061 規格外の受験生
ゼロスが実力試験を受ける数刻前。
教師たちが集まる別室では、とある騒ぎが発生していた。
彼らの前にあるのは、午前中に行われた筆記試験の答案たち。
採点中、彼らは一枚の答案を前に動きを止めることとなった。
解答者はゼロス・シルフィード。彼の答案には一つ、教師たちを大いに驚愕させる内容が含まれていた。
「信じられん……まさか、最終問題を正解する受験生が現れるとは」
そう。それはずばり、ゼロスが前世の知識を頼りに解いた最終問題について。
この問題を正答できたのは、数いる受験生のうちゼロスただ一人だけだった。
教師たちは顔を見合わせながら、各々の感想を口にしていく。
「最終問題って毎年、学院長自ら用意する問題ですよね?」
「そうだ。どれも決まって超高難易度の問題となっており、教師ですら解説されても理解できないものがほとんどだ。ちなみに今回の問題も私は理解できなかった」
「そんな自慢げに言わなくても……」
「仕方ありません。私は数十年このアカデミーで教師を務めていますが、正解者が出たのは今回が初めてですよ。しかもあの方が用意した模範解答通り」
「……まだ動揺が抑えられん。これまでも幾度となく、学院長になぜそのような問題を出すのかと尋ねても、『私にはある考えがありまして』と答えられるのみで、意味などないかと思っていたのだが……まさかこのようなことになるとは」
戦々恐々とする教師陣。
そんな中、若い男性教師が「あっ」と何かに気付いたような声を出す。
「でもこのゼロス・シルフィードって、【無の紋章】みたいですね」
「何だと!? それではいくら筆記試験の成績が良かろうと、実力試験で落とされるではないか!」
「しかし、これだけの才能を切り捨てるのは勿体ないですね。特待生制度を一部利用し、文官枠として受け入れられないか考えた方が――」
教師たちが議論を交わし合う一方――
その隣では、実力試験の試験官を務める教師たちもまた盛り上がっていた。
「今年はなかなか豊作だな」
「ええ。治癒の試験ではかの聖女が歴代最高得点を記録し、剣の試験ではファルティス家の剣聖の息子が最終段階――レベル50想定の案山子を斬り伏せたみたいですよ」
「なっ! 本当か!? そのようなこと、過去に例がな……いや、つい最近あったか」
「2年前のシルフィード家の才女ですよね。試験時点で彼女が紋章獲得から4か月なのに対し、今回は5か月のようですから、一応シルフィードの方が上ということになりますが……」
「最終段階までいけているのであれば後は誤差だ……もっとも、紋章獲得から一か月以内で成し遂げたとでもくれば、話は別だがな!」
冗談だと言わんばかりに、ガハハと笑う試験官。
その直後だった。
実力試験が終わりを迎えかけたその時、一人の試験官がバッと立ち上がる。
「剣の試験でもう一人、最終到達者が出ました! 記録は58秒!」
ざわっ、と。
隣の筆記試験担当の者たちを含め、室内が一気に賑わいだす。
「それは本当か? 剣聖の息子以外に、有望株がいた覚えはないが……」
「ええっと、達成者はシルフィード家の者です!」
「……ああ、そういえばあそこには【全の紋章】を持っている者がいたか。それなら――」
「いいえ違います! そちらは40レベル相当止まりでして、それでも十分凄いのですが……今回50レベルまで到達したのは他のシルフィード家です!」
「他、だと?」
注目を集める中、彼は大声で叫ぶ。
「ゼロス・シルフィード――【無の紋章】持ちで、紋章獲得からはまだ一か月未満です!」
「「「…………………………」」」
しばしの間、室内には沈黙が続き――
「「「えええええええええええええええええええええ!?」」」
次の瞬間、学院全てを揺らすほどの大声量が鳴り響くのだった。
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