Side:氷川ゆいな 炎上の後始末
※氷川ゆいな視点
自らの流出させた動画がもとで、エンシェントドラゴンの公式討伐者が偽装であったことが発覚し、炎上した。
炎上を望んだわけではないが、おかげで埋もれる予定だった三郎様の功績が、世に認めてもらうことはできた。
引き換えにダンジョンスターズ社の社長という重責と、父を追放したという事実を背負うことになったが、隠蔽を選んだ自身への罰として受け入れるつもりだ。
社長室の時計を見上げると、三郎様が交渉決裂時にこの建物を爆破すると言った時間が過ぎる。
部屋に詰めていた社員たちから安堵の声が漏れた。
「三郎様が指定した時間を超えても魔法による爆破はされませんでした。葵様が説得に成功したようですね」
葵様があの手土産で三郎様のご機嫌を取り戻してくれたようだ。
社長室で暴れていた三郎様が、チョコバーを食べて喜んでいる顔を思い浮かべたら、自然と頬が緩む気がした。
可愛すぎですね。三郎様は……。
あれだけの剣技と魔法を扱える超一流の探索者であるはずなのに。
どこか子供っぽさを想起させる不思議な男性だった。
「ゆいな社長?」
部下となった男性に声をかけられ、緩んでいた表情をすぐに引き締める。
「これより、先ほどの爆発の説明と、エンシェントドラゴンを討伐した公式討伐者の訂正、ダンジョンスターズ社の社長交代を生配信で報告します。準備を」
「はい! すぐに準備します。それと、日本政府から出向されてくる役員の方の名簿が届きました。ご確認を!」
別の部下から、書類の束が渡される。
本来なら父がやるべき仕事だが、社長の座から追放したため、自らで確認するしかない。
「ありがとう。確認させてもらいます」
書類をめくると、50代の官僚たちの名前が数名書かれている。
父が日本探索者協会を天下り団体にしていたため、実務を担うダンジョンスターズ社の役員はスポンサー企業から受け入れた民間からの人が多くを占めているが、今回の父の追放に手を貸してもらうのを条件に数名の役員天下りを認めていた。
基本的に何もしないが、給料だけはもらっていくという役員が増えることになる。
けれど、彼らが居るのと居ないのでは、仕事のしやすさが変わってくると思われる。
父を追放し、実権のない日本探索者協会会長職に押し込めたものの、こちらに口を出してくるのは目に見えている。
その父の横槍をかわすには、彼らの力が必要だった。
ダンジョンの魔物と戦っている方がよっぽど楽だと思うけれど、これは自身が選んだ道なので文句は言わないつもりだ。
「謝罪会見を生配信した後、緊急役員会を行いますので、役員への連絡も忘れずに。三郎様との交渉も成功し、次の謝罪会見生配信を乗り越えれば、ダンジョンスターズ社はまだまだ大丈夫です。落ち着いて各自の仕事に当たってください。それと、探索者たちへの広報も忘れずに」
「はい! そちらもTチューブ公式チャンネルを使って周知していきます!」
「若輩者の社長ですので、皆さんからお力添えいただきたい。他にもやるべき施策があれば、随時提案をしてください」
「「「はい!」」」
返事をした部下の人たちが、それぞれの持ち場に駆け去っていった。
三郎様が現れたことで、わたくしの探索者としての仕事は引退かもしれない。
あの人こそが、日本の希望にふさわしい力を持つ御方なのだから。
わたくしはサポートに徹すればいい。
そのためには、まずは彼を皆に理解してもらうことが必要。
書類の紙を裏返すと、佐藤三郎という人物をどうやって認知させるかの方法を書き連ねていくことにした。