第72話 第二王子が呼んでいる
明日より、一日一回朝更新になります。
しばらく、リクエストに答えて宿の主人とおかみさんにブタ南蛮みたいなのを作ってあげていたらだ。
冒険者ギルドから使いが来た。
アイアン級の若い冒険者だ。
「ナザルさーん! なんかギルマスがお呼びです。大変なことになったとか」
「ふむ、なんとなく内容は想像がつくぞ」
「つくんですか!?」
「ギルマスがわざわざ僕を呼び立てるほどの大事は、三つしか無いからだ。一つは公式の依頼、二つ目は奥さんであるドロテアさん関連。三つ目は国が絡んでいる話。三つ目だろうな……」
「そうなんすかねえ」
要領を得ないアイアン級。
今年田舎から出てきたばかりだからな。
まだまだ素朴なものだ。
僕はギルドに向かう道すがら、彼に「最近どう? 怪我とか気をつけてるか? 依頼は無理したらだめだぞ、少しずつ実力をつけるんだ」とかレクチャーした。
彼はへいへい、と聞き流していたので多分ダメだと思う。
運が良ければ来年も生きているだろう……。
さて、ギルドに到着。
僕を待っていたらしいギルマスが、酒場の椅子に座って凄い目をしている。
「ナザル!! お前、何をやらかした!!」
「やあギルマス。僕はですね、食の喜びを知らぬ殿下に美味しいスイーツを紹介したまでで……」
「やっぱりか!! 第二王子のデュオス殿下から、お前に直々の召喚が掛かってるんだ! おいエリィ!」
「はぁい」
お下げの受付嬢が飛び出してきた。
あれっ?
よそ行きの格好してる!
「こいつを目付役で付ける! くれぐれも粗相をするなよ!? 何かあったら俺のクビだけじゃない。ギルドの職員たちのクビまで飛ぶんだからな!」
めっちゃくちゃ厳重に注意されてしまった。
僕は、「へい! へい!」と返事だけは威勢よくやって聞き流した。
「ギルマスの話、ほとんど聞いてなかったでしょ」
後で受付嬢のエリィにも注意されてしまった。
確かにそうなのでぐうの音も出ないな。
なお、リップルは王宮とかはとにかく面倒だから絶対行かないらしい。
またその内、外に連れ出して運動させてやらないとな……。
僕は日傘にかわいいフリフリスカートのエリィを連れて山の手地区へ。
この一番奥がお城になっている。
岸壁を削り、そこにはめ込むように建造されているわけだ。
いざとなればアーランはそのものが城塞となり、籠城戦が可能になっている。
その際、一番高いところにある王城からは城壁の外までが見渡せるというわけだ。
いやあ、ここから振り返ると、下町も商業地区も居住区も一望にできるなあ。
壮観壮観。
ずっと街を見下ろしているので、エリィが僕の裾をクイクイ引っ張った。
「ナザルさん! 門番の方々が変な顔して見てますよ! 怪しいことすると捕まっちゃいますよ!」
「おっと、本来の目的を忘れるところだった。こうね、最近、心がとても自由なものでね……」
「何気持ち悪いこと言ってるんですか」
取りつく島もないなあ!
ということで、僕は門番に挨拶した。
王国の入口の門番とは、格が違う。
彼らはしっかりとした家柄の生まれで、代々貴族の従僕などを努めている一族の子供などだ。
「どうもどうも、下町の冒険者ギルド所属、油使いナザルです。油使いが来たとお伝え下さい。これ、証拠の油」
何も無いところから大きな油の玉を生み出して、それを手のひらで挟んで消滅させた。
門番たちは目を白黒させたあと、詰め所に一旦引っ込んでいく。
そして、「なんて怪しい男だ」「あ、でも油を自在に使う男がいたらデュオス殿下のところに通せと書いてある」「あの怪しいのを? 殿下のところに?」
「なんか言われてますよ。いや、全然同意なんですけど……」
「ひどいなあ。だが、僕も否定はできないな。僕が殿下だったら絶対に僕を通さないもの」
不承不承と言う感じで門番がやって来た。
そして、扉を開いてくれる。
「変なことするなよ……?」
念を押してくるぞ。
信じて欲しい。
トラスト・ミー。
僕はエリィを連れて、堂々と城の中庭を歩く。
ここから目の前に宮殿。
そこが王の執務の場であり、彼に付き従う大臣たちも勤務している。
で、右手には巨大なお屋敷。
これは王太子であるウーヌスの住まいだ。
左手にはもうちょっとこじんまりしたお屋敷。
ここがデュオス殿下の家。
王の住まいは宮殿の奥にある。
後宮もくっついてるが、今の国王は奥さんは一人主義らしく、運良く王子が二人うまれたから断絶は避けられたね、なんて昔は言われてたんだそうだ。
この教訓から、ウーヌス王子は奥さんが二人いる。
デュオス殿下は一人ね。
「こっちだな、こっち。行こう」
「ほ、本当に堂々と歩きますよね。ここ、お城の中ですよ?」
「ほら、僕は正式に招かれた客人みたいなものだからさ。胸も張るってものだよ。あ、どうもご苦労さま! やあ、こんにちは!」
横を歩く騎士たちに挨拶をする。
彼らは僕を見てギョッとした後、怪しいやつが堂々と城内を歩くわけもないので、首を傾げながら遠ざかる。
そのたびに、エリィはヒヤヒヤしていたようだ。
「ここまでの道程だけで、報告することが三つくらいできそうです……」
「凄いな、盛り沢山だ。だけどいちいち数えていたら本当に心臓に悪いからさ、エリィももっとおおらかな気持ちで臨んだほうがいい」
「な、なんだか私もそう思えてきました……」
こうして僕らは、第二王子デュオスの屋敷の扉を叩くのだった。
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