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運命神だった

本日は二話更新です。これは二話目になりますのでご注意を

 帰る途中に出会った不思議な雰囲気を持つ少女……フェイトさんは、気だるそうな様子のままで話しかけてくる。


「でさ~カイちゃん。聞きたい事があるんだけど……」

「聞きたい事? なんですか?」

「うん。異世界にはさ、働いたら敗北するとか、そんな言葉があるんだよね?」


 ダラダラと空中に浮いたクッションの上で寝返りをうちながら、フェイトさんはのんびりした声で尋ねてくる。

 働いたら敗北する? えっと、何だろう……言葉って事は、アレだろうか?


「……働いたら負け、ですか?」

「それだ! それだよ。ん~やっぱ異世界は進んでるね~素晴らしい言葉だよ! で、それだけじゃなくて、異世界には働かない職業があるんでしょ?」

「……職業では無い気がしますが、ニートの事ですか?」

「ニート……良い、カッコいい! 私、全力でニートをリスペクトする! 私もニートになる!!」

「……」


 急にテンションが高くなり、フェイトさんはニートをべた褒めし始める。

 何だろう、この漂う残念な感じ……ニートになるとか宣言してるし、常にだるそうな顔してるし……成程、『そう言うタイプ』の方か……


「えっと……」

「カイちゃん!」

「へ? あ、はい」

「こうして、会話もしたんだし、私達『ソウルフレンド』だよね!」

「は? ソウルフレンド?」

「そうだよ! 魂で結び付いたんだよ! もう親友だよ! 運命共同体だよ! だよね!」

「……は、はぁ……」


 何か急にグイグイ来始めたんだけど、なんかテンションの読めない方だ。

 よくは分からないが、ほんの一言二言交わしただけで、ソウルフレンドだとか何とか言ってきてる。

 何と言うか、何かしらの裏を感じる。


「だから、カイちゃんは親友の私が困ってたら、助けてくれるよね! ね!」

「……そ、それはまぁ……俺に出来る事なら……」


 やっぱり来た。殆どキャッチセールスに引っ掛かった気分だが、とりあえず内容を聞いてみる事にしよう。

 何か壺みたいな物を買ってくれとか、そう言う話だったらどうしよう? 何とか大通りまで逃げられれば……


「かくまって!」

「……は?」


 しかし告げられた言葉は、想像の遥か斜め上だった。


「悪い奴に追われてて……」

「ど、どういう事ですか? 一体何が……」

「説明はめんど――いや、時間が無いから省くんだけど、とにかく助けて欲しいんだ!」

「……わ、分かりました。とりあえず、俺がお世話になってる方に相談してみましょう。大丈夫です、凄く頼りになる方なので……」


 何か一瞬面倒とか聞こえた気がするが、たぶん気のせいだろう。

 実際今も何やら切羽詰まってる感じがするし、よっぽど大変な事態で混乱してしまってるんだと思う。

 一先ずリリアさんに相談してみる事にしよう。

 いくら初対面とは言え、状況が状況だから放っておけない。

 リリアさんは貴族だし、とてもしっかりしていて頼りになる人だから、きっと力になってくれる筈だ。


 追われていると言う事だから、出来るだけ早く屋敷に向かわないと……


「よし、話は決まりだね。それじゃあ、カイちゃん……引っ張って」

「……引っ張る?」

「動くの面倒だし……」

「……」


 本当に追われてるのかこの方?

 笑顔を浮かべた後でふにゃっと力が抜けた感じへ変わったフェイトさんは、クッションに寝転がったまま俺の方に手を伸ばしてくる。

 追われているという言葉の信憑性が無くなった気がしたが、とりあえずフェイトさんの手を取り屋敷まで引っ張っていく事にした。























 人界、魔界と比べると小さい神界には、いくつかの階層が存在する。

 絶対的な縦社会である神界は、ドーナツ状の大地の中で、下級神と一般の神族の住む外周の地、上級神とその配下のみが住める内周の地が存在する。

 ドーナツ状の中央には空に浮かぶ庭園……創造神シャローヴァナルの住む場所があり、その中央に最も近い場所……内周の地の最も内側には、三つの巨大な神殿が存在する。


 創造神の近くに神殿を構える資格を持ち、空中庭園に立ち入る事を許された神々の頂点……最高神の3神が住む神殿。

 その内の一つの神殿の廊下を、時空神クロノアが歩いていた。

 ここは彼女が住む神殿では無く、別の最高神……運命を司る運命神の神殿だった。

 クロノアは広い神殿の廊下を歩き、最奥にある部屋に辿り着いた後、軽く扉をノックしてから中に入る。


「邪魔するぞ、運命神……そろそろ、新年の祝福、貴様の担当する下級神の実績を――何っ!?」


 部屋に入ったクロノアだが、そこに運命神の姿はなく……一番奥の壁に大きな紙が貼ってあった。

 書き置きらしきその紙には一言「私は労働に屈しない」とだけ書かれていた。

 その紙を見てしばらく茫然とした後、クロノアはゆっくり壁に近付き、額に青筋を浮かべながらその紙を破る。


「……あの、たわけが……『また』逃げたのか!!」


 怒りと共に叫び、クロノアは即座に神殿の外に出て、近くにいた上級神に詰め寄る。


「おい! 運命神はどこへ行った!」

「じ、時空神様!? い、いえ、それが……『私は自由の風だ』と叫んで人界へ……」

「ふ、ふざけおって……我も人界に向かう。手間をかけるが、我の神殿で配下にその旨を伝えておいてくれ」

「か、畏まりました」


 上級神に手早く指示を出し、クロノアは即座に人界へと向かった。

 定期的に脱走するめんどくさがりの同僚を捕獲する為に……


「ああ、聞き忘れておった……生命神がどうしておるか知らんか?」

「分かりませんが……恐らくいつも通り『寝ている』かと……」

「……どうして……最高神にはロクな者がおらんのだ!!」


 その日は……もとい、その日も、神界に苦労性の最高神の叫び声が木霊した。


























 フェイトさんを連れて、リリアさんの屋敷へと戻ってくると、運よく目当てのリリアが庭に居た。

 ジークさんとルナマリアさんも居るので、たぶん一緒に訓練でもしていたのかな? ともかく丁度いい、フェイトさんはかなり切羽詰まってるみたいだし、これで早急に事情の説明が出来る。


「リリアさん!」

「おや? カイトさん、お帰りな……さ……い?」

「リリアさん? どうかしましたか?」


 リリアさんは俺に気付いて笑顔で言葉を発したかと思ったが、その言葉は途中で途切れ、茫然と目を見開く。

 ルナマリアさんとジークさんも同様の反応で、大きく目と口を開き、俺を……いや、俺が引っ張っているフェイトさんを見つめている。

 なんだか嫌な予感がして、それを肯定するかのように、リリアさんが震えながら指をフェイトさんの方へ向ける。


「……う、うう、運命の……女神様?」

「やほ~初めまして、末永く養ってね!」

「……なんで、そんな……いきなり……まだ、心の準備が……きゅ~」

「お嬢様!?」


 フェイトさんを見るなりリリアさんは青い顔になり、少しして目を回してその場に倒れてしまう。

 え? あれ? 今リリアさん何て言った? 運命の女神? 


「……フェイトさん、ちょっと聞きたいんですけど……」

「なに? カイちゃん」

「……フェイトさんって神族なんですか?」

「そだよ」

「……最高神なんですか?」

「だね~運命を司ってるよ」

「……マジで?」

「マジマジ」


 茫然と尋ねる俺の言葉に、フェイトさんは緩い感じで答えてくる。


 拝啓、母さん、父さん――偶然知り合ったニートをリスペクトするというフェイトさん。予想だにしなかったけど、彼女は――運命神だった。



















祝100話!


快人は基本優しく面倒見が良いので、ダメ女ホイホイみたいなものですね。なんだかんだで世話を焼いてしまいます。


そして登場した運命神……働きたくないと公言する神ですね。

運命神……働かない、脱走する。

生命神……大体いつも寝てる。

時空神……苦労人。


クロノア可哀相。

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