動く商会
港の岸壁での初寄港船のお祝いで大騒ぎをした翌日。
プレズモさんが乗ってきた船には、食料品から衣料品。お酒などの嗜好品までかなりの量が積み込まれていた。細かな荷物が多く、昇降機はあまり活躍しなかったけれど、届いた物資を見てストルネ殿たちは笑顔であった。
「いやぁ・・・荷物が多くて困った」
「これで全部ですか?」
「いやっ奥の船倉にまだ荷物があるんだよ。アル坊の親父さん・・・国王か。に持ってけ持ってけと積み込まれてなぁ。もちろん俺ぁ馬車だからよ。港町で担当の役人がこの目録と一緒に積み込んでくれたが・・・。乗組員は馴れた人間を付けるからと船倉だけでなくその手前の船室に目一杯積み込まれた。船が沈むかと思って冷や汗もんだったんだぜ?」
「───父が申し訳ない」
「だかよ。これもアル坊の首飾りのお陰なんだぜ?」
「?」
「この国の衛士たちはよぅ、この首飾りを見た途端に俺を真っ先に親父さんのもとに案内してくれてな。謁見したあとは、親父さんと夜通し飲んだんだ」
「────父上・・・」
「それでよぅ!っといけねぇ話が逸れた。アル坊の無事を喜んだ親父さんに俺がこの島のことを伝えると」
「あの荷物になった。と言うことですか」
「その通り!カレン嬢冴えてるな!」
「いえ・・・」
「あぁ・・・ではストルネ殿にお国に持つがあることを「っと待ってくれ」はい?」
「奥の荷物は、アル坊にって事だからよ。アル坊が取りに行ってくれ」
「───わかりました」
「カレン嬢もここで待機な。これ、アルの親父さんからの手紙」
「・・・はい」
「父上からかぁ。一体なんだろう」
疑問に思いながら船倉へと向かう。この最後の荷物を出さないと、ストルネ殿の艦を曳航して来ることができないからね。
色々と考え事をしながら船内の廊下を歩いて行くと、最奥の船倉に着いた。流石はもと軍船と言うことも有り、中々に入り組んだ内部ではあった。
「いくら間諜を防ぐ目的だからと言って、これだけ入り組むのは無駄だよなぁ。しかも船底・・・。だからプレズモさんは船室に荷物を入れたのか。まぁこの形式の軍船はこれが最後だし、この航海が終わったら静態保存しても良いかもなぁっと。扉の鍵はっと────あったあった」
ガシャンという音と共に、扉の封鎖が解除された。かなり厳重であったようだけれど。父上はよく初めて会った人物にこの鍵を渡したなぁ。といっても、彼は信頼に足る人物だから良いのだけれど。
「────重いなっ・・・つつっ!と開いた!おぉ!」
扉の奥に有ったもの。それは、希白金と希黒鉄。それに緋色銅。それが所狭しと並んでいた。
「っと。この目録は、この部屋に記入者の血縁者が入ると変わる仕組みだったのか。相変わらず芸が細かい」
『アルフレッド
この手紙を読んでいると言うことは、無事にカンパネラ号の船倉に着いたと言うことだな。やはり酒を酌み交わした仲と言うのは一番信頼が置けるな!っと言うのは冗談で、今、目の前に有る金属類は全てお前が自由に使って良いものだ。まぁお前自身が苦労して集めてきたものの一部だから、元々の所有権はアルフレッドなのだが・・・。足りなくなると思い、その一部を移送した。存分に使ってくれ。
ヴェル殿たちは上手くやっている。そちらでの話も手隙の時によく伺っている。何やら楽しそうなことをやっているではないか。私も暇を見つけたら訪れたいものだ。
去年は豊作であったが、今年の王都近郊は気温があまり上がっていない。これも何かしらの影響が出ていると思われる。また、お前が張ってくれた結界に揺らぎが出てきているようだ。儀式前にこちらに来て調整をしてもらえると助かる。
なにやらこちらはきな臭い。宰相がなにやら動いていると手のものの調べでわかってはきている。しかし、決定的な証拠をつかめていないのが現状だ。こちらに戻ってきた際にはその辺りの相談もしたい。
ではまた儀式の時に。
追伸
読み終わったら手を離せよ?
父より』
「うわっと!追伸に何が起こるか書いてよ・・・」
手を離そうとした瞬間、まばゆい光と共に手紙が消失した。これは、手を離さなくても離しても目が痛いと言う結果にはあまり変わりが無いように思えるのだけれど・・・。
「まぁこれで資材が補充できるから良しとしよう!」
前向きに考えを変えて、船倉内の資材を収納し、鍵を掛け直してあとにした。
「・・・・・・」
「おぉ!戻ってきたかアル坊!」
「はい!ここまでアレを持ってきてくださってありがとうございました!」
「なんのなんの!アル坊の親父さんからしこたま旨い酒を貰ってるしな!お安い御用さ!」
そうか・・・飲ませるだけでなく持たせたのか。我がの国の酒だ。しかも父上が持たせるとくれば、粗末なものではない事は確か。そりゃぁほくほく顔だよね。
「荷の事は何か聞かれていたのですか?」
「ん?いんやぁ?唯々アル坊に届けてくれ。しか聞いてないんだよ。見送りに着てくれた役人の中に居た、大層な官服を来た連中はげっそりしてたけどな」
「そうですか」
「何か気になることがあるのか?カレン嬢」
「───いえ。大丈夫です(あとで問い詰めますから)」
「───ッ!なんか寒気が」
「どうしたアル坊。風邪か?」
「大丈夫ですよ。なんかあとで良くないことが起こりそうなそんな予感がしただけですから・・・」
「───本当に大丈夫かそれ?あっそうだ!」
「どうしました?急に」
「俺よぅそろそろ根を下ろそうと思ってよ」
「えっ・・・商会を辞める・・・」
「いやいやいや!辞めねぇよ?天職だからな。ただ・・・」
「ただ?」
「拠点を常に動かしているとよ、手紙やら仕入れの良い連絡やら逃すことが多くなってきてよ」
「あぁ・・・。まぁそれだけ名が売れた。丁寧な仕事が評価されたって事ですよ」
「そうは言ってもよぅ。高品質の品を手に入れられないってのは、商人として駄目な気がするんだよ。だからよ!この際、アル坊の所に世話になろうかと思ってよ!」
「───拠点を造ったところで、動き回っていれば何も変わらないのでは?」
「チッチッチ。カレン嬢。俺も1人じゃないんだよ。今の拠点に10人の弟子がいる。読み書き計算全て教え込んである」
「「あぁ。なるほど」」
「おっ!流石は聡いな2人とも」
「まぁ。その手の人材は、為政者であれば何時でも喉から手が出るほど欲しいですからね」
「ですが。これから王太子となられるお方のもとで働くというのであれば、それ相応の礼儀作法はおさえていないとなりませんよ?それが可能ですか?」
「それは、アル坊の親父さんが二つ返事で引き受けてくれたぜ!」
「父上ェ・・・」
「はぁ・・・あまり1人のもとに力が集まる事は好ましくありませんが、プレズモ様は常に動き続けるのでしょう?」
「まぁな!カレン嬢の心配することはもっともだが、俺は動く商会だ。そこはブレないぜ。だから俺は殆どこの島にいることはねぇからよ。弟子を使ってやって欲しいんだ」
「それって・・・現状何も変わっていないような・・・」
「いんや。俺が手取り足取り教えて育てた可愛い弟子たち・・・いやもう隠すのはやめよう。俺が行く先々で拾った孤児たちだ。俺の子どもたちを何処の馬の骨ともわからねぇ狸や狐どもに預けるより、俺がこの目で選んだ人間に預けてぇんだよ」
「なるほど・・・」
「それによ。アル坊なら子どもたちを能力別に振り分けられるだろう?聞いたぜ親父さんから」
「あはは・・・わかりました。そう言うことならお預かり・・・いや、雇わせて貰います」
「おぉ!話して良かったぜ」
「───構成は?」
「ん?構成?」
「年齢や男女比を教えていただけませんか?」
「ああぁ!すまねぇカレン嬢。大事なことを伝え忘れてたな。歳は10~16。男女半々だ」
「畏まりました。それで、いつ頃受け入れれば」
「ん?あぁ!なんか儀式までに一端の人間に育てるからってんで、もう王都で教育に入ってるぜ」
「早っ!」
「あの方は・・・はぁ。変わりませんねアルフレッド様」
「うっうん。父上は、私たち子どものことになるととても過保護だから」
「良いんじゃねぇの?何時までも親ってもんは子どもが可愛いもんさ。まぁ中には訳のわからねぇ事をする親もいるけどよ。自分の血を分けてるんだ。何時までも何時までも叶うなら手元に置いておきたいもんさ。まっ俺も10人の子どもの親父だ。そろそろ巣立たせねぇと俺も子離れできなくなっちまう。まぁアル坊の親父さんは見るからに子離れできてねぇけどな。がははは」
「はぁ・・・まぁた酔ってなんか話したな・・・。まぁそれは王都に戻ってからでいいか。プレズモさんは良い親御さんですね」
「よせやい。照れるじゃねぇか。そう言うことだからよ。商館とできれば住む場所を作ってもらえるか?」
「勿論!全力で用意しますよ」
プレズモさんは、10人の孤児を育てていた。しかもその全員を私に託す。【動く商会】との縁は切れそうにないし、手放してはいけない。託された子たちを立派な大人に育てないとね!