第69話 ついに見つかった
ふらふらのんびりと、アーランへと帰ってきた僕。
コゲタもファイブショーナンでの日々を満喫したようだ。
それでも、家が恋しいらしい。
「おうち、コゲタ楽しみ!」
「そうかそうか、コゲタは家が大好きだなあ」
「帰るところ、すき!」
「そうかー。じゃあ急いで帰らなくちゃな!」
コゲタをわしわしと撫でた。
彼は帰るべき場所だった群れが全滅している。
最後の生き残りなのだ。
なので、コゲタにとって新しい帰るべき場所は、僕の宿ということになるのだな。
うんうん、僕はコゲタのためにも死なないようにせねばなあ。
こうして、一泊二日程度の旅程でアーラン到着。
思えば、半月ぶりくらい離れていたではないか。
こんなに長い間アーランを留守にしたのは初めてだ。
僕も案外、この遺跡都市が好きなのかも知れないな……。
荷物の中には、干した寒天がたっぷり。
当分の間は、これで色々な料理に挑戦できるぞ。
ニヤニヤする。
門番が僕に気づき、「ナザルじゃないか! 一人で帰ってきたの?」と声を掛けてきた。
「ああ。仕事は上手く行った。国交も樹立したぞ。つまり、アーランとファイブショーナンは兄弟国だ」
「おおーっ!! こりゃあ、第二王子も大手柄を挙げられたなあ!」
「魚醤もどんどん入ってくることになる。これ、おすそ分け……」
「あっ、これはこれは……」
僕はそーっと、門番に賄賂を渡した。
門番たちみんなで使い切れる程度の、魚醤の瓶である。
「ふんふん……おお、特徴的な香り……! ちょっと間違えると臭くなりそうなくらいだな。これが……?」
「魚醤だ。肉にちょっと掛けて食べてみるといい。最初は癖があるが、だんだん慣れてくると本当にやめられなくなるぞ」
「マジかよ……」
ぶるぶる震える門番。
「とんでもねえブツを仕入れてきやがったな……」
「ふふふ……。まだ市場に出回ってない上物だ。少しずつみんなで分けて使えよ……」
「ああ、ああ! また頼むぜ、兄弟!」
僕の肩を叩いて、門番は引っ込んでいった。
傍から聞くと、実にヤバそうな会話であろう。
あっ、旅人が青い顔をして遠ざかっていく!
聞いていたのか!
違う!
違うんだ!
魚醤を差し入れしてただけなんだ!!
妙なことにならないといいなあと思いつつ宿に戻ったら、宿のおかみさんが飛び出してきて、コゲタを抱き上げて頬ずりした。
「うーわー」
「んもー! コゲタちゃんとずっと会えなかったから寂しかったわよー!! ちゃんとご飯食べさせてもらった? たくさん遊んでもらった?」
「ん! コゲタ、ご主人すき!」
「良かったわねー! じゃあこれからはおばちゃんとも遊びましょうねー」
「あー」
連れ去られていってしまった。
コゲタと離れていたから禁断症状が出たんだな。
これを見送った後、荷物を自室に置いていると。
扉がノックされた。
宿の主人だろうか。
「はいはい」
無防備に扉を開ける僕なのだ。
いやあ、僕もね、平和ボケというやつをね、していましたね。
「よう」
「うわーっ! ア、アーガイルさん!!」
盗賊ギルド幹部にして、ゴールド級冒険者のアーガイルさんがそこに立っていた。
彼は僕の部屋に首を突っ込んで、くんくんとにおいを嗅ぐ。
「どう聞いてもお前としか思えない男が、門番に怪しい小瓶を手渡していたと聞いて飛んできたが……。こりゃあ、どんな薬の臭いとも違う。発酵した食い物の匂いだな?」
「ご明察……。魚醤を手渡してました」
「お前なあ……」
アーガイルさんがすっかり脱力した顔になった。
「なんでわざわざ怪しまれるような仕草をしながら門番とやりとりするの……。国にやべえ薬が持ち込まれたかと思って戦々恐々としたじゃねえか……。しかも、その運び屋がお前だって言うなら、盗賊ギルドが半壊しかねないくらいの覚悟をして来たんだぞ。おーい! 外れだ! 良かったな! お前ら、帰れ帰れ!!」
天井から、壁際から、階段から、ぞろぞろと人が去っていく音がした。
みんなワイワイガヤガヤ騒いでいる。
その声から感じるのは、ホッとした空気だ。
「これ、僕一人のために動員したんです?」
「ぶっちゃけ、俺一人生き残れれば御の字だと思ってるからな。以前路地裏であった時の実力じゃないだろ、お前。ほんと、敵に回したくねえ」
「いやいや、買いかぶりすぎですよ……。僕はちょっと変わった魔法が使えるだけの一般的な魔法使いで……」
「おうよ。その魔法使いにずっと仕事を頼みたかったんだ」
「あーっ」
その時、僕は思い出した!
盗賊ギルドがファイブスターズの間諜とやり合う、いわゆる暗闘に巻き込まれないため、ここ最近は別の仕事をやりまくっていたのだった!!
アーガイルさんにちょっと褒められて、調子に乗ってたら逃げ時を失ってしまった!
「手伝ってくれ、ナザル。いやまあ、大したことじゃねえ。第一層と市街地の間に下水があってな。そこに奴らが潜んでいてな。ツーテイカーの暗殺者どもだ。なんとか追い詰めたが、決め手がない。うちの若いのが何人かやられた」
「はあ……。そういう切った張ったは嫌いなんですが」
「お前が逃げ回ってなかったらもう少しスムーズに終わったかも知れない」
「うっ、それを言われると弱いなあ」
「お前、食材を集めてるんだろ? うちのツテを使って珍しい食い物を揃えてやるから。肉か? 魚か? 野菜か?」
「やりましょう」
報酬は十分だ。
仕方ない、逃げ回ってた分、ちょっと働くか。
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