第44話 コゲタへのお土産
遺跡に出現したモンスターを倒すと、いつの間にか床に吸い込まれていってしまって後には何も残らなくなる……みたいなことがよくある。
つまり、遺跡は有機物を回収する機能が存在しているらしい。
これ、僕は有機物を魔力に変換し、遺跡そのものを維持しているのだと考えているんだけど。
もしかして、アーランが出来上がり、第一層と第二層に畑や牧場が誕生した今、遺跡はとても元気に稼働していたりするのではないだろうか……?
おっと、話が戻ると、クァールの死体は放置していて構わないということ。
それから、クァール討伐の証を手に入れないといけないわけだ。
「耳かな」
「耳だろうなあ」
「なんかゾッとするわね!」
キャロティがウサギ耳を抑えた。
あれだけの戦いをやった後でも、ラビットフットは元気いっぱいだ。
ものすごい速さで体力が回復する種族なんだよね、彼ら。
ただし、食いだめをしておかないといけないとか。
今もキャロティは、ポシェットから乾燥した野菜のスティックみたいなのを出して、カリカリかじっている。
ウサギだ。
「よーし、耳切り取れたぞ。生きてると防御の魔法でも働くのか、やたらと頑丈なくせになあ。死んだらあっさりと切れた」
「さっきは僕の油に対抗するために魔力を回してたんだろうねえ。いや、しかし噂に聞く以上のとんでもない化け物だった。よく勝てたな僕らは」
「俺はお前がいれば勝てると思ってたぜ。何せ、クァールは地べたの上を歩いてるからな」
わっはっは、とバンキンが笑った。
確かに。
地上を歩く相手に対して、僕は一方的にメタを張れるもんな。
あっと!
ここで思い出した。
「コゲタにお土産を持って帰るって約束したんだった……」
「ああ、あのコボルドか? 本当にずっと世話してるんだなあ」
「犬は大事にする主義なんだよ」
「犬に似てるが犬じゃないだろ、コボルドは……。あ、いや、でもあいつらの自認は犬なんだよな」
そうそう。
コボルドは自分たちを犬扱いされても全く怒らない。
というか、自ら犬であると自負しているところがある。
なので、僕みたいにコボルドを従えている人は王国に何人もいるのだ。
大抵は金持ちなんだけどね……。
どれがいいかな、とクァールの全身を眺める。
……これだな。
僕が選んだのは、クァールの一番目立つ部分。
触手だった。
これをバンキンから借りた手斧で……。
先端あたりをバツン、と叩き切る。
いや、バツンじゃなかった。
何回か思い切り叩きつけて、ようやく切れた。
バンキンはこんな頑丈なものをよく切れるな……。
耳だって同じ材質なんじゃないか?
「切り口がザクザクじゃねえか。ちょっと貸してみろ。これはな、全身を使って叩き切るんだよ。あとは高さな。リビングアーマーの胴体をここに置いてだな……」
「台座を用意するのか」
「そういうこった。据え物を斬るなら準備は大事。せーのっ!! おりゃっ!!」
気合一発、もう片方の触手の先端が、バツンと切れた。
「おおーっ!」
触手先端は細くなっており、ムチのようにしなる。
このままでは有機物なので、干したり煮込んだりして加工する必要があるが……。
「あっ、加工した触手は棒みたいに硬くなんのよ! 犬ならそれのほうが嬉しいんじゃない?」
「なるほど!」
キャロティからいいことを聞いた。
この場でちょっと、触手の先を煮込んでいく……。
「なんで煮込む道具持ってきてるんだよお前」
「僕はどこでも揚げ物を作れるように、マイ調理セットを所持しているんだ」
「本当に変わったやつだなあ……」
思ったよりも早くクァールが倒せたので時間がまだまだある。
僕はぐつぐつと触手を煮込み、とりあえず棒状に加工することに成功したのだった。
なお、クァールの触手は棒状になると使い物にならないことで有名なんだそうで。
「わざわざ価値を落とす加工をしたわねえ……」
「いいんだよ。コゲタにとっては値千金の棒なんだ」
僕らはこうして、地上へと戻ったのだった。
冒険者ギルドやってくると、心配していたお下げの受付嬢がホッとした様子だった。
「良かった……! いかに皆さんとは言え、クァール相手に三人はちょっときついかなって思ってたんです……! でも、勝てたんですね!」
「いやあ、厄介な相手だったよ。僕の能力と相性が良くて助かった。マインドブラストも油で滑らせたし」
「油で……? ナザルさん相手に相性がいい人っているんですか?」
分からない……。
そして、雀の涙ほどのお金をいただき。
なんかギルドの特別券みたいなものを受け取った。
これがあれば、多少のわがままを聞いてもらえるようになる。
三枚集めると、もっとすごいお願いができるぞ。
まあ、安い金で命がけだったんだから多少はね。
こうして僕は宿に戻り……。
「ご主人~!」
興奮して四本脚で走ってくるコゲタの突撃を受け止めたのだった。
「ご主人元気、良かった」
「ああ。お陰様で元気に戻ってこれたよ。コゲタを残して死ねないからな。あ、これお土産。ちょうどいい感じの棒」
「棒! コゲタこれ好き」
コゲタは棒を受け取ると、握りしめてぶんぶん振り回した。
うんうん、気に入ってもらえて何よりだ。
そのちょうどいい感じの棒を手に入れるの、本当に大変だったんだからな。
ちなみにその棒、本当に何の力も残ってはいないのだった。
僕はこれを遠くに放り投げ、コゲタが喜んでそれを追いかけていき、咥えて戻って来る……みたいな遊びを日暮れまで堪能したのだった。
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