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第98話 トマトもどきをかき集めろ

 クリーピングツリーに寄生する植物から、トマトもどきが採れる。

 これは素晴らしい収穫だった。

 何せ、このマンイーターどもをハントするモチベーションが用意されたからだ。


 いやあ、ほんと、やって来てくれてありがとうな。

 お前らは人間や森の動物を狩りに来たのかもしれないけど、まさか僕らに狩り尽くされるとは思わなかっただろう。


「コゲタ、においみつけた! すっぱいすっぱい! こっちー!」


「よっしゃ!」


「幾らでもいるな!」


「でもナザルが転ばせてくれるからホント楽よねー」


「だって彼ら、簡単に転ぶんだもの」


 しょせん植物。

 踏ん張りが弱いから、ちょっと油を張っただけでコロンと転がる。

 で、こいつら転がることを想定してない生き方をしているので、倒れたら弱い弱い。


 バンキンがさっさと脅威になる触手を叩き切り、核の部分にキャロティがガンドを打ち込むとすぐ死ぬ。

 核ってのは根の部分ね。

 なんと、根の付け根に本体である球根みたいなのがあったのだ。


 球根を破壊されたクリーピングツリーは完全に無力化し、寄生しているトマトもどきも安全にはがせるようになる。

 これ、転がせないとどこを切っても攻撃を繰り返してくるし、でかいしパワフルだし、確かに厄介なモンスターだろうなあ。


 ヴォーパルバニーからすると、どこを切り飛ばしても平気で動くからさぞやりづらいだろう。

 転がして裏から球根を攻撃できる手段がないと、厳しかろうな。


 僕らがそれができるから楽なもんだが!


「はっはっは! 転べ! 転べ! 転べーっ!!」


「おいおいナザル! ハッスルするな! ああクソ、手が足りねえ!!」


 バンキンは両手に手斧を持って、バカスカ切断して回っている。

 彼が一番労力が大きい気がするな……。


「バンキン、手斧片方貸してくれ。僕もやろう」


「おお、助かる!」


「コゲタもやるー!」


「コゲタは無理だなー」


 さすがのバンキンも苦笑だ。

 うんうんコゲタ、気持ちだけもらっておこう。


 こうして僕らは、五体ほどのクリーピングツリーを粉砕。

 その後せっせとトマトもどきを回収する。


 そうしている間にも……。


「すっぱいのまたきたー!!」


 コゲタが接近報告を!

 これ、森の入口だって言うのにこの辺りにいたクリーピングツリーが全員出てきちゃうな……。


 流石に手が足りない。

 僕は一旦ギルドに戻ることにした。

 その途中、第二王子の使いの人が走ってくる。


「ナザル殿ー! 殿下が『美味しいものを作ったのならまず私に献上せよ』って怒ってます!」


「あ、はい! じゃあ今度の最新のは殿下ファーストでご用意しますんで! このトマトもどき持っててください!」


「トマト? もど?」


 いきなりのことで目を白黒させる使いの人に、トマトもどきが詰まったカゴを手渡した。


「こ……これは?」


「最高に美味いものを作るための材料です!!」


「な、なるほどー! これは加工する必要があるものだな? 分かった。守り抜くことを誓おう!!」


「頼みます!!」


 ということでギルドへ!


「クリーピングツリーは攻略した! とどめ要員来てくれ! アイアン級でいいから!!」


 僕がいきなりそんな事を叫んだので、ギルド職員たちが仰天した。

 おさげの受付嬢エリィが駆け寄ってくる。


「ちょ、ちょっとナザルさん! クリーピングツリーは一体相手に、カッパー級のパーティで挑むレベルのモンスターですよ!? それ相手にアイアン級なんて……」


「あいつら、転ばすと弱いことが分かったんだ。僕なら転ばせられる。あとはトドメを刺す手が足りない! おーい、そこの若人たち! ちょっと腕試ししていかないか! 報酬は……報酬……」


 ちょうどギルマスが、騒ぎを聞きつけて出てきたところだった。

 僕は彼にウィンクする。

 ギルマスが顔をしかめた。


「ナザル! てめえ、アイアン級のガキどもを一人でも死なせたら承知しねえからな! おいてめえら! ナザルの手伝いをしろ! 報酬はちょっと出してやるから!」


 ギルマスが提示した値段は、今夜の夕食がかなり豪華になるくらい。

 おお、太っ腹!

 まあ、クリーピングツリーが大森林を占領してしまったら困るもんな。


 早急に大森林から、あのモンスターを駆除しなければならないのは本当だ。


 幸い、クリーピングツリーはあの生活スタイルなので、数が多くはない。

 獲物を取り合ってしまったら、無駄に動いたやつが枯れてしまうからね。


 六体まで片付けたけど、残りあと十体か、二十体か……。


 だが、刃物を携えて集まったアイアン級の若者たち!

 これだけの頭数がいれば大丈夫!


「あー、じゃあ俺は盾を持って、こいつらを攻撃からガードするわ。キャロティはとどめ担当な。アイアン級の魔法使いたちに戦い方も教えてやれよ」


「はいはい。んじゃあ行くわよひよっこどもー!」


 森に戻っていく僕ら。

 コゲタは仲間が一気にたくさん増えたので、興奮しながらぴょんぴょん飛び跳ねている。


「いっぱいいる! たのしいねえ!」


 楽しいねえ。

 僕もコゲタがニコニコしてて楽しいねえ。


 クリーピングツリーは、倒された同族の上にのしかかり、養分にしようとしているところだった。

 おお、共食いですねえ。恐ろしいですねえ。

 ぞろぞろと、餌を求めてクリーピングツリーが集まってくるところだった。


 遠巻きに観察していたら、ある程度の数になったところで打ち止めの気配。


「よし、今だ! やるぞお前らー!!」


 僕は号令をかけるのだった!

 いざ、トマトもどきを狩り尽くすために!



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