049 二つ目のレアスキル
シルフィード領を出発してから三日目。
馬車は順調に進み、既に王都までの距離は半分を切っていた。
不規則に揺れる馬車の中、おもむろにシュナは口を開く。
「なんだか不思議な感じだね。一日中移動しているのに、すごく穏やかな時間を過ごしている気がするよ」
「……まあ、出発前はダンジョン攻略漬けの日々だったからな」
反面、ここ数日はほとんど魔物と遭遇することもなく、出現したとしても『夕凪の剣』があっという間に討伐してくれていた。
この調子なら大したトラブルに見舞われることもなく、二日後か三日後あたりにでも王都に到着するだろう。
俺がそう考えていた、その直後だった。
「止まれ!」
先頭からガレスの声が響き、複数の馬車が同時に動きを止める。
静止後、ガレスは続けて叫んだ。
「魔物の群れが現れた! 俺たちが対処するから、お前たちは馬車の中に隠れていろ――いくぞ、皆!」
「「「おう(はい!)」」」
この数日間、魔物が出現するたびに発生したパターンだったため、全員が落ち着いたまま対処を始める。
この街道で出現する魔物は、せいぜい20レベル止まりのEランクがほとんど。
普段ならほんの数分足らずで魔物を全滅させていたはずだが――
「……少し時間がかかってるね」
「みたいだな」
シュナの言った通り、今日は少し時間がかかっている。
馬車から顔を覗かせて様子を窺ったところ、どうやら獣型魔物と、飛行型魔物が群れとなって襲い掛かっているようだ。
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【ブラッドウルフ】
・討伐推奨レベル:32
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【サンダーバード】
・討伐推奨レベル:30
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【ロックバード】
・討伐推奨レベル:34
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ステータスで魔物の情報を確認してみたところ、30~35レベルと、この付近の魔物にしてはレベルが高い。
とはいえ、Dランク――平均レベルが40を超えている『夕凪の剣』に任せておけば大丈夫なはずなのだが、今回に限っては少し事情が違った。
「どうやら、飛行型魔物に手間取っているみたいだな」
『夕凪の剣』は、前衛が三人に後衛(魔導士)が一人という構成。
大量の飛行型魔物を相手取るのに、後衛一人では手が足りていない様子だった。
そちらに意識を割かれることで、獣型魔物に集中できないという悪循環が生まれているようだ。
俺は少し考えた後、隣にいるシュナに顔を向ける。
「シュナ」
「うん」
既に彼女も同じことを考えていたのだろう。
俺たちはそれぞれ剣と杖を構えると、颯爽と馬車の外に飛び出した。
そして、
「加勢する!」
そう叫ぶと、リーダーのガレスが俺たちの行動に気付いた。
「君たちは乗客の!? 危険だ! ここは俺たちに任せて、君たちは下がって――」
彼が言い終えるよりも早く、俺とシュナは叫ぶ。
「スラッシュ!」
「マジック・ボール!」
空を飛ぶ斬撃と魔弾が、それぞれ一体ずつ魔物を撃ち落とした。
「なっ!?」
戸惑いの声を上げるガレス。
おおかた、乗客に過ぎない子どもが、これだけの力を持っているとは考えていなかったのだろう。
とはいえ戦闘が終わっていない中、いつまでも呆けてもらうわけにはいかない。
「飛行型は俺たちに任せてくれ! 『夕凪の剣』は地上の魔物を頼む!」
「あ、ああ!」
ガレルは戸惑いながらも首肯した後、切り替えて戦闘を再開する。
何はともあれ、これで戦況は決した。
獣型は『夕凪の剣』が相手取り、飛行型は俺とシュナが次々と倒していく。
その結果、20体近い魔物の群れを僅かな時間で討伐することに成功した。
『経験値獲得 レベルが1アップしました』
『ステータスポイントを2獲得しました』
鳴り響くシステム音。
それを聞いた俺は満足感とともに頷いた。
「これでレベル40。俺たちもDランクの仲間入り――っと、そうだ」
ここで俺は重要なことを思い出し、シュナに視線を向けた。
【魔導の紋章】持ちはレベル40になると二つ目の成長スキルを獲得する。
それについて確認しようと思ったのだ。
「シュナの方はどうだ?」
「うん、レベルが40になったよ! それで、新しいスキルを獲得したみたい、なんだけど……」
後ろにいくにつれ、シュナの声が徐々に小さくなっていく。
どうやら何か困惑する事情があったみたいだ。
俺は恐る恐る、そんな彼女に問いかける。
「……もしかして、あまり望んでないスキルだったか?」
「えっ? ううん、そうじゃなくて! 初めて聞くスキルだったから、ちょっと驚いちゃっただけだよ」
「……初めて聞くスキル?」
シュナの言葉に、俺も思わず首を傾げた。
【魔導の紋章】持ちが低レベルで獲得できるスキルなど限られている。
レベル40時点で入手できるスキルなら、この世界でも知っている者は多いはずなんだが。
(いや、待てよ。それで言うなら、シュナがレベル20で得た【セイクリッド・エンチャント】はかなりレアだった――もしかして!)
ある答えに辿り着こうとしている俺に対し、シュナは続けて言った。
「マジック・ストリング? っていうスキルみたいだけど……ゼロスは知ってる?」
「………………」
そのスキル名を聞き、俺は思わず言葉を失う。
【マジック・ストリング】。
それは【セイクリッド・エンチャント】に優るとも劣らない、魔導のレアスキルだった。
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