第52話 魔導書には意思がある? ないの?
受付にあった目録をゲットする。
一見すると、地球にあったルーズリーフの束みたいだ。
ちょっと豪華な紐で止められていて、表紙は何かの皮が使われた豪華仕様だ。
「どれどれ……?」
リップルが手に取ると、目録が光った。
「なるほど、手にした者の魔力を使って、望みの本を探し出すようだね。あ、ナザル、掃除道具を頼む……」
「はいはい。リップルもちゃんと掃除するんだぞ」
「もちろんさ。とは言っても書庫に水気は禁物だから、箒とちりとり、それとハタキくらいしか使えないんだけど」
まあ、確かに、それしかないなら楽っちゃあ楽ではある。
どれどれ、行ってみよう。
まずは第一の扉。
一階の端にある部屋からやっていくのだ。
扉を開けたら、大変ほこり臭かった。
これはひどい。
「空気が悪い……! だけど、直接外の空気を入れると本が傷む……」
「リップル、一旦廊下の空気を全部入れ替えよう。そしてその空気を部屋の中に送り込む」
「それだ!」
ということで、行動開始だ。
二人でバタバタと廊下の突き当りの窓を開け……。
開かないぞ。
「おりゃあ」
なんか向こうからリップルの声が聞こえたぞ。
何をやった!?
僕は窓の隅々に油を染み込ませ……。
よし、これでツルリと開く。
錆びついていようが、摩擦を限りなく減らせば簡単に開くのだ。
すると、僕の窓からリップルの方に向かって風が通り抜けた。
『ウグワーッ』
なんか魔導書庫から声がするぞ。
魔導書に意思があって、外気を感じておののいているのではないか。
「いやあ、驚いた驚いた」
リップルが戻ってくる。
その手にしている炭はなんだ?
「魔導書が襲ってきたんだ。窓をちょっと破壊しただけなんだが」
「壊したの!? 駄目でしょ」
「廃材で急いで窓っぽいものを作ってはめ込んでおいたからセーフ。リペアの魔法だね」
腐ってもプラチナ級冒険者の魔法使いだが……。
それが、建築的センスを持っているとは限らない。
きっと、窓と言うにはちょっと無理があるようなものを作り上げたので、これに怒った魔導書が攻撃をしてきたのかも知れない。
「この魔導書、残ったページを読んでみたけど、全編が自動稼働に関する記述だね。つまり、警備を行うために配置された本というわけだ。……ナザル、君の足元の小さい書架にもあるのに、どうして反応してないんだ?」
「そりゃあ、僕が油を使ってごく平和的に窓を開けたからだろうね」
気づかなかった!
なるほど、この警備の魔導書に気付かないと、とんでもないことになりそうだ。
とすると、魔導書は意思があるのではなく、そういうプログラムに従って動いているというだけか。
「とにかく、貴重な魔導書なんだろ? リップルがカッとなってまた破壊したら堪らない」
「わ、私はカッとしてなんかいないぞ!? 正当防衛だ……」
「窓を力づくで開けたからだろ!?」
「それを言われると弱い」
だが反省の色は全く無いな。
この安楽椅子冒険者、危険すぎる。
自由にさせてはいけないな。保護者として彼女の監督をせねばならない……。
最初の書庫にやってきて、まずは扉をオープン、空気を入れ替える。
「ちなみに空気が動くだけでも古い本は傷む」
「そういうことは僕が提案した時点で言ってくれ!?」
「いや、いつかは傷むんだし。まあいいじゃないか」
このハーフエルフ、本当に魔導書を大切に思っているんだろうか……?
物珍しいだけなのでは……?
僕は怪しみつつ掃除をスタートした。
魔導書は、特に触れるとか何か本にとってマイナスな行動をしない限りは動かないと見た。
ハタキで埃を落としてみる。
ふむ、この程度の接触だと何も起こらないんだな……。
「リップルは本に触れないで。また魔導書が警戒して動き出すかも知れない」
「ははは、まっさかあ。警備の本でもない限りは問題ないよ!」
信用できないなあ!
この安楽椅子冒険者、自分の発言の信頼度を認識しているのだろうか。
注意しておき、いざとなれば油で転ばせておいた方が良かろう。
彼女が魔導書に負けることは万に一つも無いだろうが、彼女が魔導書に勝利するということは貴重な本が失われることを意味している!
「魔導書諸君、あのハーフエルフには気をつけろよ……」
僕は物言わぬ魔導書に声を掛けながら掃除に勤しんだ。
書庫はそこまで大きくない。
棚もせいぜい三段で、床に近いところに本を置かないようにしてあるようだ。
お陰で掃除が楽である。
埃を大体落としきったら、これをリップルにちりとりを持ってもらい……。
箒で集めて行く。
「よし、こんなもんだろう。死んだ冒険者は、警備の魔導書と喧嘩したか、他の魔導書にいらんことをしたんだな」
「私が思うに、一冊くらいいいだろうと回収して売り払おうとしたんじゃないかな?」
「ありうる……」
冒険者なんて、ランクが上がっても所詮は自由業っぽいものだからな。
ギルドに所属していても、そこが給料を約束してくれるわけではなく、僕らはそこで仕事を自ら受注せねばならない。
懐具合が寂しい冒険者が、魔が差しておかしなことをする可能性は十分にある。
僕らは余計なこと、しないで行こうな。
「……って思った端から、リップル! 魔導書を読まない!」
「いいじゃないか。役得役得……」
「今日中に終わらないだろう。一階に扉が四つ、二階にも三つあるんだぞ」
「仕方ないなあ……。じゃあちゃちゃっと終えて、また読書させてもらおう」
やれやれ、とリップルは立ち上がり、魔導書を本棚に押し込むのだった。
いやあ、怖いなあ!
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