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港の始動

「カレン・・・焦らないで」

「でもっでもっアル様!」

「焦らない焦らない。深呼吸して。私も一緒に原因を考えるから・・・」


今回初めて大規模な魔法を行使し、かなりの成果を上げたのも束の間。魔法が解除できずに焦ってしまう。時間が押し迫っているのだから尚更だ。


「どうしましょう・・・どうしたら・・・」

「うぅん・・・カレンは今回どの魔法を使ったの?

「氷牢を使いました」

「・・・また頑丈な魔法を」

「簡単に壊れては、皆様に迷惑がかかると思いましたので」

「まぁ・・・安全を第一に考えればそうなるよね」


困った。よりにもよってかなり頑丈な部類の魔法を使ってたのか───氷壁であれば力尽くでも何とかなったけど───流石に氷牢だと。内部からも外部からも並大抵の力では壊せない。勿論、壊すことはできるのだけれど、全てを砕ききるのは流石の私でも無理だ。


「氷を溶かすには炎だけど、今ヴェルは王都にいるからなぁ。呼び戻していたら時間がきてしまうし」

「申し訳ありません!アルフレッド様」

「いやっ、カレンが謝ることはないさ。確り期待に応えてくれたのだからね」

「ですが───」


「どうしたの?2人とも」

「プルーナ」

「いやぁあの氷の壁どうしようか2人で悩んでいたんだ」

「魔法って解除できるんじゃないの?」

「そうなんだけど・・・」

「私の魔法なのに解除ができないのです」

「おりょ!?それは大変!もうすぐ満ち潮だし、越堤の危険が───」

「そうなんだけど、現状では打つ手がなくて」

「ん。ねぇねぇカレンちゃん」

「──なんでしょう」

「アルくんの目の前で、魔法の解除ってやったの?」

「・・・そう言えばやってないね?」

「はい。そう言われてみれば・・・」

「やってみれば?何か、解決の糸口が見つかるかもしれないよ?」

「ですが・・・」

「良いじゃないか。やってみようよ」

「・・・畏まりました。«解除»・・・っやはり無理です」

「あちゃぁ・・・って言ってもアタシにはなんにもわからないけど。何か分かったアルくんは」

「うん。大事なことを見落としていたよ・・・カレン」

「はい」

「この魔法を行使するときに補助をしてくれたのは?」

「───エレンです」

「2人の魔法が混ざっているから、一人の解除では、魔法が消えることがなかったんだ」

「───!それではっ!」

「エレンと一緒に解除を行えば、氷牢は消えるはずさ!」

「おぉ!それじゃぁアタシはエレンちゃんを呼んでくるね!」

「うん!」


そうだよね。エレンの演算能力と補助魔法でもってカレンの魔法を発動させたのだから、行使者2人分の魔力じゃないと、綺麗に解除はできない。完全に見落としていたよ。私も焦っていたんだ。反省反省!





「エレンちゃんを連れてきたよー!」

「なんじゃなんじゃ?急に連れてこられたのじゃが」

「ごめんねエレン。カレンが発動したあの魔法なんだけどさ」

「氷牢がどうかしたのか?」

「どうにもエレンの魔法も溶け込んでいるみたいで、2人一緒に解除をしないと消えないみたいなんだ」

「ほぉ!その様なことも起こるのか。いや・・・確かに誰かと一緒に持続型の魔法を解除するなぞしたことなかったからのぅ!これは良い資料となる!記録して────」

「記録している時間が無いのですよ。エレン」

「むぅ。仕方あるまい。カレン息を合わせよ。解除するのじゃ」

「全く・・・その上から目線、止めてくれませんかね」

「慌てふためいていたヤツがよく言うのじゃ」

「うぐぅ」

「かっかっか!それ!いくのじゃっ!」

「「«解除»」」


2人が声を揃えて魔法を解除した途端、細かな粒子とともに、眼前に広がっていた氷牢が消えた。それと同時に、小波が港へとやってきた。直に港も海水で満たされることだろう。


「よしっ!それじゃぁ私はプレズモさんの所に行ってくるかな」

「畏まりました。お気を付けて」

「では、ワシらは岸壁の上に戻るとするか」

「うん!アタシは提督に・・・って言ってももうわかっているみたい。街に戻るね」

「それじゃぁまたあとで」

「「はい」」「うむ」




「プレズモさん」

「ん?おぉアル坊!急に目の前が晴れたと思ったら、あんなに立派な港が現れて驚いたぜ」

「急拵えですが、様になってますかね」

「いんやぁ!荷揚用の昇降機もある離島の港なんざぁみたことねぇ!国際貿易港として使えるんじゃねぇか?」

「そう言ってもらえると、作った甲斐が有りました」

「だけどよう・・・前に来たときゃぁあんなの無かったぜ?どんな魔法だよ!おい!」

「それは・・・「流石に殿下に失礼ですよ」まぁまぁ」

「おっと!失敬。それで、いつ頃入港できるんだ?」

「潮が満ちれば、港に入港して構いません。新生ライラック港最初の停泊船ですよ!」

「そいつぁ豪毅だ!いいねぇお初!接岸したら祝いだな!」

「ええ!」


プレズモさんは準備してくると言って、船底の倉庫に向かった。私は乗員の士官たちに、荷揚後に砂浜に座礁しているストルネ殿の艦を曳航して、再入港するよう伝え、港へと戻った。




「エレンー!」

「なんじゃ?」

「いたいた!お願いなんだけど、一っ飛びして、ストルネ殿の艦を軽くしてきてもらえない?」

「ほむ。了解した。そこまで時間はかからんじゃろう」

「ありがとう!それと、カレン」

「こちらに」

「プレズモさんが何やらお祝いの準備をしてるらしいから、ストルネ殿に伝えて、煮炊きの準備を」

「畏まりました」

「あと・・・カンネさん」

「呼んでくるね!」

「ありがとう!プルーナさん」



「お呼びとのことで」

「いよいよ艦を港に入れます。船渠の準備は」

「準備万端ですよ!いよいよですか!腕が鳴りますな!」

「漸くです!お待たせしました」

「いえ!こちらこそ、お骨折りいただきありがとうございます!それでは、準備があるため、失礼致します」

「はい。それと、プルーナさん」

「んー?」

「港にある荷揚用昇降機の準備をお願いできる?」

「わかった!行ってくるね!」


さぁ!最初の船の出迎えと、艦の修理の開始だっ!

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