048 出発
翌日早朝。
シルフィード家に、シュナ宛の手紙が一通届いた。
差出人の欄にはトライメル準男爵と書かれている――つまり、シュナの父親だ。
「もう返事が来たのか?」
「みたいだね」
俺の言葉に、シュナはこくりと頷きながら手紙の封を切る。
実はシュナが俺の従者になると決まった日に(ディオンと決闘した後)、魔法速達でその旨を伝えておいたのだ。
真剣な表情で手紙を読んでいくシュナに対し、俺は問いかける。
「手紙には何て?」
「感謝の言葉がほとんどだよ。シルフィード侯爵に対して、従者という形とはいえ私をアカデミーに通わせてくれてありがとうって」
そこまでを言った後、シュナはなぜか口ごもる。
かと思えば、何かを躊躇するように、上目遣いで俺を見つめてきた。
「そ、それから……ゼロスにはどうか、私の娘をよろしく頼むって」
「そうか。いいお父さんだな」
「……そ、それだけ?」
「ん? それだけとは?」
「……むぅ、何でもないよ。ただ、ちょっぴり恥ずかしいなって思っただけ!」
なぜか頬を膨らませて叫ぶシュナを不思議に思いつつ、俺は改めて手紙の内容を確認させてもらった。
準男爵がシュナをとても大切に思っていることが伝わってくる、優しさの込められた文章だ。
娘を従者にするということで、本来であれば俺から直接会いに行くのが筋だろうけど、残念ながら今回は入学試験が目前に迫っている。
また後日、どこか時間ができたタイミングで挨拶に伺うとしよう。
「何はともあれ、これで今日にでも、憂いなく王都へ出発できるな」
俺の言葉に、シュナはきょとんと首を傾げる。
「もう向かうの? たしか一週間後ぐらいに出発しても、試験には間に合うみたいだけど……」
「実は試験の前に、王都近くで獲得しておきたいスキルがあるんだ。それで、できれば少しでも早く王都に向かいたくて」
「そっか。それなら私はいつでも大丈夫だよ。ちゃんと準備は整えておいたから!」
――とのことだったので、急な話ではあるが、俺とシュナはさっそく今日、王都へ向かうこととなった。
その旨と、準男爵からの手紙について父デュークに伝えると、『シルフィード家の人間として恥じるところのないよう、精進を重ねるように』とだけ返ってきた。
アカデミーの試験に受かれば、そのまますぐに入学して通うことになる。
次にデュークと再会するのは、しばらく先のことになるだろう。
そんなこんなで別れの挨拶を交わし、屋敷から出ようとする俺たちだったが、ふと廊下の奥に見慣れた人物を見つけた。
金髪の少年――兄のディオンだ。
ここ数日、アイツが従者探しに難航していることは噂で耳に入ってきていた。
慌てた様子を見るに、恐らく今も従者探しの最中なのだろう。
「お兄さんには、挨拶しなくていいの?」
シュナの問いに少し悩んだ後、俺はディオンから視線を外した。
「ああ。王都で再会できるようなら、その時に話せばいいだろ」
「……そっか」
そんなやり取りの後、俺たちは今度こそ屋敷を出るのだった。
その後、俺とシュナは乗合馬車の停留所に向かった。
シルフィード領から王都へは定期便が出ており、一日につき二回、数台の馬車が団体となって出発する。
運よく客席に空きがあったため、すんなりと馬車に乗ることができた。
御者と簡単に挨拶を交わした後、俺たちの前に一組の冒険者パーティーが現れる。
そのうち、先頭に立つ剣士が俺たち客に向かって告げた。
「俺はガレス。今回の護衛を務めさせてもらうことになった、Dランクパーティー『夕凪の剣』のリーダーだ。護衛依頼は何度も受けているから、大船に乗ったつもりでいてくれ!」
そう告げた後、ガレスと名乗った男性は盛大に笑う。
まあそもそもの話、シルフィード領から王都への街道は整備されているため、強力な魔物が出ることは滅多にない。
特にその点を心配する必要はないだろう。
「それじゃ、出発だな」
「うん、ゼロス!」
こうして俺はシュナと共に、長く過ごしたシルフィード領を後にするのだった。
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