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第91話 ゴールド級の男

 何やら、やたらとオーラのある四人組が下町ギルドにやって来た。

 ざわつく、おらがギルドの一同。

 ゴールド級が来るなんて、まあまあ前代未聞だからね。


 この間リップルに依頼に来た時は一人だったらしいが、今回はフルメンバーだ。


 男、男、女、女。

 そんな男女比。


 四人でリップルのところに来て、親しげに話しているではないか。

 いや、三人には緊張が見える。


 外からは化け物と呼ばれるゴールド級でも、リップル相手はそうなるかあ。

 あれ、プラチナ級だけど実際はランクオーバーのなんかよく分からない人だからね。


 で、一人だけ緊張してない男がいる。

 彼は海藻デーモンの一部を取り上げて、「うほほー!!」と大喜びだ。

 

 あいつか!

 あいつが海藻の美味さを知るギフト持ちの男!!


「よろしいかしら」


 僕が進み出たら、ギフト持ちの男が振り返った。

 黒髪に日焼けした肌。黒い瞳の中肉中背の男。


 絵に書いたような日本人男性!!


「あんたは……もしかして、あんたがリップルさんの話していた?」


「いかにも僕です。お互い、明らかになるとまずい話があると思うのでちょっとそこで」


「おお、了解」


 彼と一緒に、ギルド酒場のカウンターに並ぶ。


「一つ聞くが……。お好きな海藻料理は?」


「もずく酢。これで一杯やるの最高だった……」


「異世界転生者~!」


「えっ、おたくも!?」


「ココだけの話、そうなのよ」


 僕と彼は、お互いの名前をまだ知らないのだが、大いに盛り上がる。


「僕は油を使える。油使いだ。今は天ぷらを作って回ってる」


「えっ!? じゃあアーランで天ぷらが流行ってたのはもしかして……おたくの成果!? でも、獣脂だと天ぷらもイマイチでさ。押し揚げになっちゃうでしょ」


「そこで、最近、オブリーというオリーブみたいな作物を持ち帰ってきたんだ」


「ま、まことに~!?」


 いちいち反応が面白い人だ。

 名前をオモリ・シズマと言うそうで、僕の異世界転生とは違い、彼は異世界転移らしい。

 色々あるんだな……。

 彼の能力は、相手の足元の物理的結合を破壊し、文字通り相手を沈めること。


 この能力でゴールド級まで一気に上り詰めたらしい。

 そして、もともとの世界ではサラリーマンだった彼。

 飲み屋で大好きだったメニューを再現すべく、世界を奔走。


「冒険者としてのランクを上げたのも、自由に世界を巡るためだったんだ。そんな中見つけた、貴重な海藻。あんたが捕まえてくれたのか。ありがとうナザル!」


「どういたしまして。ところで僕はオブリーオイルを出す能力を身に着けたが、これで海藻を煮込んだのをちょっと食べてみたいとは思わないか?」


「た……食べたい!」


「よし、ご馳走しよう」


 そういうことになった。

 突然僕と意気投合したシズマに、他のゴールド級冒険者たちはちょっと戸惑っているようだ。

 だが、せっかくなので僕特製の油煮を食べていくことに決めたようだった。


 さて、世界最大の都市であるアーラン。

 この国の冒険者ギルドもまた世界最大で、そんなギルドですらゴールド級冒険者は全員で十人しかいない。

 そのうちの五人が僕と顔見知りになったというのはすごい話ではある。


 ちなみに全世界で、ゴールド級冒険者は二十人くらいいるとか。

 これくらいのレベルになると、ドラゴンやらリッチやらが出てくるような危険な冒険でもない限りは死なない。


 なお、プラチナ級は名誉クラスでもあるので、なんと三十人いる。

 ゴールドより多いのか!?

 多いのだ。


 うち二十人はなんちゃって。

 十人がゴールド級を凌駕する本物の化け物。


「私も私も! ナザル~、仕事を手伝わせてあげたのは私だぞ。ごちそうするんだ」


「はいはい」


 その本物のうちの一人が僕にたかってくる。

 彼らを連れて、僕が向かった先は……。


 ドロテアさんの家である。


「あらあら! 皆さん、いらっしゃい。たくさんおいでなのね? 嬉しいわ」


「伝説の冒険者ドロテアさんだ……!」


「下町のギルドマスターと結婚して引退したと言われてたけど、まだこんなに若いの……!?」


「あのまま冒険者を続けていたらプラチナ級に届いただろうと言われているのに」


 僕が知らないドロテアさんの真実が次々に語られるぞ!!

 だが、そういう方向性で世界が広がるのを僕は望んでいない。


 僕は!

 美味しいものを!

 食べたいだけなのである!


「ではドロテアさん、海藻の油煮をごちそうしましょう……。シズマには、わかめのアヒージョと言えば理解できるかな?」


「酒が! 進むぅ!!」


「キミら、やっぱり会った瞬間に意気投合したなあ」


 リップルがうんうん頷いている。

 僕とシズマはメンタリティが近いのかも知れない。


 他のゴールド級三人がドロテアさんとおしゃべりしている間に、僕はちゃきちゃきと料理を進めていく。

 ほどよい大きさに海藻をカットする。

 流石元デーモンの海藻だ。いつまでもフレッシュ。


「ああ、いい香りがしてきた。オリーブオイルの匂いだ……」


「ほうほう、シズマ、それが君とナザルがいた世界での、あの油の呼び名なんだね?」


「ああ、いやあ、そのー」


 シズマが言い淀んでいるな。

 やっぱりリップル、気づいていたか。

 推理力と洞察力が高い人なんで、いつかは気付くと思ってはいたけど。


「そうでなければ、ナザルの発想力は説明がつかないしね。料理を覚えた瞬間に、彼の世界が変わった。彼が世界を変え始めたんだ。そして私は美味しいものにたくさんありつくことになった。ただ、油はもうちょっと控えめにしてくれると嬉しい……」


 最後の一言だけ切実だね。


「それにシズマ。あのデーモンを食べようとするなんて、そんなこと普通は考えつかない。海藻を食べるなんて、ファイブショーナンの一部の人がやっているくらいだよ。明らかにファイブショーナン人ではない君がそれをするというのは……それなりの理由があると考えたのさ。何より、君の来歴は何一つとして明らかになっていない」


「あー、いや、そのう」


 もう誤魔化すのは無駄だぞ!


「話はそこまでだ! 油煮の完成だ! さあ食べてくれ!」


 僕は素晴らしい香りのする鍋をテーブルの上に置く。

 砂漠の国ヒートスで得た味と、魔神ゼルケルから得た食材のマリアージュ、楽しんでいただきたい!



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