054 オリジナルスキル
翌日。
俺はさっそく目的の継承祠へと向かっていた。
王都から半日ほどかかる『アランディルの森』の、そのさらに奥地。
そこにはポツンと、一つだけ石造りの台座が置かれていた。
「よかった、健在みたいだな」
ホッと胸を撫でおろした後、台座に手を置き、その合言葉を口にする。
「“絶対なる剣意よ、我が資質を試せ。今こそ剣帝の扉が開かれんことを”」
それは運営の用意した合言葉とも異なる、ある人物固有のキーワード。
そして、
『キーワードを確認しました』
『紋章名:【無の紋章】を確認しました』
『条件を満たしています。試練の扉が解放されます』
そんなシステム音が鳴り響くと共に、ギギギと音を立てて台座がズレ動く。
するとそこには、下へと続く長い階段が待っていた。
シュナと共に攻略した【冥府の霊廟】を彷彿とさせる光景だ。
「よし、行くか」
気合を入れた後、ゆっくりと階段を下り始める。
その途中、俺は前世のゲーム知識を振り返っていた。
『クレスト・オンライン』のスキル獲得方法は、基本的に初期スキル、成長スキル、継承スキルの三つ。
しかしリリース開始からしばらく経った後、あるシステムが追加された。
それこそがスキル開発システム。
高難易度ダンジョンの攻略や、限定クエスト突破で入手できるアイテムを消費することで、自分専用のオリジナルスキルを作れるのだ。
スキル内容は剣技であったり、特別な魔法だったり様々。
時にはアイテムの付随効果を抽出して、スキルとして活用できるようにするというのもあった。
ふと、よくパーティーを組んでいたスカーレットの言葉を思い出す。
『聞いてよゼロニティ! せっかく新しい魔法を開発したのに、そこらの魔物相手だとすぐに死んじゃって実験できないの! えっ? 「あの町のイベントクエストで登場するドラゴンはかなり頑丈だから試し撃ちにはちょうどいい。俺もよく剣技の実験台にしてる」って? ……最高じゃない! ちょっと行ってくるわ!』
――このように、スカーレットはこのシステムを好んで利用していた。
魔法職の場合、前衛職に比べてカスタムの自由度が高く、それが彼女にとっては合っていたらしい。
「アイツにはよく、新魔法の実験に付き合わされたっけ……」
苦い思い出を噛み締めつつ、思考をクレオンに戻す。
実はスキル開発に合わせ、もう一つのシステムが実装されていた。
それこそが継承祠作成。
そう。オリジナルスキルに限定して、それを他者に継承するための祠を作ることが可能になったのだ。
これによりクレオンは世界観に深みを増し、やり込み要素が増えたことで多くの廃人が生まれてしまったのだが……それはさておき。
勘のいい者ならもうお察しだろう。
現在俺が向かっているのは、オリジナルの継承祠である。
そして、それを作ったのは当然――
「……懐かしい光景だな」
そうこうしているうちに、俺はとうとう最下層へとたどり着いた。
内部は直径百メートル四方の真っ白な空間であり、汚れ一つ存在しない。
その空間に足を踏み入れた直後、再びシステム音が鳴り響く。
『挑戦者の入場を確認しました』
『挑戦者のステータスを解析しています』
『解析が終了しました。ボスが出現します』
すると、部屋の中心に眩い光が発生する。
数十秒後、光が収まった時――そこには一人の剣士が現れていた。
容姿、体格、立ち振る舞い、その全てに俺は見覚えがあった。
とはいえ、それは今ではなく前世の話。
「……ステータス」
唱えると、目の前にステータスが出現する。
――――――――――――――――――――
【ゼロニティの幻影】
・討伐推奨レベル:45
・試練のボス:【闘志継承】
・継承祠作成者の思念が籠った幻影の剣士。挑戦者のレベル、ステータス、スキル、およびオリジナルスキル【剣帝の意志】を使用可能。
討伐成功後、オリジナルスキル【剣帝の意志】が継承される。
――――――――――――――――――――
【剣帝の意志】Lv.1
・剣のスキル
・剣の装備時、HPとMPを除く全パラメータが10%上昇する。
――――――――――――――――――――
そう。何を隠そう、ここは前世の俺――ゼロニティが作った継承祠だ。
オリジナル継承祠の攻略条件は作成者が自由に決められるが、俺が考えたのはたった一つ。
それは挑戦者と全く同じステータス・スキルに加え、【剣帝の意志】という強力なオリジナルスキルを有した俺自身を打ち倒すというもの。
当然、戦闘スタイルや技量については当時の俺を反映させている(AIのため、再現に限りはあったが)。
難易度は高く、前世で他のプレイヤーに開放した際、攻略できる者はほとんどいなかった。
(一つのオリジナルスキルにつき、継承可能なのは10人までって制限があったけど……結局このスキルについては、5人しか継承できなかったんだよな)
ではなぜ。俺がそんな高難易度試練に挑みに来たのか。
それは当然、ここで得られる【剣帝の意志】が、剣士にとって喉から手が出るほど欲しい優秀なスキルだからだ。
「まさか、他のプレイヤーのために作ったクエストに、自分で挑戦する羽目になるとはな」
俺は幻影と向き合い、皮肉交じりにそう呟く。
すると、
『一部スキルの反映に失敗しました』
『剣の試練【闘志継承】を開始します』
『挑戦者はボス【ゼロニティの幻影】を討伐してください』
とうとう、試練開始を告げるシステム音が鳴り響いた。
俺が【守護者の遺剣】を掲げると、幻影も同じように剣を構える。
ちなみにだが、ステータスやスキルだけでなく装備についても反映されるため、幻影が持っている剣も【守護者の遺剣】と同じ性能だったりする。
つまり俺は正真正銘、真正面からこの強敵に勝たなくてはならないというわけだ。
「……望むところだ」
ゼロスとしてこの世界を過ごす日々の中、俺は知識や技量以外に大切なものがあることを知った。
学んできた全てを総動員すれば、勝つのは決して不可能ではないはず。
俺はここで、かつての自分を乗り越える。
「いくぞ、ゼロニティ」
『――――』
かくして、前世との対決が幕を開けるのだった。
実は『027 魔導の女帝』の段階で、少し伏線の張っていたスキル開発システムのお披露目でした。
次回は前世の自分との対決回! ぜひお楽しみに!
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