043 元世界ランク1位の無双②
皆様のおかげで、なんと本作がジャンル別月間ランキング1位を獲得しました!
本当にありがとうございます! これからも頑張って執筆していくので、どうぞよろしくお願いいたします!
そして今回の内容ですが、決闘のラストまで。
話タイトルから分かるように、ゼロスの無双回となります。
少し長めですが、どうぞお楽しみください!
「くそっ、舐めやがって! この程度で勝ったつもりか!?」
ディオンはすぐさま立ち上がると、裂帛の気合とともに殴りかかってくる。
振りかぶった右拳は淡い光を纏っており、俺はそれに見覚えがあった。
(キリングフィストか。いつの日かの不良も使っていた技だな)
武道のスキル【キリングフィスト】。
拳の速度と威力を上昇させる強力な技だが、発動前の隙も非常に大きい。
通常であれば、他の手段と組み合わせて使用するべきスキルだが――
「マジック・アロー!」
「ほう」
俺がそう考えている最中、ディオンは左手で【マジック・アロー】を放った。
眩い光の矢が、俺の動きを阻もうと飛んでくる。
(マジック・アローで俺の動きを制限し、その隙にキリングフィストを決めるつもりか。ディオンにしては悪くない判断だな)
仮にもレベル40を超えるまで、【全の紋章】と付き合ってきただけはある。
だが、残念ながら今回は相手が悪かった。
俺はまず、守護者の遺剣を振るいマジック・アローをかき消す(マジック・アローは火力が低いため、パリィを使わずとも十分に対応可能)。
俺の対応を見たディオンは、にやりと意地の悪い笑みを浮かべた。
「かかったな! こっちが隙だらけだぞ――」
「それはどうかな」
「――!?」
俺は小さく身を逸らし、キリングフィストを紙一重で回避する。
そのまま空振ったディオンの腕を掴むと、奴は驚きに目を見開いた。
「――はあッ!」
「ぐはっ!」
ディオンの体を引き寄せ、背負い投げの要領で勢いよく地面に叩きつける。
激しい衝撃と共に、ディオンの体が地面に叩きつけられる鈍い音が響いた。
俺はそんなディオンを見下ろしながら、一言投げかける。
「これで二度目のダウンだ。まあ、今回はさっきと違って仰向けだけどな」
「ッ!」
俺の煽るような声に、ディオンの顔が怒りで歪んだ。
彼は立ち上がると、収納指輪から剣を召喚し血走った目で俺を睨みつけてくる。
「少し手加減してやっただけで調子に乗りやがって! ここからが本番だ、覚悟しろゼロス!」
そう叫んだあと、ディオンは勢いよく俺に斬りかかってくるのだった。
◇◆◇
それからもディオンは、ありとあらゆる攻撃を繰り出していった。
鋭い剣撃が空を切り、多彩な魔法が飛び交い、時には体術が繰り出される。
その攻撃の幅広さは、まさに【全の紋章】の本領発揮と言えるだろう。
しかし、ゼロスはそれらの攻撃を難なくいなし続けていく。
彼の動きは無駄がなく、的確だった。剣撃は巧みにかわされ、魔法は絶妙のタイミングで回避され、体術は読み切られてカウンターを浴びせられる。
ゼロスとディオンの間には、とてつもない格差が存在していた。
この予想外の展開に、周囲の空気が変わっていく。
(くそっ! くそっ! くそっ! いったい、何がどうなってやがる!? なんでゼロスごときが俺の攻撃をことごとく躱せるんだ!? こんなはずじゃ――)
まず、ディオンの表情が刻一刻と曇っていった。
戦いの序盤、彼の顔には格下と思っていた相手から馬鹿にされた怒りと、それでもわずかに残る油断が浮かんでいた。
しかし何を仕掛けようと簡単にいなされ、何度も反撃を浴びるにつれ、その自信は急速に崩れていった。
焦りの色が濃くなり、額には汗が滲み始める。
それでも、わずかに残るプライドが完全に砕け散る瞬間まで、ディオンは攻撃を続けるしかなかった。
「………………」
「……これは、少々驚きですな」
次に、デュークとエドガー。
彼らの目は大きく見開かれ、信じられないものを見ているかのようだった。
シルフィード家の当主と、長年仕えてきた執事長。その二人が動揺を隠せないほどに、目の前の光景は衝撃的だったからだ。
決闘が始まるまで、デュークはこう考えていた。
決闘を受けた以上、ゼロスには何か特別な秘策があるのではないか――と。
だが、現実は違った。秘策など必要ないほどに、ゼロスとディオンの実力差は圧倒的だったのだ。
(ゼロス、お前はいったい……)
戸惑いと疑問が胸中を占めるなか、それでもデュークは審判として、その行方を見届けるのだった。
「……すごい」
最後に、ゼロスの実力を知っているはずのシュナですら、この光景を前にして驚きを隠しきれずにいた。
これまで見てきたゼロスとは、まるで別人のようだったからだ。
シュナの頭の中で、これまでの記憶が駆け巡る。
ダンジョンでの冒険、魔物との戦い……そこでのゼロスは確かに強かった。
だけど、基本的にはシュナの魔法をサポートする役割が多く――
(私がこれまで見てきたゼロスは、全力じゃなかったんだ)
当然、真剣ではあっただろう。
しかし、彼はこれまでシュナという戦闘慣れしていない仲間を庇いつつ、自らの役割を全うすることを重視していた。
もしそれらの枷が全て外された上で、目の前の相手だけに集中すれば、どれだけの実力を発揮するのか。
その疑問の答えが今、シュナの目の前で繰り広げられていた。
ゼロスは舞うような動きでディオンの全ての攻撃を無効化した後、生まれたわずかな隙をついて反撃を浴びせていく。
その姿はまさに、戦いの達人そのものだった。
シュナは無意識のうちに、ごくりと唾を飲み込んだ。
彼女の中で、一つの思いが強くなっていく。
「もしかしてゼロスって、私が思ってたより何倍もすごいんじゃ……」
そんな感想を抱くシュナたちの前で、決闘は佳境へと突入していくのだった――
◇◆◇
(……そろそろ終わりが近いかな)
戦闘の最中、俺は冷静に状況を分析しつつ、心の中でそう呟いた。
ディオンが放った攻撃をことごとく防ぎ、俺は次々と反撃を浴びせていった。
ヤツの動きが徐々に鈍くなっていくのが分かる。
アブソーブ・テリトリーのおかげでダメージこそ無効化されているが、痛みと疲労は際限なく蓄積しているようだ。ディオンの目に焦りの色が濃くなっていく。
だが、油断はできない。
(まだ諦めていないみたいだな。何か手があると思っているのか)
そう思った次の瞬間だった。
「――――ッ! ここだ!」
ディオンの目が鋭く光る。
彼は勢いよく踏み込むと、手に持つ槍を力強く放った。
とはいえ、俺とヤツの間にはかなりの距離がある。あそこからでは俺に届かないように見えるが――
そう考える俺の前で、ディオンは小さく笑った。
「残念だったな、ゼロス! 貴様はこれで終わりだ!」
「――――」
ディオンがそう叫んだ瞬間、穂先が眩い光を放ち、グンッとありえない程の伸びを見せた。
(これは……飛槍撃か)
槍のスキル【飛槍撃】。
一瞬だけ槍の刃を伸ばし、リーチの外側にいる相手へ攻撃を仕掛ける必殺技だ。
目前に迫る穂先を見て、俺はわずかに目を細めた。
(なるほど。ここまで俺は的確な間合いを保つことで、ありとあらゆる対処を可能にしていた。故に、間合いを破壊するこのスキルは通用すると考えたわけか)
だが、甘い。
俺は冷静に状況を分析しながら、数歩後ろに退く。
それだけで十分だった。
喉元のわずか一センチ前で、槍はピタリと止まる。
俺の完璧な間合いの調整によって、飛槍撃が命中しなかったのだ。
その結果を前に、ディオンは目を大きく見開く。
「馬鹿な! 今日初めて使ったスキルだぞ!? なのに、こんな完璧に見透かされるなんてありえるはずが――」
「狼狽えていていいのか? 隙だらけだぞ」
「――ッ!」
驚愕によって動きを止めるディオン。
その隙を逃すまいと、俺は剣を大きく振りかぶった。
「くそっ! パリ――」
ディオンは慌てて槍から剣に持ち替えると、【パリィ】を試みる。
しかし、俺はその動きすら読んでいた。
「甘い」
「なっ!」
今の振りかぶりはフェイントだ。
俺はタイミングをずらすと、ディオンの刃を腹から力強く叩いた。
強引に行く先を変えられたディオンの刃が、そのまま床に突き刺さる。
当然、パリィは失敗。
そしてパリィにはある特徴があり、敵の攻撃に触れたにもかかわらず発動に失敗した場合、ほんのわずかだが硬直時間が生まれてしまうのだ。
例にもれず、動きが止まるディオン。
それが最後の隙となった。
俺は剣を高く構え、静かに目の前の相手を見据える。
「これで終わりだ」
「ま、待て、ゼロ――ぐはぁっ!!!」
ディオンの叫びを遮るように、俺の渾身の三振りが彼の体に命中する。
その攻撃はヤツの中に残っていた僅かな気力を消し去るには、十分すぎるほどの威力を有していた。
俺は剣先をディオンに向け、確信と共に宣言する。
「俺の勝ちだ、ディオン」
「ば、かな……この俺が、無能相手に……」
ディオンは最後の最後まで悪態をつくも、そのままゆっくりと崩れ落ち、やがて意識を失った。
俺はそんなディオンを見届けた後、審判であるデュークに視線を向ける。
デュークは目を見開き、この結果に驚いている様子だった。
……仕方ない。
「父上、終わりましたよ」
「……あ、ああ」
俺が呼びかけると、デュークは戸惑いながらも小さく頷く。
そして数秒だけ何かを考え込むような間を置いた後、力強く宣言した。
「ディオンの気絶をもって、此度の決闘の勝者はゼロスとする!」
かくして、俺とディオンの尊厳をかけた決闘は、文句のつけようがない俺の圧勝で幕を閉じるのだった。
ゼロスの無双回でした。
次回、もう少しだけ「ざまあ」が続きます!
第一章完結まで残り数話となりますが、どうぞ最後までお付き合いください!
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