最終工区③
「っと。反応があったのはここなんだけど・・・」
私はプレズモさんに渡した首飾りの座標を頼りに転移した。予想は当たっていたようで、確りと船に着いたようなのだが・・・どうやら甲板ではなく船室に入っているようだ。
「さて・・・プレズモさんは「アル坊!?」っと。おぉ!大当たり!」
どうやらプレズモさんは食事をしていたようで、机の上には黒パンと干し肉。それに酒精の弱い葡萄酒と酢漬けの野菜があった。
「お久しぶりですプレズモさん」
「おっおぅ。久しぶりだなアル坊?アルフレッド様?」
「アル坊と呼んでいただいて構いませんよ」
「そっそうか。じゃ遠慮無く。それで、一体全体どうしたんだ?急に現れて驚いたぞ!?」
「あぁ!そうでした!急で申し訳ないんですけど、この船をこの辺りで停めてはもらえませんか?」
「船を?何でまた?」
「因みに・・・目指すのはこの先の島で間違いないですよね?」
「ん?あぁ・・・俺の質問に答えて欲しかったが・・・。間違いないぜ。目指しているのはあの火山島だ」
「良かった・・・じゃなくて、尚更停めてもらわないと」
「だぁから!その理由を教えてくれって!」
「あぁっと!ごめんなさい!目的地の港の改修工事中で、入港ができないんですよ」
「へっ?だってあそこには・・・っと」
「大丈夫ですよ。ズッキネ・・・ストルネ殿とはもう知己の仲ですから」
「そうか。話してはいるのか」
「はい。プレズモさんが支援をしていることも」
「まぁ・・・偶々通りかかったからよ。困ってるヤツらを見過ごせなくてな。まっこっちも儲けさせてもらったから、ただの慈善活動じゃねぇけどな」
「まぁそこは彼らも織り込み済みですよ」
「っと!いけねぇ。船を停めなきゃだよな。ちっと上に行ってくる」
「はい。私も一緒に行きましょうか?」
「・・・いやっ急に現れてるからな・・・あっでも・・・」
「この船の船籍は我が国の物なので、大丈夫かと」
「────よくわかったな」
「この船室の壁に彫られている紋章は、我が王家の紋章なので」
「ほぉ・・・ならいいか」
そう。この船に転移した船室に彫られていた、”世界樹を表す木と交差する羽と細剣“の紋章は、我が王家のもの。大方父上が貸しているのであろう・・・。部屋を出て甲板に向かうと、案の定我が国の海軍士官が数名同乗していた。
「「アルフレッド殿下!」」
「ああ。久しぶりだね。楽にしていいよ」
「「はっ!」」
「───なんつぅか・・・本当に王子なんだな」
「あはは・・・こんな感じですけど、一応王子です」
「飄々としてて威厳のかけらもねぇけどな」
「まぁ接しやすいと思ってもらえれば」
「自分で言うか?まぁ本当のことなんだけどよ。俺もこんな感じで接することができる王族なんてアル坊以外にいねぇわ」
「まぁ気楽に付き合ってください」
「ああ。っと!そうだ停めねぇと船を」
「そうでした!」
プレズモさんと一緒に居ると、どうしても話し込んでしまう・・・。いけないいけない。仕事をしないと。刻一刻と魔法の範囲にこの船が入ってしまうからね・・・。
「───錨を落として船を停めてくれ」
「えっ?」
「私からも頼むよ」
「畏まりました」
「・・・やっぱアル坊がいてくれて助かった」
「まぁ・・・上官には絶対ですから」
他愛のない話をプレズモさんとしていると、船は速度を緩め、完全に停止した。これで安心。
「おっ!おいっ!島近くの海が凍り始めたぞっ!」
「おぉ。どうやら間に合っ「海上の氷、留まることを知らず侵食中!この船にも迫っております!」ありゃ・・・」
「だっ大丈夫なのか!?」
「うぅん・・・これは少し拙いですね」
「殿下!この現象は一体・・・」
「港の工事の最終段階で、氷の水門を創る・・・そんな計画だったんだけれど。流石に力み過ぎちゃったかな」
「これだけの威力・・・まさか」
「うん。カレンの氷魔法とエレンの演算能力で実行してるのだけれど・・・カレンが頑張り過ぎちゃったようなんだよね」
「おいおいおい!カレン嬢こんなに大きな魔法使えたのか!?」
「以前姿は見たでしょう?広範囲の殲滅魔法は得意なんですけど、繊細な魔法はあまり好んで使わないので・・・自信をつけてもらうために実行してもらったんですよ」
「だっだけどよう・・・」
「魔法接触まであと15!」
「まっ初めてだし仕方ないか。“限定解除”っと。これで船の周り3米は凍らないから安心して」
「魔法接触!本船の周り凍りません!」
「「おおぉ!」」
「───やっぱすげぇやアル坊!」
「いやいや。カレンの魔法が元気すぎて、3米が1米まで縮んでしまいましたよ・・・私もまだまだだなぁ」
「・・・これだけ精密に魔法が使えて、まだまだなのか・・・」
「ん?そうですよプレズモさん。ヒトは向上心を忘れると、衰退していくだけですから。況してや我々は長命種。悠久の時を生きていく上で何よりも大切なのが【前を向くこと】【常に上を向くこと】そしてなにより【生きていることに感謝する】ですから。長い人生、後ろ向きで生きていたらつまらないでしょう?何事も楽しんで過ごしていかないと」
「そりゃぁそうだがよ。やっぱり仕事やら何やら嫌なことだってあるだろ?」
「まぁ零ではないです。ですが、目を背けてしまうと我々は衰退の一途を辿ってしまうのです。どうしても生きる意味を見失ってしまうのです」
「長命種なりの悩み・・・か」
「ええ。私だって親しかった者との別れや国の興亡までありとあらゆるモノを見てきました。ですが、そう言うときにこそ先を見ることができると考えています。だからこそ、常に学び技術を身につけ、それを実践していく。失敗しても・・・まぁ大事故は例外ですが・・・次があると考えていかないと可笑しくなってしまいますから。蓄財しても節制しても、あの世には持っていくことはできません。ですが、“今”を生きることの活力にはなりますから。プレズモさんも商売していると楽しいでしょう?」
「うぅん・・・どうかねぇ。仕事としてしかやっていないからな」
「そうですか?私たちと出逢った時のあの笑顔。あれは、生業を楽しんでいないとできないものでしょうに。【こう言う出逢いが有るから止められない】って顔に書いてありましたよ?」
「────だな。俺たち商人は、縁が大事だからな。うん。俺ももう一度自分の仕事に向き合い直してみるかねぇ」
「そうですよ!常に向上心を持ちましょう!」
「────ご歓談中のところ申し訳ありません。殿下。このあと本船はどのように行動したら宜しいでしょうか・・・」
「おっと!ごめんごめん。一端島に帰って、船の周りの氷を解除することを伝えてくるよ。じゃないと適正反応ととられかねないからね」
「畏まりました。どの位のお時間を見積もっておけば・・・」
「うぅん・・・1刻程度見ていて。その間は船室で休んでいれば良いよ。氷の照り返しも厳しいだろうし」
「ありがとうございます」
「プレズモさんも休んでいてください」
「あぁ。そうさせてもらうよ」
「それじゃっ」
「「敬礼!」」
私はプレズモさんの乗っていた船から島に転移した。しかし・・・カレンの魔法は力を使いすぎたんじゃないかなぁ・・・ちょっと心配。