ、リリたん」

「リリたん!?」

「運命神とかかたっ苦しい呼び名じゃなくて、フェイトって名前で呼んでくれればいいよ~」

「い、いえ、しかし……それでは無礼に……」

「もう、リリたんは真面目だね~時空神みたいだよ」


 だらけきっているフェイトさんに戸惑いながら、リリアさんも追われていると言う言葉に驚いていた。

 しかしフェイトさんの方は、相変わらずの調子で、全く危機感を感じない。


「フェイトさん……一体誰に追われてるんですか? 最高神であるフェイトさんが逃げる相手って」

「もう最悪の相手だよ! ホント捕まったらどうなるか……うぅ、震えて来た」

「そ、そんなに凄い相手なんですか?」


 どうやらフェイトさんを追っている者は、とてつもない存在らしく、最高神であるフェイトさんが明らかに怯えている。

 リリアさんもそれが常識では考えられない事態だと察したのか、額に汗を流して神妙な顔でフェイトさんを見つめる。


「もう、ホントアイツは悪魔だよ、悪魔! いたいけない私を虐め抜いて、楽しんでるに決まってるんだ!」

「ほぅ……それは難儀なことだな」

「ホントね! もうぺっちゃんこの胸と一緒で頭まで固くて困――え?」

「……死にたいらしいな……運命神」


 力説するフェイトさんの後ろから聞き覚えがある声が聞こえ、そちらを向くと……額に青筋を浮かべているクロノアさんが居た。

 フェイトさんはクロノアさんの声を聞き、少しして震えながら壊れたブリキ人形の様な動きで後ろを見て、顔を真っ青に染める。


「……じ、じじ、時空神!? なな、何でここに!?」

「たわけ! 貴様の行きそうな所位、容易に想像が出来るわ! 貴様、一体何度脱走すれば気がすむのだ!! いい加減にしろ!」

「ひえぇぇ……ど、どうどう……」

「今日と言う今日は、貴様の腐った性根を叩き直してくれる!」

「ぎにゃあぁぁぁぁ!?」


 目の前で繰り広げられる光景に、俺達は茫然としてしまう。

 え? つまりこれ、アレだよね? フェイトさんが逃げてたのって……クロノアさんから!?


「貴様、祝福の報告はどうした! あれ程、火の月中にあげろと言ったであろうが!」

「……わ、私は……仕事なんて言う、拷問には屈しない……」

「義務だ馬鹿者! 貴様には、最高神としての自覚は無いのか!」

「無い!」

「威張るな!!」


 うん、もう大体事情も分かった。

 たぶんフェイトさんには、何かしら最高神としてやらなくてはいけない仕事があったんだろうが、それから逃げて来たという事らしい。

 あれ? それ全面的にフェイトさんが悪いんじゃないか?

 逃げようとするフェイトさんの首根っこを、クロノアさんが素早く捕まえる。


「全く……リリアにまで迷惑をかけおって……そら、帰るぞ!」

「いやだあぁぁぁ! 私はここの住む! 住んで『カイちゃんに養ってもらう』んだ!」

「……は?」


 ちょっと待て、何を言ってるんだこの方……今までの話の流れの中、どこでそういう方向になった!?

 と言うか、俺も居候みたいなものなのに、それに養ってもらおうって……どんだけ働きたくないんだこの方。

 クロノアさんも呆れた様子で、思わず掴んでいた手を離してしまったみたいだった。


「……貴様、何を阿呆な事を……」

「だって、カイちゃん、顔は割と好みだし! お人好しっぽいから、泣きついて甘えれば『三食昼寝付き』で養ってくれそうだもん!」

「……」


 そこはかとなく馬鹿にされている様な気分だが、完全に否定しきれないので何も言えない。

 実際どうだろう……泣きながら、養ってくれと言われた場合……たぶん、文句言いながらアレコレ世話焼いてしまいそうな気がする。

 唖然とする空気の中で、クロノアさんの手から解放されたフェイトさんは、素早く俺の足にくっついてきた。


「カイちゃん! 助けて!」

「は? え?」

「このままじゃ、私、時空神に拉致されて、拷問されて精根共に尽き果てちゃうよ!」


 拷問ってそれ、要するに仕事だよね!?

 半泣きで縋りついてくるフェイトさんを見て、俺がどうしようかと悩んでいると、クロノアさんがこめかみを押さえながら俺に話しかける。


「何を馬鹿な事を……ミヤマ、気にする必要は無いぞ。そのような事をしても貴様に益など無い」

「え、ええと……」

「じゃあ『えっちな事』させてあげるから!」

「ぶっ!?」


 俺の足にひっつきながら、フェイトさんとんでもない事を言い始める。


「私、体はちっこいけど胸は大きいよ! 時空神みたいな『絶壁』とは全然違うよ! 時空神はもう、寝転んで胸の上に紅茶のカップおいても零れない位平らだからね! 私の方がお得だよ!!」

「……貴様、本当に死にたいらしいな」

「ひえっ!?」


 く、クロノアさんが人を殺しかねない目をしている。

 クロノアさんは非常に背が高く、スレンダーな体系をしているが、アインさんと喧嘩してる時もそうだったし……気にしているらしい。

 殺意溢れる表情でゆっくりと近づいたクロノアさんに腕を掴まれ、フェイトさんは更に慌てた様子で俺に縋りついてくる。


「うわあぁぁぁぁん! カイちゃん! 助けてえぇぇぇ!?」

「ええい、手を離さんか馬鹿者!」

「いやだあぁぁぁ!? カイちゃんあぁぁぁぁん!!」

「……」


 今回の件に関しては、圧倒的にクロノアさんの方が正しい。

 最高神と言う責任ある立場な訳だし、やはりやらなくてはいけない事もある筈だ。

 だから、そんな風に泣きつかれても、助ける訳には……助ける……訳には……


「あ、あの……クロノアさん、きょ、今日一日だけとか、駄目でしょうか?」

「なっ!? おい、ミヤマ!」

「カイちゃん!」

「わ、分かってます! クロノアさんの言う事が正しいのは分かってますが、その、えっと……俺もまだフェイトさんとはロクに話も出来てないですし、今日一日ぐらいは親睦を深める意味でここに居ても……」


 やっぱり駄目だった。俺あの縋る様な目に弱すぎる。

 俺がフェイトさんを庇う発言をした事で、クロノアさんは少し困った表情を浮かべる。


「ミヤマ、あまりこやつを甘やかさん方が……どうせ明日になったらまたゴネるに決まっている」

「だ、大丈夫です。そこは何とかしますから……」

「何とか?」

「えと……シロさんに頼んでみます」


 シロさんなら当然この状況も把握してる筈だし、流石にフェイトさんと言えども創造神であるシロさんの言葉なら聞いてくれる筈だ。

 シロさんが俺の要望を聞いてくれるかどうかは分からないが、その辺は誠心誠意頼んで……


(条件があります)


 条件? なんでしょう?


(クロだけずるいので、私ともデートしてください)


 ……前のアレ、冗談で言ってた訳ではないんだ……

 わ、分かりました……俺で良ければ……


「ねぇ、時空神……カイちゃんは誰に頼もうとしてるの?」

「シャローヴァナル様だ」

「ぶっ!? な、なんでカイちゃんが、シャローヴァナル様に頼みごとが出来るの!? てか、シャローヴァナル様が聞いてくれる訳……」

「いや、それが……シャローヴァナル様はミヤマに興味を持っているらしく、ミヤマはシャローヴァナル様の祝福も受けておる。或いは……」

「……え? なにそれ? カイちゃん、化け物?」


 唖然とした様子で尋ねるフェイトさんに、クロノアさんが答えているが、一先ずそれは置いておいてシロさんへの話を優先する。


(それで、私は何をすればいいのですか?)


 うん。予想はしてたけど、やっぱり状況は把握してても理解はしてなかった。

 えっと、明日ちゃんと働く様にフェイトさんに一言言って欲しいんです。


(分かりました)


 言うが早いか、室内に光が集まり、当り前の様にシロさんが出現する……あ、リリアさんまた気絶した。

 そしてシロさんが登場すると、先程まであれだけだるそうにしていたフェイトさんが、即座にクッションから降り、シロさんの前で片膝をついて頭を下げる。


「しゃ、シャローヴァナル様」


 神界の神々にとって、シロさんは絶対の存在だと聞いたけど、その言葉に偽りはない様で、フェイトさんもシロさんには絶対服従みたいだ。

 シロさんは頭を下げるフェイトさんを軽く見た後、いつも通りの表情と抑揚の無い声で告げる。


「明日、ちゃんと働きなさい」

「はっ! 我が命に代えても!」


 完全に別人じゃねぇか、シロさん前にすると変貌し過ぎだろフェイトさん。

 シロさんは一言言ってほしいと言う願いを聞いて現れたので、本当に一言だけ告げて光と共に帰っていってしまった。

 その光景を見ていたクロノアさんは、何かを考える様に顎に手を当てる。


「……成程、ミヤマの要望だと、シャローヴァナル様が注意して下さるのか……これは、ふむ……おい、ミヤマ」

「なんですか?」

「もし、異世界に帰らずここに残るのであれば、我に声をかけよ。貴様が望むなら、我の権限で神界に住処を作ってやる」

「……は?」

「無論他の事でも出来る限り力になろう。その代わりと言っては何だが……年に一度で良いから、運命神と生命神に働けと、シャローヴァナル様に注意を行う様に頼んでもらえぬか?」

「……」


 何だろう、今のたった一言で、クロノアさんが普段どれだけ苦労しているのかがひしひしと伝わって来た。


 拝啓、母さん、父さん――フェイトさんのお陰で、ちょっとした騒ぎになったよ。そして何と言うか――クロノアさん凄く苦労してるみたいだ。

















快人スカウト+1

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