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初投稿です。頑張ります!

少し肌寒いが日差しが暖かく、気持ちのいい風が吹き抜ける中、広大な庭で一組の男女が優雅なアフターヌーンティーを楽しんでいた。男は、ミルクティー色の髪の毛を風に揺らし、微笑みながらエメラルド色の瞳を女に向けている。女は、ブルネットのロングストレートを時折り押さえながら、優雅な仕草でお茶を飲む。そして意思の強そうな燃えるようなルビー色の瞳を男に向けていた。美麗な2人の茶会は、まるで一幅の絵のようだ。


俺の名前はロイド・ウィラー。現在、婚約者のスカーレット・ミレン辺境伯令嬢とラブラブ逢瀬中☆……と、言えればいいが会話が続かない。沈黙しかない。俺にできることと言えば、「特技:当たり障りない穏やかな笑顔」だけだ。ウィラー公爵家自慢の庭で、小鳥のさえずりだけが響いている。


「ロイド様、そろそろお時間です」

執事のベイリーが声をかけてきた。


「そうか。スカーレット嬢、有意義な時間をありがとう。貴女のおかげで良い仕事の息抜きができました。また、会いに来てくれるかな?」

「もったいないお言葉です、ロイド様。私は婚約者ですので、お呼び立て頂ければいつでも馳せ参じますわ」


真顔で言われる。そんな家臣じゃないんだから、とは思っても言えない。彼女は真面目に返答しているのだ。彼女の生家ミレン辺境伯家は、王家から私的な兵団を持つことを許されている。国境を守るためだ。武闘派貴族のミレン家にとっては上下関係が全てなので、この受け答えも通常運転である。彼女の親子での会話を初めて聞いた時は、ド肝を抜かれた。


「では、また。そういえば、クロエが帰り際に寄って欲しいと言っていました。都合が悪ければ断ってもらってもいいですよ。スカーレット嬢の予定もあるでしょうし」

「いえ、伺います。ロイド様、何度もお伝えしていますが、私にお伺いを立てなくても大丈夫です。寄ってくれと命じてくださればいいのです」

「…スカーレット嬢。私は貴方と共に歩む関係になりたいのです」

「…善処致します」

そう言い、目の端を少し赤くしたスカーレット嬢が豊かなブルネットを揺らしながら去っていった。


やっぱり今までの生き方を変えろと言われるのは屈辱なのだろうか。俺としては、地位の割には気苦労が多そうな公爵夫人(うちの母は、嬉々として社交界を牛耳っているが…)を務めてもらうのだから、政略結婚といえど関係は良好にしたい!

それに実のトコロ、スカーレット嬢はめちゃくちゃタイプだ。初めて会った時から大好きです!!

「レティ」「ロイ」と呼び合うようなウフフな関係に早くなりたい!!


テーブルに突っ伏して悶々とする俺に、冷めた目をした執事のベイリーが呆れ顔で声をかけてきた。


「で、ロイド坊ちゃま。結局スカーレット様に3ヶ月前から用意された髪飾りも渡せず仕舞いですか?『共に歩む関係』と言葉に出せたのは少し前進されましたが、私の命がある間に、坊ちゃまの仰る理想の関係とやらにはなれるのでしょうかね~」

「ベイリー!坊ちゃま呼びはヤメてくれ!俺はとっくに成人してるから!」

「私から見れば、オムツを穿いてヨチヨチしていたロイド様も、好きな女性に贈り物一つできないヘタレなロイド様も同じです!さぁさ、お仕事が待っていますよ!」


俺の生まれる前からウィラー家に仕えているベイリーにピシャリと言われ、ポケットにしまったプレゼントを擦りながらトボトボと自身の執務室に向かうのであった。


その夜、サロンで父と晩酌を嗜んでいると、妹のクロエが飛び込んできた。


「お兄様!」

「どうした?クロエ」

「レティにプレゼントはお渡しになりませんでしたの?」

「あ〜…それは、だな…」

「まったくもってヘタレですわね。世の女性をちぎっては投げ、去るもの追わず来る者拒まずのようなご容姿をされてらっしゃるのに!」

「えっ!酷い!!俺、そんな事しないよ」

「黙らっしゃい!その容姿と余裕のある大人フェロモンを有効活用しろ!と言ってるんです!」

「まぁまぁ、クロエ。ロイドは外見詐欺みたいなモノだから、温かい目で見守ってやってくれ」

「えっ!父上も酷い…」


俺と同じミルクティー色をしたふわふわの髪の毛に、エメラルド色の瞳の小柄な美少女の妹クロエと、ダークブラウンの髪の毛に、同じくエメラルド色の瞳をした父ルーカスが捲し立てる。

「まったく。何故こんなにも女性に対して奥手なのだろうか?早めに婚約者を見つけられて良かったな。今、大衆では恋愛結婚が流行しているんだろ?王弟殿下を始め、貴族たちも自由恋愛に移りつつある。うかうかしていると、学園で良い人に言い寄られたスカーレット嬢から婚約破棄されかねんぞ」

ワハハと笑いながら父上が恐ろしい事を言う…

「お兄様、本当に気をつけてくださいませ!私の大事な大事な大親友のレティが、どこの馬の骨ともわからない輩に奪われることなどあってはなりませんわ!!」


俺は、ハッとした。

スカーレット嬢は俺のものだ。あのツヤツヤのストレートロングのブルネットも、燃えるようなルビー色の瞳も、綻ぶような笑顔(妄想)も何もかも。

他の誰かに奪われるかもしれないだって?

冗談じゃない!初恋なんだぞ!

15歳で婚約してから5年間、ずっと想い続けているんだぞ!!


「父上、クロエ。所要ができたので自室に戻ります。おやすみなさい。クロエも早く休みなさい。夜更しは美容に悪いぞ」

俺は足早にサロンを後にする。

「あぁ、おやすみ」

「おやすみなさ〜い」


ロイドが去った後、父とクロエは顔を見合わせニンマリとする。

「上手くいったわね」

「こうでもしなきゃ動かんだろ。ロイドは仕事や策略に関しては超一流なんだがなぁ。跡継ぎとして申し分ない能力があるからこそ、将来の夫婦仲は良好であってもらいたい。私は早く、ヴィクトリアと隠居生活を送りたいんだ!」

「お父様、宰相のお仕事があるんですからそれはまだまだ無理でしょう。お母様も、私とレティの社交界での地位を確立させない限り、まだ田舎には引っ込まないと思いますよ」

「そうなんだよなぁ…。18歳の今年がやっとデビュタントか。まだ先は長そうだ…」

「お父様、お母様への執着も大概になさらないと嫌われますわよ。ところでお母様はどこへ?」

「今日は王妃様に呼ばれている。いつものことだから帰りは遅くなるだろう」

「いつもの女子会(旦那の愚痴大会)ね」

「この年になっても女子会とか、本当に可愛い人だ」

「……夫婦仲がよろしくて結構。では、おやすみなさいませお父様」

「あぁ、おやすみ」


ウィラー公爵家の夜は更けていった。

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