第65話 これでアーランと国交樹立だ
串刺しになったアイアン級の彼は、今のところは一命をとりとめているが、このままでは死ぬだろうという事がわかった。
なので、僕が油で傷口に蓋をし、さっさと戻るように指示した。
「死なせたくないなら、大枚はたいて、なければ借金して神殿で回復魔法掛けてもらって。で、その金を返すミッションに挑んでね」
「そ、そんなあ」
「それじゃあ、俺たちいつになったらランクアップして一人前の冒険者に……」
残りのパーティメンバーが動揺している。
だが、相手の実力を見極められず、引き際も分からずに死地に留まっていたのわけだからね。
助かる可能性があるだけでも運が良かったと思ってもらいたい。
今回は隊商の一部だったし、僕がいたから全滅しなかっただけで、普段ならばパーティまるごと行方不明のはずだぞ……。
「さあ、帰った帰った」
「うう……冒険厳しい」
「死ぬな、死ぬなよ……!」
励まし合いながら、彼らは戻っていった。
助かるといいなあ。
こうしてアイアン級冒険者がいなくなってしまったので、結果的に僕がギルドを代表して隊商に参加した形になってしまった。
なんということだ。
しかもさっきギルマンが、僕を見てドン引きして撤退していったので、傭兵や戦士たちがちょっと尊敬する目を向けてくる。
「よろしいか」
「なんですか」
「あの恐るべきモンスターどもが、あなたの攻撃を受けて一斉に撤退したようでしたが」
「ああ。ちょっと前にやり合いまして、僕の魔法で痛い目に遭ったのでそれを覚えていたのでしょう」
「ははあ、魔法使いでしたか! なるほど、手の届かぬところから攻撃すれば、ギルマンも一網打尽……」
納得してくれたようだ。
冒険者にはそこそこ魔法使いはいるが、こういう護衛を生業とする傭兵たちの中に魔法使いは少ない。
おおよそ、人口に対して百人に一人が魔法使いと言ったところだろうか。
まだまだ珍しいのだ。
油の話はそこそこにして、ランチになった。
乾き物をスープにしたりして、温度などをちょうどいい感じに冷まし。
「よーし、食べようかコゲタ」
「わん!」
二人でもりもりと配られた飯を食う。
やはり工夫次第でいくらでも美味くなるな。
それはそれでいいんだが……。
どうも注目を浴びている気がする。
いかんいかん。
やはり目立ってはいけないなあ……。
だがこれは、魔法使いの物珍しさから目立っている気がする。
「なあ、魔法を見せてくれよ魔法……」
来た!
「いやいや、魔法というのはだね、みだりに見せるものではないんだ。見せてはいけない。なぜなら、神秘性みたいなのがなくなるからね」
「そういうものなのか……」
僕の魔法というか、油は見ても何ひとつ理解できまい。
本当によく分からないものだからな……。
こうしてちょこちょこ、魔法を見せてくれと言うお願いをやり過ごしながらファイブショーナンへ到着した。
コゲタとの二人旅ならば一泊二日。
隊商だと三泊四日。
いかに僕らの旅が効率的だったかを物語っていると言えよう。
僕は目立ったと言っていたが、それはあくまで傭兵たちの間でだけのこと。
アーラン第二王子殿下にあらせられましては、下々である一魔法使いのことなど気にもならないご様子で。
いやあ、助かった。
出世しなくて済むぞ!
で、ファイブショーナン入国のために存在するという厳しい入国審査は……。
あった!
僕だけがスルーされただけで、他の商人や傭兵は、みんな順番に面接みたいなことをされている。
入国の目的は? とか、好きな食べ物は? 好きな異性のタイプは? みたいな事聞かれてる。
ここで「もがーっ! なんでそんな事を聞かれなきゃならんのだー!!」とか騒いだ者は、入国できなかった。
律儀に全部の質問に答えた者だけが、入国を許されたのだ。
これはつまり……ファイブショーナンに合う気質の者が選別されているということか。
一人ひとり面接していたので、待ち時間もとんでもないものになる。
忍耐力も試されたな。
僕が真っ先に顔パスで入国し、岸壁でおじさんたちと談笑しながら釣りをし、天ぷらを作ってみんなでガハガハ笑いながら食べて果実酒を飲み、果汁を寒天で固めたフルーツ寒天を頂いたりして、バルバラ女王に挨拶をして、軽く昼寝してから日が暮れる辺りで様子見に行ったら、まだ面接続いてたもんな。
結論から言うと、護衛の大半が脱落した。
第二王子と護衛の兵士、そして商人たちが忍耐力で突破。
ついに女王バルバラと対面することになったのだった。
第二王子はひょろっとしたおじさんで、彼と彼の護衛、そして商人たちを代表するおじさんが謁見の場に赴く。
僕は女王からの名指しで来るように告げられた。
顔見知りだからね……。
そして、ここで僕は、ファイブショーナンのいわゆるお城にあたる場所に来たことがないことに思い至った。
そこは、丸太で組まれた大きな屋敷といった外見だ。
常夏の南国。
雨風、嵐さえ防げればいいのだ。
僕らが知る城とは違った見た目なのも当然。
そして、女王バルバラと第二王子の会見は屋敷のテラスで行われた。
おお、遠見でも、王子が戸惑っているのが分かる。
宮廷のマナーとはぜんぜん違うルールがこの場を支配しているのだ。
頑張ってほしい。
時々、バルバラが僕を見て笑顔で手を振る。
僕が注目されるからそういうのは止めて欲しいなあ!
交渉は実にスムーズに進行。
第二王子が持ってきた正式な文書にバルバラが拇印を押し、かくして二国の国交は成ったのだった。
いや、めでたいめでたい!
じゃあそろそろ、本題である寒天の話をしないとですね、女王陛下。
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