第10話 ゾンビと赤ずきんさん
「よし!今日はゲームをしよう!!」
今日は日曜日で大松の会社はお休み。そのため大松は上下ジャージでラフな格好でいる。大松はまだ段ボールの中にあるゲーム機を取り出した。それはハントガンを模したコントローラーと据え置きハードがワンセットになっている最近では珍しいゲームだ。
「久しぶりだな。ゾンビハント。持ってきておいてよかったよ。」
大松は取り出したゲーム機をテレビに接続して、ゾンビハントのディスクを入れた。ディスクを入れると画面に『SEDO』と企業名が写し出され始まった。最新式では無いため画像は荒いがゾンビの迫力は満点だ。簡単に説明すると廃墟の中を彷徨いつつゾンビを撃って倒していくシンプルなゲームだ。
「ここでこうして…。くそっ!久しぶりにやると燃えるな!!」
大松の隠れたゲーム魂に火が着き何度もやるがなかなかクリアができない。
「くそっ!なかなかクリアできないな…。だれか得意そうな人はいないかな…って赤ずきんさんならいけそうじゃない?ついでにシンデレラさんにもやってもらうかな。」
大松は最初にシンデレラの部屋に行ってチャイムを押した。
「大松さん?どうしたんですの?」
出てきた赤ずきんは鞄を持ってジーパンにフリル付きの服を着て外出する準備をしていた。
「今から赤ずきんさんを誘ってゲームをしようと思ってるんですけど、お仕事ですか?」
「ごめんなさいですの。今からお仕事で、また今度誘ってくださいですの。」
「それなら仕方ないですね。またお誘いします。」
次に向かったのは103号室の赤ずきんさんの部屋。部屋の前に着くとシンデレラの部屋同様にチャイムを鳴らした。
「赤ずきんさんいらっしゃいますか?」
「大松さん?一体どうしたんだい?」
「実は手伝ってほしいゲームがありまして…。シューティングゲームなんですけど、どうですか?」
「シューティングゲームだと!!」
赤ずきんは威嚇するかのように声を荒げた。それを聞いた大松はやっぱりか…と思った。赤ずきんにとって銃を使うということは命を懸けて戦うというのに等しい。その覚悟を遊びなんかで汚そうなんて申し訳ないと心の底から謝ろうとした。
「申し訳…。」
「OK!早くやろうぜ!」
「いいんですか?」
「もちろん」
さっきの威嚇するような紛らわしいい返事は一体何だったんだ?と理由を聞こうとしたが赤ずきんは大松を押しのけ大松の部屋へと向かった。赤ずきんは部屋に着くとコントローラーを手に持ち画面に向けた。
「大松さん!こっからどうすればいいんだ?」
「テレビに向かってトリガーを引いてください。そうすればゲームがスタートします。」
「おっしゃ!あたいが簡単にクリアしてみせるぜ!」
赤ずきんがトリガーを引きゲームが再開すると、すぐさまゾンビが襲ってきた。
(赤ずきんさんなら楽勝だ!)
だが、大松の予想を大きく裏切り赤ずきんはゾンビに瞬殺された。心なしか赤ずきんがブルブルと怯えているように見えた。
「赤ずきんさん?大丈夫ですか?」
「あたいかい?大丈夫…。」
赤ずきんが振り返る。
「じゃない…。」
振り返った赤ずきんは目に涙を浮かべ今にも泣きじゃくりそうに顔と目を真っ赤にしていた。
「まさか…ゾンビが怖いんですか?」
赤ずきんは何も言わず小さくコクリと頷いた。
「本当ですか!?ミノタウロスにも果敢にも挑み、他にも色んなモンスターを倒しているあの赤ずきんさんがですか!?」
「うっせえな!怖いもんわ怖いんだよ!童話省の任務だってゾンビとか幽霊がターゲットなのは断ってるし、怖い話なんて聞くと一人で共同トイレにも行けないんだよ!」
赤ずきんは恥ずかしさを紛らわす為か大声で自白したが、大松は普通の女の子ならゾンビや幽霊が怖いのは分かるが、敵の前だと泣く子も黙る狂犬のような赤ずきんがそれらを怖がるのに驚きを隠せない。
「それなら、このゲームで苦手を克服したらどうですか?ゾンビが大丈夫になればこれからの童話省の仕事も受けれる幅が広がりますよ!」
「大松さんがいうなら挑戦してみるけどよ…。」
赤ずきんは渋々了承した。
「まず一つ目はゾンビをカボチャだと思うことにしてみましょう。」
「カボチャ?なんでカボチャなんだ?」
「なんでと言われましても、他の人から教えてもらったのでどうしてだか何でか分からないですよ。」
「そうか…。一度やってみるよ。」
赤ずきんはコントローラーを握り、ゲームがスタートした。
(ゾンビはカボチャ!ゾンビはカボチャ!!)
スタートと同時にゾンビが急に襲ってきた。
「ぎゃぁぁあ!!ダメだ!!やっぱり無理!!」
赤ずきんはゾンビを攻撃する間もなくまた倒された。
「あたいにはやっぱり無理だよ。ゾンビなんか倒せっこないよ。」
「ダメでしたか…。二つ目に行きますか?」
「まぁ、一応やってみるか。無理だと思うけどな。」
「二つ目は自分の一番嫌な奴を想像することです。」
「苦手な奴を倒すのに困ってて一番嫌な奴を想像するってダメじゃないか?」
「そうでもないですよ。嫌な奴ほど攻撃したくなるものですよ。」
「そういうもんなのか?」
赤ずきんは大松の言うことを疑いながらもコントローラーを握った。
「そうだな。あたいが一番嫌な奴はやっぱりお婆ちゃんを食った狼だな。」
赤ずきんはゾンビは狼だと自分に言い聞かせてゲームを始めた。
「やっぱり無…。あれ?怖くない…。ゾンビは狼だ!!」
大松の作戦は見事に成功し、赤ずきんはゲームをクリアした。
「見事です!赤ずきんさん!」
「大松さんのおかげだよ。ありがとな大松さん!!これであたいもゾンビの任務はこなせるよ!」
ゲームのおかげで仕事の幅が増えた赤ずきんであった。