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052 レアスキルの活用法

 魔力糸によって拘束されたにもかかわらず、行動を続けるストーム・ウィング。

 多少なりとも速度は落ちているものの膂力は健在であり、現在進行形でプツプツと魔力糸が千切られていく。


 その様子を見て困惑するシュナたちとは裏腹に、俺はにやりと笑みを浮かべた。


(これでいい――マジック・ストリングの真価はここからだ!)


 マジック・ストリングは使用者シュナのレベルに応じた強度の魔力糸を生み出すため、格上相手だと、このように拘束がうまくいかない場合もある。

 そう言った場合には、自分や味方へのバフとして使用するのが一般的なのだが……マジック・ストリングにはもう一つだけ、有効な活用法が存在していた。


 俺は困惑した様子のシュナに向け、力強く叫ぶ。


「シュナ! そのまま魔力糸に闇属性を付与しろ!」


「えっ? でも、そうすると相手にバフがかかるんじゃ――」


「大丈夫だ! 俺を信じてくれ!」


 シュナは一瞬だけ目を見開いたのち、こくりと頷く。


「わかったよ。ゼロスがそう言うのなら――【ダーク・エンチャント】!」


 そう唱えた直後、シュナの杖先から魔力糸が勢いよく黒に染まっていく。

 色の変化はストーム・ウィングのもとにまで届き、やがてヤツの全身は闇の魔力糸によって覆われた。

 すると、


「ピィィィイ!?」


 ストーム・ウィングの飛行速度が落ち、さらに魔力糸を千切る勢いも衰えていく。

 その姿を見たシュナは、驚いたように声を上げた。


「うそ!? 抵抗が弱くなった!?」


 彼女の言葉は正しい。

 マジック・ストリングに属性を付与した際、通常であればバフ効果が生まれるのだが、闇属性の場合だけ例外として《《デバフ効果》》が発生する。

 今みたいに相手を捕まえる必要はあるが、成功すれば全ステータスを10%以上減少させることができるのだ。

 

(まあ、闇纏いの魔導霊(ダーク・ソーサラー)を始めとした不死者アンデッド相手なら逆にバフ効果が生まれちゃったりするんだが……それはさておき)


 とにかく、これで敵のステータスは大きく減少した。

 10%と聞くと、そこまで大きくない数字だと思う者もいるかもしれないが、単純計算でストーム・ウィングのレベルが52から46~47へ低下したこととなる。

 現在の俺が40レベルであることも考慮し、レベル差が半分近くにまで縮まった影響はかなり大きい。


「ァァァアアアアアア!」


 ストーム・ウィングはその場に止まると、風魔法も駆使し、強引に魔力糸を引きちぎろうとする。

 自分のステータスを減少させる厄介な拘束から、いち早く逃れたいのだろう。


 この様子だと、ものの十数秒で拘束は解かれてしまう。

 だが、それを待ってやるほど俺はあまくなかった。


「喰らえ――【スラッシュ・八連咲はちれんざき】!」


「キィィィイイイイイ!?」


 放たれた八振りの空飛ぶ斬撃が、見事に全てストーム・ウィングへと命中する。

 防御力が低下しているおかげだろう、一撃一撃が与えるダメージ量は、先ほど斬撃を浴びせた際より明らかに大きかった。


 それでもまだステータス差があるせいか、トドメとまではいかない。

 ストーム・ウィングは諦めることなく必死に身をよじると、シュナの魔力糸による拘束から抜け出してみせた。


「そんな!? もう一度マジック・ストリングを使うMPなんて、もう残って――」


「いや、大丈夫だシュナ」


「――え?」


 俺はシュナを安堵させるようにそう告げる。

 そして、その直後だった。


「ピィィ!?」


 拘束から逃れた後、()()()()()()ストーム・ウィングが落下し始める。


 そう。今の一瞬でトドメに至れない可能性も考慮し、俺は斬撃を翼の付け根に向けて放っていたのだ。

 結果、無事に両翼を斬り落とすことに成功し、ストーム・ウィングは飛行するための手段を完全に失い、一直線に地面へと落ち始める。


(ヤツには風魔法があるが、翼を失った状態だと出力と精度が大きく低下する。再び飛行するのは無理だろう――勝負を決めるならここだ!)


 俺は地を蹴ると、素早くヤツの落下地点へと潜り込った。

 ストーム・ウィングは重力の影響を受け、加速しながら俺の元に迫りくる。

 その勢いをも利用すべく、俺は大きく剣を振り上げた。


 そして―― 



「これで、終わりだッッッ!」



 渾身の一振りが、ストーム・ウィングの頭部に命中。

 俺の刃は勢いを落とすことなく、そのままヤツの体を真っ二つに両断した。

 

「ピ、ピィィィィ」



『経験値獲得 レベルが5アップしました』

『ステータスポイントを10獲得しました』



 ストーム・ウィングの断末魔と、レベルアップを告げるシステム音が鳴り響く。

 それは俺たちがストーム・ウィングを倒した証明でもあった。


 刃に付着した血を落とすべく剣を振りながら、俺は後ろに振り返る。

 するとそこには、ポカーンと間抜けな表情を浮かべるガレスたちと、満面の笑みでこちらに駆け寄ってくるシュナの姿があった。


「やったね、ゼロス!」


「ああ、討伐完了だ」


 かくして、俺たちはストーム・ウィングの討伐に成功したのだった。



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 ゼロス・シルフィード

 性別:男性

 年齢:15歳

 紋章:【無の紋章】


 レベル:45

 HP:450/450 MP:110/225

 筋 力:77

 持久力:59

 速 度:71

 知 力:51

 幸 運:45

 ステータスポイント:10


 スキル:【パリィ】Lv.2、【スラッシュ】Lv.2、【マジック・アロー】Lv.1、【マジック・ボール】Lv.1、【ダーク・エンチャント】Lv.1、【索敵】Lv.1


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