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第42話 遺跡第三階層へ

 第一階層から第二階層へは、エレベーターで移動する。

 そう、遺跡、エレベーターがあるのだ。

 階段で移動とかそういうのはない。


 第二階層へ下っていくと、ここは牧畜などをしている場所なのだそうだ。

 牛がいる。

 ブタがいる。


 第一階層で野菜を採取したあとの草木などはここに運ばれて、家畜の餌となる。

 その他にも、ひたすら牧草だけを育てている場所、アーランの残飯を集めてブタに食べさせている場所などもある。


 アーランが割といつもきれいなのはそのせいだったのか……。

 生ゴミを集めて第二階層へ運ぶ業者がいるんだな。


「ふんふん。昔はウサギも家畜になってたらしいわよ。ただ肉がそんなに取れないじゃない? だから結局大きく太るやつだけが家畜に残ったんだって」


「ほー。ウサギの種族だけに詳しいな」


「似てるだけよ! ラビットフットとウサギはちょっと違うんだからね。ウサギとヴォーパルバニーくらい違うかも?」


「そりゃ、全くの別物だなあ!」


 バンキンがキャロティの話に感心している。


「ヴォーパルバニーはウサギに似てるだけで肉食だもんな。僕は何度か食べたけどあれは美味い」


「げっ、あの人食いウサギを食ったの? あんまりそういうの気にしないタイプ?」


「腹に入ってしまえばみんな同じだよ……」


「うげげー」


 キャロティが舌を出して嫌そうな顔をした。

 さて、ここからは第三階層へのエレベーターだ。


 今現在開拓中の場所で、様々な施設が作られていってる最中らしい。

 だが、第四階層から出現するモンスターに邪魔され、なかなか作業は進まない。


 僕らが呼ばれたのは、そんなモンスターを退治するためだ。


「あー、ここからは明かりが少ないのね。ダンジョンって感じ」


「遺跡と言えばこうだよな。第一と第二の階層が改造されすぎてるんだよ」


 ここで、バンキンが大きな背負い袋から装備を取り出してきた。

 革ジャンみたいな鎧に、カーブした金属の部品を取り付けていく。

 肩、肘、手首。

 胸、腹、腰、太もも、膝、脛、つま先。


「腕は案外出てるところ多いのね」


「おう。腕は盾と武器で攻撃を防げるからな。胴体と足は致命的だ。腕が吹っ飛んでも逃げられるが、それ以外は逃げられなくて死ぬ!」


「現実的~!」


「バンキンは僕らの中で一番リアリストじゃないかな? 最前線に立つタイプだしね」


「まあな! 俺は臆病者でよ。こうやって万一のために備えないと、おっかなくて前衛に立ったりなんかできねえよ。だから今も五体満足で生き残ってるだろうが」


「そうなのねえ。あたしはほら、この足で避けて回るからさ!」


 キャロティはウサギのそれにそっくりな足をペシペシ叩いてアピールする。

 ラビットフットは膝から下がウサギの足のようになっている。

 で、走るのが速い。とにかく速い。

 ジャンプしながら走る。


 本来は盗賊とかレンジャーになる者が多い。

 これは、ラビットフットは魔力量が多くないせいだ。

 だが、例外的にキャロティは魔力が多い。


 ラビットフットは難しいことを考えたり、勉強するのが苦手だ。

 だから魔法を学ぶ才能に乏しい。

 だが、例外的にキャロティは少しだけ辛抱強かった。


 それが、ラビットフットの魔法使いという極めてレアな存在を生み出したわけだ。


「あらら、早速モンスターじゃない? バンキン、任せたよ!」


 キャロティのウサギ耳がピクピクっと動いた。

 ラビットフットは聴覚に優れているのだ。


 近づいてくるモンスターの足音を聞きつけたのだろう。


 闇の中から、モンスターは現れた。

 リビングアーマーだ。

 呪いで動く、がらんどうの鎧。

 だが、その力は強く、手にした武器は恐るべき威力を誇る……。


 僕が思うに、これは古代の技術で作られたロボットみたいなものなんだろう。


「武器は剣か。典型的なタイプだな。よっしゃ、動きを止めるから任せたぞキャロティ」


「お任せ!」


「僕は?」


「ナザルはクァールに備えておいてくれ。こんな雑魚相手に魔力使うな」


「ほいほい」


 楽をさせてもらえるならありがたい。

 僕は見学モードになった。


 ガシャガシャと音を立てて襲ってくるリビングアーマー。

 この攻撃を、バンキンが盾で受け止めた。

 今回はフレームの間に板を貼っているから、本気モードだ。


 だが、剣はやっぱりフレームで受け流すんだなあ。

 態勢を崩す敵を、バンキンが体当たりして押し込む。


 その横をキャロティが猛烈な勢いで駆け抜けていった。

 リビングアーマーの背後まで回った彼女が、敵を指差す。


「呪いの矢よ! ガンド十六連!」


 シングルワードで詠唱が完了する、初歩的な魔法。

 相手を傷つけるという事象のみを魔力で実現する射撃魔法がガンドだ。

 キャロティはこれの達人。


 彼女の指先から、真っ黒な弾丸みたいなのが連続で吐き出された。

 リビングアーマーの背中にガガガガガガガッと突き刺さる。

 振り返ったリビングアーマーは、キャロティ目掛けて剣を突き出した。


 だが、その頃にはこのラビットフットは移動を開始している。

 猛烈な勢いでリビングアーマーの側面まで行くと、また指先を向けた。


「呪いの矢よ! ガンド五連!」


 ガガガガガッ!!

 一撃一撃は小さい威力でも、同じ箇所に連続されたら洒落にならない。

 リビングアーマーの腹に穴が空いた。

 バランスを崩して、敵がよろける。


 そこに、バンキンが手にした棍棒で思いっきり殴りつけた。

 リビングアーマーの頭が吹っ飛ぶ。

 さらにバンキンが鎧の隙間に盾を突っ込み、棍棒をハンドアクスに持ち替えてアーマーの関節に叩き込む。


 リビングアーマーがどんどんバラバラになっていくなあ。

 大したもんだ。

 僕はこれを感心しながら眺め……。


 そこで、闇の中から息遣いが聞こえてくるの気付いた。


 僕らの本来の獲物がお出ましだ。

 ランタンを開け、油に炎をまとわせる。

 これを新手がやって来た方向へと飛ばすと……。


『フシュルルルル!!』


 触手が飛んできて、油をはじいて炎を消した。


「クァールだ! 雑魚はさっさと片付けろ!」


 僕は二人に声を掛け、この恐るべきモンスターと向き合うのだった。



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