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第48話 山の中での遭遇

 シルバー級冒険者として、出来うる限り目立たず生きていきたい僕である。

 だが、やはり等級というものは勝手に仕事を運んでくるものだ……。


「ナザルさん、ギルド本部から名指しであなたに、ファイブスターズとの境界近辺に立てた旗のメンテナンスの依頼が来ています」


「うわあ面倒くさい」


「シルバー級なんですからごちゃごちゃ言わずに受けてください」


 お下げの受付嬢は、僕の反論は受け付けてくれないのだ!

 ええい、なんということだ。

 報酬はそれなりに出るようだが、正直出張が絡む仕事はプライベートが潰されてよろしくない。


 僕は精一杯の抵抗として、コゲタ同伴を認めさせた。


「ナザルさんが従者にしているコボルドですよね? でしたら、冒険者の仲間ではなく装備として認められますから……」


 つまり、コゲタ分の報酬は出ないよというわけだ。

 けちめ!


 まあいい。

 僕はこの遠出をプライベートのように楽しむつもりだ。


 宿に帰り、出発の準備をする。


「ご主人、お出かけ?」


「そうだぞ、コゲタも一緒に行こう」


「行く! 行く!」


 コゲタが尻尾をぶんぶん振りながら、ぴょんぴょん飛び跳ねた。

 ははは、かわいいかわいい。


 こうしてコゲタを連れ、僕は旅立ったのだった。

 のんびりとしたものだ。

 食事は最小限。


 保存食と、水と粉。

 これだけあればいい。

 どうせ途中で狩りをするのだ。


 アーランから出て、ファイブスターズ方面へちょっと行ったところで、谷と山に向かう道が分かれる。

 今回は山道。

 緑が生い茂り、たくさんの動物たちがいる。


 つまり、食べ物いっぱいだ。

 僕は解体用の山刀とナイフくらいしか持っていない。

 狩りに道具は必要ないからだ。


「ご主人、鳥のにおい」


「食べられる鳥かい?」


「食べられる。コゲタ、前、食べた」


 コゲタの嗅覚によって獲物を探り、その経験から食べられることを知り。

 油を伸ばして鳥へと近づけていく。


 枝をしならせながら、僕らの様子を伺うその鳥は、それなりに大きい。

 生前の世界では、大きなカラスくらいはあるんじゃないだろうか。

 茶色とくすんだ緑の混じった羽は、なるほど枝葉に擬態してしまえば目立たない。


 逆に言えば、その鳥は俊敏に飛行することが苦手で、擬態して外敵をやり過ごすタイプだということである。

 木の幹を音もなく這い上がっていく油。

 やがて、油は鳥の足までたどり着くと……。


「捕縛!」


 一気に広がって、鳥を包みこんだ。

 鳥がギャアギャア叫びながら、飛び立とうとする。

 だが、油に包まれた翼は風をはらむことはない。


 落ちてきた。

 ここを、山刀でがつっと一撃。


 新鮮な鳥肉が手に入った。


「ご主人、すごい」


「まあね、さんざん、ギフトを私利私欲のために使ってるからね」


 流れ出る血を油に混ぜて吸い出してしまえば、血抜きもあっと言う間。

 ちょっと開けたところで羽をむしろうと思い、僕は山を登っていった。


 すると、降りる方へ続く獣道があるではないか。

 これはいい。

 登りと降りる獣道が交差する辺りでキャンプをしよう。


 本来ならば、獣が集まる場所だ。

 危険だと言えるだろう。

 だが、僕はギフトの力でその辺りは解決しているのだ。


 全ては油……!


 あとはコゲタが警戒してくれているしね。


 僕がテントと調理道具を背負い、コゲタは水と粉と保存食を担当している。

 荷物を下ろし、テントを立て……。


 さて、腰を落ち着けて羽をむしろう。

 これはなかなか食いでがある鳥だぞ。

 生前の世界のブロイラーよりは全然だが、それでも可食部がキログラム単位である。


 これを、この間覚えた焼き鳥にして食べる……。

 いいじゃないかいいじゃないか。


 山は調味料の宝庫でもあるので、僕はその辺りから刺激の強い香りを放つ木の実などを採取する。

 唐辛子もどきみたいなやつだ。

 一部の鳥だけがこれを食べることができて、それ以外の生き物には辛くて堪らない。


 好んで食べるのは、唐辛子もどきが種を運ばせたい鳥か、あるいは人間くらいのものだ。


 いやあ、好きなんだよね、この辛さ。

 コゲタがこの実を見て、「からから」と嫌そうな顔をした。


「僕だけに使うから。コゲタは辛いのなしね」


「コゲタ、からからいやー」


 うんうん、コボルドは嗅覚……すなわち味覚も鋭敏なので、こういう強烈な味のものが苦手なのだ。

 さて、この他に山椒っぽいものなどもゲットしたところで、いよいよ羽むしりの本番だ。

 バリバリとむしる。

 むしった後の羽を、コゲタがふわーっと空に浮かべて追いかけたりしている。


 平和だ。

 平和な時間だ。


 だが、そんな平和も長くは続かなかった。


「わんわん!!」


 コゲタが吠え始めた。

 なんだろう。

 僕がそちらを見ると……。


 山間から、ふらふらと数人の男が現れたところだった。

 あれは……ファイブスターズ側の兵士ではないだろうか。


 何をしているのだ。


「おお……! 人がいる……!」


「頼む! 助けてはくれまいか! 山に住むモンスターと戦って、怪我をした者がいるんだ……!」


 男たちの中の二人ほどがぐったりとし、一人は背負われ、一人は肩を借りてようやく歩いているところだ。

 なるほど、これは大変だ。

 冷戦中の敵国の兵士とは言え、眼の前で困っているものを見捨てるのも寝覚めが悪い。


「助けてもいい」


「おお!」


「だが……何か食材を提供してもらいたいな……!」


 全てはギブアンドテイクだ!



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