第6話 2人目きたる!
「るんるんるん~ですの~」
シンデレラは鼻唄を歌いながら、いつものねずみ色のジャージとミントグリーンのエプロンをしてフライパンで肉と野菜を炒めていた。するとシンデレラのスマホにメールの着信が入った。
「大松さんからですの?」
発信者は大松でシンデレラは内容を読み始めた。
「童話荘に用事がある全身真っ赤の女性と入口にいます。廊下から見て本当に童話荘の人か確認してください。ですの?全身真っ赤の女性…。もしや!!」
シンデレラはガスコンロを消してエプロンを取らないまま部屋のドアを開けて廊下から下を確認した。そこには大松の例の女性が立っていた。
「間違えないですの!!」
姿を見て確信したのか、シンデレラは2人に向かって手を振り始めた。
「赤ずきんさん!お帰りなさいですの~!!急に帰ってきてどうしたんですの!?」
「シンデレラ!久しぶりだな!元気にしてたか!!急に休みになってしばらくこっちにいるんだよ!!」
例の女性がシンデレラに手を振り返した。
「やっぱり、童話荘の住人だったんですね。」
大松はホッとして胸を撫で下ろした。
「なんでホッとしてるんだ?」
いつの間にか赤ずきんの大松に対する言葉遣いが敬語からタメ口に変わっていた。
「いやぁ~。童話荘に用事がある人なんて、何か裏がありそうだと思い込んでしまいまして。」
「アタイは裏も表もないぜ。もしも童話荘を狙っている悪いやつなら人なんかに聞かずに殴り込みで行くけどな。」
「2人とも何をはなしているんですの!!早く私の部屋に来てご飯を食べるんですの!!」
シンデレラに呼ばれた2人は階段を登りシンデレラの部屋にお邪魔した。
「土産だ!シンデレラ!」
赤ずきんはビニール袋パンパンに入った缶ビールをシンデレラにお土産だと言って渡した。
「ありがとうございますですの!今夜はパァーと!!飲み明かすですの!!」
本日は金曜の夜。大松は翌日仕事が無いために皆でワイワイするのは賛成なのだが、シンデレラが酔うと大変になることを忘れていなかった。
「シンデレラさん。前みたいにならないようにお酒は控えめにお願いします。」
「分かってますですの!!お二人は座って待っててくださいですの。」
シンデレラは座布団を2枚置き折りたたみ式の机を開いた。その座布団の上に2人は胡座をかいて座った。
「そう言えば自己紹介がまだだったな。アタイの名前は赤ずきんって言うんだ。文字通り童話の『赤ずきん』から来たって訳さ。」
「僕は大松達郎といいます。三間自動車営業部に通う者で、特に紹介はありません。」
「大松さんはなんの童話から来たんだ?」
「それがですね…。」
大松は自分が童話の登場人物では無く、大家さんの勝手な発案で童話荘に住むことになったと赤ずきんに説明した。
「なるほどな。あの大家さんも大胆な事をしたもんだな。異文化交流なんて面白いじゃないか!!」
大松は赤ずきんもシンデレラ同様のリアクションをとるかと想像したが、案外簡単に納得してくれた。
「三間自動車で働いているんだって~。大手じゃないか!私も名前を知っているくらいだしな。」
「赤ずきんさんは何の仕事をしているんですか?」
「アタイかい?アタイはハンターを生業にしてんだよ。」
「ハンターですか?あの害獣とかを駆除して農作物を守るやつですか?」
「違う!違う!そういうのじゃなくて、童話省の下で働いてて無断で童話の世界からこっちの世界にやってくる奴らを取り締まる仕事をしてんだよ。その中でもアタイはドラゴンとか怪物を相手にしてるんだよ。」
(ま、まさかのモン〇ンタイプの仕事!?)
大松は驚きを隠せなかった。大松は曖昧な記憶を辿り『赤ずきん』の物語を想起した。
(たしか狼にお婆さんが食べられて、それに騙された赤ずきんも食べられたんだよな…。そんな怖い思いをしているのにどうしてハンターなんかに…。まさか…。ハンターから助けられた後に狼を痛めつけたから、痛めつける快感を忘れられずにハンターになったとか!?合法的にドラゴンとかを銃で撃てれるからとか!?)
大松は勇気を出してその質問をした。
「アタイがどうしてハンターになったかって?それは、助けて貰ったハンターに憧れたからなんだ。」
「やっぱりそうですよね~。」
「やっぱりってなんだよ?」
「いや別に何もないです~。」
大松はさっきの危ない考えを胸にしまい込んだ。
「さあ!出来たですの!!」
シンデレラは大量の野菜炒めを皿に盛り付けて机に置いた。
「さぁ!パーティーの始まりだ!!」
ここから楽しい夜が始まるはずだったのだが…。