教えてください大家さん
「本当に童話の中からやって来てないですの!?」
「シンデレラさん、さっきから何を話しているのかさっぱり分からないんですが…。」
「本当に!本当に何を話しているのか分からないですの?」
「はい。全く分かりません。」
達郎は迷うことなくシンデレラの質問に即答した。
「これは大家さんに突撃して聞くしかないですの!!」
シンデレラは箸を持っている達郎の腕を有無を言わさず掴み、部屋を飛び出し階段を駆け下りた。
童話荘の横に小さな庭付きのどこか懐かしい感じの平屋が建っている。どうやらここが大家さんの家らしい。
シンデレラは玄関の『ビィー』となる旧タイプのチャイムを連打する。
『ビッビッビッビッビッ』
連打しすぎて伸ばし棒の所までチャイムがなる前に次の頭の音が流れてしまう。
「シンデレラさん。こんな朝早くから起きていませんよ。」
「あのお爺さんなら起きているに決まっているですの!!」
「その通りじゃ…。」
2人の背後から弱々しい返事が返ってくる。
大松とシンデレラが驚きながら振り返るとそこにはヨボヨボでツルツルに禿げた杖を突いたお爺さんが立っていた。
「大家さんったら!!びっくりさせないでほいしですの!!」
「ほほ…すまんかったのう…。」
体を小刻みに震わせて大家さんはシンデレラに言葉を返した。
「大松さんもビックリって…どうしたんですその顔!?」
大松は眉を顰めるようにして大家さんを凝視していた。
(この爺さんどっかで見たことあるぞ!!!)
このヨボヨボな感じツルツルと禿げた頭…。たしか3ヶ月前くらいに…!!
「思い出した!!地域密着不動産のオーナーさんだ!!」
「よくご存知ですの!この大家さんは不動産のオーナーもしているですの…って、まさか大家さんが大松さんに童話荘を紹介したんですの!?」
「ばっちぐーじゃ。」
「ここは童話の登場人物だけが住める借家じゃなかったんですの!?」
「いぶんかこうりゅうじゃよ。(ニコニコ笑顔)」
「異文化すぎですの!!私たちの素性は一般の人には知られては駄目だと条約で決まっているんですのよ!!」
「大丈夫じゃ、今回は童話省のお偉いさんと話をつけてな、大松さんを特別にだそうじゃ。」
「特別ってですの…。」
「あの~すみません。」
話の流れに全く着いて来れない大松は2人の会話に割って入ってきた。
「今の話を聞いたところ本当にシンデレラさんはあの有名なシンデレラなんですか?」
「だから最初から言ってるですの。」
「もし本当なら証拠を見せてほしいんですけど…。」
「証拠ですの?」
シンデレラは上下ボロボロのネズミ色のジャージとミントグリーンのエプロンのポケットを探るが、レシートやラップの切れ端くらいしか出てこない。
「なら、童話跳躍を見せたらいいじゃろう。」
「でも童話省が一般人には見せてはダメだと言ってたですの!!」
「それとさっきから出てくる童話省って何ですか?日本にはそんな省はないですけど…。」
「童話省とは童話の世界とこの世界を結び管理する機関ですの。まさか童話跳躍も上の人から…。」
「見せてもいいそうじゃ。」
「分かりました。童話跳躍をやるですの。でも私の世界にはあまり居たくないので直ぐに返って来るですの。」
「そうと決まればわしの家の中へ上がりなさい。」
大家さんが大松とシンデレラを自宅の居間へ案内すると、シンデレラは直ぐに本棚に綺麗に並べられている幼稚園児が読むくらいの薄い童話の本の中から自分の本を持ち出し居間の床にページを開いて置いた。そのページには言葉や背景が書いてあるが肝心の主人公であるシンデレラの姿が描かれていない。
「では始めるですの。」
シンデレラが本の上に手をかざした。
「我が物語に命じるですの。私を元の世界に戻すですの。」
すると開かれているページから虹色の光が現れシンデレラを包んだ。大松は眩しく手で目を覆ってしまった。光が無くなるとそこにはシンデレラの姿がなかった。
「あれ!?シンデレラさん!?」
大松は開かれている絵本のページを見ると先程はなかったかぼちゃの馬車に乗るシンデレラの絵がページには描かれていた。
そしてまた直ぐにページが光り出す。今度はちゃんと確かめようと大松は目をひん剥き光量に耐えた。すると光の中からシンデレラが現れ居間に降り立った。
「本当にシンデレラさんがシンデレラだったんですね…。」
「やっと分かってくれたんですの。うれしいですの!」
「大松さんや、このままいぶんかこうりゅうを続けてくれるかの?」
「もちろんですよ!!こんなに不思議で面白い出来事はないですよ!それに家賃が安いなんて最高です。」
(やっぱり家賃ですの)
心の中でここまで秘密を話しても家賃で決めるのかとシンデレラは思ってしまった。
「ですけど!これから楽しくなりそうですの!!よろしくですの大松さん!!」
「はい!よろしくお願いします!!」
晴れて大松の新生活がやっと始まります。