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第8話 昼休みの赤ずきん

時間は正午の昼休憩。大松は訪問先から会社へ帰る途中に外食をしようと店を探していた。


「どこかに激辛料理の店は無いかな?」


相変わらずの激辛好きの大松だが、店より先にある女性に目が止まった。今日も赤いワンピースにハイヒール、ブランド物のカバンと派手な服を来ており周りの男性からはエロい目線で女性からは羨ましいという目線で見られていた。


(こんな昼間からお洒落して何処に行くんだろう?もしかしたら…。デートとか!?)


前回の飲み会であれほど『男』と連発していた赤ずきんが昼間からお洒落して行くなどデートしかないと大松は考えた。大松は赤ずきんに悪いと思ったが後を着いていくことにした。しかし徐々にデートスポットからは離れて人気のない路地に入っていくのが見えた。


(いったい何処に行く気なんだ?)


大松も路地裏へと入っていった。そこに入るとモクモクと白い煙が立ち込めて、いつの間にかビルが立ち並ぶ大通りの真ん中へと立っていた。


「あれ!?どうなってるんだ!?さっきまで路地裏にいたはず…。」


大松はある異変に気づいた。こんな大通りのど真ん中に立っているが車が1台も通らない、辺りを見回しても人っ子一人もいない。


「一体ここはどこなんだ?」


大松は不思議そうに辺りを見回していると後方から走ってくる音が聞こえてくる。身の危険を感じるが大松は振り向いた。


「なんで大松さんがいるんだよ!!」


走ってきていたのは赤いワンピースを着た赤ずきんだった。


「すみません…。赤ずきんさんを見かけたので着いてきてしまいました。」


「普通の時なら何も言わないが、あたいの仕事現場に来たから別だ。早くここから帰りな!危ない目にあうよ!」


大松は思い出した赤ずきんの仕事はモン〇ン的な怪物と戦う仕事だと言うことを。


「ま、まさかここのどこかにドラゴン的な何かがいるんですか!?」


「ドラゴン!?そんなもんは複数人でやらないと勝ち目はねぇよ!今日は子供のミノタウロスだ。そんなに手こずらないと思うが…。待てよ…。大松さんを手ぶらで帰らせる訳にはいかねえ。」


 赤ずきんはワンピースの裾を太ももが見える位置までたくしあげた。


「赤ずきんさん!急に何してるんです!?」


 大松はすぐに顔を手で覆った。


「別に見せびらかしてる訳じゃないからな。ほら、大松さんこれを貸してやるよ。」


 赤ずきんの太ももにはホルスターが装備してありその中に拳銃がセットされていた。その拳銃を護身用として大松に渡そうとしたのだ。


 「一応だ。銃の使い方はエアガンと一緒って覚えときな。トリガーを引いて、狙いを定めて撃つ。これが基本だ。おぼえ…。」


 大松への説明の最中に赤ずきんは後ろに気配を感じた。 


 のし。のし。と地面を踏みしめる足音が聞こえてきた。


「本部の野郎。情報と違うじゃねえか…。何が子供のミノタウロスだ…。」


 大松は恐怖のあまり尻餅をつき、赤ずきんは勢いよく振り返った。


 そこにいたのは身長が2メートル程の牛の頭に毛むくじゃらの巨体をしているミノタウロスだった。


「まさかこんなに早く出会うとは…。大松さん!!早く逃げな!!こいつは私が仕留めるよ。」


「頑張って!赤ずきんさん!!」


 赤ずきんはブランド物のカバンの中からショットガンを取り出した。どうみてもカバンには収まらない長さだ。


 ドン!ドン!と二発撃つもミノタウロスはビクともしない。それにミノタウロスは興奮しているように見えた。


「やっぱり赤色の服は止めとくべきだったか。」


 ミノタウロスが闘牛のように赤ずきんへ突っ込んでくる。赤ずきんはそれを闘牛士のように華麗に避けるとカバンに手を突っ込み次はナタを取り出した。


「その角もらった!!」


 カバンから取り出したと同時にナタを振り下ろしミノタウロスの右角を切り落とした。


「モオゥゥー!!」


 ミノタウロスは怒りに身を任せ暴れ始め、その一撃が赤ずきんを直撃し建物の壁まで飛ばされ叩き付けられ、持っていたカバンは吹き飛ばされてしまった。


「くそっ!レディに対してなんて野郎だ。」


 赤ずきんが怯んだ一瞬にミノタウロスが迫り、首を掴み持ち上げた。


「あたいはここで死ぬのか?まぁ、大松さんが逃げたからいいか…。」


 赤ずきんの視界が暗くなっていく。その時だった。一発の銃声が響きミノタウロスに命中した。


「赤ずきんさんを離せ!!この牛野郎!!」


 なんとそこには逃げたはずの大松がいたのだ。ミノタウロスは赤ずきんを離して大松へ突進していく。


「ヤバい!!僕はどうしたら!!」


(大松よ…。そのカバンから剣を取り出すのだ。)


 どこからともなく聞こえた声に不思議な声に大松な迷いなく従った。いや心の中で従わなければならないとそう感じたのだ。


 大松は急いでカバンに向かい剣を探すがなかなか見つからない。ミノタウロスはもうそこまで迫ってきている。大松はやっと剣のグリップを掴んだ。


(あとは私がやる。)


 不思議な声がこう言うと大松の意識が一瞬飛んだ。次に意識が戻るとミノタウロスの頭部と体が離れており、手には刃の部分にミノタウロスの血がついた剣を持っていた。


「僕がやったのか…?」


「すげぇな大松さん…。まさか、一振でミノタウロスの首を切り落とせるなんてな。」


 傷ついた赤ずきんがヨロヨロと大松の元に歩いてきた。


「赤ずきんさん!!大丈夫ですか!?」


 大松が肩を貸すとヨロヨロが治りしっかりと歩けるようになった。


「大松さんが来てくれなかったら、あたいは死んでたよ。ありがとな。」


「僕も女性である赤ずきんさんを置いて逃げるなんてやっぱり出来ませんからね。」


 大松の優しい言葉に赤ずきんは顔を赤らめた。


「もしかして照れてます?」


「照れてなんかないよ!!戦闘の傷で頬が赤くなっただけだ!!」


「素直じゃないですね。赤ずきんさんは。」


「うるさい!!」


 二人はそんなことを話ながら仲良く童話荘へと帰っていった。






 























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