第82話 新たな力の目覚め
様々な串焼きのオブリーオイル焼きを食べた僕。
エビみたいな味だったり、胸肉のパサパサ感を補ってオイリーにしてたりと、様々なアプローチがあるものだ。
そこに加えられたオブリーオイルの風味豊かなこと!
素晴らしい香りを堪能していた時、僕の中で何かが蠢いた。
こ……これは一体……!?
急いで串焼きを食べきり、串を兄ちゃんの差し出したツボに捨ててから、自分の腕を掴んだ僕。
「うおおお、僕の左手が疼く……! 鎮まれ、鎮まれ我が力よ……!!」
もうね、昔の厨二病みたいなアレなんだけど、これは本当。
力が今にも溢れ出して来ようとする。
僕の力と言うと、あれだ。
油。
「すみません、何か油とか水分を入れるものない?」
「入れ物? じゃあこの瓶にどうぞ」
兄ちゃんが掲げたツボめがけて、僕は左手を向けた。
うおおおおお!!
ダメだ!
力が暴走する……!!
「ナザルが面白いことやってるぞ」
「ほんとねー。こいつと一緒にいると飽きないわねえ」
君たちはもっと危機感とかを持ったほうがいいんじゃないかね!
僕は力を制御しきれぬまま、瓶の中にダーッと溢れ出したパワーそのものを放った。
そうしたらもう、すっごくいい香りがするじゃないですか。
これは一体……?
油なんだけど、今までの油とは違う、嗅ぐと心を穏やかにしてくれるような柔らかい香り……。
「オ、オブリーオイルが出てきた! あんた、オブリーオイルを生み出せるのか!?」
「な、なんだってー!!」
とんでもないことを言われた。
どうやら僕は、オブリーオイルを摂取したことで、オブリーオイルを作り出せるようになってしまったようなのだ。
これは……。
新しい食用油を体に取り込めば、僕の油レパートリーが増えていくということなのではないだろうか。
「ご主人~! いいにおい!」
「おっ、そうかそうか。コゲタもちょっと舐める?」
「なめるー」
手のひらにちょっぴりだけ油を出したら、コゲタがくっついてきてペロペロ舐めた。
「おいしいー」
素晴らしい。
コゲタが喜ぶなら最高のパワーアップと言っていいのではないか。
「なんかあんた、脈絡もなくパワーアップしたじゃない! ……っていうか、油が美味しくなるのがパワーアップなの?」
「キャロティ。これは僕が今まで経験した中で最も素晴らしい変化なんだぞ。ええと、これが今までの油」
トロリと無色透明な油が出る。
「こっちがオブリーオイル」
トロリと黄金だが、どこか瑞々しい緑を感じさせる油が出てきた。
爽やかな香りがあたりを包み込む。
「あっあっ、もったいない! オブリーオイルの一滴は血の一滴なんだぜ!」
屋台の兄ちゃんが慌てた。
「安心して欲しい。これは僕が魔力を変換することで作り出した全く異なるオブリーオイルなんだ。よーし、魔力に戻すぞー」
「あっ、消えた!!」
「フフフ……。どうだね……」
「すげえ……! こ、この力があれば、ヒートスを手中に収めることすらできちまうぜ……!」
えっ、そんなに!?
単純にオブリーオイルを出せるだけの能力だと思うんだけどなあ。
そんなことをしていたら、商人氏が商館から出てきたのだった。
「おや、外が賑やかだと思ったんですがどうしたんですか? オブリーオイルの香りがいっぱいに漂っているような……」
「あ、いえ、何でもありませんよ……」
商人相手にオブリーオイルを出せるようになったなんて知られたら、ろくなことにならない気がする。
商売に利用されるか、あるいは商売敵扱いをされそうな……。
屋台の兄ちゃんが口をパクパクさせていたので、僕は静かに、というジェスチャーをした。
「君は何も見なかった。いいね? そもそも、オブリーオイルを出すことができる能力なんて聞いたことがない。そんなものは存在しなかったんだ。そうだろう?」
「い……言われてみればそんな気がしてきた……」
よーしよし、いい子だ。
さて、ここで僕らは商人氏からボーナス分をもらって、解散となった。
帰る時はめいめい好き勝手なタイミングでいい。
だが、しばらくはヒートスでぶらぶらしてみたいではないか。
オブリーオイルを作り出す力も、どこまでなのかを試してみたい。
……と思って宿を取り、力を使ってみたら。
なんのことはない。
抱えるくらいの瓶の半ばまでくらいしか出せないではないか。
それに、さっきよりも香りと味が落ちているような……。
「これは……。僕の中でオブリーオイルの解像度が落ちているせいかも知れないな。つまり……もっとたくさんのオブリーオイルを使った料理、あるいはオイルそのものを口にしなければならない」
「ご主人、またお出かけ?」
「おや、コゲタは宿でのんびりしていたいかい?」
「コゲタ、ご主人といっしょ!」
「よーし、それじゃあまたお出かけしよう」
そういうことになった。
せっかくの外国だものな。
ファイブショーナン同様の暑い国、ヒートス。
向こうが潮風香る爽やかな暑さなら、ここは肌を焼き、地面を焼く炎の暑さだ。
なので、日陰を選びながら移動する。
いやあ、暑い。
日向を歩いている者は一人もいない。
皆、日陰で大人しくしているか、あるいは仕事をするなら屋内だ。
ヒートスの家々は土でできており、外気温を遮断するために中が涼しい。
なるほど、真昼は屋内か日陰にいて、昼寝何かをしてるのがいいんだな……。
それはそうとして、僕はオブリーオイル料理を求めて移動するのだ。
ちょっと先に行っていたコゲタが、鼻をくんくんさせた。
「ご主人! いいにおい!」
「おっ! おっ! 話題のあれかな? 油煮かな?」
コゲタがパタパタ走っていくのを追いかける僕なのだった。
どんな料理が待っているんだろうか。
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