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075 アカデミーの生活

 翌日から、さっそくアカデミーの生活が始まる。

 俺はシュナと一緒に、一つ目の講義が始まる教室へ向かっていた。


 元々、俺がアカデミーに入学しようと思ったのはノアと再会するためであり、その目的は既に果たされた。

 そのためダンジョン攻略やレベル上げを優先してもいいのだが……幾つかの理由からアカデミーには通うことにした。


 まず、アカデミーを運営するのがノアであり、教師や講義内容は一定の水準にあるであろうこと。

 そして今は出払っているらしいが、対策組織の面々もアカデミーに所属しているという話から、ここを拠点にするのが一番動きやすいこと。

 他にも、アカデミーから離れることをレーナが許してくれるはずがないなど、細々とした理由は幾つもあるが……


「? どうかいたしましたか、ゼロス様?」


「いや、何でもない」


 メイド服姿で小首を傾げるシュナにそう返しつつ、俺は彼女がここにいる経緯を振り返る。


 シュナは幼い頃から王立アカデミーに憧れていたが、多大な費用が必要となるため諦めた過去があった。

 俺はそんなシュナに頭を下げて、自分の従者になってもらったのだ。

 恩人である彼女が夢を叶える機会を邪魔するつもりはなかった。

 それが何より大きな理由である。


 それに、アカデミーの講義はその多くが選択制。

 紋章ごとに必要な講義内容が違うこともあり、自分が興味のあるものを中心に受けることができる。

 そしてノアの話によると、対策組織の人間は単位もある程度融通が利くとのことなので、その辺りも問題ない。


 とまあ色々と語ったが、簡潔にまとめると、せっかくアカデミーに入学したのだから学べることだけでも学んでやれということ。

 今日は【魔導の紋章】と【剣の紋章】の講義があるため、順に参加するつもりだ。



 ◇◆◇



 朝一番の講義は、【魔導の紋章】の持ち主を対象とした基礎理論だった。

 教室に入ると、途端に周囲の視線が俺たちに集まる。



「あれって確か、【無の紋章】で主席のゼロス・シルフィードだよな……?」


「うんうん。昨日のノエル様との戦いは凄かったわね」


「でも、スキルは使えないんだよな? なんでこの講義にいるんだ?」



 ざわめきが教室内に広がる中、背筋をピンと伸ばした女性教師が入室してきた。

 年齢は40代前半で、貫禄のある人物だ。


「静かに。それでは講義を始めます」


 教師の一言で、教室内の私語は瞬時に収まった。

 彼女は黒板に向かい、幾つもの魔法陣を描いていく。


「今日は並列魔法の基礎について。複数の魔法を同時に扱う際の要点を説明していきます」


 黒板いっぱいに広がる魔法陣を指し示しながら、教師は理論を解説していく。

 並列魔法とは、魔力の流れを制御し、同時に複数のスキルを扱う技術。

 『クレオン』時代から存在している概念であり、ランキング上位の【魔導の紋章】持ちは全員使用可能だった。


 その知識が、初めて学ぶものにも分かりやすく解説されていく。

 隣にいるシュナも真剣な表情で講義に聞き入っていた。

 時折メモを取る手が止まり、教師の説明に目を輝かせている。


(……よかった)


 そんなシュナの横顔を眺めつつ、俺は心からそう思うのだった。

新章開幕!

あと一話ほどアカデミーの生活を書いた後、ダンジョン編に入ります!

懐かしのキャラクターが再登場する予定なので、ぜひ予想しながら楽しみにお待ちください!


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