第63話 使節団が出るぞー!
呼ばれていったバルバラ陛下だが、その後、ファイブスターズの一国、ファイブショーナンと国交を結ぶことが大々的に発表されたのだ。
どうやら何もかも上手く行ったらしい。
その後、陛下が一度ギルドを覗きに来てリップルとワアワアギャアギャア喧嘩をして、僕に挨拶をしてから去っていった。
嵐のような人だった。
その後、ファイブショーナンとの国交樹立後の作業が急速に進んでいく。
まず、あちこちで求人が行われた。
ファイブショーナンへ向かう隊商を結成するためである。
一応、ファイブスターズとこの国は冷戦状態。
どんな危険があるとも知れない。
ってことで頭数が必要なんだそうだ。
頑張ってほしい……。
そもそも、そんな頭数揃えてあの国に何しに行くんだ?
僕は大変疑問だったのだが。
「知ってますか? ナザルさん。隊商に使節団も同行して、第二王子がそれを指揮するんだそうです」
マスターの話を聞いて、まったりうとうとしていた僕の目が覚めた。
「なんだって!? とんでもない規模の話になってるな……」
これ、訪ねてきたのがただの使いじゃなくて、女王本人だったってことがバレたな。
国の顔を立てるために、偉い人間を向かわせるということではないだろうか。
そうかそうか、大物同士で決着をつけてくれ。
僕は魚醤さえ入ってきたら何も言わないからな……。
アイアン級の冒険者もそれなりに参加してるな。
確かに、この任務についてめざましい働きができれば、国からの覚えがめでたくなる。
実力とか経験とか吹っ飛ばして、士官できるかも知れない。
そう言う意味ではこれは夢の成り上がりチャンスなのだ!
ファイブショーナンドリーム!
僕はそう名付けた。
「なんかそれっぽいな……」
ギルドの酒場でお茶を飲む。
相変わらずマスターのお茶は美味い。
「ナザル。君が関わった案件の中で、最大規模のものになってるんじゃないかい?」
リップルの指摘に、僕は嫌な顔をする。
「これはあくまで仕事ではなく、僕がプライベートで遊びに行ったらたまたま女王陛下に気に入られ、魚醤と粉の物々交換の案内をしたら、陛下がアーランとも交渉しただけの話だよ……」
「君の名前が関係者から出てこないといいねえ……」
本当にね!
こんなところで、ファイブショーナンとの国交樹立の英雄なんかに祭り上げられたら堪らない。
僕は!
責任を負わずに!
楽しく暮らしていきたいのだ!!
「君の自由にやっていきたいという気持ちも強いねえ! だが、ギフト持ちが好き勝手に動いたら世の中も動くのは当たり前のことじゃないのかい……」
「そ、そんなことはないぞ! 第一今回は、僕は向こうで天ぷらを揚げて魚醤で食べただけだ」
「南国に行って、わざわざそこで天ぷらを揚げて食べようとするものが歴史上どれだけいたと思っているんだい? 絶対に君が初だよ? 全人類が試そうとも思わなかったことを君があそこでやって、だから天ぷらと魚醤で歴史が動いたんだ」
「やめてえ~」
「ナザルさんが頭を抱えていますね。でも本当に、成し遂げたことだけで言えば英雄みたいなものだと思うんですけど、どうしてそんなに功名心が無いんです?」
いつの間にか受付嬢のエリィも隣りに座っている。
「あれ? エリィ仕事は?」
「休憩時間なんです。これお弁当。あ、マスター、お茶くださーい」
「はいかしこまりました」
マスターが目の前で、見事な手つきでお茶を淹れてくれる。
これがもう美味いんだ。
お茶の種類としては、ハーブティだ。
しかも毎日、ハーブのブレンドが異なっている。
その日に仕入れられたハーブと、季節や天候に合わせてマスターが毎朝オリジナルブレンドを作るのだ。
そりゃあ美味しいに決まってる。
あ、お酒はアーラン一安い酒屋から適当に仕入れている。
だから本当に美味しくない酒が出る。
この力の入れよう!
この力の抜けよう!
「ああ~、マスターのお茶、本当に美味しい……。ギルドにマスターがいてくれて本当に良かったです」
「ありがとうございます」
マスターは嬉しそうだ。
ケーキ類以外の調理は絶対にやらないと誓っている、生まれる世界を間違ったパティシエみたいな人なのだ。
「それで、ナザルさん」
「ああ、はいはい」
僕が答えないと、気になってお弁当が食べられないというエリィのために、僕は仕方なしにこだわりの理由を語った。
「僕の親戚の話なんだが」
「こういうのは大抵本人の話なんだよ」
リップル!
余計な事を教えなくてよろしい!
「色々な面倒事を引き受けて、色々な人達の世話をしてきたんだが、結局報われずに一人で死んだんだ。同じようなことにはなるまいと僕は思ってね」
「それはなんていうか……。ひどいところだったんですねえ」
「いや、僕の故郷の村は別に悪いところじゃなかったよ。まあ遺跡が陥没して僕以外全員死んだけど」
僕はその時に油使いの能力をマスターし、油で身を守って助かったのだ。
逆を言えば、ギフト持ち以外全員が死ぬような災害だったということだ。
受付嬢がきょとんとした。
じゃあその親戚さんはどこにいたんです? とでも言いたげだ。
まずい。
僕の転生うんぬんは秘密なのである。
恐らく、この安楽椅子冒険者は薄々感づいている。
だが彼女以外に知られるのは、ろくなことがない。
「ま、そういう訳で、僕は自由にやってるのさ。で、僕に余裕がある時だけ、あくまで趣味として人助けをする。下手に地位や名声なんか得てしまったら、そんな趣味の人助けだってできなくなるだろう? 僕はもう、シルバー級の任務だけでいっぱいいっぱいなんだ!」
「なるほどです……! それなら仕方ありませんね!」
エリィは頷いた後、なぜか嬉しそうな顔になってお弁当を食べ始めた。
なんだなんだ……?
「さあね? どこかの出世欲がない冒険者に、揺るがぬ善性が宿っていることを確認して安心したんじゃないかい?」
リップルが分かった風なことを言うのだった。
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