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059 筆記試験と魔法陣

 王立アカデミーの入学試験は、筆記試験と実技試験の二項目が存在する。

 最初に行われるのは筆記試験であり、俺は案内に従って試験会場に向かった。


(ここが会場だな)


 中に入ると、緊張感の漂う空気が俺を包み込む。

 周囲を見渡すと100人近い受験生が着席しており、これと同じ規模の会場があと何個かあるという話だ。

 全員、真剣な面持ちで試験開始の合図を待っていた。


 俺も指定された席に着き、小さく深呼吸する。

 人数が揃ったタイミングで、試験官の声が響いた。


「筆記試験を開始します。制限時間は2時間。それでは、始めてください」


 鐘の音とともに、一斉に問題用紙をめくる音が響く。

 俺も素早く問題に目を通し始めた。


 試験内容の多くは、基礎的な問題ばかり。

 歴史、数学、国語、そして魔法理論。

 これらの問題は、ゼロスとして生きてきた記憶を利用すれば容易に解ける。


(思ったより基礎的な内容が多いな。この程度なら、問題なく解き進められ……)


 スラスラと解き進める俺だったが、最後の問題を前にペンを止めた。


(ん? この問題は……)


 それは、ゼロスの知識では答えられない問題だった。

 具体的にはこうだ。



『問題:以下の魔法陣の問題点を指摘し、改善せよ』



 その下には、複雑な幾何学模様の魔法陣が描かれていた。

 一見すると普通の魔法陣に見えるが、よく見ると微妙に不自然な部分がある。


(これは……どこかで見たことがある気がするが……)


 俺は眉をひそめながら、その魔法陣をじっと見つめた。

 そして、ふと気付く。


(そうか。これはゼロスとしてじゃなく、前世の――クレオンのスキル開発システムで見た魔法陣だ。確か、特定の魔法スキルを発動するためのものだったっけ)


 魔法を開発する方法は幾つもあるが、そのうちの一つに、一から魔法陣を作成するという手段があった。

 運営のこだわりか、クレオンでは魔法陣の形や仕組みについてしっかりとした規則性を設けており、それを理解することが開発の近道になったりしたのだ。


 当然、俺もその規則性については細部に至るまで把握している。

 【魔導の紋章】持ちのサブアカウントを使う際に必要だったのもあるが、それ以上に――



『ねえゼロニティ、新しい魔法の開発手伝ってよ! この魔法陣、どこか間違ってるみたいなんだけどアンタの目でも確かめて! ほら、お願いお願いお願い~!』



 ――と、スカーレットの魔法開発に付き合わされる機会が多々あったからだ。


(ゲームではシステムの一つ程度にしか捉えてなかったけど、試験問題として出されるってことは、この時代ではちゃんとした研究材料になってるってことだよな。これは勉強不足だったな……)


 過去を振り返るのも程々に、俺は改めて魔法陣に視線を落とした。

 よくよく見てみると難易度自体は決して高くなく、改善点についてもすぐに見つかった。


(ここをこう書き換えて、っと……内容的には初歩中の初歩だったな)


 これでよし。

 そして俺が全ての解答欄を埋め終えてからしばらく経った後、試験の終わりを告げる鐘が鳴り響くのだった。



 ◇◆◇



 筆記試験が終わると、すぐに実技試験の案内が始まった。


「実技試験は、各受験生の紋章に応じて内容が異なります」


 試験官の説明に、会場内がざわついた。


「【剣の紋章】や【魔導の紋章】など、紋章ごとに専用の試験会場を用意しています。そして特例として、【全の紋章】の方は好きな試験を一つ選択することができるようになっています。今年は数名いらっしゃるようですね」


 試験官の声を聞き、受験生たちが「おおっ」と湧いた。

 やっぱりこの世界ではクレオンと違い、【全の紋章】が優秀な扱いをされているのだと実感する。

 あっ、ディオンの奴が得意げな顔をしてる。


(ってあれ? ちょっと待てよ……)


 先ほどの説明に、【無の紋章】持ちに対する指示がなかった。

 続けて言われるものかと思ったが、試験官の様子を見るにそんなこともなさそうだ。


 仕方ない。

 俺がゆっくり手を挙げると、試験官がこちらに気付いた。


「そちらの方、何でしょうか?」


「【無の紋章】持ちがどうすべきかについて、聞かせてもらっていいですか?」


 その瞬間、会場中がざわっと揺れるのを感じた。

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