053 王都到着
ストーム・ウィングを討伐した数日後、馬車一行はとうとう王都へ到着した。
アレ以降は特にトラブルに見舞われることもなく、安全な旅路だった。
「君たちがいてくれたおかげで助かったよ」
「本当にありがとう!」
乗客たちは次々と感謝の言葉を残しながら、馬車を降りていく。
そんな中、最後に俺たちのもとにやってきたのは『夕凪の剣』の面々だった。
先頭に立つガレスが、ニカッと笑みを浮かべながら話しかけてくる。
「俺たちも感謝してるぜ。二人がいなけりゃ、ストーム・ウィングには勝てなかっただろうからな。ほれ」
「っと」
ガレスが投げてきた袋には確かな重みがあり、中には金貨が入っていた。
「これは……」
「今回の護衛依頼の報奨金の一部だ。ゼロスたちが受け取ってくれ」
「いいのか?」
「当然! それだけの仕事をしてくれたんだから、二人に受け取ってもらえねぇ方が困るってもんだぜ!」
……ふむ。
別に金銭目的で手伝ったつもりはなかったのだが、これだけ言われておきながら受け取らないのも失礼だろう。
俺は素直にガレスの申し出を受け入れることにした。
「わかった。それじゃ、ありがたく貰っておく」
「おう! それじゃあな!」
去っていくガレスを見送り、最後に御者たちからも感謝の言葉をもらうと、残されたのは俺とシュナの二人だけになった。
俺たちは軽く顔を見合わせた後、視線を目の前に向ける。
「それじゃ、俺たちも行くか」
「うん」
こうして俺とシュナは、改めて王都に足を踏み入れた。
停留所のすぐ横が商業区であるため、その賑わいぶりが視界に飛び込んでくる。
中心には巨大な街道が伸び、その周囲には様々な店が立ち並んでいる。
食品店、武具店、衣料店。その種類は多岐に及ぶが、どこも客に溢れて賑わっていることに違いはない。
その様子を見るや否や、シュナの目がキラキラと輝く。
「すごい賑わい……人の数も多いし、これが王都なんだね!」
「だな」
シュナの隣では俺も高揚感を抱いていたが、それは何も街並みの迫力に圧倒されているからだけではない。
俺にとって、ここが特別な場所だったからだ。
というのも、ここアレクシア王国の王都アレンディミアは、『クレスト・オンライン』において開始時に選べるスタート位置の一つ。
王都周辺には様々なダンジョンが存在し、環境にも恵まれているため、新アカウントを作る際は基本的にこの場所を選択していた。
もっと言うなら、ゼロニティ時代の拠点もここだったほどだ。
「……1000年も経っているせいか街並みはかなり変わったけど、名残みたいなのはあるもんだな」
「ん? ゼロス、何か言った?」
感慨深い気持ちになっていると、シュナがきょとんとした表情で俺の顔を覗き込んできた。
俺は首を左右に振ると、彼女に向けて告げる。
「いや、何でもない。それよりまずは、試験まで滞在する宿を探そう」
「そうだね。行こっか、ゼロス!」
観光も程々に。
ひとまず俺たちは宿探しを始めることにするのだった。
数十分後。
商業区にある宿屋の中から、比較的富裕層向けの部屋を二つ借りることにした。
ガレスたちから報奨金の一部も貰えたし、このくらいなら特に問題ないだろう。
そして、その日の夜。
俺の部屋で一度集まった後、シュナと共に今後の予定を立てることにした。
試験までの数日間、どう過ごすのか決めるのだ。
シルフィード領での日々のようにダンジョンを攻略するのでもいいが、せっかく王都に来たのだから息抜きをするのもありだろう。
そう考えながら、俺はシュナに向かって問いかける。
「試験まで数日あるが、何かしたいことはあるか?」
「わたしは何日か買い物にいきたいな。試験の数日後には入学だし、準備は早めに済ませておきたいから」
「……結果発表が抜けてないか?」
「? ゼロスなら受かるよね?」
シュナは曇りのない目でそう言った。
万が一にも俺が落ちるなど、一切考えていないようだ。
(……これは、間違っても落ちれそうにないな)
まあ、元から落ちる気なんて毛頭ないが。
そう心の中で付け足しつつも、俺は改めて今後の予定を考え始めていた。
シュナの方で済ませておきたい用事があるならちょうどいい。
その期間を使って、俺は一人で済ませておきたいことがあった。
「そういうことなら、俺は一人でスキル獲得に行ってくるよ」
「私はついていかなくていいの? 急ぎなら、もちろんそっちを優先するけど……」
「そこについては大丈夫。ソロ専用の場所だから、元々どこか俺一人になったタイミングで行こうと考えてたんだ。シュナは王都で待っていてくれ」
「う、うん」
少し不安げな様子ではあるものの、小さく頷くシュナ。
何はともあれこんな風にして、試験までの予定が確定するのだった。
ここまでお読みいただきありがとうございます!
面白ければ、ブックマークや広告下の「☆☆☆☆☆」から評価していただけると幸いです。
作者のモチベが上がりますので、ぜひよろしくお願いいたします!