第49話 では鳥を焼こう
「僕の油は手当もできるのだ。どーれ」
「あっ、何も無いところから油の玉が!」
「傷口の土が浮かび上がっていく……! なんだこれは!」
「魔法使い……? い、いや、まさかギフト使いか!」
兵士たちが驚く。
戦う元気が無いようで、敵国の僕の行いに感嘆してくれているばかりである。
彼らは山の上の方で強力なモンスターと戦ったらしく、十人いたうちの三名が死亡、二名が重傷を負い、こうして命からがら逃げてきたのだ。
「コゲタ、後ろからモンスターが追いかけてきてない?」
「んー」
くんくんと鼻を動かすコゲタ。
「オウルベア」
「オウルベアかあ。どう? 近づいて来そう?」
「逃げた!」
「逃げたかー」
僕は密林で油を使って狩りをしたりするが、これによって何度かオウルベアを仕留めたり追い払ったりもしている。
もしかすると、密林から逃げ出したオウルベアが山に住んでいたのかも知れないな。
僕の油の匂いを察して、逃げたのだろう。
「安全になったようだ。さあ鳥を焼こう……。数が足りないな……」
僕がぶつぶつ言っていると、気を利かせた兵士がその辺りの茂みに消えていった。
鳥を解体していると、兵士が戻ってきた。
「こ、これでどうだ?」
「おお!」
兵士の手には、鳥が握られているではないか。
頭に矢が刺さっており、即死だ。
この兵士、腕がいいな……。
元狩人と見た。
「ありがたい! じゃあ解体を手伝ってくれ」
「お、おう!」
傷の手当をしてもらった負い目があるからか、兵士たちは素直だ。
いそいそと鳥を解体したり、山菜を取ってきたり、きのこを採取してきたりしてくれた。
食えるかな……?
きのこは半分以上が食えない種類だからな。
「コゲタ、どう?」
「んー」
コゲタがやって来て、きのこの匂いを嗅いだ。
「これ、これ、これ!」
「ありがたい!」
食べられるきのこを嗅ぎ分けてくれた。
コゲタは偉いなあ。
コゲタをナデナデしたら、目を細めて気持ちよさそうにした。
「食べる人間の数が多いな……。粉を使って嵩増ししとくか……」
僕は鍋の油を熱し、そこに粉を水で溶いて、鳥肉や山菜、きのこにたっぷりとまぶし。
ジュッと揚げる。
パチパチと油が弾ける音。
実に美味しそうな香りが漂う。
兵士たちが、ゴクリと唾を飲んだ。
「食事をしながらでいいから、今そっちはどうなってるか教えてくれないか? 僕は見ての通りただの冒険者だ。気軽に話してくれると嬉しいが」
「それを聞いてどうするんだ」
僕を警戒しながら、兵士たちの長らしき人が口を開く。
彼らの中では最年長みたいだが、それでもこの世界の僕よりも少し年上くらいだろう。
まだ中年には入っていないくらいの年齢だ。
前世の年齢も加えたら、僕の三割くらいの年ではあるまいか。
「言うなれば……。なんか沈黙してると気まずいだろ。隊のうちの三名が死んだ君たちは、国に帰っても扱いは悪くなってるだろ。なら、僕と仲良くなってアーランに亡命するという手もある……」
ざわざわする兵士たち。
「い、いや。フォーゼフには俺の家族がいる。見捨てることは出来ない……」
フォーゼフは、農業を主な産業にしているファイブスターズの一国だ。
良かった、一番穏健派な国じゃないか。
これが氷の国ワンダバーや、盗賊の国ツーテイカーだったらまずいところだった。
殺し合いになっていたね。
「じゃあ、当たり障りのない感じで教えてくれよ。傷の手当に食事の世話までしてあげるんだからさ」
「うーむ、それはまあ……」
兵士の長が不承不承頷いた。
話してくれる気になったらしい。
ここで僕の口を塞いでしまえば……みたいな話になると、僕が彼ら全員の口を物理的に塞ぐことになってしまうからね。
そう、これは別に他国の情報を集めようというのではない。
単純に僕の興味だ。
「フォーゼフは立場が弱くてな……。アーランの大量生産された農作物が運ばれてくる関係で、我が国の農作物が値下がりして」
「あっ、そういう」
アーランは遺跡を用いて、魔法的な農業を展開しているからね。
生産力では大陸でも随一ではないだろうか。
なるほどなあ……。
農作物の大量生産が可能になると、昔ながらの生産方法をやってるところは割を食うのだ。
地球でもそうだったなあ。
「大変だなあ……。それで君たちは自ら危険な任務に? きついなあ」
「うむ……。仕方がないのだ……」
「俺達が頑張らなければ、フォーゼフが干上がっちまう」
兵士たちの顔は悲壮なものだ。
ちなみに山にやって来たのは、ここを前線基地にするつもりだったらしい。
だが、アーラン周辺は危険なモンスターが多いのだ……。
ホイホイやって来たら、強力なオウルベアと遭遇してチームが半壊した。
軍隊というのは対人戦に特化しているので、圧倒的タフネスとパワーを誇るオウルベアなんかとぶつかると全然刃が立たなかったりする。
こういうのは特化戦力である冒険者の方が向いてるわけだ。
「さあ、天ぷらが揚がったぞ……! みんな食え食え」
揚げたての鳥肉を配って回る。
みんな熱さにひいふう言いながら食べて、「うめええ」「あったかい飯だあ!」「油っこさが体に染み込む……」
喜んでもらえて何よりである。
話してもらったお礼でもある。
「ご主人! コゲタも!」
「おお、コゲタ用はこっちにある。油はしっかり取ってあるからな。サクサクだぞ」
「コゲタこれ好きー」
さくさくと揚げ鳥を食べ始めるコゲタなのだった。
今度は鉄板を用意した僕。
ここに油を敷いて、ガンガンに鳥を焼く。
焼き鳥だ……!!
肉が焼ける香ばしい香りに、疲れ切っていたはずの兵士たちが歓声をあげた。
いいぞいいぞ、元気になってきたな!!
やるぞ、山の中の焼き鳥パーティを!!
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