032 二つの報酬
「すごかったよ、ゼロス! 敵の魔法を次々と落とすだけじゃなく、最後のトドメまで……何て言うか、すっごくかっこよかった!」
「あ、ああ。ありがとう、シュナ」
討伐後、シュナはしばらく興奮した様子で俺に称賛の言葉を告げてきた。
俺からも彼女に対し、助けてくれた感謝と、魔法を撃ち落としたことへの称賛を伝えたかったのだが、そうするだけの暇を与えくれない。
どうしたものかと思っていた矢先、シュナは続けて言った。
「うん、本当にすごかった……それこそまるで、ゼロニティ様みたいだったよ」
「――――ッ」
シュナの口から出たのは、奇しくも前世の俺の名前だった。
俺の戦いぶりと、ゼロニティだった頃の伝承が彼女の中で重なったのだろう。
しかし、それを聞いた俺の胸中はなかなか複雑だった。
(うーん、本当はゼロニティを超えるつもりで頑張ったんだけどな……)
霞落としの九連続成功は、前世の俺でも成し遂げられない神業だ。
とはいえ、それを除けばステータス、スキル共にゼロニティの方が圧倒的に優っているのも事実。
(まあ、本当の意味で前世を超えられた時、またシュナに見せてやればいいか)
新たに決意を固めた直後。
俺はふと、あることに気付いた。
「ん? あれはもしかして……」
ダーク・ソーサラーが消滅した場所に、魔石の他、一本の杖が残されていた。
俺はそれを拾い上げ、情報を確認する。
――――――――――――――――――――
【魔導霊の杖】
・闇纏いの魔導霊が装備していた杖
・装備推奨レベル:35
・知力+27
・魔法スキルの使用時、威力と発動速度をそれぞれ15%上昇させる。
――――――――――――――――――――
魔導霊の杖。
ダーク・ソーサラーから低確率で入手できるドロップアイテムだ。
付属効果である威力と発動速度の15%上昇がかなり優秀で、序盤で入手できる武器としては破格の性能と言ってもいいだろう。
ここで入手できたのは、かなり運が良い。
俺は杖をシュナに向かって差し出す。
「ほれ、シュナ。ドロップアイテムだ」
「えっ? ……って、なにこの性能!? こんなの貰えないよ! ボスを倒したのはゼロスなんだから、ゼロスが受け取るべきじゃ……」
「俺はしばらく杖を使うつもりはないから必要ない。それに――」
ここで俺は、最も大切なことをシュナに伝える。
「そもそもダーク・ソーサラーを倒せたのは、シュナがいてくれたおかげだ。俺一人じゃ間違いなくあのまま殺されていた。だからシュナさえ良ければ、これも受け取ってほしい」
「……ゼロスがそこまで言うのなら、断れないよ」
少し逡巡している様子だったが、最終的にシュナは杖を受け取ってくれた。
そして大事そうにぎゅっと抱きしめる。
「ありがとう。これからずっと大切にするね」
「ずっとって……武器はレベルが上がるごとに、どんどん入れ替えていくべきだぞ」
「そ、そういう意味じゃなくて……もう、ゼロスのばか!」
なぜか怒られてしまった。
なぜだ。
そんなやり取りをしていた最中だった。
ズズズという音が響き、ボス部屋の下から継承祠が姿を現す。
それを見て、シュナは驚いたように目を見開いた。
「ね、ねえゼロス、あれって……」
「ああ、まだ説明してなかったか。あれがこのダンジョンに挑んだ一番の目的だ」
俺はシュナにやり方を伝えた後、一緒にそれぞれの紋章を祠に見せた。
すると、聞き慣れたシステム音が響き渡る。
『紋章を確認中です』
『紋章名:【無の紋章】および【魔導の紋章】を確認しました』
『条件を満たしています。これよりスキルが継承されます』
『継承を完了しました』
『スキル【ダーク・エンチャント】を獲得しました』
――――――――――――――――――――
【ダーク・エンチャント】Lv.1
・魔導のスキル
・属性:闇
・追加でMPを50%消費することで、自身の魔力に闇属性を付与する他、威力を30%上昇させる。
――――――――――――――――――――
スキルの継承を終えたシュナはしばらく呆然とした後、ゆっくりと口を動かした。
「こ、これが、ゼロスが言っていたスキルを獲得する裏技なの?」
「ああ、そうだ。ちゃんとシュナにも継承されたみたいだな」
俺の言葉に、シュナは動揺した様子でコクコクと頷く。
「う、うん。ダーク・エンチャント……何だか名前といい内容といい、私のセイクリッド・エンチャントに似てるね」
「同系統のスキルだからな。ただしこっちの場合、相性関係なく威力が30%も上昇する効果付きだ」
「ほんとだ!」
俺に言われて気付いたのか、シュナは驚きの声を上げた。
その後、落ち着きを取り戻すように「ごほん」と一つ咳払いする。
「でも、魔物相手だと闇属性が弱点になることって少ないよね? となると、効果的にはセイクリッド・エンチャントとほとんど同じなのかな……」
「まあ、基本的にはな」
「そっか。だけどセイクリッド・エンチャントと違って、相手を選べずに使えそうなのは嬉しいかな」
そう言って、シュナは可愛らしい笑みを俺に向ける。
「杖だけじゃなく、こんなスキルまで貰っちゃって……ゼロスにはどれだけ感謝してもし足りないよ。本当にありがとっ!」
「……ああ、どういたしまして」
シュナのお礼に頷きつつ、俺はもう一つあることを考えていた。
ダーク・エンチャントを見て、シュナはその汎用性の高さに喜んでいたが、俺がわざわざ苦労してまでこのスキルを求めた理由はそれではない。
ある条件を達成することで、このスキルはさらなる効果を発揮するのだ。
そして現状、それを叶えられるとしたらシュナだけなのだが……
(……それを試すのは今度でいいか。もうMPも残ってないだろうしな)
そう結論を出した直後だった。
突如として、ボス部屋全体が眩い光に包まれる。
「きゃっ! なに、この光……」
「帰還用の転移魔法だな」
隠しダンジョン――特にボス部屋が開かれたタイプの場合、ボス討伐後、内部環境の再構築のため強制的に外へ転移させられることがある。
転移があるかどうかはダンジョンにより様々だが、とりあえず同じ道を帰る手間がなくなってよかったとでも考えておけばいいだろう。
それをシュナに伝えてやると、戸惑いながらも彼女は納得したようだった。
「何はともあれ、これで無事に攻略完了だ。今日は本当にありがとう、シュナ」
「こちらこそだよ。ありがと、ゼロス!」
数秒後、とうとう転移が発動する。
俺たちは攻略の喜びを噛み締めつつ、【冥府の霊廟】を後にするのだった。
【恐れ入りますが、下記をどうかお願いいたします】
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